地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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バルセロナのイベント発展型都市戦略とGSMA(Mobile World Congress 2009)
昨日の新聞(La Vanguardia, 13 de Febrero 2009)に来週から始まるGSMA(Mobile World Congress 2009)の記事が載っていました。

GSMA(Mobile World Congress 2009)とは世界最大の携帯電話関連の祭典で、開催期間の3日間だけで約6万人を集めるという、超大型イベントです。毎年バルセロナで開かれるのですが、この期間中は世界中の携帯関連の情報と人材、資材が集中し、バルセロナが携帯テクノロジーの首都と化します。

人が集まるという事は、そこにお金が集まるという事。去年の経済効果は3日間だけで約1億4000万ユーロ(1ユーロ=120円として日本円で約170億円)に上ったんですね。そんなバルセロナ市にとっては金の卵のような存在なので、昨日の新聞なんかが、まだ始まってもいないのに3ページにも渡って大々的に取り上げちゃったりする訳です。

しかしながら、よくよく記事を読み込んでみると、例年とはちょっと調子が違う事に気が付きます。新聞の見出しにはこんな言葉が踊っています:

「バルセロナ市内のホテルは携帯電話のイベントですら満席には至らなかった (“ los hoteles de Barcelona no logran llenar para la feria de telefonia movil)」

「今年の世界携帯会議には5000人減の入場者が見込まれているが、5万人には至る見通しである (“ El Mobile World Congress tendra 5,000 asistentes menos pero llegara a los 50,000”)」

「経済危機の為に(ホテルなどは)半額である( “A mitad de precio por la crisis”)」


今まで世界中の人々を惹き付けてきたGSMAと言えども、経済危機の影響は避けられないという訳か!GSMAについては去年の同じ時期にこんなエントリを書きました:「バルセロナの都市戦略と3GSM:地中海ブログ」(ちなみに今年からイベント名がGSMAに変わりました。去年までは3GSM World Congress Barcelonaと呼ばれていました。)

その記事によると、イベントが開かれていた3日間の市内ホテルの占有率は100%。満室だったようです。市内のホテルが100%満室って、そんな事有り得るのかー?とか思うけど、ウソのようなホントの話。それでも市内に泊まりたい人が溢れかえっている状態、(つまり需要が供給を大きく上回った)状態だったので、ホテル側はやりたい放題だったんですね。普段は一晩300ユーロの所を3000ユーロに引き上げるホテルまで出現したりする始末でした。

しかしながら、今年はイベントを控えた今週末でさえ、ホテルには未だに空きがあるとの事。ホテル組合(Gremi d’Hotels)の公式発表によると、市内のホテル占有率は現在95%。少なくとも18のホテルに空き部屋があって、その内9つは歴史的中心地区(Ciutat Vella)とエンサンチェ(Eixample)という市内でも最も人気の高い地区に位置しているそうです。

更にイベントが開かれる2月16日から19日にかけて、市内各所で約60の関連イベントが行われる予定だそうですが、この数も去年とは比べ物にならないほど少ないと報じています。

こんな所にまで、経済危機の余波が及んでいるのか!と、そんな事を考えていたら、追い討ちをかけるように、今日の新聞(La Vanguardia, 14 de Febrero 2009)にも関連記事が載っていました。お題は近年バルセロナが恒例行事として確立した音楽系の祭典について。

今や世界的に有名になったソナー(Sonar)を初め、Primavera Sound, Summercase, Benicassim(FIB)など、年中を通してバルセロナは音楽祭の首都と化しています。ちなみに、2008年度、ソナーは8万人(81,000)、Primavera Soundは6万人(60,000)、Benicassim(FIB)は14万人(148,000)を集客しました。FIBに関してみれば、約一週間という開催期間中の経済効果は実に1400万ユーロだそうです。

