地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
カタルーニャの打ち出した新しい都市戦略:バイオ医療( BioPol, BioRegio)
今日の新聞(La Vanguardia, 21 de Noviembre, 2008)の片隅に「スペイン最大の遺伝子分析研究所がカタルーニャに(Catalunya tendra el mayor laboratorio de analisis genomico de Espana)」と題した記事が載っていました。小さくて何気ない記事だったのですが、この記事は読み方によっては大変面白く読めるなー、とか思って読んでいました。

近年カタルーニャはバイオ医療分野に大変力を入れています。元々カタルーニャには結構名の知れた病院が集まっていたり、地中海エリアで最高峰の教育レベルを誇るバルセロナ大学医学部(Universidad de Barcelona)なんかがあったりと、医療に関しては競争力のあるエリアだったんですね。それにあやかって最近では健康ツーリズム(Health Tourism)なんて言葉まで出てくる有様。何かというと、その名の通り「健康」を主題にした観光です。

一見冗談かと思って笑っちゃうけど、僕はそんなに悪く無いアイデアだと思います。健康には誰でも気を遣うし、気を遣い出す年齢の人はそれなりのお金を持っている世代の人であり、裕福な人な訳で、確実にお金を落としていってくれる。昨日の新聞には新しいミシュランガイド(The Michelin Guide)の話題が載ってたけど、「食」観光(Tourism Gastronomica)も今カタルーニャが打ち出している方針の一つ。これら「健康」と「食」というのは確実に21世紀の地域的競争力になる柱なんですね。

さて、こんなわけだから先見の明のあるカタルーニャがバイオ医療に力を入れるのは必然。2004年には海岸前の「海の病院(El Hospital del Mar de Barcelona)」の脇に、ポンペウ・ファブラ大学(Universidad Pompeu Fabra)、カタルーニャ州政府(Generalitat de Catalunya)そしてバルセロナ市役所(Ayuntamiento de Barcelona)が主体となってバルセロナバイオ医療リサーチセンター(Parque de Investigacion Biomedica de Barcelona(PRBB))を打ち立てました。ちなみにこの病院、名前の通り、海のまん前に建ってる。





病室からはきっと眺めがいいんだろうなー。こんな良い環境なら病気も早く直りそうな気がする。

更に2006年にはカタルーニャ州政府、バルセロナ市役所、大学関係と私企業等が集まって、国際的に競争力のあるバイオ医療機関、BioRegionを創出しました。そして昨日、このBioRegioにおいてスペイン政府とカタルーニャ政府の間でスペインでは最大のバイオ医療プロジェクトBiopolを創り出す事に合意したんですね。このプロジェクトには5年で50億ユーロが注ぎ込まれる事が決定しています。

面白いのはこのプロジェクト(研究所)は当初、マドリッド(Madrid)に委託される予定だったという事です。今日の記事によると夏前まではほぼマドリッドで決まりかけていたという事。それを聞いた現カタルーニャ州政府大統領(Jose Montilla)があれやこれやと手を尽くした結果、めでたく昨日、正式にバルセロナ市がホストと決まったそうなんですね。ちなみにその決定要因となったのが、

1.スペインにおける92%の遺伝子研究はカタルーニャで行われているという事実。
2.カタルーニャが資金を提供する事を申し出た事


だったそうです。

何故これほどまでにバルセロナはバイオ医療研究獲得に躍起になるのか?

