地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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ウィーン旅行その9:シェーンブルン宮殿(Schloss Schonbrunn)のオーディオガイドに見る最も進んだ観光システム/無意識下による人の流れのコントロール
ウィーンが誇る世界遺産、シェーンブルン宮殿と庭園に行ってきました。宮殿の部屋数は1441室、庭園の総面積が約1,7km2というとてつもない広さのこの宮殿は、今やウィーンで最も人を集める観光名所となっています。と言う訳で何時行っても人、人、人。人の波が絶える事がありません。そうすると必然的にそれらの人をどう捌くか?という事が問題になってくると思うのですが、ココでは今まで見た事が無いような画期的な手段を導入していました。

それがコレ;



オーディオガイドです。なーんだ、オーディオガイドかー、なんて思った貴方、ちょっと早とちりしすぎです。今や何処でも見かける観光用オーディオガイドなんですが、ウィーンは少しの知恵と工夫をする事によって観光客の動きをコントロールする画期的な手法を考案したんですね。

先ず宮殿で長蛇の列に並びチケットを購入します。その後エントランスでチケットを自動読み取り機にかざし通過します。



この自動読み取り機も今やどの都市でも当たり前になってきましたが、各施設のエントランスで共通チケットを管理する事によって観光客が何処から来て何処へ行くのか?という足取りが簡単に分かるようになってきましたね。

さて、エントランスをくぐった先でオーディオガイドを渡されます。英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、日本語など、主要言語に対応したオーディオガイドの使用料は無料。と言う訳でほとんどの観光客がそれを受け取る事になります。但し注意書きがあって、一度再生すると巻き戻しは出来ないらしい。つまり先に進む事は出来るけど後に戻る事は出来ないんですね。

「ふーん」とか思いながらイザ中へ。警護の間から始まって皇帝やお姫様が実際に住んでいた豪華絢爛な部屋部屋を次々に見て回ります。オーディオガイドによる説明も手伝って理解が進み、各部屋約2−3分と言った所でしょうか。

かなりリズミカルに部屋を回っている丁度その時だったでしょうか、ある事に気が付きました。

あれ、隣にいる女の子、入り口からずっと一緒だよな。

とか思って回りを見渡してみると、ほとんど全員が入り口から見た顔ばかりだったんですね。少し前の部屋に居たり、後ろの部屋に居たりといった多少のズレはあるけれどほぼ皆一緒に動いています。

ここで気が付いてしまったのです、シェーンブルン宮殿が行っている大変恐ろしい陰謀に。我々は歩いているのでは無く、歩かされていると言う事に。それに一役買っているのが例のオーディオガイドだったんですね。

オーディオガイドに吹き込まれている各部屋の案内は全て同じです。それを聞きながら各部屋を回るので各部屋や宮殿に滞在する時間も皆ほぼ同じになるというわけです。更に巻き戻しが出来なくなっている為に、ワザワザ今来た部屋をもう一度見ようという人はあまり居ないはず。

これは巧い!僕達は知らず知らずのうちに、つまり自分の意思で動いているつもりが無意識の内に何者かによってコントロールされている訳なんですね。これはマクドナルドの椅子を硬くしたりBGMを強烈にする事によって、客に自ら席を立たせ、回転を早めるという戦略を取っている事を暴いた、ジョージ・リッツア(George Ritzer)マクドナルド化する社会(The McDonaldization Thesis: Explorations and Extensions)ローレンス・レッシグ(Lawrence Lessig)CODE(Code and Other Laws of Cyberspace)東浩紀の環境型権力などの最も進んだ形なのでは無いでしょうか。

更に巧いのが、このオーディオ・ガイドを分配する戦略です。無料。数ヶ月前にクリス・アンダーソン(Chris Anderson)によるFreeという本が出版されて、最近の成功したネットのビジネスモデルを論じていたけれど、それをリアル世界に持ってきた感じですね。つまりGoogleが検索を無料で提供する代わりに検索結果に広告を貼り付け、それで稼いでいるのとほぼ同じ発想と言う訳。

無料でオーディオガイドを貸し出す事によって、宮殿内の人の動きを管理し、一定以上の滞在時間を防いでいる。最も重要な事はココを訪れた観光客がコントロールされていると感じていない事です。無意識下のコントロールによって、彼らは自分の意思で動いていると思わされている。

危うく僕もはまる所でした。それくらい洗練されたシステムだと言えると思います。
| 旅行記:都市 | 22:43 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
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