2009.03.07 Saturday
観光とチープエコノミー:ライアンエアー(Ryanair)などの格安航空機が都市にもたらす弊害
昨日はセビリア(Sevilla)から某プロジェクトの為に数人の来客あり。休憩がてら皆でコーヒーを飲みに行った時の事、ふとした事からライアンエアー(Ryanair)の話になりました。
ライアンエアーというのは、(少し前に日本でも話題になったと思うのですが)ヨーロッパ中の都市間を結ぶ航空便を、常軌を逸した値段(1ユーロとか)で提供して若者のハートをガッチリと掴み、急激に成長を遂げている格安航空会社の事です。ちなみにヨーロッパにはクリックエアー(Clickair)やスパンエアー (Spanair)と言った超格安航空会社がひしめき合っていて、eDreamsと言った旅行計画サイトやBooking.com, Octopusと言ったホテル予約サイトなどと共に、強力なチープエコノミー圏を構成しています。
以前のエントリ(スペイン高速鉄道(Alta Velocidad Espanola:AVE)に見る社会変化の兆し:地中海ブログ)でも書いたのですが、このような格安航空券に加えて、バルセロナーマドリッド間が高速鉄道で結ばれた事によって、今大変面白い社会現象が起こってきています。金持ちの代名詞だった「飛行機」に貧乏学生が群がり、学生旅行の定番だった「電車」にビジネスマンが群がるという逆転が起こっているんですね。何故なら今や空飛ぶ飛行機の方が電車よりも安いという以前には想像も出来なかった現象が引き起こされているからです。
それを非常に的確に表していたのが、(何時もは冴えないカタルーニャ同盟(Convergència i Unió 、CiU)の広報紙)、ラ・バングアルディア(La Vanguardia)紙のコノ言葉:
「高速鉄道の効用は、ある利用者層の心を捉えた。以前はピストン空輸路線が 最も相応しかったビジネスマンである。その一方で、激安旅客機はバックパッカー達を運んでいる。以前は普通電車に乗っていた者達である。つまり、会社役員 はAVE、バックパッカーは飛行機(という逆転現象が起こっているのである。)」
" El impacto de la alta velocidad ha captado a un perfil de usuario- hombre de negocios-que era mas propio del puente aereo, mientras que los vuelos baratos se llevan a los que antes iban en tren. Ejecutivos al AVE, mochileros al avion"(La Vanguardia, p5, 25 de noviembre 2008)
何時もコレくらい切れの良い記事書いてくれると助かるんだけどなー(笑)。
まあ、冗談はこれくらいにしてですね、このような格安航空機(ライアンエアー)については2つくらい思う所があります。
一つは彼らのビジネスモデルについて。
彼らのビジネスモデルの本質はサービスを最低限のレベルに押さえ、且つ消費者に「料金を出来るだけ安く見せかける」という所に懸かっていると思われます。
例えばバルセロナに離発着するライアンエアーの飛行機は市内最寄のプラット空港(Barcelona El Prat International Airport)ではなくて、車で1時間程行った所にあるジローナ空港(Girona)なんですね。飛行機に乗る為には市内から空港(もしくは空港から市内)まで移動する必要があり、親切にも専用バスが運行されてもいます。しかしながら予想される通り、その料金の高い事!往復で21ユーロもします。バスを利用せず車で行く人には勿論、駐車場料金が発生します。空港に着いたら着いたで、搭乗口で荷物を一つ預ける毎に(インターネットで予約の場合)30ユーロかかり、その場で申告する場合には45ユーロもかかっちゃいます。
セキュリティチェックを終えて機内へ入ると、その狭さにビックリするはず。法制限ギリギリの寸法に抑えてある機内では食べ物は愚か、水すら一滴も出てきません。勿論買えば良い訳なのですが、高いったらありゃしない。更にライランエアーは機内トイレを有料にする検討をしているそうです。(El Pais, P30, 5 de marzo 2009)