一つには22@BCNなどに見られるように、バルセロナの戦略が急速に知識型、その中でも研究開発型(Research & Development)に向かっている事が挙げられると思います。記事の中で州政府大統領もはっきりとこう言い切っています:

「研究開発分野は我々の経済活動の柱の一つになるべきである(La investigacion y la innovacion deben convertirse en uno de los pilares de nuestra economia)」

その中でも今世紀最大の研究課題である医療分野のイニチアティブを今から取っていこうとしているわけですね。

Marina Geliは「我々はカタルーニャをバイオ医療が我々の生活の質と経済活動を拠出する国際的な地域の一つにする野望を持っています。(Tenemos la ambicion de convertir Catalunya en una de las regiones del mundo donde la biomedicina aporte calidad de vida y actividad economica)」と言っています。

注目すべきは彼女が「生活の質」と「経済活動」という言葉を並列に、矛盾無く用いている事です。この裏には何が見えるか?それはバイオ医療の地域的競争力で世界の知を惹き付けるだけでなく、財をも惹き付けようとしている事です。その意図は来週予定されているバイオ医療関係の国際シンポジウムの題目にもはっきりと現れています:

「医療をどうビジネスと結びつけるか?」

多分この程度のアイデアは個人レベルでは結構思い付くと思うんだけど、それを地域一丸となって実現していく時のパワーはものすごいものがあり、何時も驚かされます。そして地域としてこれだけはっきりと明確な将来ビジョンを持っている事にも。

更に注目すべきは、このバイオ医療研究所の建設予定地。その予定地とはホスピタレット(Hospitalet)と呼ばれる、新空港とバルセロナ中心街の丁度真ん中。これがどんな意味を持っているのか?は新聞の何処にも触れられていないけど、分かる人には分かるはずです。

空港から15分で行けて、更に15分で中心街へ行ける好立地。バルセロナはこのエリアをビジネス街にしようと企業誘致を進めているけれども、それに加えてもう一つ大きな核を持ってきたというわけです。つまり今正に都市化が始まったばかりのこのエリアの求心力にしようと、そういう訳ですね。

コレは巧い、巧すぎる!

グローバリゼーションの中においてカタルーニャのような小さな地域が生き残るには地域の専門化しか手がありません。カタルーニャという地域はその事を非常に良く分かっている。それは多分、歴史的にカタルーニャという地域が置かれた地理的条件、ヨーロッパとアフリカの間、ビセンス・ビベス(Vicens Vives)がかつて「辺境の渡り廊下」と呼んだ、その特殊性に根ざしているのではないのでしょうか?色々な文化が行ったり来たりしているそんな交差点では、自分のアイデンティティを必死に守っていかなければならない。そんな事を何百年もやってきた彼らのDNAのなせる業なのかなー、とか思ってしまいます。

新空港、高速鉄道(AVE)、地下鉄新路線、都市化、バイオ医療・・・。今、一つ一つの要素が一本の糸に繋がり、戦略という大きな波となって押し寄せてくる。正にそんな感じがしています。
| 都市戦略 | 09:25 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
ハプスブルグ家(Habsburg)のお膝元、ウィーン(Vienna)で過ごす2008年9月11日
今週の水曜日から仕事&観光でオーストリアはウィーン(Vienna)に来ています。昨日は本当ならバルセロナに居てカタルーニャの文化を決定付けた出来事、1714年のスペイン継承戦争の記念行事の事を当ブログでお伝えしなければならなかったのですが、仕事だったのでしょうがないですね。2年前に書いたエントリ、もう一つの9月11日:カタルーニャの場合で我慢してください。

ココで詳しくは書きませんが、このスペイン継承戦争が良い意味でも悪い意味でもその後のカタルーニャの文化的特長を決定付けたという視点は古くはビセンス・ビベス(Vicens Vives)からジョセップ・フォンターナ(Josep Fontana)、最近ではアルベルト・ガルシエ・エスプッチェ(Albert Garcia Espuche)まで一貫しています。

それにしても2008年の9月11日をカタルーニャの宿敵であったハプスブルグ家(Habsburg)のお膝元、ウィーンで過ごすとは思いもよりませんでした。あー、忙しい。

