地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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スペイン高速鉄道(Alta Velocidad Espanola:AVE)に見る社会変化の兆し
昨日の新聞(La Vanguardia, 25 Noviembre, 2008)にスペイン高速鉄道:AVEに関する記事が載っていました。去年の2月20日の運行開始以来、着実に利用客数を伸ばし、それまで市場を席巻していた飛行機の市場を約37%ももぎ取る勢いだそうです。これまでの9ヶ月間の総利用者数は約170万人。まだAVEが存在していなかった昨年同時期のマドリッド(Madrid)ーバルセロナ(Barcelona)間の普通電車利用者数(544,951人)に比べると約3倍に伸びているのが分かります。

開通当初からこの高速鉄道には注目していたので、当ブログでもマドリッドの都市戦略と絡めた「マドリッドの都市戦略その1:美術(美術館)を軸とした都市活性化」や初めての高速鉄道体験と絡めた「マドリッド旅行その1:高速鉄道(Alta Velocidad Espanola:AVE)に乗ってきました」などをレポートしたんですね。

上述のように飛行機との市場争いに火花が散っているので、このような詳細なデータがちょくちょく新聞に載るのですが、今日のラ・バンガルディア紙(La Vanguardia)は珍しく(笑)ちょっと切れの良い事を言っていました。

「高速鉄道の効用は、ある利用者層の心を捉えた。以前はピストン空輸路線が最も相応しかったビジネスマンである。その一方で、激安旅客機はバックパッカー達を運んでいる。以前は普通電車に乗っていた者達である。つまり、会社役員はAVE、バックパッカーは飛行機(という逆転現象が起こっているのである。)」

" El impacto de la alta velocidad ha captado a un perfil de usuario- hombre de negocios-que era mas propio del puente aereo, mientras que los vuelos baratos se llevan a los que antes iban en tren. Ejecutivos al AVE, mochileros al avion"(La Vanguardia, p5, 25 de noviembre 2008)


やれば出来るじゃないですか、ラ・バンガルディアさん!!!

さて冗談はこれくらいにして、では何故ビジネスマンにAVEが好まれるのか?ラ・バンダルディア紙はその一番の理由に時間の正確さを挙げていました。これには納得。これは僕自身が体験した事ですが、1時間遅れが当たり前のスペインにおいてAVEは日本の地下鉄並みの正確さで運行されています。

(余談ですが、一昨年日本に帰った時に実家の最寄の地下鉄駅で電車を待っていた時の事、電車が遅れているらしく館内放送が入りました。

「電車が遅れておりまして大変ご迷惑をおかけしております。1分遅れです。」1分かよ!!!さすが日本。)

AVEはこの時間の正確さを一番の売りにしているので、時間の遅れによって返金保証をしています。15分遅れると半額返金で、30分以上遅れると全額返金というかなり太っ腹の保障。それだけ自信があるという事ですね。

それ以外にもキレイ、席が広いなど挙げれば切りが無いくらいの利点があるのですが、一番うれしいのはなんと言っても時間の節約です。それは一番最初にAVEに乗った時の感動が、良く出ている以前のエントリに僕はこのように書いています:

今回実際に高速鉄道を利用してみて初めて分かったのですが、高速鉄道を使う最大の利便性は待ち時間です。飛行機の場合、少なくとも1時間前には空港に居なくてはなりません。更にそこからチケットやセキュリティの列に並び、飛行機に搭乗しても飛行機が飛び立ち安定飛行に入るまではパソコンも開けない状況。

それに対して高速鉄道の場合には、列車発射の15分前までに行けばよく、入場やセキュリティなどの待ち時間はほとんど無し。列車は必ず定刻に発車し、席に着いたと同時にパソコンの電源を入れられます。何より席のスペースが飛行機よりも断然広いし揺れも少なく非常に快適。

加えて言うなら、列車内にあるカフェテリアでコーヒーを頼んだ所、一杯1.4ユーロでした。これは安い。飛行機なら軽く3−4ユーロはいくでしょうね。

高速鉄道のバルセロナ−マドリッド間の所要時間は約2時間40分なのですが、上述の空港までの移動時間や待ち時間などを考えると圧倒的に高速鉄道の方に分があるように思います。何より観光を目的としてマドリッドに行く人にとって、駅を出た直ぐの所がレイナ・ソフィア美術館であり、プラド美術館だというのは非常にうれしい。

