地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
サラゴサの都市戦略とかサラゴサ万博跡地とか
とあるプロジェクト・ミーティングの為に今日は朝からスペイン高速鉄道(AVE)に乗って、サラゴサ(Zaragoza)に来ています。



以前のエントリで書いたように、サラゴサはバルセロナとマドリッドの丁度真ん中(マドリッドからは1時間15分、バルセロナからも1時間30分)、そしてバレンシアとビルバオの間に位置している為、その地の利を生かして物流(Logistics)の中心になろうという動きがあるんですね(地中海ブログ:サラゴサ(Zaragoza)の都市戦略)。何故か?簡単な事で、都市と都市の交差点には常に人とモノが集中するからです。そして「それらモノを集めて保管・管理し、スペインの各地へと再分配する最大のプラットフォームを創ろう」というのがサラゴサの都市戦略なんですね。

前回のエントリとも少し関連するかもしれないんだけど、近年益々バルセロナモデルへの注目度が高まり、バルセロナで成功した都市モデルを安易に自国へと適応させて成功を収めようとする都市が多く見受けられます。そんな中においてサラゴサの様に、「自分の都市の利点や特徴とは一体何なのか?」と言う事を真摯に分析し、そこから独自のモデルを見つける努力をしている姿などは賞賛に値すると思いますね(それが成功しているかどうかは別として)

もっと言っちゃうと、サラゴサという都市は大変戦略的な都市で、このようなアイデアを更に進める為に、ボストンのMITと契約を結んで、サラゴサ大学と共同プログラム(修士課程のプログラム)を展開したり、都市計画の顧問などにMITの教授を起用したりと、都市マーケティングの熱の入れようには目を見張るものがあるんですね。2008年に行われたサラゴサ博覧会で、その全体企画やパビリオンの配置計画を含んだ全体計画の責任者の一人にMITメディアラボのウィリアム・ミッチェル(William J.Mitchell)が就任していたり、MITの建築・都市計画学科の教授陣が多く起用されていたりしていた事は何も偶然では無いと言う事です。

さて、こんなサラゴサなのですが、今日は仕事で来ていた事もあって、街を見て回る時間はほとんど無かったのですが、それでも見たい数箇所のポイントには行ってきました。先ずはコレ:



ザハ・ハディド(Zaha Hadid)によるサラゴサ万博の為に創られたブリッジ・パビリオンです。名前から容易に連想出来る様に、コレは橋でもありパビリオンでもあるという、云わば、一粒で二度美味しいというやつですね。



外から見るよりも中の空間が面白そうだったんだけど、今は土曜日、日曜日そして祝日のみ開館中なのだとか。残念!

スペインでは今年の4月にスペインのジャーナリスト、Llatzer MoixによるArquitectura Milagrosaと題する、スター建築家による大金を注ぎ込んだ、(一般的には)奇怪な形をした建築が一体どのように生れたのか?という経緯が詳細に書いてある書籍が出版されたのですが、その中で批判されていた建築の一つが実はこのザハ・ハディットによるブリッジ・パビリオンでした。その当時、公開コンペが行われ、その結果ザハ・ハディットの案が選ばれたそうなのですが、実はザハ自身はコンペ前に敷地を一度も見に来なかったのだとか。それどころか、橋が完成するまでに3回しか現場を訪れなかった事などが暴露されています。・・・この書籍、読み方によっては結構面白いかもしれません。

そしてこの橋の前にあったのがコチラ:



Nieto and Sobejano Arquitectos
によるCongress Buildingです。・・・特に感想は無し。



この建築の前には人を象った巨大人形(?)が置いてあったんだけど、こちらも意味不明。顔とか半分欠けてるんだけど、これはワザとなのか、劣化しちゃったのか・・・不明です。

今回のサラゴサ訪問は本当に時間が無くて、これくらいしか見る事が出来なかったんだけど、僕が万博跡地を訪れた感じでは、この辺りは全く再利用がされておらず、はっきり言って「死の地区」と化していました。バルセロナのForum2004でもそうなんだけど、大型イベントを誘致して未開地区を開発したは良いけど、施設等のその後の使い道がハッキリせずに、市民に非難されている都市がかなり多いようですね。大型イベントを誘致して都市の活性化を行う事は、バルセロナを初め、近年の都市が戦略的に考え始めている事なのですが、その後の活用法を考えないのはちょっといただけないなー。バルセロナが施設を創らずに、Mobile World Congressのような大型イベントだけを誘致してきているのは、実はそのような問題を避けようという意図がその裏にあるからなんですね(地中海ブログ:バルセロナのイベント発展型都市戦略とGSMA2010(Mobile World Congress 2010))

帰りの高速鉄道に乗る為にサラゴサ駅に戻ってきたのですが、この新しい駅はカタラン人建築家であり、今年のスペイン建築大賞を取ったカルロス・フェラテール(Carlos Ferrater)によってデザインされました。



うーん、それなりではあるとは思うんだけど、敢えてコメントする程でも無いですね。次に期待しましょう。
| 都市戦略 | 22:41 | comments(6) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
スペインの大学統合問題と将来プラン:現在77ある大学を20まで減らす具体策
先日の新聞(La Vanguardia 15 de Abril 2010)にスペインにおける大学システム変革に関する記事が載っていました。スペインの教育システムについては日本では余り知られていない事などから、当ブログでは事ある毎に関連情報などを取り上げてきています。(地中海ブログ:スペインの大学ランキング:総合ランキングではなく、学部間で競い合うというシステム、地中海ブログ:グローバリゼーションの中におけるローカリゼーション:何故カタルーニャの戦略は次々にポジティブな結果を生んでいるか?