追記:
ウィーンでのネットの状況が芳しく無く、メールを頂いた方への返信が滞っています。BCNに帰り次第返信致しますのでご了承ください。すみません。
| バルセロナ歴史 | 19:47 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
サラゴサ(Zaragoza)の都市戦略
昨日の新聞にサラゴサの都市戦略に関するっぽい記事(Aragon, la apuesta logistica, La Vanguardia, 7 de Septiembre, 2008)が載っていました。「関するっぽい」と書いたのは、この記事が「サラゴサ都市戦略」を前面に謳っている訳ではなくて、サラゴサが今後都市としてロジスティック(logistic)の分野に力を入れていく事を説明した記事だったからです。それが僕から見ればサラゴサの都市戦略に見える、と、まあ、こんな程度の事です。

つい見過ごしてしまいそうな記事だったのですが、サラゴサの都市としてのポテンシャルの高さから少し取り上げる事にしました。

前にも書きましたが、サラゴサという都市は立地条件が非常に良く、巧く戦略を練れば今後急成長が期待出来る都市なんですね。国際的には未だ全く知名度が無い小都市ですが、やはりそのポテンシャルの高さに気が付いている人は既に行動を始めています。そしてそれに触発されるようにサラゴサ市(Ayuntamiento de Zaragoza)とアラゴン政府(Gobierno de Aragon)もその事には十分自覚的だと僕は思います。

先ずは何がそんなに地の利があるのか?というと、サラゴサはバルセロナ(Barcelona)とマドリッド(Madrid)の丁度真ん中に位置し、バレンシア(Valencia)とビルバオ(Bilbao)の間に居るんですね。つまりスペインで最も人とモノの往来が激しい東西軸(マドリッドーバルセロナ)と、太平洋・大西洋に最大級の港を持つ南北軸(バレンシアービルバオ)の中央に位置している訳です。

かつてスペインの近代歴史学を切り開いたビセンス・ビベス(Vicens Vives)は、ヨーロッパとアフリカの間に位置しているカタルーニャを指して「辺境の渡り廊下」と呼び、それがカタルーニャの混成文化という特長を創り、異常なまでの発展を促したと指摘しましたが、サラゴサも21世紀における「渡り廊下」に成り得る可能性を持った地だと思います。

さて、次に問題になるのは、では一体このような地の利を生かして何をするのか?という事です。そこでサラゴサが考え出したのがロジスティックなんですね。ロジスティックとは何か?というと、簡単に言えば、物的流通を効率化するシステムの事です。つまり製造した物をどうやって集めてどうやって分配するか?更にそれをどのように調達・配送したら最も効率が良くなるか?それを扱うのがロジスティックです。

サラゴサは今正にヨーロッパにおけるロジスティックの中心になろうとしています。
まあ、成ろうとしたからといってなれるモノでもないのですが、それはサラゴサの巧い所、というか見習うべき所なのですが、彼らは他都市で成功した都市モデル(バルセロナモデルみたいな)を自分の所のコンテクストに無理やり当てはめるというような事はしていません。彼らがロジスティックを目指した理由、それは自国を十分に分析した結果出て来た結論だったんですね。

それこそ上で述べた東西南北の軸線上に都市が乗っているという事実だった訳です。スペイン2大都市を結ぶ高速鉄道の中央に位置している事から人とモノは自ずと集まります。更に港を経由しなければいけない物流はバレンシアとビルバオがカバーしている。モノの流れには空輸出来るモノと出来ないモノが存在します。だから都市の発展の為には必然的に空港と港が重要なファクターになってくるという事は当ブログで何回か言及した通りです

昨日の新聞記事によるとサラゴサはもう既にヨーロッパ随一となるロジスティック・サラゴサプラザ(logistica de Zaragoza Plaza)なるものをアラゴン政府(51,52%)、サラゴサ市(12,12%)、Ibercaja(18,18%),CAI(18,18%)の出資で建設中だとか。その大きさは12,826,000m2で30億ユーロ(日本円で約2兆円)の投資を見込んでいるそうです。