地中海ブログ:マドリッドの都市戦略その1:美術(美術館)を軸とした都市活性化


個人的に一番うれしいのは列車に乗った瞬間からパソコンが開けるの事です。バルセロナからマドリッド到着の2時間半というのは会議やカンファレンスのレジュメを作るのに丁度良い時間です。前回AVEを利用したのは丁度バルセロナコスプレ大会(Salon de Manga en Barcelona)直後、しかも今年の「コスプレ地中海ブログ賞」はフリーザ様だったので、久しぶりにドラゴンボールが見たくなって2時間半、ぶっ通しでYoutube見てました。しかもナメック星の辺り。

まあ、ドラゴンボールはどうでもいいんだけど、こんな事が出来ちゃうという所がミソかな。未来喪失論じゃないけど、21世紀になった今、人間は火星には住めなかったし、空飛ぶ車も発明出来ませんでした。(ウィリアム・ミッチェル(William. J Mitchell)が彼の学生と面白い発明はしていますけど・・・)でも、世界とリアルタイムで繋がるというちっちゃな夢、60年代万博をちょっと賑わしたちっちゃな夢は実現出来ているような気がします。

ラ・バンガルディア紙が指摘しているバックパッカーに関しても一理あると思います。以前の若者のイメージというのはリュックを背負って青春18切符ならぬ、ユーロパス(ヨーロッパ版、青春18切符)を持ちつつ鈍行で15時間くらいかけて各都市を巡るというのが常でした。しかし今そのイメージが変わりつつあります。Ryanairなどの超激安飛行機の登場によって、若者は今、どんどん飛行機を選ぶ様になっているんですね。

1−2年前、ロシアのリトビエンコ氏がロンドンで暗殺された時、その放射線汚染(ポロニウム210)が大きな問題になった事は記憶に新しい所です。しかしその時、一番懸念された地域が実はバルセロナだったというのはあまり知られていないんですね。何故かと言うと、ロンドンが一番多く空の便を結んでいる都市がバルセロナだからです。これは明らかにEasyJetや Vuelingなどの超激安旅客機の影響です。最近ではこれらの傾向(激安ショップ郡)を指して、チープエコノミーという造語まで作られています。

飛行機と言えば昔は未来の代名詞でした。空を飛んでいく海外旅行なんて、一世一代の大仕事だったんですね。しかもそれはそんなに大昔の事ではなくて、つい10年くらい前の話。だから飛行機=高い=金持ち=ビジネスマン、電車=安い=貧乏=学生みたいなイメージがついたんだと思います。しかし今、そのイメージが劇的に変わりつつある。

かつてイグナシ・デ・ソラ・モラレス(Ignasi de Sola Morales)は「社会、経済そしてテリトリー。この3つの要素は同時に変化していく」と言いました。今、(チープ)エコノミーの影響で社会が変わりつつあります。その影響が果たしてテリトリーの何処にどのように現れるのか?それが今、僕の一番関心のあるところです。
| バルセロナ都市 | 23:06 | comments(4) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
初めてコメントさせていただきます!

そういえばビルバオに行く際、バルセロナ―サラゴサ間だけAVEを利用したのを思い出しました。

時間に正確、車内は奇麗で広々として快適、
改札口での案内も親切でした。
日本のサービスに慣れ親しんだ日本人にとっては、
ありがたいものです。

飛行機よりも、日本の新幹線よりも快適な旅が出来ますよね♪

from Chubu University

| Travelman-archi | 2008/11/28 1:51 AM |
Travelmen-archiさん、コメントありがとうございます。
AVEは本当に快適で、全くスペインらしくないですね(笑)。
今はバルセロナーサラゴサーマドリッド、もしくはマドリッドーセビリア、コルドバなどしかないのですが、ビルバオ直通とかパリ直通とか検討している所なので、期待したい所ですね。
これからもコメントヨロシクお願いします。
| cruasan | 2008/11/28 5:27 PM |
なんでヨーロッパの鉄道ってあんなに魅力的なんでしょうか、いつもウキウキします。AVEとTGVの相互乗り入れ、楽しそうですね! パリ北駅に、ユーロスター、タリス、TGVが並んでいる光景が好きです。
| いくら | 2008/11/29 11:49 AM |
いくらさん、こんにちは。
去年ロンドンへ行った時にユーロスターの新しい駅を見てきました。
僕も機会があればユーロスターで優雅にロンドンーパリ旅行と行きたいものです。
| cruasan | 2008/11/30 11:28 PM |
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