地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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ベルニーニ(Bernini)の彫刻その2:ボルゲーゼ美術館(Museo e Galleria Borghese)にあるアポロとダフネ(Apollo e Dafne)の彫刻
ベルニーニ(Bernini)の傑作と名高いアポロとダフネ(Apollo e Dafne)の彫刻を見る為に、ボルゲーゼ美術館(Museo e Galleria Borghese)に行ってきました。



この美術館はちょっと変わっていて完全予約制になっています。電話など幾つか予約方法があるようですが、僕はコチラのサイトからネットを使って予約しました。当日は予約時間の30分前までに予約番号を控えた紙を持って受付に行けば入場券と交換してくれます。1回の予約で2時間の鑑賞時間が与えられていますが、比較的小さな美術館なので十分な時間だと思います。このシステムの良い所はヴァチカン博物館(Musei Vaticani)のように人混みを気にせずにゆっくりと作品を鑑賞出来る所ですね。逆にちょっと残念だったのは、窓からの光が絵画作品に反射してよく見えなかった事です。個人邸宅を美術館に改造したので仕方が無いといえばそれまでなのですが・・・。

さて、今回目指す作品は一階奥の間にあります。それがコレ:



(この美術館は全館撮影禁止だったので写真等はガイドブックなどからスキャンしたものを用いています。一応僕のポリシーとして写真を撮ってはいけないという場所では撮らない事にしているので。まあ、当たり前なのですが、最近この当たり前の事が当たり前では通らなくなってきつつあるように思うので。)

さて、この彫刻はギリシャ神話の物語の中でも最も人気のあるアポロとダフネのお話に基ついてベルニーニが彫り上げたモノだそうです。ではアポロとダフネのお話とは一体何か?ウィキペディアのダフネの項に要約があったので引用します:

ある日アポローンは弓矢で遊んでいたエロースを揶揄する。そのことで激怒したエロースは相手に恋する金の矢をアポローンに、逆に相手を疎む鉛の矢を近くで川遊びをしていたダプネーにそれぞれ放った。

金の矢で射られたアポローンはダプネーを求愛し続ける一方、鉛の矢を射られたダプネーはアポローンを頑なに拒絶した。追うアポローンと逃げるダプ ネー、ついにアポローンはペーネイオス河畔までダプネーを追いつめたが、ダプネーはアポローンの求愛から逃れるために、父である河の神に自らの身を変える 事を強く望んだ。

その望みを聞き届けた父は、ダプネーの体を月桂樹に変えた。あと一歩で手が届くところで月桂樹に変えられてしまったダプネーの姿を見てアポローンはひどく悲しんだ。そしてアポローンは、その愛の永遠の証として月桂樹の枝から月桂冠を作り、永遠に身に着けている。


今回の彫刻でベルニーニが彫ったのは正にアポロがダフネを捕まえようとするその瞬間、ダフネの身体が月桂樹に変わっていくその瞬間を彫刻にしています。



一瞬の「一コマ」を捉える天才、ベルニーニらしい卓越した作品に仕上がっていると思います。そしてこの彫刻ほど、ベルニーニの偉大さを教えてくれる作品は無いんじゃないか?と僕は見ていて思ったんですね。何故か?何故ならこの彫刻は「瞬間の一コマが誘発する物語の連続シーンの発見」を教えてくれるからです。



先ずはココ。追いかけるダフネの左足と右手が軽快に跳ね上がっています。それは全力疾走するというよりも、正に今「捕まえーた」といった瞬間の安堵感とでもいうのでしょうか。ココにはかなり軽やかな時間が流れています。





しかし少し回りこんでダフネの方を見ると状況は一変するんですね。ダフネの方は今正に月桂樹に変わっていこうとしている「焦りや驚き」といった感情に支配されている、そんな感じを受けます。彼女の顔は「捕まってしまった」という気持ちと「樹に変わっていっている」という驚きの気持ちが、丸い口を開け必死な表情によく現れています。右足の先や大きく振り上げた右手の先の方から壊れそうなくらいの繊細な木の枝に変わっていっている部分ですね。

つまりココには先のアポロの部分の時間とは違う時間が流れているかのようなんですね。(彫刻全体として見ると、形のバランスがいいですよね。アポロの右手とダフネの大きく振りかざした右手が斜め方向に一直線を描いている。大変気持ちの良い展開をしています。)



さて、時間の流れ方の相違という感覚は更に回り込む事によって強くなります。こちら側から見た時、ダフネの左足はもう既にその大部分が月桂樹に変わってしまっているのが分かります。つまりアポロが「捕まえーた」と言ったその瞬間から、ダフネの指先が月桂樹に変わっていく中間を通して、こちら側では既に大部分が樹に変わってしまったという時間が流れている訳です。

こんな風に、この彫刻には見る角度によって様々な時間を表象する瞬間が刻み込まれているんですね。その仕掛けから鑑賞者は、それら各瞬間からその前後の物語を心の中で展開させる事が出来る訳なんですよね。更に他のベルニーニ作品と違って、この彫刻では周りを歩き回る事が出来ます。故にソコに流れる物語も他の作品に比べて格段に豊かになっているわけです。
| 旅行記:美術 | 22:02 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
とても丁寧なリポートありがとうございました。とても気になっていました。
| 枝里子.duffor | 2010/01/16 8:37 PM |
枝里子dufforさん、こんにちは。
あの彫刻素敵ですよね。僕も機会があれば、ローマに戻ってジックリ又見たいと思っています。
| cruasan | 2010/01/18 7:09 AM |
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