地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
パーソンカウンター(Person counter)
昨日はパーソンカウンター開発プロジェクトの為にフランスの某社と打ち合わせ。このプロジェクトはここ3年程関わっている比較的長期的なプロジェクトです。

パーソンカウンターとは何かというと、その名の通り「人の数を測る機械」です。デパートや展覧会場などに行くと良く見かけるのですが、公共空間という室外を対象にしたカウンターはあまり出回っていません。何故か?ずばり需要が無いからです。

この「需要が無い」というのは驚くべき事実なんですね。特に建築家や都市計画家、アーバンデザイナーはこの点に驚くべきであると思います。何故なら建築家は「人が何処から来て何処へ行くのか?」や「何人の人が通りを利用するのか?」といった基本的なデータを用いる事なく勘でデザインしていると言えるからです。「この通りは人通りが多いから」とか「ここにショッピングセンターがあるから人の流れの軸が出来る」とかいうのは建築家がよく使うお決まりの言語ですね。

建築学科出身で建築家だけが働く建築事務所に居た頃はそれが当たり前と思っていましたが、他の職業の人達と働く様になってからその思考がいかに異様かという事を認識するようになりました。建築家が使っている分析手法や言語は大変曖昧なものであって建築界では通用するかもしれないけれど、他分野の人を納得させようと思ったら先ず通用しません。これは建築家という制度の大衆化によって引き起こされた事だと思います。当ブログではそれを「建築家としての職能」という題名でシリーズ化しています。

さて、そんな背景があって僕がイニシアティブを取る事によって「パーソンカウンタープロジェクト」は始まりました。

とりあえず、現在開発されているカウンターを眺めてみると、歩行者の探知方法によってそれらは2種類に分ける事が出来ると思います。一つはカウンター自身が信号を発し人を探知する事によってカウントするというアクティブカウンター( Active Counter)。もう一つは人間の方が何かしら信号を発してそれを機械の方が感知して人の数をカウントするパッシブカウンター( Passive Counter)。

アクティブカウンターの代表的なものとしてはビデオカメラが挙げられます。以前のエントリで書いた様にこの種のカメラで最も優れているものの一つはAntonini Gianluca君が開発した離散選択モデルを用いたトラッキングシステムですね。

Antonini, G., Venegas, S., Bierlaire M. and Thiran J.-Ph. (2006): “Behavioral priors for detection and tracking of pedestrians in video sequences”, International Journal of Computer Vision 69(2):159-180.

アクティブカウンターでもう一つ優れていると思われるのが柴崎研究室が開発したSICK社のレーザーを使ったトラッキングシステムです。SICK社のLaser Range Findersはレーザーを発信し障害物に当たった時に返って来る反射光の時間差を利用する事により周りの障害物状況を誤差数センチの範囲で知り得るという優れたレーザーで、元々工場などでロボットが障害物を認識する為に創られました。

柴崎研究室はこのレーザーを床上20センチに設定する事により人の足首辺りをスキャニングし、人の動きを正確に測る事が出来るシステムを開発しました。こんな感じで(下記はイメージ図)



このシステムの大きな特徴は光などの自然環境に左右されないという事、ビデオよりもはるかに広い範囲をカバー出来るという事、広場における人の移動軌跡をほぼ正確に知り得る事が出来るという点です。この情報は上方斜め方向から撮ったビデオカメラからでは知り得ない情報です。何故ならビデオカメラの情報を平面に落とすには変換が必要だからです。

このレーザーを使った応用編として縦方向に用いて一枚のスクリーンを作り、そこを通った人の数を数えるというシステムが提案され既に商品化されています。計測範囲は高さ15メートル、幅26メートルまで可能で最大で25人毎秒を実現しています。こんな感じ(下記はイメージ図)



一方のパッシブカウンターの代表格は何と言っても携帯電話を使ったトラッキングが挙げられます。携帯電話の基地局情報から人のおおまかな位置情報を取得して人の移動軌跡を知るというものです。詳しくは以前のエントリで書きました

さて、これらアクティブとパッシブカウンターにはそれぞれ利点と欠点があります。とりあえずアクティブカウンターは実際のプロジェクトにはほとんど使えないという事を指摘しておきたいと思います。何故ならアクティブカウンターは必ずと言ってよいほど電源を必要とするからなんですね。公共空間で電力供給を確保するためには役所の許可が要ります。そして大抵の場合許可は下りません。それがビデオとなると尚更です。近年の監視社会に対する市民側の抵抗にはすごいものがあります。