更に面白いデータが載っていて、それによると音楽祭に集まる観客の内、約半数(50%−60%)は海外からの来客だという事です。更に詳しく見ると、その内多くを占めるのはイギリス人と言う事。(その後に、フランス人、ドイツ人、イタリア人と続きます)。イギリスの若い人の間では、週末の1日を音楽祭で盛り上がって、次の日はビーチでのんびりするのが流行っているとか何とか。

それもこれも、近年増えてきたローコスト飛行機(EasyJetや Vueling)の発展のおかげですね。ちなみにロンドン発の飛行機が一番多く離着陸しているのはバルセロナだというのは有名な事実。2年程前に、ロシアのリトビエンコ氏がロンドンで暗殺された時、その放射能汚染が一番懸念されたのはバルセロナでした。これこそ、我々が直面しているグローバリゼーションの現実を実に如実に表している事例だと思います。(スペイン高速鉄道(Alta Velocidad Espanola:AVE)に見る社会変化の兆し:地中海ブログ)

今日の記事内ではこんな事が言われていました:

「これらの祭典は、文化観光がもはや美術館や象徴的な建築に限られず、市の経済に強い影響力を行使し得ると言う事を示している。」

“Estos festivales han constatado en los ultimos anos que el turismo cultural ya no se limita a los museos o a los edificios emblematicos y reivindican su peso en la economia de la ciudad”( La Vanguardia 14 de Febrero 2009, p32)


以前のエントリ、「バルセロナ都市戦略:イベント発展型:地中海ブログ」で詳しく書いたのですが、大型イベントを企画したり、都市に引き寄せたりするのは、既にバルセロナが打ち出している都市戦略の一つです。伊東豊雄さんによってデザイン・拡張されたバルセロナ見本市会場は、このようなバルセロナの都市戦略上に乗っています。

3週間程前にバルセロナで行われたブレッド&バター(Bread and Butter Barcelona)の(これまた)盛大なイベントが今季限りで契約を打ち切り、ベルリンに戻るというニュースが流れた時、市長初め、多くの機関が、あの手コノ手を使って契約を更新しようとしたのは記憶に新しい所です。

更に昨日の新聞には別枠でバルセロナが打ち出す新たなるイベント、その名もグローバル・スポーツ・フォーラム・バルセロナ(Global Sports Forum Barcelona)という記事が取り上げられていました。その記事によると、このイベントは社会のモーターであり鏡であるスポーツに関する世界で最初の国際会議だそうです。

まあ、スポーツというのはポリティカル・コレクトネスであって、潔白なイメージを市に与えるので、それはそれで巧い戦略だとは思いますが・・・また、すごい事打ち出しちゃいましたね、バルセロナ!

バルセロナはコレまで様々な大型イベントを誘致してきましたが、その中でも最大級のイベントといえば、やはり1992年のオリンピック、1996年のUIA(ちょっと微妙かな?)、そして2004年の文化フォーラムが挙げられるかと思います。そしてその裏にはそれを引き寄せたキーパーソンの影がチラホラ見えるんですね。オリンピックは言わずもがな、1996年のUIAに関してはイグナシ(Ignasi de Sola Morales)が2004年に関してはフェデリコさん(Federico Mayor Zaragoza)が大変な影響力を及ぼしたと見て間違いないと思います。

普段はかなり自分勝手な事ばっか言ってて、ムチャクチャ腹が立つ事もあるカタラン人だけど、こういう自分達の都市を良くして行こう、活気付けて行こうという時の団結力だけは目を見張るものがあります。

1975年にフランコ政権が倒れた時、その直後から民主主義や各種計画が巧い事動き出したのは、独裁政権の水面下で欧州にコネクションを網羅していた結果だと思うんですね。表面上は独裁政権に抑えられたと見せつつも、その水面下ではしっかりとコネを広げていく。そのしたたかな心構えが今のバルセロナを作ったといえるのかもしれません。
| 都市戦略 | 18:29 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
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