更にサラゴサの戦略は箱物を作る事だけに集中しているわけでは決してありません。世界の知識と情報を集める為に地元サラゴサ大学(Universidad de Zaragoza)が米マサチューセッツ工科大学(MIT)と協同で日本の修士課程にあたるMaster of engineering in Logistics and Supply chain managementを創設したんですね。これによって世界最高峰の頭脳とコンタクト、そしてそれらが惹き付ける巨額の投資の可能性を確保しました。実はもう既にその効果の片鱗が出ていて、それが今年開かれているサラゴサ万博や都市計画の裏方に見る事が出来ます。

サラゴサ万博と関連して、現在サラゴサでは「サステイナブルでインテリジェントな都市:都市交通の新しいコンセプト(La ciudad inteligente y sostenible: un nuevo concepto de transporte urbano)」をキーワードにMilla Digitalという計画が進行中です。その音頭を取っているのがMITメディアラボ教授のウィリアム・ミッチェル(William J.Mitchell)。更に万博にはMITSENSEablecity Labで近年力を付けてきたカルロ・ラッティ(Carlo Ratti)も入っていますし。

私見ですけど、ウィリアム・ミッチェル率いるMITとの仲介役になったと思われるのはマニュエル・カステル(Manuel Castells)でしょうね。何故カタラン人のマニュエルがアラゴンに肩入れするのか?それはお隣が発展するとこちらにもポジティブな影響が出てくるからです。ジョルディ・ボージャ(Jordi Borja)が言っているように、シティ・リージョン(City Region)を前提とした都市間競争時代においては、どの都市が勝ってどの都市が負けるという勝ち負けゲームは意味を成さなくなるんですね。そうではなく、繋がっている隣の都市が発展する事が自身の都市が発展する事に繋がる、それがシティ・リージョン時代の都市間競争の法則です。

そう考えると、ウィリアム・ミッチェルを始め、サスキア・サッセン(Saskia Sassen)やピーター・ホール(Peter Hall)など市役所の助言役にスペインの一地方都市をグローバリズムの中で考察する面々が顔を揃えているのにも納得出来るかー。

更に更に万博開催に漕ぎ着けた政治的な手腕や、その万博を都市発展に用いた巧さ。そして市内を流れる川に関連付けつつ、21世紀のはずせないテーマであるサステイナビリティを主軸に添えた視点の良さなど、書き出すと切りが無いのですが、長くなってしまったので又今度。
| スペイン都市計画 | 22:36 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
ポンペウ・ファブラ大学図書館(Unversitat Pompeu Fabra)
カタルーニャには現在、8つの公立大学と4つの私立大学があります。

公立大学
Universitat de Barcelona (UB)
Universitat Autònoma de Barcelona (UAB)
Universitat Politècnica de Catalunya (UPC)
Universitat Pompeu Fabra (UPF)
Universitat de Lleida (UdL)
Universitat de Girona (UdG)
Universitat Rovira i Virgili (URV)
Universitat Oberta de Catalunya (UOC)
私立大学
Universitat Ramon Llull (URL)
Universitat de Vic (UVIC)
Universitat Internacional de Catalunya (UIC)
Universitat Abat Oliba (UAO-CEU)

ヨーロッパの各大学には、それぞれの特色や良い講師陣を揃えている学科などがあって、総合的にどの学部でもココが一番というのはありません。例えばカタルーニャ工科大学(Universitat Politècnica de Catalunya)のロボット工学科はよく知られているし、バルセロナ自治大学(Universitat Autònoma de Barcelona)の経済学部はヨーロッパで高い評価を得ているドクターコースがあるといったように。

そんなカタルーニャの大学なのですが、比較的新しい大学としてポンペウ・ファブラ大学(Universitat Pompeu Fabra)があります。創設は1990年とまだ20年経っていません。にも関わらず、経済学、歴史学、情報工学などの分野で優れたプログラムを提供しています。仕事上、ポンペウ・ファブラ大学の情報工学部の人達とはよく仕事をするのですが、一昨年、この業界で話題になったInteracTableというBjorkのプロモーションビデオに採用されたテーブルを創ったのはこの大学に属する僕の友達です。