こんな感じで次から次へと少しずつ値段がプラスされていって、挙句の果てには結構高くついた、なんてのがオチなんですね。
まあ、それは消費者の選択の自由なので何も言う事は無いのですが、このチープエコノミーの弊害が実は今、ヨーロッパの各都市で大問題と化しつつあります。それが格安航空機を利用して津波のように押し寄せてくる「安ければ良い主義」の観光客達です。
観光って言うのは諸刃の剣で、一方で都市にとって無くてはならない存在(都市にとっての財源の一つ)なんだけど、その一方でありすぎても困るものなんですね。そしてそれは「日常生活から離れてファンタジーを楽しみたい」という消費者の願望と、「出来るだけお金を落としていってもらいたい」という都市の願望が交差する、正にその交点において発生する現象です。
多分ここには暗黙の了解みたいなのがあって、都市の側としてはファンタジー内にいる消費者の財布の紐が緩むのは目に見えているので料金を少々高めに設定したりします。その代わり、観光客が引き起こす弊害、騒音やゴミ問題など、多少の事には目を瞑るかと。
一方、消費者側はそのようなファンタジーを提供されて気持ちが良く、財布の紐緩みまくり状態。「たまに旅行に来たんだから今日くらいは少々高いレストランでディナーを楽しむか」、とか、「サグラダ・ファミリア、11ユーロ。ちょっと高いけど、そう見られるものじゃないし、ま、いっか」、「コカ・コーラ、3ユーロ。喉渇いたし、バルセロナのコカコーラは日本とは違う味がするかもしれないから、ま、いっか」、みたいな。騙されていると分かっているのだけど、今日は特別だから、というやつです。
騒音など、観光の弊害をじかに受けている住民からしてみれば「たまったものじゃない」というのが本音かとは思いますが、都市に恩恵をもたらしてくれる限りは市当局も少しは多めに見るというのが基本姿勢かとは思います。
しかしですね、ライアンエアーで来る「安ければ良い主義」の若者達が作り出した悪習慣が、実は今、このバランスを崩しつつあります。
彼らは週末に来てパブリックスペースなどでビールなどを夜通し飲み散らかし、翌日はビーチへ繰り出してそのまま飛行機に乗って帰って行くという、都市に全くお金を落とさず、ゴミと騒音だけ落として返っていくエライ迷惑な観光スタイルを生み出しちゃったんですね。
例えば先日の新聞にはこんなフレーズが紹介されていました。
“2007年、バレンシアを訪れた65%の観光客は滞在に1ユーロも使わなかった。格安航空は製品の地盤沈下を引き起こしている。つまり観光客は製品を消費しなくなった代わりに、ビーチを占有し、水や電気を消費しゴミを出す。様々な都市の生活インフラを崩壊させるのである。
“ En 2007, el 65% de los turistas que llegaron a Valencia no se gasto ni un euro en alojamiento. Los vuelos de bajo coste hunden el producto: un turista que no gasta, pero que llena las playas, colapsa las infraestructuras, consume agua, electricidad y genera basuras”. (El Pais, P31, 5 de marzo 2009)
上に書いた様に、観光は諸刃の剣であり、都市に恩恵をもたらす一方で弊害も引き起こします。今までの状態というのは恩恵の方に振り子が振れていた状態です。都市に多大なる恩恵をもたらすからこそ、耳が痛い問題にも目を瞑ってきたんですね。しかし今、確実にコノ振り子が逆に振れかかっている。
しかしココが難しい所で、じゃあ、観光を管理すれば良いのかと言うと、それはちょっと無理っぽい。というか不可能です。観光に来るか来ないかは全くの個人の自由ですから。本当ならこういう時こそ、「人間の倫理とか理性」という部分に訴えたい所なのですが、ファンタジー世界の中で「写真を撮るな」と何度注意されてもバシバシ撮ってる観光客に対して、それはまるっきり期待できません。
となると、都市内で巧く観光客を誘導したりするマネージメントが有効になってくると思うのですが・・・コノ辺りで各都市どうするのか?と格闘しているのが現状だと思うのですが、可能性のある所ではBluetoothを用いた歩行者の詳細データの収集と、その分析、そしてそれに基づく観光客の導線誘導くらいかなー。
