地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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カタルーニャの打ち出した新しい都市戦略:バイオ医療( BioPol, BioRegio)
今日の新聞(La Vanguardia, 21 de Noviembre, 2008)の片隅に「スペイン最大の遺伝子分析研究所がカタルーニャに(Catalunya tendra el mayor laboratorio de analisis genomico de Espana)」と題した記事が載っていました。小さくて何気ない記事だったのですが、この記事は読み方によっては大変面白く読めるなー、とか思って読んでいました。

近年カタルーニャはバイオ医療分野に大変力を入れています。元々カタルーニャには結構名の知れた病院が集まっていたり、地中海エリアで最高峰の教育レベルを誇るバルセロナ大学医学部(Universidad de Barcelona)なんかがあったりと、医療に関しては競争力のあるエリアだったんですね。それにあやかって最近では健康ツーリズム(Health Tourism)なんて言葉まで出てくる有様。何かというと、その名の通り「健康」を主題にした観光です。

一見冗談かと思って笑っちゃうけど、僕はそんなに悪く無いアイデアだと思います。健康には誰でも気を遣うし、気を遣い出す年齢の人はそれなりのお金を持っている世代の人であり、裕福な人な訳で、確実にお金を落としていってくれる。昨日の新聞には新しいミシュランガイド(The Michelin Guide)の話題が載ってたけど、「食」観光(Tourism Gastronomica)も今カタルーニャが打ち出している方針の一つ。これら「健康」と「食」というのは確実に21世紀の地域的競争力になる柱なんですね。

さて、こんなわけだから先見の明のあるカタルーニャがバイオ医療に力を入れるのは必然。2004年には海岸前の「海の病院(El Hospital del Mar de Barcelona)」の脇に、ポンペウ・ファブラ大学(Universidad Pompeu Fabra)、カタルーニャ州政府(Generalitat de Catalunya)そしてバルセロナ市役所(Ayuntamiento de Barcelona)が主体となってバルセロナバイオ医療リサーチセンター(Parque de Investigacion Biomedica de Barcelona(PRBB))を打ち立てました。ちなみにこの病院、名前の通り、海のまん前に建ってる。





病室からはきっと眺めがいいんだろうなー。こんな良い環境なら病気も早く直りそうな気がする。

更に2006年にはカタルーニャ州政府、バルセロナ市役所、大学関係と私企業等が集まって、国際的に競争力のあるバイオ医療機関、BioRegionを創出しました。そして昨日、このBioRegioにおいてスペイン政府とカタルーニャ政府の間でスペインでは最大のバイオ医療プロジェクトBiopolを創り出す事に合意したんですね。このプロジェクトには5年で50億ユーロが注ぎ込まれる事が決定しています。

面白いのはこのプロジェクト(研究所)は当初、マドリッド(Madrid)に委託される予定だったという事です。今日の記事によると夏前まではほぼマドリッドで決まりかけていたという事。それを聞いた現カタルーニャ州政府大統領(Jose Montilla)があれやこれやと手を尽くした結果、めでたく昨日、正式にバルセロナ市がホストと決まったそうなんですね。ちなみにその決定要因となったのが、

1.スペインにおける92%の遺伝子研究はカタルーニャで行われているという事実。
2.カタルーニャが資金を提供する事を申し出た事


だったそうです。

何故これほどまでにバルセロナはバイオ医療研究獲得に躍起になるのか?

一つには22@BCNなどに見られるように、バルセロナの戦略が急速に知識型、その中でも研究開発型(Research & Development)に向かっている事が挙げられると思います。記事の中で州政府大統領もはっきりとこう言い切っています:

「研究開発分野は我々の経済活動の柱の一つになるべきである(La investigacion y la innovacion deben convertirse en uno de los pilares de nuestra economia)」

その中でも今世紀最大の研究課題である医療分野のイニチアティブを今から取っていこうとしているわけですね。

Marina Geliは「我々はカタルーニャをバイオ医療が我々の生活の質と経済活動を拠出する国際的な地域の一つにする野望を持っています。(Tenemos la ambicion de convertir Catalunya en una de las regiones del mundo donde la biomedicina aporte calidad de vida y actividad economica)」と言っています。

注目すべきは彼女が「生活の質」と「経済活動」という言葉を並列に、矛盾無く用いている事です。この裏には何が見えるか?それはバイオ医療の地域的競争力で世界の知を惹き付けるだけでなく、財をも惹き付けようとしている事です。その意図は来週予定されているバイオ医療関係の国際シンポジウムの題目にもはっきりと現れています:

「医療をどうビジネスと結びつけるか?」

多分この程度のアイデアは個人レベルでは結構思い付くと思うんだけど、それを地域一丸となって実現していく時のパワーはものすごいものがあり、何時も驚かされます。そして地域としてこれだけはっきりと明確な将来ビジョンを持っている事にも。

更に注目すべきは、このバイオ医療研究所の建設予定地。その予定地とはホスピタレット(Hospitalet)と呼ばれる、新空港とバルセロナ中心街の丁度真ん中。これがどんな意味を持っているのか?は新聞の何処にも触れられていないけど、分かる人には分かるはずです。

空港から15分で行けて、更に15分で中心街へ行ける好立地。バルセロナはこのエリアをビジネス街にしようと企業誘致を進めているけれども、それに加えてもう一つ大きな核を持ってきたというわけです。つまり今正に都市化が始まったばかりのこのエリアの求心力にしようと、そういう訳ですね。

コレは巧い、巧すぎる!

グローバリゼーションの中においてカタルーニャのような小さな地域が生き残るには地域の専門化しか手がありません。カタルーニャという地域はその事を非常に良く分かっている。それは多分、歴史的にカタルーニャという地域が置かれた地理的条件、ヨーロッパとアフリカの間、ビセンス・ビベス(Vicens Vives)がかつて「辺境の渡り廊下」と呼んだ、その特殊性に根ざしているのではないのでしょうか?色々な文化が行ったり来たりしているそんな交差点では、自分のアイデンティティを必死に守っていかなければならない。そんな事を何百年もやってきた彼らのDNAのなせる業なのかなー、とか思ってしまいます。

新空港、高速鉄道(AVE)、地下鉄新路線、都市化、バイオ医療・・・。今、一つ一つの要素が一本の糸に繋がり、戦略という大きな波となって押し寄せてくる。正にそんな感じがしています。
| 都市戦略 | 09:25 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
>cruasan様、新聞の片隅の記事から、歴史的文化往来の所に凄いエネルギーを注ぐ、パワーはラテン系だから・・・?
又は政治or知恵・・こんなに奥がわかるのですか・・?
他国のプロジェクトの発想は日本と比べるとどこかアカデミックで。当方は土着的かつ土建国家がすぐに見えて来てしまう。
素人だからこういう風に見えるのだろうか・・?
大阪も今頃観光的な場所をアッピールするらしい(行政が)。
なんで今頃・・そしてどこを・・・?橋下知事の公約・・?
場当たり式構図だけが見える。静観していますが・・・・
| mory's | 2008/11/23 3:41 AM |
Mory'さん,こんにちは。コメントありがとうございます。大阪は今から観光政策ですか?確かにちょっと遅い気もしますね。
何より大事なのは長期的ビジョンを持つことなのですが、政権がコロコロと変わってしまう日本では難しいのかもしれませんね。
橋本知事に期待です。
| cruasan | 2008/11/27 6:08 AM |
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