地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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ウィーン旅行その7:グスタフ・クリムト(Gustav Klimt)の「接吻(The Kiss)」に見る「愛するという事」
旅行において予定調和的ではない出会い程、感動的なものはありません。ローマ(Rome)で出会ったベルニーニ(Pietro Bernini)の彫刻、ロンドン(London)で発見したミレイ(John Everett Millais)のオフィーリア(Ophelia)・・・ある意味僕はそういう出会いを求めているが故に旅行を続けているのかも知れない。そして今回もそんな素晴らしい出会いがありました。それがウィーン(Vienna)を代表する芸術家、グスタフ・クリムト(Gustav Klimt)です。

ウィーン旅行3日目に訪れたベルヴェデーレ宮殿上宮(Belvedere)をブラブラしていた、正にその時の事でした。出会いは何の前触れもなく、ただ唐突にやって来たんですね。大広間の一番奥、大きなガラスケースに収められたその絵画の題名は「接吻」。見た瞬間に心を奪われました。目が逸らせなかった・・・。「一枚の絵にこんなにも人の心を捉えられる、こんな事がホントにあるのか?」とそう思った。



力強くしっかりと女性を支え包み込む男性。それと対をなすかのような女性の柔らかな身のすくめ方。愛しいものをひたすら優しくすくい上げる男性の手。そして黄金の輝きの中で男性に身を任せる女性の表情には「幸せ」が満ち溢れています。



官能的とは正にこういう事を言うんだよなという極地の表現に至っている。

しかし、まあ、それだけならこの絵は僕の目にそんなに特別だとは映らなかった事でしょう。この絵を特別なものにしているのは、「幸せ」とは全く逆の感覚がそこに共存していると思うからなんですね。「女性の幸せ」とは対照的に、この絵全体を支配しているのは、「幸せ」が永遠に続く事が決して無いと分かっているが故の永遠の一瞬、それをとどめておきたいけれどもそれが無理と分かっているが故の悲しみの表現じゃないのかな?もっとはっきりと言っちゃうと、この悲しみは「死」と言い換えても良いかもしれない。

そう、この絵にはある種の死の香りが漂っているように感じられます。



ココの舞台は崖なのでしょうか?そんな危険な所で2人は「最後のキス」をしているようにすら見受けられるんですね。崖を埋め尽くしている花々も二人を祝福しているというよりは、むしろ二人を悲しげに見守っている様にすら見えます。そして2人を取り巻いている金色に輝く空は「喜びの世界への入り口」というよりは、むしろ「死の世界への入り口」にすら見えてきます。

そう、愛と死。この絵には愛と死という相反する2つのテーマが共存しています。そして人間にとって究極とも言えるこのテーマに、クリムトは自身の芸術をもって答えようとしている。



長方形で埋め尽くされた男性はとても力強く、曲線や円で覆われた女性とは何かしら別の世界を表象している様に見受けられます。つまりこの2人はそれぞれが相反する世界の表象者としてココに存在しているんですね。そしてそれらはお互い分かり合う事も無ければ、決して交わる事も無いような、いわば油と水のような関係。

しかしながら、そんな全く正反対のモノ同士が、キスを介して交じり合うがごとく一つの空間に共存している。そんな対立するものですら、分かり合え打ち解け合う事が出来る日が来るんだ、と言わんばかりに。

つまりここにおいてクリムトのメッセージは明らかだと思うのです。それは相反する2つの事象はコインの裏表であり、死こそが愛に力を与えるのだと。死と隣り合わせに生きているからこそ、激しく愛する事が出来るのだと。

今までどちらかと言うと、ラファエッロの絵画のように喜びに満ち溢れ、この世の輝きを表現している絵画に心惹かれてきました。多分それは僕が建築家出身だからかも知れません。何故なら建築とは悲しみよりは喜びを、死よりは生をその空間をもって表象する芸術行為だからです。

その一方で、このような表現の仕方、つまり悲しみによる喜びの表現というのもあるんだなー、という事を今回強く学んだ気がします。

おまけ:

この絵を眺めていてある事に気が付きました。それはこの夏に日本に帰った時に見たNHKの大河ドラマ「篤姫」のオープニングに似ているなー、と思ったんですね。大河ドラマなんて小さい頃に見た「独眼竜政宗」以来だったんだけど、たまたま見たオープニングが結構良く出来ていたのでちょっと興味を持ち始めたんですね。特に主人公の姫が黄金に包まれて出てくるシーンがあると思うんだけど、その金と着物の暖色系のデザインがすごくマッチしていました。



そんな事を思いながら後日グッグってみたらやっぱりありました。それらしい記事が:篤姫とクリムト [世界の美術館&博物館]
| 旅行記:美術 | 22:39 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
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