これらの難関を突破して街路に設置許可が下りたとしても、もう一つの困難が待ち受けています。これらヘビーな機械は一度取り付けたら取り外しがナカナカ出来ないという事です。すると必然的に数箇所に設置という事になるのですが、アクティブカウンターは概して値段が高いんですね。よって限られた予算内で実現するプロジェクトで何台も機械を買うのは現実的ではない。

という訳でアクティブカウンターはアカデミックな研究課題としては面白い題材かもしれませんが実際のプロジェクトに用いるという現場の声としては使えないという結論になるわけです。

そこで僕が注目したのがパッシブカウンターです。パッシブカウンターの大きな特徴は電源が要らないという事です。そして電源が要らないという事は好きな場所に設置出来、且つ移動にそれほど手こずらないという事を指し示しています。そしてパッシブカウンターの中でも人の体温に反応するセンサーを用いる事にしました。こうして出来上がったのがEco Counter です。

特徴としては電源が要らないという事。持続可能時間は約10年間。サイズは盗難防止用の箱がA4サイズで標識などに取り付け可能なようにデザインされています。よって取り付け移動は5分足らずで済み、プロジェクトが進行している地域全体の街路をくまなく数台の機械で測る事が出来ます。これは非常に重要な点で幾ら一つの街路の歩行者人数が正確に分かったからといってもその情報は、それ自体ではほとんど役には立ちません。人数データは街路間で比べる必要があるからなんですね。故に自ずから複数街路のデータが必要になってきます。



欠点は何かというと、レーザーが図のように水平に出ているので人が重なって歩いている場合などには正確に人数を把握する事が出来ないという欠点があります。すなわち人がまとまってグループで歩いている様な場合にはデータとして正確さをかなり欠く事になります。

2005年のグラシア歩行者空間プロジェクトでマニュアルカウンティングの結果と照らし合わせた結果、その誤差は約5%−20%と開きがある事が分かりました。更に数えた歩行者の数のボリュームと誤差にも相関関係がある事が最近の調査で分かってきています。簡単に言うと100人以下だと誤差が20%以上になるけど、800人を超えると誤差が5%になるというような。

この機械はビデオカメラのように街路における正確な歩行者数をカウントしてはくれません。しかしそれでも僕達がこの機械を使い続けているのはそれ以上の便益があると考えているからなんですね。僕らは主にこの機械をその街路における利用パターンの解析に用いています。その表がこれです。



縦軸が歩行者数で横軸が1時間ごとをベースとした時間・日付けを示しています。このデータによると人は月曜から金曜までほぼ同じサイクルで街路に現れたりしている事が明らかに分かります。面白いのはこのデータは文化解析ツールとして用いる事も出来るという事です。スペインでは昼食を14時から16時までに取ります。データにはその傾向が明らかに出ています。更にこの傾向は週末になるとがらっと変わります。



上記のグラフが日毎の変化を比べた結果です。赤色とピンク色が週末の生活パターンを示しているのですが、平日よりも2−3時間程遅れてカーブを描いているのが分かります。これは週末には人はいつもより遅く起きて、夜も平日よりも遅くまで遊んでいるという事を表しています。

このような解析は一人一人の行動に注目するミクロな視点というよりはむしろ巨視的な視点を導入する事により可能になりました。人を群集としてみるという視点ですね。人は個人単位で見た場合、各々独自の動き方をする為に規則性を見出す事は大変に難しいといわざるを得ません。しかし、人を群集としてみた場合、そこにはある種の法則が存在する事が見て取れる場合があります。それらは常識として誰でも知っているようなごく普通の事がほとんどです。
しかし、それら誰でも知っているような当たり前の事をデータとして示した所にこそ価値があると思っています。
| 仕事 | 12:45 | comments(0) | trackbacks(7) | このエントリーをはてなブックマークに追加
歩行者シュミレーションについて(Pedestrian Simulation)
昨日は某プロジェクトの為に某会社と打ち合わせ。その席で屋外歩行者シュミレーションについて聞かれたのでちょっとメモ程度に記しておこうと思います。

歩行者シュミレーションとは、歩行者がどうやって歩くかとか、歩行者が何処から来て何処へ行くかなどの歩行者の挙動をコンピュータ上で再現する事を目的としたシュミレーションです。そんな歩行者シュミレーションは先ず第一に屋外でのそれと室内でのそれとに分ける事が出来ると思います。更に扱うスケールによって大きく2種類に分ける事が出来きます。

1.一つはある限定された比較的小さな空間内(例えば広場)において人が
どのように歩行するか、もしくは近隣の人とどのようにインタラクトし、
その結果として群集がどのように形成されるかをシュミレーションしたも
の。
2.もう一つは都市内という比較的大きな空間において人が何処から何処へ
向かって移動するかをシュミレーションしたもの。この場合は主に街路
選択が問題になります。