取り合えず基本情報を整理しておきたいと思うのですが、スペインでは現在、全国に77の大学があり、その内50が公立、27が私立となっています。つまり大学数で見ると、スペインの大学数は日本の約10分の1程度(日本の大学数は709校)。大学進学率で見たら、日本は41%でスペインは43%となっています(この数字は2005年のものです。:詳しくはコチラ)。驚くべき事に日本よりもスペインの方が大学への進学率が高いんですね。(ちなみにスペインの人口は約4600万人、つまり日本の3分の1程度です。)

さて、そんなスペインの大学を取り巻く社会状況なのですが、実は今回、そんな状況に劇的な変革を促す長期的プランが発表されました。それが現在77ある大学数を今後20程度にまで減らすという大学削減プログラムです。

「えー、そんな事出来るの???」とか思っちゃいますが、実は既にその為の種は蒔かれているんですね。それが今年2月に発表されたCampus de Excelencia選抜(優秀キャンパス選抜)です。この選抜は教育省がイニチアティブを取り、全国の大学に各々の長期的戦略プランを提出させる事によって、国際的キャンパス(Campus de Excelencia Internacional)、地域的キャンパス(Campus de Excelencia Internacional de Ambio Regional)そして将来性豊かなキャンパス(Proyecto Prometedor)という3つのレベルの優れたキャンパスを選りすぐり、重点的に投資をしていこうというプログラムです。

ユニークだったのが、各大学がこの戦略を練るにつけて、単独大学だけではなく、隣接している大学間や似通ったプログラムを提供している大学間などでペアーを組んで一つのキャンパスとして申請する事が許可されていたという点です。その結果選ばれたのがコチラ:

1
.国際的(Campus de Excelencia Internacional

Ciudad Universitaria Moncloa
UCM(Universidad Complutense de Madrid) and UPM(Universidad Politecnica de Madrid)(マドリッド)
Campus Carlos III
(マドリッド)
UAM-CSIC
Universidad Autonoma de Madrid and Centro de Consejo Superior Investigaciones Cientificas(マドリッド)
Knowledge Campus
UBUniversidad de Barcelonaand UPCUniversidad Politecnicade Catalunya)(カタルーニャ)
UAB
(カタルーニャ)

2
.地域的キャンパス(Campus de Excelencia Internacional de Ambio Regional

Universidad de Cordoba
(コルドバ)
Universidad de Santiago de Compostela
(サンティアゴ・デ・コンポステーラ)
Universidad de Oviedo
(オビエド)
Universidad de Cantabria
(カンタブリア)

3
.将来性豊かなキャンパス(Proyecto Prometedor

UPM
Campus Montegancedo(マドリッド)
UPF
Icaria International(カタルーニャ)
URV-Campus de Excelencia Catalunya Sur
(カタルーニャ)
URL
(カタルーニャ)
UV/UPV-Proyecto Naunova
(バレンシア)
Universidad de Granada
(グラナダ)
Universidad de Navarra
(ナヴァラ)
Universidad de la Iglesia de Deusto
(バスコ)

合計17の大学もしくはキャンパスが選ばれていますが、注目すべきなのは、最高ランクの国際的キャンパス(Campus de Excelencia Internacional)に選ばれた5つのキャンパス−大学の内、3つまでもが2つ以上の大学が統合されたキャンパスとして選ばれているという点です。つまり、ここにおいて、もう既に将来を見越した大学間の統合が示唆されているんですね。

更に地域によっては同じようなプログラムを提供している大学間では、それらを一つに纏めてしまおうという動きも既に出始めています。具体的な例ではバルセロナ自治大学(UAB)とバルセロナ大学(UB)の間でフランス文学の学位提供プログラムの統合、バルセロナ自治大学(UAB)とポンペウ・ファブラ大学(Pompeu Fabra)間での医学学位提供プログラムの統合などがそれで、もう既に学位の提供は始められています。

こうして見ると、現在77ある大学を20に減らすという「結構過激なプラン」に思えた計画が、かなり具体性をもった計画である事が分かるかと思われます。逆に言えば、これだけ具体性を持ち且つ、迅速に教育省が対応していると言う事は、グローバリゼーションの中においてスペインの大学が置かれている状況がかなり切羽詰ったものだという事の裏がえしの様に思えて仕方がありません。このテーマ、今後要注目です。
| 都市戦略 | 19:10 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
グローバリゼーションの中におけるローカリゼーション:何故カタルーニャの戦略は次々にポジティブな結果を生んでいるか?
昨日Twitterで教えてもらったんだけど、どうやらバルセロナにあるポンペウ・ファブラ大学(Universidad de Pompeu Fabra)、バルセロナ自治大学(Universidad de Autonoma de Barcelona)そしてCREi(Centre de Recerda Economia Internacional)という3つの大学機関が連携して、バルセロナという地域をヨーロッパにおける経済学の研究拠点に押し上げているそうです。数年前、知り合いがバルセロナ自治大学経済学部のドクターコースに通っていて、結構良い噂などを聞いてはいたのですが、まさか、複数の機関が集まり協力体制を築きながらヨーロッパ中に響き渡る程の名声を獲得していたとは予想していませんでした。知らなかったよー♪

更にバルセロナには、しばしば世界ランキング一位の座に輝いているビジネススクールIESEや常に世界ランキング10位に入っているESADEなんかがある事から、明らかに都市として「経済やビジネス研究」という一つの特化分野を創り出そうという意志がある事が見て取れます。これは前回の記事とも関連する点なんだけど、このような地域の特性を生かして競争力にしていく戦略や手腕は本当にすごい!心底感心しますね(地中海ブログ:新たなる経済モーターとしての医療:カタルーニャのバイオ医療戦略

では何故、スペインのカタルーニャ地方においてこのような都市戦略が次々とポジティブな結果を生み出しているのか?

うーん、これに答える事はすごく難しいんだけど、今日の話題である「スペインの大学システムに見る日本との違い」を通して、少しだけその手掛かりを示す事くらいは出来るかもしれません(スペインにおける大学ランキングに関してはコチラ:地中海ブログ:スペインの大学ランキング:総合ランキングではなく、学部間で競い合うというシステム)。

面白い事に、スペインには上述した様な「超競争力がある研究機関」が揃っているかと思えば、その一方で「大学ランキングなんかには微塵の興味も示さない」という人達が大半を占めている社会、それがスペインなんですね。

昔聞いた話でぶったまげたのが、ポンペウ・ファブラ大学で文学を専攻していたカタラン人の友達に、「どうしてポンペウを選んだの?」って聞いたら、「家から一番近いし、何よりメトロの出口から一番近かったから」という返事が返ってきました。しかも彼女はふざけてそう答えた訳ではなくて、「至極当然、なんか文句ある?」みたいな感じで自信満々に答えてくれました(笑)。そして同じ様な基準で大学を選ぶ人達が実にスペイン人の90%以上を占めるという事実が分かってきたのはごく最近の事です。

スペイン人にとって大学を選ぶ際の一番重要な要因は何か?それはその大学の知名度や有名教授の有無、もしくは就職率などではありません。それはずばり「家から近い事」です(笑)。

スペイン人は大学を選ぶ際、自分の住んでいる街から出る事は先ずありません。自分の住んでる街に大学が無かったり、行きたい学部が無かったりした場合に限り、同じ州にある大きな街に行ったりするのですが、その場合には、毎週末に家に帰れる事が絶対条件になります。

何故か?

