地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
<< 道端で意外な風景に遭遇する | TOP | 観光とチープエコノミー:ライアンエアー(Ryanair)などの格安航空機が都市にもたらす弊害 >>
プラド美術館展示作品拡張計画
最近、美術館関係の話題が多いなと思っていたら、どうやらプラド美術館が展示作品を大幅に入れ替える計画が発表されたのだそうです( El Pais, P44, 3 de Marzo 2009)。一昨年の暮れくらいにラファエロ・モネオ(Rafael Moneo)による増築が完成し、既存の建物よりも25%大きくなった展示スペースを最大限生かして、2012年までに現在の展示作品1000点から50%増しの1500点に大幅アップするらしいです。アート好きには嬉しいお知らせですね。

さて、関連記事でとっても面白い情報が載っていました(La Vanguardia, p32, 3 de Marzo 2009)。スペインの主要美術館の収蔵作品数と展示作品数です。美術館って言うのは僕達が余り知らないような色んな機能を結構持っているのですが、その内の一つが作品の収集と保管機能なんですね。僕達が美術館で目にする作品というのは、実は美術館が持っている作品数のホンの数パーセントでしかありません。ちなみに各美術館の作品所蔵数と展示数はこんな感じです:

プラド美術館(El Prado)
収蔵作品数:17.400
展示作品数:1.000

レイナ・ソフィア(Reina Sofia)
収蔵作品数:17.000
展示作品数:650

バルセロナ現代美術館(MACBA)
収蔵作品数:3.520
展示作品数:85

カタルーニャ美術館(MNAC)
収蔵作品数:256.226
展示作品数:4.984

考古学博物館(Museu Arqueologic)
収蔵作品数:40.000
展示作品数:3.900

ビルバオ・グッゲンハイム美術館(Guggenheim Bilbao)
収蔵作品数:102
展示作品数:16

カタルーニャ美術館(MNAC)なんて25万点も持ってるの?って感じなんですが、その内、展示しているのはたったの2%。MNACって行ってみると分かるんだけど、結構広くって展示品数もかなりあるんですよね。え、あれでたったの2%!って、どんだけ持ってるの???

さて、コレ関連の話で思い出すのがトーマス・クレンズ(Thomas Klens)が試みた大博打、それまでの常識を覆すグッゲンハイム美術館再生計画ですね。

実はグッゲンハイムっていうのは当時ものすごい経済危機に陥っていて、もう何とも回らなくなった所に出てきたのがトーマス・クレンズのトンデモナイ提案。彼は一体何をしたかというと、倉庫に眠っていて普段は展示されない作品を売っちゃったんですね。一般の人にとっては、「使わないんだったら別にいいじゃん」とか思う所なのですが、美術関係者にしてみたらコレはえらい事なんです。

というのも、美術館の重要な機能の一つに美術品の価値を安定させるというのがあります。そもそも美術作品と美術館って共犯関係にあって、特に近代美術っていうのはある意味、近代美術館によってその価値が決められてきた所がありますよね。つまり、美術館がコレは良い作品だといって、展示したらそれが価値ある作品と言う事なるという構図。この辺はちょっと複雑だけど面白い所で、近代国家が自らを確立する為に近代美術と近代美術館を利用したという共犯関係です。だから19世紀の終わり、フランス革命の後に美術館がボコボコでき始めたのは何も偶然じゃない訳です。

又コレと絡んでくるのが美術作品の商品化という話です。美術館のスポンサーが王様からブルジョアジーなどに変わった事などによって、美術館が「モノ」に「芸術」という価値を与え始めるという現象とマーケットが結びつき始めました。そして美術館というのはそのような商品をコレクションとして持っているから偉い、うちの美術館はこれだけのコレクションを持っているから偉いんだという構図が出来上がった。それが現在の美術館という制度です。

ちなみに「え、こんな価値基準や制度ってちょっとおかしいんじゃないの?」と疑問を投げ掛けたのがハンス・ハーケ(Hans Haake)であり、彼がキュレートした有名な展覧会、「見解の問題」展(ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館(Boymons Van Beuningen Museum, Rotterdam))です。彼はこの展覧会で、美術館が持っていて、普段は表に出てこないような膨大な数の所蔵品を全て展示する試みをしました。これは何をしたのかというと、美術館が収蔵しストックしたコレクション=美術館がそれまで築き上げてきた美の価値体系=美の価値基準を内側から崩す試みだったんですね。

さて、話を戻すとトーマス・クレンズはこのような「倉庫に眠っているコレクションを売る」という禁じ手を使って、お金を作り出す事に成功しました。そしてそれを元手に、お金を前借りとかしてビルバオにグッゲンハイム美術館を建て、見事に美術館の運営を復活させたと、こういう訳です。

グッゲンハイムについては都市計画都市戦略などの文脈で色んな事が言われていますが、こういう視点で見ると又違った物語が見えて面白いですね。
| スペイン美術 | 17:06 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
>cruasan様、
楽しい、面白い興味あるお話ですね〜。

大阪では近代美術館の話が出たり、引っ込んだりで
我々には分かりませんが、一時期沢山の美術品を
買い集めたのですが、途中で途絶え、今は展示する
所がなく、私立の間借り展示や倉庫に眠っています。

スターアーキテクトによる大阪近代美術館のコンペ
(できれば指名)を期待して、取り合えず、箱から

中之島から文化発信で行政は南港へ、早期完成期待。
| mory's | 2009/03/05 3:44 AM |
mory`sさん、こんにちは。
そうなんですよ、知れば知る程面白い事実が出てくるんです!大阪もいっその事売っちゃえば借金とか減って丁度良いんじゃないでしょうか(笑)。
| cruasan | 2009/03/08 4:54 AM |
コメントする