地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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サラゴサ(Zaragoza)の都市戦略
昨日の新聞にサラゴサの都市戦略に関するっぽい記事(Aragon, la apuesta logistica, La Vanguardia, 7 de Septiembre, 2008)が載っていました。「関するっぽい」と書いたのは、この記事が「サラゴサ都市戦略」を前面に謳っている訳ではなくて、サラゴサが今後都市としてロジスティック(logistic)の分野に力を入れていく事を説明した記事だったからです。それが僕から見ればサラゴサの都市戦略に見える、と、まあ、こんな程度の事です。

つい見過ごしてしまいそうな記事だったのですが、サラゴサの都市としてのポテンシャルの高さから少し取り上げる事にしました。

前にも書きましたが、サラゴサという都市は立地条件が非常に良く、巧く戦略を練れば今後急成長が期待出来る都市なんですね。国際的には未だ全く知名度が無い小都市ですが、やはりそのポテンシャルの高さに気が付いている人は既に行動を始めています。そしてそれに触発されるようにサラゴサ市(Ayuntamiento de Zaragoza)とアラゴン政府(Gobierno de Aragon)もその事には十分自覚的だと僕は思います。

先ずは何がそんなに地の利があるのか?というと、サラゴサはバルセロナ(Barcelona)とマドリッド(Madrid)の丁度真ん中に位置し、バレンシア(Valencia)とビルバオ(Bilbao)の間に居るんですね。つまりスペインで最も人とモノの往来が激しい東西軸(マドリッドーバルセロナ)と、太平洋・大西洋に最大級の港を持つ南北軸(バレンシアービルバオ)の中央に位置している訳です。

かつてスペインの近代歴史学を切り開いたビセンス・ビベス(Vicens Vives)は、ヨーロッパとアフリカの間に位置しているカタルーニャを指して「辺境の渡り廊下」と呼び、それがカタルーニャの混成文化という特長を創り、異常なまでの発展を促したと指摘しましたが、サラゴサも21世紀における「渡り廊下」に成り得る可能性を持った地だと思います。

さて、次に問題になるのは、では一体このような地の利を生かして何をするのか?という事です。そこでサラゴサが考え出したのがロジスティックなんですね。ロジスティックとは何か?というと、簡単に言えば、物的流通を効率化するシステムの事です。つまり製造した物をどうやって集めてどうやって分配するか?更にそれをどのように調達・配送したら最も効率が良くなるか?それを扱うのがロジスティックです。

サラゴサは今正にヨーロッパにおけるロジスティックの中心になろうとしています。
まあ、成ろうとしたからといってなれるモノでもないのですが、それはサラゴサの巧い所、というか見習うべき所なのですが、彼らは他都市で成功した都市モデル(バルセロナモデルみたいな)を自分の所のコンテクストに無理やり当てはめるというような事はしていません。彼らがロジスティックを目指した理由、それは自国を十分に分析した結果出て来た結論だったんですね。

それこそ上で述べた東西南北の軸線上に都市が乗っているという事実だった訳です。スペイン2大都市を結ぶ高速鉄道の中央に位置している事から人とモノは自ずと集まります。更に港を経由しなければいけない物流はバレンシアとビルバオがカバーしている。モノの流れには空輸出来るモノと出来ないモノが存在します。だから都市の発展の為には必然的に空港と港が重要なファクターになってくるという事は当ブログで何回か言及した通りです

昨日の新聞記事によるとサラゴサはもう既にヨーロッパ随一となるロジスティック・サラゴサプラザ(logistica de Zaragoza Plaza)なるものをアラゴン政府(51,52%)、サラゴサ市(12,12%)、Ibercaja(18,18%),CAI(18,18%)の出資で建設中だとか。その大きさは12,826,000m2で30億ユーロ(日本円で約2兆円)の投資を見込んでいるそうです。

更にサラゴサの戦略は箱物を作る事だけに集中しているわけでは決してありません。世界の知識と情報を集める為に地元サラゴサ大学(Universidad de Zaragoza)が米マサチューセッツ工科大学(MIT)と協同で日本の修士課程にあたるMaster of engineering in Logistics and Supply chain managementを創設したんですね。これによって世界最高峰の頭脳とコンタクト、そしてそれらが惹き付ける巨額の投資の可能性を確保しました。実はもう既にその効果の片鱗が出ていて、それが今年開かれているサラゴサ万博や都市計画の裏方に見る事が出来ます。

サラゴサ万博と関連して、現在サラゴサでは「サステイナブルでインテリジェントな都市:都市交通の新しいコンセプト(La ciudad inteligente y sostenible: un nuevo concepto de transporte urbano)」をキーワードにMilla Digitalという計画が進行中です。その音頭を取っているのがMITメディアラボ教授のウィリアム・ミッチェル(William J.Mitchell)。更に万博にはMITSENSEablecity Labで近年力を付けてきたカルロ・ラッティ(Carlo Ratti)も入っていますし。

私見ですけど、ウィリアム・ミッチェル率いるMITとの仲介役になったと思われるのはマニュエル・カステル(Manuel Castells)でしょうね。何故カタラン人のマニュエルがアラゴンに肩入れするのか?それはお隣が発展するとこちらにもポジティブな影響が出てくるからです。ジョルディ・ボージャ(Jordi Borja)が言っているように、シティ・リージョン(City Region)を前提とした都市間競争時代においては、どの都市が勝ってどの都市が負けるという勝ち負けゲームは意味を成さなくなるんですね。そうではなく、繋がっている隣の都市が発展する事が自身の都市が発展する事に繋がる、それがシティ・リージョン時代の都市間競争の法則です。

そう考えると、ウィリアム・ミッチェルを始め、サスキア・サッセン(Saskia Sassen)やピーター・ホール(Peter Hall)など市役所の助言役にスペインの一地方都市をグローバリズムの中で考察する面々が顔を揃えているのにも納得出来るかー。

更に更に万博開催に漕ぎ着けた政治的な手腕や、その万博を都市発展に用いた巧さ。そして市内を流れる川に関連付けつつ、21世紀のはずせないテーマであるサステイナビリティを主軸に添えた視点の良さなど、書き出すと切りが無いのですが、長くなってしまったので又今度。
| スペイン都市計画 | 22:36 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
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