何故ならスペイン人は「スペインが世界で最高の国」だと信じ込んでいて、更に、自分が生まれ育った町や村はそんな最高のスペインの中でも「最も住みやすい場所」だと確信しているからです。それほど自分が育った街や村に愛着を持ち、誇りを持って生きている民族、それがスペイン人なんですね。極端に言うと、彼らはものすごく狭い世界に生きていて、その中からナカナカ出ようしません。だから自ずと、「自分達が住んでいる街や自分達が住んでいる地区をより住みやすくしよう」というコンセンサスが全市民の間に取り易く、全ての力がそちらの方向に向かって行き易いんじゃないのか?と思う訳です。「自分が動かないんだったら環境を良くしちゃえ」と、まあ、単純なんだけど、僕的にはちょっと目から鱗的な逆転の発想な訳です。

そしてその根底にある考え方や価値観の基礎になっているのは間違い無く、「家族と友達」です。彼らは人生の中における最も重要な事項の一つとして、「家族や友達と過ごす時間」に比重を置いているんですね。

何故スペイン人は自分の家から遠く離れた大学には行かないのか?それは、そんな所に行ったら家族や友達と会えなくなるからです。そう、彼らにとっては、「良い大学に行って名声を獲得したり良い企業に入って沢山お金を稼ぐ事」なんかよりも、「大切な家族や気の知れた友達と一緒に楽しく過ごす時間」の方が何よりも大切なんですね。つまり日本人とは価値観が全く違うと言う事です。

何時も言うように、これはどちらが良くてどちらが悪いとか、どちらが優れていてどちらが劣っているといった問題ではありません。ただ単に両者は違う価値観に基ついている、ただそれだけの事です。

こういう事を真っ直ぐな目で語りかけてくる時ほど、スペイン人が魅力的に見える瞬間はありません。

何時もは仕事サボってたり、人に仕事を押し付けて自分だけ先に帰ったりして、憎っくきカタラン人なんだけど、彼らの生き方を見ていると、とっても人間らしくて、忙しい毎日の中で僕が忘れかけていた何か大切なものを、日常のふとした一言から思い出させてくれるような気がします。

近年グローバリゼーションが進行する中で各都市が己のポジションやビジョンを打ち出そうと必死になってるけど、カタラン人が無意識にも示しているこの姿勢は、グローバリゼーションの中におけるローカリゼーションの問題にある一つのモデルを示している様な気がします。勿論それは他の都市がコピー出来る様な物ではないのですが、やはり、「僕が彼らから学ぶべき事はまだまだ山程ありそうだな」と感じる今日この頃です。
| 都市戦略 | 21:00 | comments(4) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
新たなる経済モーターとしての医療:カタルーニャのバイオ医療戦略
ここ数日、各種メディアで医療やテクノロジー関連のニュースがやたらと目に付くなー、とか思ってたら、どうやら先週、バルセロナでBio-Europe Spring 2010と題する、ヨーロッパ最大のバイオテクノロジー系の祭典が行われていた様ですね。

この分野の動向に関しては当ブログでは何度か言及しています。と言うのもカタルーニャではバイオテクノロジーと医療を組み合わせた「バイオ−医療」分野を都市戦略上に位置付け、南フランスと協力体制を築いて「バイオ医療リージョンを創出しよう」という大胆な野望を持っているからなんですね(地中海ブログ:カタルーニャの打ち出した新しい都市戦略:バイオ医療( BioPol, BioRegio)、地中海ブログ:Euroregion(ユーロリージョン)とカタルーニャの都市戦略:バイオ医療を核としたクラスター形成)。まあ、この分野が21世紀をリードする最重要分野の一つである事は誰しもが認める所だと思うのですが、そこにいち早く目を付け、現実に巨額のお金を動かしてしまう、その行動力はさすがだと言わざるを得ません。

さて、ある国の特徴というのは、自然環境(水、森など)、社会的インフラ(道路、電力など)そして社会システム(教育、医療など)のそれぞれがどのように管理、運営されているか?に見る事が出来ると思うのですが、この内、スペインの特徴が際立っている事の一つに医療を挙げる事が出来るかと思われます。

何故か?

何故なら(驚くべき事に)スペインでは基本的に医療費がタダなんですね。風邪をひいて医者に行こうが、心臓の手術をしようが医療費は全部タダ。(何年もこのシステムの中で暮らしているとこの環境に慣れてしまって、「これが普通」とか思っちゃうけど、良く考えたら、これはすごい事だなー!)

この制度は独裁政権時代に確立されたシステムらしいのですが、友達のお母さん曰く、「フランコがスペインの為にした唯一の貢献だ!」と言っていました(コレが一般的な意見かどうか?は未確認)。しかしながら、最近では、このような「美味しい蜜」を吸おうと、違法行為ギリギリの際どい線を犯してまでもわざわざスペインに居住して、税金を払う事無しに医療だけ利用しちゃおうというあくどい行為が社会問題化してきているんですけどね。(地中海ブログ:健康ツーリズム:スペインの誇る医療サービスの盲点を突いた、グローバリゼーションの闇

こんな、健康天国スペインなのですが、面白い事にカタルーニャにはある傾向がある事が分かっていて、医療分野に関しては、比較的プライベートセクターの介入が強い事が以前から指摘されています。分かり易い例を挙げると、上述した様にスペインでは医療費がタダなので、カタラン人家族は病院関係(薬局の薬などは別)には一切お金を投資する必要は無いのですが、実際には、全カタルーニャ人口700万人の内、約170万人がプライベートな医療保険に入っていたりするんですね。ちなみに平均的なカタラン人の家族は全収入の内、約3.2%を薬やその他健康サービスに費やしているそうです。だからカタルーニャにはスペインの全病院数の約26%が集まっていて、そのクオリティを比較してみた場合、ベスト20位に入る病院の内、なんと14個がカタルーニャに集中しているのだとか。