もしコレがダメならちょっと打つ手無しって所ですね。
ライアンエアーというのは、(少し前に日本でも話題になったと思うのですが)ヨーロッパ中の都市間を結ぶ航空便を、常軌を逸した値段(1ユーロとか)で提供して若者のハートをガッチリと掴み、急激に成長を遂げている格安航空会社の事です。ちなみにヨーロッパにはクリックエアー(Clickair)やスパンエアー (Spanair)と言った超格安航空会社がひしめき合っていて、eDreamsと言った旅行計画サイトやBooking.com, Octopusと言ったホテル予約サイトなどと共に、強力なチープエコノミー圏を構成しています。
以前のエントリ(スペイン高速鉄道(Alta Velocidad Espanola:AVE)に見る社会変化の兆し:地中海ブログ)でも書いたのですが、このような格安航空券に加えて、バルセロナーマドリッド間が高速鉄道で結ばれた事によって、今大変面白い社会現象が起こってきています。金持ちの代名詞だった「飛行機」に貧乏学生が群がり、学生旅行の定番だった「電車」にビジネスマンが群がるという逆転が起こっているんですね。何故なら今や空飛ぶ飛行機の方が電車よりも安いという以前には想像も出来なかった現象が引き起こされているからです。
それを非常に的確に表していたのが、(何時もは冴えないカタルーニャ同盟(Convergència i Unió 、CiU)の広報紙)、ラ・バングアルディア(La Vanguardia)紙のコノ言葉:
「高速鉄道の効用は、ある利用者層の心を捉えた。以前はピストン空輸路線が 最も相応しかったビジネスマンである。その一方で、激安旅客機はバックパッカー達を運んでいる。以前は普通電車に乗っていた者達である。つまり、会社役員 はAVE、バックパッカーは飛行機(という逆転現象が起こっているのである。)」
" El impacto de la alta velocidad ha captado a un perfil de usuario- hombre de negocios-que era mas propio del puente aereo, mientras que los vuelos baratos se llevan a los que antes iban en tren. Ejecutivos al AVE, mochileros al avion"(La Vanguardia, p5, 25 de noviembre 2008)
何時もコレくらい切れの良い記事書いてくれると助かるんだけどなー(笑)。
まあ、冗談はこれくらいにしてですね、このような格安航空機(ライアンエアー)については2つくらい思う所があります。
一つは彼らのビジネスモデルについて。
彼らのビジネスモデルの本質はサービスを最低限のレベルに押さえ、且つ消費者に「料金を出来るだけ安く見せかける」という所に懸かっていると思われます。
例えばバルセロナに離発着するライアンエアーの飛行機は市内最寄のプラット空港(Barcelona El Prat International Airport)ではなくて、車で1時間程行った所にあるジローナ空港(Girona)なんですね。飛行機に乗る為には市内から空港(もしくは空港から市内)まで移動する必要があり、親切にも専用バスが運行されてもいます。しかしながら予想される通り、その料金の高い事!往復で21ユーロもします。バスを利用せず車で行く人には勿論、駐車場料金が発生します。空港に着いたら着いたで、搭乗口で荷物を一つ預ける毎に(インターネットで予約の場合)30ユーロかかり、その場で申告する場合には45ユーロもかかっちゃいます。
セキュリティチェックを終えて機内へ入ると、その狭さにビックリするはず。法制限ギリギリの寸法に抑えてある機内では食べ物は愚か、水すら一滴も出てきません。勿論買えば良い訳なのですが、高いったらありゃしない。更にライランエアーは機内トイレを有料にする検討をしているそうです。(El Pais, P30, 5 de marzo 2009)
こんな感じで次から次へと少しずつ値段がプラスされていって、挙句の果てには結構高くついた、なんてのがオチなんですね。