ポンペウ大学キャンパスは市内に散らばっているのですが、メインキャンパスはオリンピック村(Villa Olimpica)の近く、動物園の横にあり、セルダブロックを2つ占めています。こんな感じで。





設計はオリオル・ボイーガス(Oriol Bohigas)率いるBMB事務所(Josep Maria Martorell, Oriol Bohigas and David Mackay)。





中はこんな感じ。新市街地のセルダブロックと同様に大きく中庭を取った構成です。向かってガラス張りの右側が講義棟で左側には教授の部屋などが入っています。トップライトが燦燦と注ぎ込む中庭は結構居心地が良い。

ちなみにここの食堂は学食にしては良い質の食事を安く提供していると思います。メインディッシュ一皿と飲み物、パン、デザートが付いて5ユーロだったと思います。うれしい事に部外者でも入れます。

さて、ここからが今日の本題。ポンペウ・ファブラ大学で見るべきは図書館です。この大学には世界一美しい図書館があります。(世界一かどうか知らないけど、僕が今まで見た中では一番美しいと思いますね。)

それがコレ。











14メートルの高さを擁する重厚なアーチが並ぶ空間には荘厳さが漂っています。ただただ圧巻の空間。こんな所ならさぞかし勉強もはかどるんだろうな・・・なんて。





この図書館は1874年にJosep Fontsereによって建てられたDiposit de les Aigues(Water deposit)を改修したものなんですね。Diposit de les Aiguesって何かって言うと、早い話が貯水池です。今では市民の憩いの場として親しまれているシウタデッリャ公園(Parc de la Ciutadella)はその昔、マドリッドの要塞基地に占められていたんですね。そんな抑圧のシンボルを「都市の肺」に変える一大行事が1888年のバルセロナ万国博覧会だった事は以前書いたとおりです。

改修は地元建築家、Lluis Closetと Ignasi Paricio によって1993に行われ始めて、1999年に図書館としてオープンしました。古いものを街の財産として大事に使う文化は見習うべきですね。

この建物の中には図書館機能の他にヨーロッパ歴史学界の重鎮、ジョゼップ・フォンターナ(Josep Fontana)が指揮するポンペウ・ファブラ大学ビセンス・ビベス歴史研究所(Institut Universitari d´Historia Jaume Vicens i Vives)も入っているんですね。スペインに近代歴史学をもたらしたジャウマ・ビセンス・ビベス(Jaume Vicens i Vives)と現代最高の歴史学者Josep Fontanaの名に恥じる事の無い建築だと思います。余談ですがポンペウ・ファブラ大学の一年生は教養として歴史一般の授業を取る事になっています。その時用いられている教科書がフォンターナが書き下ろしたIntroducció l'estudi història (Critical, 1999) です。内容は歴史全般で「鏡の中のヨーロッパ(Europa ante el espejo)」をもう少し分かり易くした感じかな。

僕はこれを読んだ時、「歴史はなんて面白いんだ」と目覚めてしまいました。こんな良い教科書で学ぶ事が出来る学生ってなんて幸せなんだろう。こういう良い本を是非日本語に訳して欲しいですね。

この図書館のアクセスなのですが、この建物自体には入り口はありません。ポンペウ・ファブラ大学の正門から入って、一旦地下へ下りて先ずはジャウマI棟(Edificio JaumeI)に入っている一般図書館(Biblioteca General)から入る事になります。ここから最奥部にある地下連結路を通って中央図書館へアプローチする事となります。

開館時間は月曜から金曜:8:00−午前1:30
土曜、日曜、休日:10:00−21:00
です。
| 建築 | 21:20 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
イグナシ・デ・ソラ・モラレス( Ignasi de Sola-Morales)とテラン・ヴァーグ(terrain vague)
前回、イグナシ・デ・ソラ・モラレスに言及したので今日は少し昔の事を思い出してみようと思います。