更にカタルーニャが地域として医療に費やしている総額は(カタルーニャの)国内総生産の内、約7.2%を占めるそうで、それらの出費の内、34.1%はプライベートセクター関連なんだそうです。このようなパブリックとプライベートの混合による特殊な医療セクターモデルが、ヨーロッパでも稀に見る魅力的な雇用市場を創り出していると、そう見る分析も存在する程です。

こういう数字を見ていると、近年カタルーニャが打ち出したバイオ医療戦略は、ここ数年で出てきた「パッと出」の思い付きなのではなく、地域の特徴を生かした良く練られた戦略だと言う事が分かるかと思われます。この辺の戦略性はやはり目を見張るものがありますね。日本もボーっとはしてられません!
| 都市戦略 | 23:24 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
カタルーニャの夢、地中海の首都:地中海同盟セレモニーに見る言語選択という政治的問題
先週の木曜日(34日)の事だったのですが、バルセロナが長い間夢見ていた地中海の弧同盟(La Union por el Mediterraneo(UpM))の常設事務局のお披露目パーティーがペドラルベス宮(Palau de Pedralbes)にて盛大に行われました。



思えばバルセロナが「地中海の首都」になろうと試みたのが1995年の事。その当時は「バルセロナプロセス」という名でバルセロナがイニティアティブを取ってはいたのですが、各国間の調整が上手い事運ばず、時間だけが流れ去っていくという状態が10年以上続いていたんですね。そのような硬直状態に変化が現れたのが2008年の事。サルコジ仏大統領がEU議長国の地位を利用して(2008年後半はフランスが議長国でした)地中海同盟のイニティアティブを取り直し、フランスの後押しなどもあって晴れてバルセロナが常設事務局の座についたのが忘れもしない2009115日の事でした。

「地中海同盟の常設事務局にバルセロナ選出」というニュースは普通なら各種新聞のトップを独占する程のビッグニュースのはずだったのですが、実はその日は世界にとってもっと衝撃的な歴史的な事件が起こった日でもありました。2009115日、それはアメリカで初めて黒人大統領が生まれた日だったんですね(詳しくはコチラ:地中海ブログ:地中海連合(Union pour la Mediterranee)の常設事務局はバルセロナに)。「地中海同盟の常設事務局にバルセロナ選出」は地中海にとっては大ニュースだったけど、さすがにオバマ大統領の誕生と比べられたらちょっと相手が悪かった。勿論スペインを含む世界中の新聞が、その日のトップニュースにオバマ大統領誕生のニュースを持ってきていました。

まあ、そんな苦い思い出があったからかどうか知らないけど(多分全く関係ないけど)、今回の新聞記事には大変面白い傾向を見る事が出来ました。というかそういう風に読む事も出来ると言う事なのですが・・・。La Vanguardia紙は次のように書いています:

「我々カタラン人にとって「地中海」とは国の外形を切り取る縁ではなくて、我々のアイデンティティの形成する本質的な要素である」とカタルーニャ州政府大統領はカタラン語で語った。バルセロナ市長も同じくカタラン語で語ったが、カステリャーノ語、英語そしてフランス語を混ぜて語った。」

“Para los ctalanes, el Mediterraneo no es una frontera exterior, sino una dimension esencial de nuestra identidad”, afirmo el presidene, Jose Montilla, que hablo en catalan. El alcalde de Barcelona, Jordi Hereu, hizo lo propio, pero salpicando su discurso de frases en castellano, ingles y frances.” P 14, La Vanguardia, 5 de Marzo 2010.


お分かりでしょうか?そう、「カタラン語で語った」とワザワザ言っているんですね。と言うか、この箇所がこの2ページに渡る新聞記事の本質部分だと言っても良いと思える程だと思います。



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カ国の国旗の前でカタラン語で正式に声明を発表する事。これはカタラン人の長年の夢であり、15年かけて地中海の弧同盟を育ててきた集大成と言ってもいいんじゃないのかな。まあ、この新聞(La Vanguardia)は所詮、右寄りのカタルーニャ同盟(CiU)の広報誌なので、言語の問題を強調していても何の不思議も無いんですけどね。ちなみに左寄りのEl Paisでは勿論言語の事には触れていませんでした。

(ちょっと脱線するかもしれないけど、今日の新聞(El Pais, 7 de Marzo 2010)にマドリッドのルイスガジャルドン市長(Alberto Ruiz-Galladon)とバルセロナのエレウ市長(Jordi Hereu)との両都市の将来像に関する対談が載ってたんだけど、その中でジャーナリストがバルセロナ市長に「カタラン語は海外からの投資家や留学生、もしくは企業家などがバルセロナに拠点を置きたい場合には進入障壁となるのでは?」という質問に、「言語の問題は関係無い。我々はカステリャーノ語とカタラン語のバイリンガルであり、必要ならば勿論カステリャーノ語でコミュニケーションを取る事は全く問題無い!」と少し語調を荒げながら反論する部分があったのが印象的でした。)

自国が隣国と陸続きで、異なる言語を話す人達が集まってくるのが当たり前な環境に育ってきているヨーロッパでは、どのような状況でどの言語を使用するのか?と言う事が当たり前のように政治的な意味を持ってきます。それは何もこのような公共のオフィシャルな場だけの話ではなくて、企業内の会議だとか、はたまた友達同士の昼食の会話と言った些細な所にまで入り込んでいるんですね。いや、このような日常生活の中でさえ、そのような言語を通した政治的駆け引きが潜んでいると言う所にこそ、驚くべきなのか。これはつまり、人々の無意識の中にもう既にそのような言語に対するセンシビリティが潜んでいると言う証拠なのですから。

今回の地中海の弧同盟を言語の問題を通して伝えたLa Vanguardia紙は次のように締めくくっています。

“・・・今回のセレモニーは次のように締めくくられた。Muchas Gracias(カステリャーノ語). Moltes Gracies(カタラン語). Merci Beaucoup(フランス語).

