地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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ローマ(Roma)旅行2008その4:サン・ピエトロ大聖堂(Basilica di San Pietro)その3:ヴァチカン(Vatican)が表象してしまう現代社会の変化:規律訓練型社会から環境管理型社会へ
前回の続きでヴァチカン関連です。小雨が降る中、すごーい長い列に並んでいたおかげで、サン・ピエトロ広場のデザインをじっくりと見る事が出来たんですが、そこで気が付いた事が一つ。





聖人達が並んでいる下に広場を囲む様にして監視カメラが付いているんですね。聖人様3人に付きカメラ1台が付いている事から、その数ざっと50台。コレだけの数のカメラが全て広場を向いているんだから、何処で何をしていたって直ぐに分かってしまいます。更に寺院に入る前は空港と同じ様にセキュリティチェックがあります。



これらは、まあ、テロ対策なのでしょうが、同時に「我々の社会の根本的な変化の表象とも読めるなー」とか思って見ていました。その変化とは、東浩紀さんがよく言われている「規律訓練型社会から環境管理型社会への移行」という変化です。

昔は社会全体にある一定の価値観みたいなものが共有されていました。「こんな事をしてはいけない」とか、「こんな事は恥ずかしい」みたいな事ですね。そしてそれらを暗黙の内に強制させていたのは地域社会の目だったわけです。
「こんな事をしたらどっかで誰かが見ているかもしれないからしない」。
それをモデル化したのが、有名なフーコーのパノプティコンだったわけですね。

このモデルに沿ってサン・ピエトロ広場でなされるであろう、近代的ママとその子供達の会話はこんな感じ:

近代的ママ:「ボウヤ、悪い事しちゃダメよ。何時でも何処でもああやって、聖人様が見てるんだから。もし悪さなんかしたら、聖人様が悪魔を送ってきて、ボウヤを地獄に連れて行っちゃうんだから。」

近代的子供:「(ブルブルと震えながら)僕、絶対悪い事しないよ。地獄行くのイヤだもん!」

この広場に所狭しと並んでいる聖人様達は信者の皆さんを何時でも何処でも守ってくださると同時に、「悪い事をしないように監視する役割」も果たしていたんですね。つまり聖人様が見ているかもしれないので悪さはやめようという、各々の中で「規律」が働いていた訳です。この広場の彫像は正にその事を表象しているモデルでもあった訳です。

しかしですね、我々の社会は多様になりました。我々は隣に住んでいる人ですら、一体どういう人なのか?何をしているのか?何を考えているのか?知る由もありません。地縁を共有する近隣と言えども、各々信じるものも違えば生活様式も異なるからです。

昔は「向こう三軒両隣」の言葉通り、近隣住区は信頼で結ばれる関係でした。町内にはどんな人が住んでいて、何をしていて何を考えているか?が共有されていた社会だったんですね。しかしそんな近隣社会は姿を消し去りました。そのような絆や信頼が姿を消した事により社会には不安や疑惑が渦巻き、それらが又新たなる不安を呼ぶ・・・という「不安のスパイラル」へと陥る事となりました。

しかしそれでも僕等は都市に集まって住まなければなりません。そうしないと経済的に不効率だからです。生活する為には水道や電気などの生活インフラが要ります。多分、今の世の中(悲しい事ながら)人が未だに集まって住んでいるのはその程度の理由によると思います。

隣の人は人殺しかもしれない、テロリストかも知れない、しかしそれでも一緒に住まわざるを得ない。それをかろうじて可能にしているのが監視カメラな訳です。はっきり言って監視カメラや最近流行の子供誘拐防止用GPSなんて何の役にも立たないのですが、人々に精神的安定を与えるには十分な機器のようです。

サン・ピエトロ広場の聖人の下に備え付けられた監視カメラは僕にはこのような変化、聖人様の目=規律訓練型から監視カメラ=環境管理型への変化をものすごく表象しているように見えました。

追記:環境管理型社会については長くなるので書きませんでした。もうちょっと知りたい人は下記のエントリを見てください。
地中海ブログ:ウィーン旅行その9:シェーンブルン宮殿(Schloss Schonbrunn)のオーディオガイドに見る最も進んだ観光システム/無意識下による人の流れのコントロール
| 旅行記:都市 | 20:37 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
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