イグナシ・デ・ソラ・モラレスは建築史家・思想家として「メトロポリスとは何か」に多大な関心を寄せていました。彼は様々な分野を横断しありとあらゆる領域でありとあらゆる論文を発表していますが、その根底にあったのは「我々の時代における都市、メトロポリスとは一体何か?」、という大変に大きな設問だったと思います。だからその周りに「都市とは何か」を思考するジョセプ・ラモネーダ、「都市とは公共空間である」を謳うジョルディ・ボージャ、後に「UrBANALizacion」で一世を風靡するフランセスクムニョスなどバルセロナの頭脳が集まって来たんですね。

そんな彼の幅広い論考をまとめた書籍がグスタボ・ジリ出版社( Editorial Gustavo Gili,SA)からイグナシ・シリーズとして出版されています。

Ignasi de Sola Morales:Territorios: Barcelona, GG, 2002
Ignasi de Sola Morales:Inscripciones: Barcelona, GG, 2003
Ignasi de Sola Morales:Diferencias: topografia de la arquitectura
contemporanes: Barcelona, GG, 2003
Ignasi de Sola Morales:Eclecticismo y vanguardia y otros escritos:
Barcelona, GG, 2004

その中の一巻、Territoriosに収められているのがAnyplace会議で初披露され世界的に話題になった論文、「テラン・ヴァーグ」です。(この論文は田中純さんによって大変に読みやすい日本語に訳されています。)

「テラン・ヴァーグ( Terrain Vague)」とは、「曖昧さ」、「空虚な」、もしくは「波」といった多様な意味が含まれているフランス語だそうです。(僕はフランス語は知らないので)。この言葉によってイグナシは、都市において諸活動が行われた後に放棄された「空虚な場所」、「見捨てられた場所」ながら、何かしらの気配が濃厚に立ち込めている「空き地」や、曖昧で不安定な「都市空間」を表そうとしました。

“ Son lugares obsoletos en los que solo ciertos valores residuales parecen mantenerse a pesar de su completa desafección de la actividad de la ciudad. Son, en definitiva, lugares externos, extraños, que quedan fuera de los circuitos, de las estructuras productivas. Desde un punto de vista económico, áreas industriales, estaciones de ferrocarril, puertos, áreas residenciales inseguras, lugares contaminados, se han convertido en área de las que puede decirse que la ciudad ya no se encuentra allí.

Son sus bordes faltos de una incorporación eficaz, son islas interiores vaciadas de actividad, son olvidos y restos que permanecen fuera de la dinámica urbana. Convirtiéndose en áreas simplemente des-habitadas, in-seguras, im-productivas. En definitiva, lugares extraños al sistema urbano, exteriores mentales en el interior físico de la ciudad que aparecen como contraimagen de la misma, tanto en el sentido de su critica como en el sentido de su posible alternativa”. ( Sola-Morales, 2002).


「忘れ去られたかのようなこのような場所においては、過去の記憶が現在よりも優勢であるように見える。都市の活動から完全に離反してしまっているにもかかわらず、ここにはほんのわずかに残された価値ばかりが生き残っている。こうした奇妙な場所は都市の効率的な回路や生産構造の外部に存在する。経済的観点からすれば、この工業地帯、鉄道駅、港、危険な住宅地区、そして汚染された場所はもはや都市ではないのだ。」(田中純訳)

例えば、今まで使われていた鉄道駅が新駅に取って代わられる為に廃駅になる事によって取り壊されるのでもなく、そこに依然建っているような状況。そのような放棄された駅はもはや都市のシステムとしては機能していないのだけれども、今までに蓄えられた記憶やソコに違法に入り込む占拠者の活動にこそ、着飾ったのではない本当の都市のリアリティが横たわっているように見える、というわけですね。そんな所にこそ、新しく立て替えられたビルや大きなモニュメントなんかよりも格段に都市の記憶やリアリティを強く感じるというのは誰しも共感出来る事なんじゃないかと思います。例えば郊外のロードサイドショップや広告看板、ホテル郡などが無秩序に広がっている風景なんかですね。