基本的にはこの2つの方向が有り得て、あとはこの2つの組み合わせだったりするんですね。

とりあえず、2番目の「人が何処から来て何処へ行くのか?」のシュミレーションなんですが、これは現時点では不可能とは言わないまでも相当難しいです。典型的なのが都市の街路を線、交点を点とするグラフで表しておいて、人が各点から点に移る変移確率を求めようとするもの。古くはGabrecht,D.の各交差点における選択確率を等確率として求めたものや、Timmersonのものなどがあります。

Gabrecht,D.(1970):” Frequency distributions of pedesrian in a rectangular gris”, Journal of transport Economics and Policy,IV(1),pp66-88.
このように幾つかの試みは存在するんですが、現実的ではありません。何故かというと、シュミレーションで大変重要なフェースであるカリブレーションが出来ないからです。

シュミレーションを創る時には、2つのフェースが存在します。一つはある仮定に基ついてアルゴリズムを作る事フェース。例えば、交通シュミレーションだったら車がどのように挙動するかという問いに対して、「前の車の動きに従ってレーンを変える」とかという事ですね。そのような「ある仮定」に基ついてアルゴリズムを作りシュミレーションを走らせるのが第一段階。第二段階はその仮定に従って創ったアルゴリズムが正しい事を証明する段階です。交通シュミレーションの場合はOD表をインプットデータとしてシュミレーションを走らせ、道路上に設置したカウンターとシュミレーション上のカウンターの数値を比べる事でカリブレーションをするんですね。例えばEMME2とかで。

しかし歩行者の場合はそう簡単にいかない事は容易に想像が付くと思います。例えば車がある道路上で一方にしか走らないのに対して、歩行者は様々な方向に歩くというような批判は直ぐに思い付きます。ローカルなスケールでもグローバルなスケールでもビル・ヒリアー(Bill Hillier)が言ったように正に「歩行者においては全ての地点が起源(Origin) であり目的地(Destination)になる」んですね。

更に歩行者の場合の経路選択は陽の当たり具合や道の幅、人の混雑度など様々な要素が心理的に作用するので車のそれよりも、もっと複雑だと言う事が出来ると思います。更にナンバープレートが付いている車と違って屋外において一般の人の軌跡を追跡するのは今の所あまり手段がありません。

MITのCarlo Rattiがグラーツやローマでやっているのは携帯電話通話の密度なのでトラッキングではありません。

Ratti C., Sevtsuk A., Huang S. and Pailer R.(2005): “Mobile Landscapes: Graz in Real Time”,Proceedings of the 3rd Symposium on LBS & TeleCartography, 28-30 November, Vienna,Austria.

Ratti,C., Pulselli,R., Williams,S., Frenchman,D.(2006): "Mobile Landscapes: using location data from cell-phones for urban analysis", Environment and Planning B- Planning and design 33(5)
727-748.

良く勘違いされるんですが、この手法は電話アンテナの中にどれだけの人が居るのかを示すんじゃなくて、そのアンテナ内でどれだけの人が通話を行っているかという通話密度を視覚化しているんですね。この提案はそんなに悪くないけど、実際に都市計画や交通計画に反映させようと思ったらかなり工夫が必要。それを試みたのが僕が担当したEUプロジェクトICINGだったわけで、ICINGではソコの所の差異を強調したつもりです。

もう一つ例を挙げておくと、Fabien Girardinによるインターネット上のフォトアーカイブFlickerを利用した歩行者軌跡抽出手法もありますね。

Girardin, F., Blat, J., Nova, N., (2007): "Tracing the Visitor’s Eye: Using Explicitly Disclosed Location Information for Urban Analysis" (in submission)
これについては過去のエントリで書いたので詳しくはこちら

さて、これが屋内となると話は全く別になります。例えばショッピングセンターの様々な所にカメラを設置しておいて歩行者の軌跡をトラッキングしカリブレーションするとか、カメラではなくてもカートにRFIDを付けておいて各所に読み取り機を設置。同じ様に軌跡を抽出しカリブレーションという手も考えられますね。

さて、こんな難しい屋外歩行者シュミレーションなんですが、例外が一つだけ存在します。それが非難時のシュミレーション。何故それが可能かというと、OとDがはっきりしているからです。Oは今居る所、もしくは建物。目的地Dは火元などから一番遠くの点。そしてこの状況下においては人は必ず最短経路を取ります。故に例外的に屋外避難歩行者シュミレーションというのは存在するんですね。大抵の場合、ここで問題になるのは人と人がどのようにインタラクトするか?という事に結実します。よって今ではその多くがエージェントベースを用いたボトムアップ型を採用しています。

さて、1番目の屋外限定空間内における歩行者シュミレーションなんですが、この領域で現在一番良く出来ていると思われるのがAntonini,Gianluca.のシュミレーション。彼のアドバイザーは交通分野の離散選択モデルの大御所、Michel Bierlaire。交通分野で長年培われてきた研究を歩行者挙動に取り入れたという訳です。
詳しくはこちら:

Antonini, G., Bierlaire, M. and Weber, M. (2006): “Discrete choice models of pedestrian walking behavior, Transportation Research Part B 40(8):667-687.

