地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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マドリッドの都市戦略その1:美術(美術館)を軸とした都市活性化
昨日の新聞(La Vanguardia, 27 de Julio, 2008, p42-53)にマドリッドの文化戦略に関する記事(El paseo del Arte)がデカデカと載っていました。

マドリッドはスペインの首都でありながら他都市に比べてアイデンティティが明確でない為、今までバルセロナなどの影に隠れてきたと言っても過言では無いと思います。例えば「スペイン」と聞いて日本人が普通に連想するのはフラメンコ、闘牛、ガウディ、ピカソ、パエリアなどですね。そしてこれらと関連する都市として想像されるのが先ずはバルセロナ、バレンシアそしてアンダルシア辺りでしょうか。

しかしバルセロナなんてフラメンコ(アンダルシア)や闘牛(アンダルシア)は勿論、パエリア(バレンシア)だってさっぱり関係無いのに地中海都市というだけで、パエリアと関連付けられ、なんでか知らないけどフラメンコと闘牛のメッカという事になってしまっているんですね。

有名なのは92年のバルセロナオリンピックに合わせて製作されたヤワラのオープニング。最後の場面にサグラダ・ファミリアをバックにフラメンコ衣装を身に纏ったヤワラが出てきます。



さて、マドリッドにとっての問題は上に挙げた単語のどれ一つとしてスペインの首都とは関連付けられ無いという事です。

その一方でマドリッドはスペイン帝国の首都であり続けた為に、蓄積された莫大な遺産を抱えています。それが例えばプラド美術館に眠る数々のお宝だったり、もしくは国立ソフィア王妃芸術センターが所有するピカソ(Pablo Picasso)の代表作ゲルニカ(Guernika)だったりするわけです。このような状況を指してマニュエル・ボルハ(Manuel Borja-Villel)はこんな風に言っています。

"Madrid es una ciudad de identidad media, pero culturalmente muy potente"(p47)

「マドリッドは都市のアイデンティティとしてはそれほどでもないが、文化的には潜在力抜群だ。」


そんな「宝の持ち腐れ」をしているマドリッドが打ち出した都市戦略が文化を軸に据えた美術館戦略です。上に書いたように元々マドリッドは数多くのお宝を所有していて、それらがプラド美術館(Museo del Prado)を中心とした「アートの黄金の三角地帯(Golden Triangle of Art)」と呼ばれるエリアに集中しています。三角形の他の2角は現代美術の宝庫である国立ソフィア王妃芸術センター(Museo Nacional Centro de Arte Reina Sofia)と個人所有のコレクション数なら世界第二位を誇るティッセン・ボルネミッサ美術館(Museo Thyssen Bornemisza)です。(ちなみにデータによると、2007年度の来館者はプラドが2,650,000人、レイナ・ソフィアが1,500,000人、ティッセンが970,000人。)

今回のマドリッド都市戦略は元々あったこのような資産を軸に展開しています。更にこの黄金の三角形の丁度真ん中にスペイン最大の銀行であるラ・カイシャ(La Caixa)が運営する美術館、カイシャ・フォーラム(Caixa Forum)を新たに開設しました。結果、驚くべき事にこのエリアには15近くもの文化施設が集中する事となりました。

Museo Reina Sofia
Caiza Forum
Museo Thyssen Bornemisza
Funacion BBVA
Biblioteca Nacional
Museo Arqueologico Nacional
Casa de America
Museo Naval
Museo Nacional de Artes Decorativas
Angiguo Museo del Ejercito
Cason del Buen Retiro
Claustro de los Jeronimos
Museo del Prado
Obervatorio Astronomico Nacional
Museo Nacional de Antropologia

そしてこれらを結ぶ軸線(1.9km)を現在の交通量の多い車中心の道路から歩行者中心の街路に新しく生まれ変わらせる為に起用されたのがアルヴァロ・シザ(Alvaro Siza)。更に更に、このエリアの始まりにはスペイン高速鉄道(AVE)発着駅であるアトーチャ駅(Estacion de Atocha)が位置しているという徹底振り。コレによりバルセロナから日帰りコースでアート堪能の旅というのも十分に可能な訳です。

さて、興味深いのはリノベーションや増設などに伴う建築工事に、各館共にスター建築家を起用している事です。歴史あるプラド美術館の増築にはスペインを代表する巨匠、ラファエロ・モネオ(Rafael Moneo)を起用し、現代美術の殿堂であるレイナ・ソフィアには今年プリツカー(premio Pritzker)を受賞し、今や乗りに乗っているジャン・ヌーベル(Jean Nouvel)を建築家として招いています。「革新」というイメージを打ち出しているカイシャ・フォーラムの新築デザインにはヘルツォーク&デ・ムーロン(Herzog & De Meuron)を採用するといった辺りの人選はそれほど間違っていないような気がします。

腑に落ちないのはティッセン・ボルネミッサ美術館の増築なんですね。ティッセン・ボルネミッサ美術館と言えばかつて、世界第二位の個人コレクション数を誇った名実共に世界に君臨する名美術館。そんな世界屈指の美術館増築ならかなりのニュースになっても良いはず。任されるだろう建築家はモネオやヌーベルに比肩するくらいの建築家であってもおかしくないと思うんですね。しかしですね、この美術館の増築は全くニュースにならず、今日の特集記事にもホンの一行触れられているだけ。

その理由が実際にティッセン・ボルネミッサ美術館を訪れて分かりました。というのも、この増築デザインはちょっとひどい。







故に「増築による新しい部分」が「広告」にならないんですね。はっきり言って素人級のデザインでかなりがっかりしました。

誰が担当したのかはココには書きません。カタルーニャの新進気鋭で名を売っている建築家集団とだけ言っておきます。このような大型美術館の新築・改築・増築は必ずしも巨匠が担当しなければならないという事は全くありません。むしろ、経験のあまり無い若い建築家にチャンスを与えるのには僕は大賛成です。しかしそれは実力が備わっていてこそだと思うんですね。じゃないと、「若い者に任せるとコレだから困る」と、後続が断たれる。少なくとも基本的なデザインレベルや仕事に対する誠意、プロの建築家としての誇りは見せて欲しい。
こんな低レベルの仕事をしているのなら、親父のコネしか無い低能建築家と言われても仕方が無いぞ!
| スペイン都市計画 | 23:38 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
なるほどー!マドリッドの行政もなかなかの戦略家ですね。
確かにここ数年でマドリッドは現代建築の宝庫になりつつありますよね。
かつてもトロハの競馬場だとか名作はありましたが、如何せんアクセスが悪い!
昨年バラハス空港もロジャースによって名作に仕立てられましたし、若手の作品も沢山あるし、これでシザの街路が完成すれば、マドリッドは美術館巡りはもちろん、建築巡りにもはずせない都市になるでしょうね。
バルセロナもうかうかしてられないなあ。
| もりかず | 2008/07/31 5:35 PM |
もりかずさん、全くその通りなんですね。マドリッドは今や現代建築巡りでは外せない都市に成長したと思います。
これだけ現代建築を多く抱えていれば建築で観光客を惹きつけるには十分すぎるほどなんですね。でも、バルセロナかマドリッドかと言われたらやはりバルセロナを選ぶ人が多いと思います。しかしバルセロナベースでちょっと時間を割いて1日、2日マドリッド旅行というのはありだと思うんですね。それを可能にしたのがマドリッド・バルセロナ間を2時間半で結ぶAVEですね。しかもAVE発着の位置が良すぎ。レイナ・ソフィアの目の前、プラドから歩いて10分ですからね。これは見事な都市戦略だと思います。
| cruasan | 2008/08/01 5:34 AM |
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