都市の内部にありながらも、都市の日常的活動である生産や消費を行わないという意味においては都市の外部であり、都市のシステムとは異質な存在がテラン・ヴァーグだというわけです。彼はそれを「都市の物理的内部における、精神的に外部的な ( la condicion interna a la ciudad de estos espacios, pero al mismo tiempo externa a su utilización cotidiana, pp 187)」と現しています。

つまりテラン・ヴァーグとは自己内部に潜む他者であり都市の無意識であり、「自己の内なる「他者性」の空間化されたイメージ」なのです。(田中純:ミース・ファン・デル・ローエの戦場)

イグナシが都市の無意識と他者性、そして都市のイメージとリアリティをテーマにした「テラン・ヴァーグ」を発表するのと前後してバルセロナではもう一冊の大変に重要な本が歴史学の分野から出版されました。

ジョセップ・フォンターナ( Josep Fontana)の「鏡の中のヨーロッパ ( Europa ante el espejo)」です。彼はヨーロッパでは最高に評価されている歴史学の重鎮中の重鎮。フランスのアナール学派の影響をいち早く受け、スペインに近代歴史学をもたらしたジャウマ・ビセンス・ビベス( Jaume Vicens i Vives)の弟子であり、今ではビベスの名を冠したポンペウ・ファブラ大学ビセンス・ビベス歴史研究所 ( Institut Universitari d´Historia Jaume Vicens i Vives)の所長を務めています。

そんな彼が1994年に出版したのがヨーロッパの歴史を網羅しつつ、コレでもかというくらい分かり易く書いてある「鏡の中のヨーロッパ」です。フォンターナの冒頭の言葉がこの本のスケールの大きさを物語っています。

ヨーロッパはいつ生まれたのだろうか。

こう問う時、彼の頭の中にあったのは1993年に出版されたポミアン,クシシトフ( Pomian Krzysztof) のL’ Europe et ses nationsであろう事はこの本の訳者である立花さんが指摘されています。

手短に言ってPomian Krzysztofは、ヨーロッパというのは自己と他者を明確に分ける為に外部との境界性を定める事によって形成されてきたと言います。その一方でフォンターナは自己と他者を分ける外部の境界性の存在だけではなくて、その内部にさえも自己と他者を分ける力学が働いてそれがヨーロッパを形成してきたと訴えます。つまり内部の社会システムを保つ為に大衆を野蛮人の地位に押し込める事によってヨーロッパは発展してきたというわけですね。そしてこれこそがゆがんだ鏡に映った自己自身であるというわけです。

このゆがんだ鏡に映った自己自身とは何を隠そう、ヨーロッパの無意識という事だと僕は理解しています。
そしてヨーロッパが歴史的に大衆を野蛮人という地位に押し込める事によって発展してきたという事実は現代都市にも、いや、現代都市にこそ当てはまると思います。特にイグナシが「テラン・ヴァーグ」を発表してから10年余り経った現在では都市の主モーターが変わると同時に、その新たなるモーターの回りに都市の全ての現象が引きずられているように思われる現在ではなお更です。

そんな状況下において、都市は大衆を新たな野蛮人に仕立て上げ、その地位に押し込める事によってグローバル化の中における自身の地位を上げる為にイメージ競争に奔走しているのです。その結果が観光化によるジェントリフィケーションという今我々が直面している大問題なわけです。

その辺の事を考慮に入れて僕が当ブログでシリーズ化したのが「広告都市」論です。詳しくはこちら。この広告都市論は別名、現代都市におけるテラン・ヴァーグと勝手に名付けています。イグナシに是非見せたかった僕の自信作です。
| 大学・研究 | 19:46 | comments(3) | trackbacks(4) | このエントリーをはてなブックマークに追加