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世紀に地中海に跨る一大帝国を築いたジャウマ一世以来、表舞台では廃れ気味だったカタラン語が再び輝きを取り戻し、バルセロナが地中海の首都に返り咲こうとしている瞬間でした。
| 都市戦略 | 13:43 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
バルセロナのイベント発展型都市戦略とGSMA2010(Mobile World Congress 2010)
バルセロナでは今週月曜日から木曜日まで世界最大規模の携帯電話の祭典、GSMA(Mobile World Congress 2010)が市内スペイン広場にて盛大に行われていました。毎年この時期に開催されるこのイベントには世界各国から携帯電話関連の企業や関連研究者などが一堂に会し、地中海都市バルセロナを最新テクノロジーの首都へと変えてしまいます。当ブログでは数年前からこのイベントの詳細なデータなどを定点観測してきているのですが、その理由は、このようなイベントの裏側には「都市の思惑」と、それに伴う都市戦略がチラチラと見え隠れしているからなんですね(地中海ブログ:バルセロナのイベント発展型都市戦略とGSMA(Mobile World Congress 2009)、地中海ブログ:バルセロナの都市戦略と3GSM)。

このような各種祭典や国際会議というのは都市にとっては願っても無い収益のチャンスであり、その事にいち早く気が付いたバルセロナは、都市発展の為にこれらのお祭りを引き寄せようと戦略的に動いてきました。元々「ビックイベントによる都市発展」って言うアイデアは1992年のバルセロナオリンピックの誘致が最初と言われているんだけど、それ以来バルセロナはUIAForum2004など4年毎くらいに大型イベントを誘致しては都市の諸問題を改善し、都市計画に反映させ、最終的に市内における市民の生活の質を改善する事に成功してきたと言っても過言では無いと思います。先月、市長の口から飛び出たビックリ発言、「バルセロナは2022年の冬季オリンピックに立候補する」というアイデアは明らかにこの軸線上に載っている戦略です(地中海ブログ:バルセロナ、2022年冬季五輪に立候補の意思表明)。そしてそんな長期的大型イベントを活用した都市計画を実践してきたバルセロナが近年結構活発に働きかけているのが、37日間という比較的短期間で行われる各種イベントや国際会議などの誘致と言う訳です(地中海ブログ:バルセロナ都市戦略:イベント発展型)。

さて、昨日の新聞(La Vanguardia, 19 de Febrero 2010, P4)にはGSMA(Mobile World Congress 2010)の諸情報が載っていたのですが、これがナカナカすごかった。今年はなんと、去年よりも2,000人程多い49,000人という結果だったそうです。ピークだった2年前に記録した、4日間で50,000人という記録には手が届かなかったのですが、経済危機をモロに受けた去年の事を考えると「ようやく盛り返してきたな」という感があります。4日間の経済効果はずばり220億円(2億ユーロ)と言いますから、このイベントの重要性が分かるというものです。ちなみにこの数字は去年は勿論、ピークだった一昨年の170億という数字を遥かに上回っています。

そしてもう一つ、これらのイベントのインパクトを測る重要な指標になるのが、バルセロナ市内におけるホテルの占有率です。今年の数字は市内ホテル占有率が平均で90%、最初の2日間に至っては95%という、去年とさほど変わらない数字でした。去年は

「バルセロナ市内のホテルは携帯電話のイベントですら満席には至らなかった (“ los hoteles de Barcelona no logran llenar para la feria de telefonia movil)

とか言って大騒ぎしていたのですが、良く考えたら、市内ホテル占有率100%になる方がちょっと異常な状況であって、それこそバブルだった頃の異常さを示しているというものです。

さて、今日の新聞には関連記事としてもう一つ面白い記事が載っていたのですが、それは2008年を通して行われた各種イベントや国際会議がカタルーニャ地方に落としたお金についての記事でした。それによると、一年を通して1750億円(135200万ユーロ)のお金がカタルーニャ全土に落ちたそうです。カタルーニャ中で一番お金が落ちたのは勿論、首都であるバルセロナで全体の74%の訪問者がバルセロナを訪れ、全体の49%の会議がバルセロナで行われたのだとか。注目すべきは第二位で、そこにはGarrafが付けていました。約1,000の会議が行われ、80,000の訪問者が訪れたのだとか。

さて、これら短期的イベントと長期的イベントは、それら両方を適材適所に用いれば、都市を発展させる為の重要なツールになる事は間違いありません。そしてそれらをどのように使うのか?については問題意識も含めながら以前こんな風に書きました:

このような国際会議や催事を巧く使えば都市の大きな収益になる事は間違い無いんですね。これらをオリンピックなどの大型イベントと共存させていくというアイデアは大変に秀逸なものであるといわざるを得ないと思います。そしてこれら2つのタイプは共存関係にある。今後考えられるシナリオとしては、都市の「ある地域」を開発したい時にはオリンピック系の大型イベント誘致を図り、都市に賑わいをもたらしつつ収益を効率的に上げようという時には短期型を誘致する。更に 大型イベントで開発・建設した大型施設に継続的にプログラムを与えつつ意味を与えるという役割も果たす訳です。美術館や文化センターのような施設というの は、建設費用を集める事は実はあまり難しくないんですね。それよりも問題なのはどんなプログラムを走らせるかというコンテンツとランニングコストのほうな のです。その点、僕が以前勤めていたバルセロナ現代文化センターは大変巧くやっていると思います。

経済効果を見れば明らかな様に、これらのイベントはもう、都市内に各種建築やインフラを計画するのと同等のラインに位置付ける事が出来るかと思います。唯一の違いは、このようなイベントは一過性のものであり、恒久的な建築物などは残らないという点だけなのですが、それだって見方を変えれば、僕らの時代の建築、ひいては社会のある側面を表しているようで、それはそれで興味深い現象なんですね。そして更に僕にとって興味深い点は、短期的イベント、長期的イベント、建築、都市計画という様々な分野が、「都市戦略」という観点に立つと、あたかも一つの軸線上で語る事が出来るという事です。そう、我々の時代にはもうそれらの間に違いなど無いのかも知れません。あたかも全てのガジェット(携帯、ラップトップ、テレビなど)が同じ様な機能を持ち、それらの違いが「液晶の大きさ」でだけで区別されていく時代に突入している様に。
| 都市戦略 | 20:25 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
バレンシア出張:聞く所によるとマドリッド−バレンシア間の高速鉄道は2010年中に完成するらしい
今日は朝からバレンシア出張です。以前にも書いたように、バルセロナ−バレンシア間って驚く程交通の便(コネクション)が悪くて、飛行機なら午前と午後に一本ずつしか無いような状況なんですね(地中海ブログ:バレンシア・バルセロナ・サラゴサ計画とカンプス(Francisco Camps)氏の汚職疑惑騒動)。更にそのフライトスケジュールも、早朝のものすごく早い時間と夕方のすごく中途半端な時にしか無いという最高にタイミングの悪いスケジュール。その一方で、電車(RENFE)の方は結構本数があるのですが、こちらは時間がかかり過ぎるのが問題。片道3時間、行き帰りで6時間も取られてしまいます。