Antonini, G., Venegas, S., Bierlaire M. and Thiran J.-Ph. (2006): “Behavioral priors for detection and tracking of pedestrians in video sequences”, International Journal of Computer Vision 69(2):159-180.

Antonini, G., Venegas,S., Thiran,J., Bierlaire,M.(2004): “A discrete choice pedestrian behavior model for pedestrian detection in visual tracking systems”, Advanced Concepts for Intelligent Vision Systems, ACIVS 2004, Brussels, Belgium.

Antonini,G., Bierlaire,M., Weber,M.(2004): “Simulation of pedestrian behavior using a discrete choice model calibrated on actual motion data”, in 4th STRC Swiss Transport Research Conference, Monte Verita, Ascona, Switzerland.


その際、下敷きとなっているのがS.P. Hoogendoornの適応した歩行者の目的地到達までに行われる3段階の決定。それぞれStrategic, Tactical, Operational Levelsと命名されています。これは何を意味するかというと、歩行挙動決定におけるスケールの問題ですね。先ずはおおまかにどちら方向に行くかを決めておいて、最終的には自分の足元周りの状況で挙動を決定するというような。詳しくはこちら:

Hoogendoorn, S., P. Bovy and W.Daamen.(2002): “Microscopic pedestrian wayfinding and dynamics modeling”, in M. Schreckenberg and S. Sharma (Eds.),Pedestrian and Evacuation

そこにAntonini,G.は歩行者が踏み出す次の一歩の選択に離散選択モデルを組み入れたんですね。歩行者の前方を扇形に仕切っておき、それぞれにそこへ動く確率を与える。そこへ移動した後、同じ様に前方を扇形に仕切り確率を与える・・・・という事を繰り返すわけです。

彼のシュミレーションはもともとカメラの歩行者追跡の為に創り出されました。カメラを使った歩行者トラッキングにおいて、歩行者の動きを画像だけで追うのは限界があるんですね。それよりも数学的アルゴリズムを組み合わせて、ある程度歩行者の動きを予想した上でトラッキングした方がはるかに効率が良い。

という訳で彼は最初そちらの方に傾倒していました。よって、当然の事ながらシュミレーションのカリブレーションにはカメラ画像の情報を用いています。
この方法は歩行者が他の歩行者と出会い、どのようにインタラクトするかといった挙動をシュミレートする時に威力を発揮すると思います。つまり対向者が左へ動く確率とそれに対して自分が動く確率と・・・といった感じで。

これらマクロレベルとミクロレベルの視点を統合して生まれたのが非難シュミレーションLegion Studio。彼らの場合にはビデオカメラに写った歩行者挙動の膨大なるデータから年齢や性別などの様々なカテゴリの人挙動モデルを作り出し、エージェントモデル上でシュミレーションを走らせる事により、ボトムアップなインタラクションを実現。その結果としての群集行動を再現しています。状況設定が非難なので歩行者のOとDは明らか。しかも最短距離で動く。そこにそれぞれの異挙動を加えたシュミレーションは不思議な説得力がある。

さて、かなり手短にですが、ここまでで屋外空間歩行者シュミレーションをざっと見てきました。
歩行者シュミレーションが結構盛んに開発されている背景には少なからず近年におけるAIMSUNなどの交通シュミレーションの成功があると思います。車の挙動が90パーセント前後という高い確率で分かるなら、人のそれだってシュミレーションしたら大変有効じゃないか、という論理ですね。しかし、現実はこのような理想とはかなり遠い所に我々はいると思うんですね。非常時シュミレーションはともかく、ノーマル時のシュミレーションは、はっきり言って実用的ではありません。前述したAntoniniのシュミレーションは大変良く出来ているけれど、では、実際それをどのように使うのか?といった時、答えが無いのが現実なんですね。

今、確かに都市計画分野では歩行者シュミレーションが切望されていますが、それは屋外限定空間ではなくて、「人が何処から来て何処へ行くのか?」という都市内での動きを知る為のシュミレーションなんですね。

このシュミレーションが出来れば次の時代への都市計画のブレークスルーになる事は間違い無いのですが道のりはかなり遠いです。
| 仕事 | 18:33 | comments(0) | trackbacks(39) | このエントリーをはてなブックマークに追加