地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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マドリッドの都市戦略その2:アルヴァロ・シザ(Alvaro Siza)について
先日のエントリ、マドリッドの都市戦略その1:美術(美術館)を軸とした都市活性化の続きです。

先日書いたように現在マドリッドは美術館等の集積による文化を軸とした都市戦略を遂行中です。1.9kmに及ぶ軸線上に約15もの文化施設が集まっています。そしてそれを結びつける役割をするのがアルヴァロ・シザ(Alvaro Siza)が担当する新歩行者街路なんですね。

実は数ヶ月前、マドリッド市役所によりシザの案が発表された時、ちょっとした議論が沸き起こりました。それというのも街路空間を拡張する為に、元々そこに生えている樹木を伐採するという計画が盛り込まれていたからなんですね。それに対して市民は猛反発。翌日には早速、計画の説明の為にシザのインタビューが各新聞を賑わせていました。先日のマドリッドの文化戦略に関する記事(El paseo del Arte)の冒頭も実はシザへのインタビューだったんですね。各インタビューの中でシザは何故この計画が生まれたのか?どのように計画が発展していったのか?などを説明していますが、僕にとって興味深い事に、建築とは何か?建築家とは何か?自分はどのように建築家になったのか?などの話がさりげなく盛り込まれていました。

例えばシザは自分が建築家になった経緯をガウディに関連付けて説明しています。

“マドリッドでベラスケスを発見したように、バルセロナではガウディの作品を発見した。そしてそれは若きシザを建築への道へと導いたのである。“

“Y si en Madrid descubrio a Velásquez, el encuentro en Barcelona con la obra de Gaudi marco los pasos del joven Siza hacia la arquitectura.”

La Vanguardia, 27 de Julio, 2008, p44


これは面白い!何故なら当ブログでは何度か言及していますが、ガウディ建築の特徴の一つは天井のデザインに見られると思うからです。カサ・バッリョの天井なんて惚れ惚れするくらい美しくデザインされています。



そしてコレも当ブログでは何度も取り上げてきた話題なのですが、シザ建築の特長の一つは天井にあると僕は思うんですね。(ちなみに残りはアプローチ空間とパースペクティブ空間)シザほど天井のデザインが巧い建築家はナカナカ居ません。そして天井が巧いという事は階段のデザインが巧いという事です。それが槙さんの建築にも言える事は以前のエントリで書いた通りです。

マドリッド旅行その4:ラペーニャ&エリアス・トーレス(Jose Antonio Martinez Lapena and Elias Torres)の建築その1

別のインタビューによるとシザは子供の頃、家族旅行で良くスペインに来ていたそうです。そして小さな頃から彫刻家になりたかったそうなんですが、ガウディの建築を見た時、彫刻と建築の類似性に気が付き、大変な衝撃を受けたと言っています。そしてその後、ガウディの建築を全て見て回ったとも。

”休暇にはよく家族でスペインに行きました。父は美術館に行くのが大好きでしたが、家族と初めてバルセロナを訪ねたとき、私にはガウディがとても印象的でした。まだ建築の学校には通っていなかったころでしたが、ガウディの建物を全部見る事に決めました。・・・私はガウディに強く惹かれました。この有名な建築の写真と現実の建物を比較したとき、これは彫刻に似ていると思ったからです。建物の建っている場所について、自分の目で建物を見たとき、この彫刻には、普通の住宅が備えているあらゆるエレメントが備わり内包されているのだと分かりました。扉、窓、幅木。つまり、ある意味でこのことが私に建築の世界を開いてくれたのです。それ以前は、私はこれを彫刻としてみていたのですが、このとき、建築として見る事が出来たわけです。”

Studio Talk,15人の建築家の物語:インタヴュー:二川由夫、p207


アルヴァロ・シザという人がすごい所は、まるでサッカー小僧の翼君のように人の得意技を自分の物にしてしまう所です。誰が見ても分かるように、彼のデザインには明らかに引用先が存在します。それは例えばアルヴァ・アールト(Alvar Aalto)だったりハンス・シャロウン(Hans Scharoun)だったりするわけなのですが、それらの形態から出発して最終的には彼の空間になっている。