午前中に行われるミーティングに間に合う為にはバルセロナを7時発の電車に乗らなくてはならず、まあ、それでも「仕事だからしょうがないか」という感じでバルセロナ・サンツ駅をウロウロしていたら面白いものを発見:



サンツ駅拡張計画の模型です。この計画は近年の大幅な需要の増加に応える為に3年程前から計画されていたのですが、去年からの不況の影響を受けて確か今はストップしているはず。設計は地元出身の建築家、ジョセフ・ルイス・マテオ(Josep Lluis Mateo)と、今や世界的建築家となりつつあるRCRのコラボだったと思います。ジョセフ・ルイス・マテオはおいといて、RCRはさすがに乗りに乗ってるなー。つい先日もバルセロナの新裁判所のコンペを勝ち取った事が報道されたばかりですし、彼らの扱う物件の規模はどんどん大きくなっていますね(詳しくはコチラ:Barcelonaどこでも建築:ひさしぶりOlot)。

さて、今日のミーティングはバレンシア市が中心となって促進している交通計画に関するものだったのですが、コーヒーブレイクの時に市役所の人達と話していたら、スペイン高速鉄道(AVE)関連について面白い話を聞きました。

先週のエントリで書いたように、フランスの国有鉄道の会長が南フランス−カタルーニャ間の連結について具体的な工期を提示したり、去年の年末にはバルセロナ−バレンシアの協力体制についての理論的なバックグラウンドとなりうる著書が発表されたりと、「地中海の弧」に関する話題はにわかに活気付いてきたなと思っていたのですが、その一方でマドリッド−バレンシアの連結計画については情報がさっぱり回ってこなかったんですね。

しかしですね、今日の市役所の人達の内輪話によれば、今年中(2010年中)にマドリッド−バレンシア間の高速鉄道連結が完成するとか何とか。それが完成した暁には今は4時間かかっている両都市間の移動が、なんと90分に短縮されるそうです。
コレにはちょっと驚きました。インフラ整備は都市戦略に欠かせない要素である事から、普段から目を配らせていたのですが、少なくともメディアレベルではどの新聞も今の今まで報道はしていませんでしたね。問題は何故マドリッドはこの事を隠すのか?(隠してないのかもしれないけど、そう見える)という事なのですが、その辺りの事については色々と思い当たる事があるんだけど、長くなりそうなので又今度。


今日の収穫はメディアレベルでは出てこないこの情報と、バレンシア市が今週からGoogle Transitに参加し始めたという事です。Google Transitについては次のエントリで書こうと思っています。
| 都市戦略 | 20:50 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
地中海の弧の連結問題:ペルピニャン−フィゲラス−バルセロナ間の高速鉄道連結計画の裏に見えるもの
先週の事なのですが、フランス国有鉄道(Societe Nationale des Chemins de Fer(SNCF))の会長であるGuillaume Pepy氏のインタビューが新聞に載っていました(El Pais, 7 de Febrero 2010, P14)。中心的な話題は勿論、「地中海の弧」を実現する為の高速鉄道の連結について。南フランスとカタルーニャの連結については長い間議論されてきたのですが、ココに来てかなり現実味を帯びてきた感があります。

これは多分、先月中旬(忘れもしない1月13日)に発表された地中海連合の事務局長の任命に影響を受けての事だと思われます。任命されたのは若干41歳のヨルダン大使などを務めていたAhmed Masade氏。地中海連合は43もの国々が集まって創られる大連合故に、何処の国の誰を最高責任者にするのか?については内部でかなりのゴタゴタがあったようなのですが、ようやく落ち着いたみたいですね。そしてその組織図が明らかになるにつれて、各地域も徐々にリアクションを示してきたと、まあ、そう言う事だと思います。

今回のインタビューでは(驚くべき事に)今までは曖昧にされてきた具体的な工事の期限なども提示されていたのですが、それによると、フランス側のペルピニャンとカタルーニャ側のフィゲラスが2010年の12月までに結ばれ、2012年にはバルセロナとペルピニャン間の工事が終わる予定だとか。今現在、バルセロナ−ペルピニャン間は電車で約3時間かかるのですが、この連結が実現すると両都市を45分で行き来する事が可能になるそうです。

この事はメディアなどではあまり大きな議論にはなっていないのですが、僕に言わせれば、これはかなり重要なニュースだと思います。というのもバルセロナ−ペルピニャン間が45分圏内と言う事は、バルセロナ−フィゲラス間が30分圏内に入ると言う事を意味するからなんですね。

フィゲラスには言わずと知れた、カタルーニャが世界に誇るダリ美術館があります(地中海ブログ:ダリ宝石美術館(Teatro-Museo Dalí: Dali Jewels)。現在バルセロナ−フィゲラス間は2時間という長距離にも関わらず、驚くべき事に、ダリ美術館はミロ美術館やカタルーニャ美術館(MNAC)を押しのけて、カタルーニャの美術館動員数第三位の地位を維持しているんですね(地中海ブログ:世界の観光動向とカタルーニャの観光動向2008)。こういう統計を見ていると、行き帰りで4時間という時間を使ってまでもフィゲラスに多くの観光客を惹き付けてしまう、ダリの人気の高さを思い知らされます。

そんなアクセス的に大変不利な立場にあるフィゲラスが高速鉄道で30分圏内に連結されたら一体どう言う事が起こるのか?は火を見るより明らかです。更にフィゲラスとバルセロナの間にあるジローナ(Girona)なんか15分圏内になっちゃって、市内のサグラダファミリアとバルサ博物館の間の移動なんかよりも圧倒的に近くなっちゃうと言うわけです。つまりこのインフラが整備された暁には、カタルーニャの観光戦略や観光客の移動軌跡が一新される可能性大と言う訳です。

さて、僕にとってちょっと驚きだったのは、高速鉄道連結に対するフランス側の「やる気」と異常なまでの迅速な対応でした。思えば、地中海連合の創設だって、サルコジ氏がイニチアティブを取って実現したものだし(地中海ブログ:地中海連合(Union pour la Mediterranee)の常設事務局はバルセロナに)、南フランス−カタルーニャ間の連結は常にフランス側からのプレッシャーによって動いているような気がします。

何故か?