まあ、それは消費者の選択の自由なので何も言う事は無いのですが、このチープエコノミーの弊害が実は今、ヨーロッパの各都市で大問題と化しつつあります。それが格安航空機を利用して津波のように押し寄せてくる「安ければ良い主義」の観光客達です。
観光って言うのは諸刃の剣で、一方で都市にとって無くてはならない存在(都市にとっての財源の一つ)なんだけど、その一方でありすぎても困るものなんですね。そしてそれは「日常生活から離れてファンタジーを楽しみたい」という消費者の願望と、「出来るだけお金を落としていってもらいたい」という都市の願望が交差する、正にその交点において発生する現象です。
多分ここには暗黙の了解みたいなのがあって、都市の側としてはファンタジー内にいる消費者の財布の紐が緩むのは目に見えているので料金を少々高めに設定したりします。その代わり、観光客が引き起こす弊害、騒音やゴミ問題など、多少の事には目を瞑るかと。
一方、消費者側はそのようなファンタジーを提供されて気持ちが良く、財布の紐緩みまくり状態。「たまに旅行に来たんだから今日くらいは少々高いレストランでディナーを楽しむか」、とか、「サグラダ・ファミリア、11ユーロ。ちょっと高いけど、そう見られるものじゃないし、ま、いっか」、「コカ・コーラ、3ユーロ。喉渇いたし、バルセロナのコカコーラは日本とは違う味がするかもしれないから、ま、いっか」、みたいな。騙されていると分かっているのだけど、今日は特別だから、というやつです。
騒音など、観光の弊害をじかに受けている住民からしてみれば「たまったものじゃない」というのが本音かとは思いますが、都市に恩恵をもたらしてくれる限りは市当局も少しは多めに見るというのが基本姿勢かとは思います。
しかしですね、ライアンエアーで来る「安ければ良い主義」の若者達が作り出した悪習慣が、実は今、このバランスを崩しつつあります。
彼らは週末に来てパブリックスペースなどでビールなどを夜通し飲み散らかし、翌日はビーチへ繰り出してそのまま飛行機に乗って帰って行くという、都市に全くお金を落とさず、ゴミと騒音だけ落として返っていくエライ迷惑な観光スタイルを生み出しちゃったんですね。
例えば先日の新聞にはこんなフレーズが紹介されていました。
“2007年、バレンシアを訪れた65%の観光客は滞在に1ユーロも使わなかった。格安航空は製品の地盤沈下を引き起こしている。つまり観光客は製品を消費しなくなった代わりに、ビーチを占有し、水や電気を消費しゴミを出す。様々な都市の生活インフラを崩壊させるのである。
“ En 2007, el 65% de los turistas que llegaron a Valencia no se gasto ni un euro en alojamiento. Los vuelos de bajo coste hunden el producto: un turista que no gasta, pero que llena las playas, colapsa las infraestructuras, consume agua, electricidad y genera basuras”. (El Pais, P31, 5 de marzo 2009)
上に書いた様に、観光は諸刃の剣であり、都市に恩恵をもたらす一方で弊害も引き起こします。今までの状態というのは恩恵の方に振り子が振れていた状態です。都市に多大なる恩恵をもたらすからこそ、耳が痛い問題にも目を瞑ってきたんですね。しかし今、確実にコノ振り子が逆に振れかかっている。
しかしココが難しい所で、じゃあ、観光を管理すれば良いのかと言うと、それはちょっと無理っぽい。というか不可能です。観光に来るか来ないかは全くの個人の自由ですから。本当ならこういう時こそ、「人間の倫理とか理性」という部分に訴えたい所なのですが、ファンタジー世界の中で「写真を撮るな」と何度注意されてもバシバシ撮ってる観光客に対して、それはまるっきり期待できません。
となると、都市内で巧く観光客を誘導したりするマネージメントが有効になってくると思うのですが・・・コノ辺りで各都市どうするのか?と格闘しているのが現状だと思うのですが、可能性のある所ではBluetoothを用いた歩行者の詳細データの収集と、その分析、そしてそれに基づく観光客の導線誘導くらいかなー。
もしコレがダメならちょっと打つ手無しって所ですね。