まあ元々、何も無い所から何かを創り出せる人、もしくは完全なるオリジナルを創り出せる人なんて先ず居ないと思います。創作の基本は模倣ですから。しかし愚かなる人は最終形態だけを見て、「あー、これはあの建築を真似したんだな」という模倣の起源だけを突き止める事で満足してしまうんですね。問題はそこじゃ無い。世の中一人として同じ人が居ないように、同じ模倣作から始まっても作者によって結果は必ず違うはず。その変形のプロセスとその結果にこそ、その人の個性が現れる訳ですよ。それがあるから建築は面白い。

アールトやシャロウンにシザが多大なる関心を寄せている事は明らかなのですが、では何故彼がアールトやシャロウンにこんなにも愛着を寄せているのか?といった部分はあまり明らかじゃないと思います。

一つには彼らに共通する彫刻的な形態が挙げられると思います。それはシザ自身が彫刻に対する関心を名言している事、そして建築と彫刻の類似性をガウディに発見した事等から明らかだと思うんですね。

しかし、アールト、シャロウン、ガウディ、これらの建築家に共通するもう一つの特徴が実は天井のデザインな訳ですよ。ヘルシンキで見たアールトのデザイン、ベルリンで見たシャロウンの建築については以前のエントリ、

Alvar Aalto (アルヴァ・アールト)の建築: 国民年金協会とアカデミア図書館

Berlin その2: Hans Scharoun ( ハンス・シャロウン) の建築:Berlin Philharmonic Hall(ベルリン・フィルハーモニーのコンサートホール)
で書いた通りです。

もしも「芸術家とは要するに非常に若い時に受けた強烈な原体験的なものを、一生かかってあるひとつのメディアを通して具現してゆくものなのだ(大岡信)」とすると、まさしくシザは子供時代にガウディ建築に受けた衝撃が彼の建築の原点になっている。そしてその彫刻性と天井デザインの特異性に感化されて後にアールト、シャロウンへと興味を拡大していったと。

そんな風に考えたら非常にロマンチックだとは思いませんか?
| 建築 | 21:36 | comments(4) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
はじめまして。富山県のインテリアコーディネーターの集まり「ICCトヤマ」の、宝田(ほうだ)と申します。
2009年2月、シザの建築を中心に、ポルトガル、サンティアゴ・デ・コンポーステラ、バルセロナをめぐる研修旅行に参ります。

旅行説明や、スケジュールの参考に、こちらのブログを活用させていただきたいと思っています。よろしくお願いいたします。

(さっそく、リンクを貼らせていただきました↓)
http://icctoyama.exblog.jp/9198571/
| hoda | 2008/12/13 11:39 AM |
Hodaさん、はじめまして、コメントありがとうございます。シザ建築を巡る旅ですか。とってもうらやましいですー。僕も時間の都合が付いたらゆっくり建築巡行をしてみたいものです。
AVEでの旅は非常に快適です。スペイン在住日本人の間でもすこぶる評判は良いです。ただ、マドリッドのアトーチャ駅は、「これでもか!」というくらい治安が悪いですので十分に気をつけてくださいね。
| cruasan | 2008/12/13 9:53 PM |
今年6月にスペインへ行きました 治安の悪さに恐れをなしていたのですが マドリードには警察関係者が多くなんとか安全・安心に過ごせました 貴重な建築的、街づくり的考察楽しく読ませていただいています
| shkphappy | 2010/07/08 4:35 PM |
Shkphappyさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
マドリッド、安全で楽しい旅立ったと想像します。旅行って、やっぱり安全且つ安心が一番ですから。マドリッドって実は余り知られてませんが、近年、建築や街つくりでかなり秀でた活動をしている都市のうちの一つだと思います。今後とも大注目です!これからもよろしくお願いします!!
| cruasan | 2010/07/10 7:05 AM |
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