裏に何かあるのかなー?とか思って、ちょっと調べてみたら、それらしきもの発見(地中海ブログ:Euroregion(ユーロリージョン)とカタルーニャの都市戦略:バイオ医療を核としたクラスター形成)。以前書いたこの記事と一緒に今回の記事を読むとちょっとその裏事情が見えてこない気がしないでもない。関連箇所を引用すると:

・・・Euroregionとは何か?っていうと、国という単位を超えてある共通の目的(環境保護、交通、研究や文化など)の為に、隣接する地域同士が国境を跨いで協力しちゃおうという、簡単に言えばまあ、そういう事です。

このような
Euroregionは欧州圏内では結構あるのですが、我らがカタルーニャの場合は2004年にスペイン側の Catalunya,Baleares,Aragonとフランス側のLanguedoc-Roussillon,Midi-Pyreneesが合意に至 り、スペインーフランス間にPyrenees-Mediterranean Euroregionが設立されました。というのも、約160.000ヘクタールに広がるこのエリアは、ヨーロッパ内でも有数の人口高密度を誇り(フラン スとスペインの総人口の約13%)数字にしておよそ1300万人が居住するエリアなんですね。しかも、この地域は地中海の弧の一部を形成している事から、 EU内でも断トツな成長を見せている諸都市、BarcelonaToulouse, Montpellier, Zaragozaを含んでいます。

・・・(中略)

さっきチラッとウェブを見たら、「バイオ医療関連で行こう」みたいな記事を発見しちゃいました(
EuroBIOtechとか言う名前も出て来 た。)。バイオ医療に関してはカタルーニャは相当力を入れていて、それと関連付けるんだったら、「あー、なるほどね」とは思いますね。(カタルーニャのバ イオ医療戦略についてはコチラ:地中海ブログ:カタルーニャの打ち出した新しい都市戦略:バイオ医療( BioPol, BioRegio)

なるほどね。この辺り一体を健康観光リージョンにしてしまおうと、そういう訳ね。そしてフランスもその恩恵に与りたいと。まあそれが駄目でも、この辺りにはかなりの人口が集中していてポテンシャルが高いので、今の内から手を打っておこう、首を突っ込んでおこうと、そういう都市戦略ね。その為には一刻も早くインフラを整備する必要がある訳で、それがサルコジ大統領に地中海の弧連結を急がせる一つの理由になっているのかもしれません。あくまでも想像ですが。でもそう考えるとちょっと納得。
| 都市戦略 | 20:35 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
2009年のスペイン観光事情と21世紀の都市問題について
先週の新聞(La Vanguardia, 31 de Enero 2010)に2009年のスペイン観光動向情報が載っていました。

観光は21世紀最大と言われている産業であり、ここカタルーニャにおいてはカタルーニャ経済を支える3大柱の一つにまでなっている程なんですね(地中海ブログ:移民について:カタルーニャの矛盾)。更に現在ヨーロッパの都市で見られるほとんどの都市現象は観光に関連するものであると言っても過言では無いと思われる事から、当ブログでは定期的に観光における定点観測を行っています。

さて、スペインでは「太陽とビーチ(Sol y Playa)」をモデルとして観光産業は90年代から順調に発展してきた訳なのですが、そういう大局的な目で見た場合、去年(2009年)の特徴は何と言っても「最悪の年」の一言でした。新聞の見出しも:

観光:最も暗かった年(TURISMO, El ano mas negro

とかなり直接的。やはり経済危機や、その前から顕著だったスペインの不動産バブルの崩壊などの影響が劇的に観光産業にも及んだ年だったようです。

数字で見るとそのすごさが一目で分かるのですが、一昨年の同じ時期(2008年)に比べて、去年スペインを訪れた観光客数は9%の減少、国内総生産(GDP)に占める観光の割合は5.6%減少し、換算すると50億円近く(6.380M Euro)の損失を被ったという事でした。

2000
年初頭からのもう少し詳しい観光動向を見てみるとスペインにおける観光産業の成長過程が良く分かると思うのですが、驚くべき事にGDPのピークは2000年なんですね。その一方で、当時の観光客数は4820万人止まりで、観光関連の雇用も140万人に留まっています。観光客数がピークに達するのは2007年で、その数なんと5920万人。GDPのピークは前述した様に2000年がピークだったのですが、観光関連の雇用数がピークになったのは、2004年と2006年で共に10.9%を示しています。

ちょっと深刻なのが観光客数の動向で、2000年から2007年までは毎年3%前後の成長を示していたのが、2008年は2.3%の減少、そして2009年に至っては8.7%の減少となっています。10年間くらいのスパンで見た場合、やはりこの下げ幅は尋常では無い事が分かるかと思われます。

ここまで書いて、引っかかる事が一つあるんだけど、それは観光客数とGDPの割合の不釣合いです。観光客の増加に伴って雇用数はそれに比例する様に増加してるんだけど、何故かGDPは緩やかな減少を示している。

何故か?

詳しくは分からないのですが、コレって近年見るチープ観光の影響なのでは無いのでしょうか?(チープ観光についてはコチラ:地中海ブログ:観光とチープエコノミー:ライアンエアー(Ryanair)などの格安航空機が都市にもたらす弊害)つまりライアンエアーがロンドン−バルセロナ間、5ユーロとかいう訳の分からない価格で飛行機チケットを販売したり、ホテルやレストランなどもどんどんとファーストフードやジャンクフードの様相を呈してきたりしている。更に深刻なのが、以前紹介した金曜日の夜に来て金曜、土曜とクラブで踊りまくったり、公共空間で一晩中ビールを飲みながら騒ぎまくって、そのまま日曜日の昼にライアンエアーでトンボ帰りするという、究極のローコスト観光が出てきた事です。そういう悪影響が引き起こした最近の現象が、中心市街地の質的悪化である事は以前書いた通りです(地中海ブログ:バルセロナの中心市街地で新たな現象が起こりつつある予感がするその3:街頭売春が引き起こした公共空間の劣化など

これらはかなり極端な例にしても、観光という現象の多くがローコスト化に向かっているのは確かだと思うんですね。そうすると、いくら都市が観光客を惹き付けたって、思った程のお金は落としてくれないわ、都市の資源を無駄使いするわ、騒音やゴミなど都市にとってはありがたくないお土産だけ置いていくわという、市役所側としては大変頭の痛い問題が発生してきている訳ですよ。例えばこんな感じで:

“2007年、バレンシアを訪れた65%の観光客は滞在に1ユーロも使わな かった。格安航空は製品の地盤沈下を引き起こしている。つまり観光客は製品を消費しなくなった代わりに、ビーチを占有し、水や電気を消費しゴミを出す。様 々な都市の生活インフラを崩壊させるのである。

“ En 2007, el 65% de los turistas que llegaron a Valencia no se gasto ni un euro en alojamiento. Los vuelos de bajo coste hunden el producto: un turista que no gasta, pero que llena las playas, colapsa las infraestructuras, consume agua, electricidad y genera basuras”. (El Pais, P31, 5 de marzo 2009)

多分、21世紀の都市が直面するのがこれら観光に付随する都市問題とその解決法だと思われます。それは1980年代からヨーロッパ都市が行ってきた観光を軸とする都市活性化とは又違ったレベルの話であり、中心市街地への公共空間挿入によるシャッター通りの再活性化ほど単純には答えの出ない問題だと思うんですね。ジェントリフィケーション、街頭売春、騒音、ゴミ、交通・・・頭の痛い問題多しです。

付録:スペインの観光関連動向

年:海外からの観光客数、成長率、雇用率、GDP

2000: 48.2, +3%, 1.4 Millones, 11.6%

2001: 49.5, +0.8%, 1.5 Millones, 11.5%

2002: 51.7, +3.3%, 1.5 millones, 11.1%

2003: 52.4, +0.3%, 1.6 Millones, 11.0%

2004: 53.6, +3.4%, 1.7Millones, 10.9%

2005: 55.6, +6%, 2.3 Millones, 10.8%

2006: 58.4, +4.5%, 2.5Millones, 10.9%

2007: 59.2, +1.7%, 2.6Millines, 10.8%

2008: 57.3, -2.3%, 2.6 Milliones, 10.5%

2009: 52.2, -8.7%, 2.3 Millines,

| 都市戦略 | 20:25 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
バルセロナ、2022年冬季五輪に立候補の意思表明
昨日の事なのですが、バルセロナが2022年の冬季オリンピックに立候補する意向がある事を市長が発表しました。今日の新聞はその話題で持ち切りです。何でかって、市民は勿論、市関係者や政府関係者、はたまた州政府の国際プロジェクト責任者まで、全く何も知らされていなかった完全なるサプライズだったからなんですね。だからもうみんなビックリ。「えー、そうなのー!本当にやるのー!!!」みたいな。

勿論僕にとってもサプライズだった訳で、今日の新聞をじっくりと読み込んでみた所、どうやらこの計画は市長が単独でイニシアティブを取っているという事でした。普段は座って物静かにプレゼンをする
Jordi Hereu市長も、昨日は1時間半立ちっぱなし、カンペ無しで、全身を使って熱弁してたとEl Pais紙は写真入で報じている程です:



その一方で市民の反応はというと、大変冷ややかですね。「ホントにやるの?」「そんな事にお金を使うくらいなら、優先すべき問題があるんじゃ無いのか?」という意見が大半。更に
1992年の夏季オリンピックの大成功を覚えている市民よりも、2004年に開催されたForum2004の「成功とは言い難い大イベント」という悪いイメージの方が強い為、今回の提案は余計に税金の無駄使いと写るのかもしれません。

多分市長側としては「オリンピック誘致」という言葉を、いい風に言えば、「悲観論が蔓延している都市に明るい話題を呼び込むキッカケ」、悪い風に言えば、現在バルセロナ市が抱えている諸問題から市民の目を逸らさせる、それこそ「パンとサーカス」だったのかも知れないけど、今はさすがにタイミングが悪い。失業率が
20%に迫る勢いで、一向に景気回復の兆しが見えない事から、市民の目は相当厳しくなっています。

世界の反応はというと、「バルセロナはもう一つのオリンピックを求めている」と題したワシントンポストが結構上手くまとめてくれてますね:


1992年にオリンピックを開催した都市バルセロナは2022年の冬期オリンピックの切符を獲得したがっている。・・・未だかつて夏期と冬期、両方のオリンピックを開催した都市は存在しない。唯一、ミュンヘンだけが1972年の夏期、そして2018年の冬期を準備している。”

そう、多分注目すべきはココで、バルセロナもしくはカタルーニャというのは、本当に地の利に恵まれている稀有な都市だと言う事が出来ると思います。バルセロナという都市は温暖な地中海性気候の恩恵を十分に受けて、伝統的にビーチ文化や公共空間文化が存在しているのですが、1時間も北に車を走らせると、そこにはスキーやスノボーなど、冬の大レジャーランドが腕を広げて待っているという事は、案外知られていません。


今回の提案は正にそのようなバルセロナにしか出来無い、地の利をフルに生かした提案だと思います。僕に言わせれば、今まで冬季五輪に立候補しなかった事の方が不思議なくらい。そして多分、今回の立候補の裏には、オリンピックの投資を利用して、バルセロナと北の村々との交通網のインフラ整備、そして「バルセロナは夏のビーチだけじゃない!冬のスキーもいけるんだ!!!」という、「都市の宣伝」をする事が目的なのでは?と思われるんですね。この
2番目の点は強調されるべきで、今回の冬季五輪立候補問題を通して、既に国際的に「え、バルセロナってスキーも出来るの?」と驚いた人も多いはず。つまり既に「都市の広告」になっている訳です。

更に本気で計画を進めるのならば、当然、イベリア半島随一の免税店を抱え込んでいるアンドラ公国も一枚噛んでくるはず。更に更に、北の方は温泉も豊富な上に、最近流行の健康観光も絡めて、上手くやれば結構壮大な観光戦略が練られるはずです。


とまあ、都市的に見ればこんな感じだと思うのですが、多分、市長の思惑は別の所にありますね。それは来年に控えた選挙でしょう。民主化後、
30年近くに渡って市政を牛耳ってきた社会労働党(PSC)の人気に最近陰りが見え始めています。幾つかのインタビュー調査によると、「次の選挙では社会労働党には入れない」という人が大半を占めているとか。「このままでは負ける」、そういう焦りが今回の市長の提案を突き動かしている側面がある事は否めませんね。

まあ、今後見逃せない話題である事だけは確かです。
| 都市戦略 | 19:54 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加