2008.04.12 Saturday
マドリッド旅行その4:ラペーニャ&エリアス・トーレス(Jose Antonio Martinez Lapena and Elias Torres)の建築その1
元シザ事務所のアツシさんと話していたらどうしてもラペーニャ&エリアス・トーレス(José Antonio Martînez Lapeña and Elías Torres)の建築を見たくなってしまって、翌日トレドへ行ってきました。
トレド(Toledo)と言えば中世の街並みがほぼそのまま残されていて世界遺産にも登録されている事で有名なのですが、都市の保存改修を担当・指揮したのはバルセロナが世界に誇る建築家、泣く子も黙るジョアン・ブスケッツ(Joan Busquets)大先生。バルセロナモデルとして知られる一連の公共空間プロジェクトや、1992年のオリンピックを戦略的に用いた都市計画など、数々の先進的な計画を着実に成功させてきた彼は、その功績が認められて、2003年からハーバード大学の教授に就任しました。
そんな彼とは実はスペインの某都市の駅建て替え計画を共同で実施中なんですね。担当しているのは僕の隣に座っているメキシコ人のCちゃん。横目でちらちら進行状況を見ているけど、かなり大変そう。プロジェクトが始まった時、誘われたけど断っといて良かったー(笑)。
さて、そんなトレドには歴史的な見所の他に、建築家として絶対に見ておかなければならない建築があります。それがラペーニャ&エリアス・トーレスのデザインしたエスカレータ。
このアプローチ空間を見ただけで、もう既に彼らが只者では無い事が瞬時に分かる程のデザイン操作がなされている。
この建築の機能としては落差がある丘の上と下とをエスカレータを用いて結ぶという大変単純なプログラム。そんなの普通にデパートにあるエスカレータみたく、一直線に並べて終わりというのが普通の建築家なんだけど、彼らはそこにホンの少しだけ角度を3次元的に付ける事によって、劇的な風景を演出している。
デザインの法則に「これだ、これだと主張する」のではなく、「ホンの少しだけ他と違う事をする」という「差異化」が挙げられると思うのですが、彼らのこのエスカレータのデザインはそれを示す好例。何処にでもある普通のエスカレータがこんなにもかっこ良くデザインされたなら、エスカレータも本望だろうなー。
そしてラペーニャ&エリアス・トーレスが僕達に教えてくれるのは、アプローチ空間の大切さと人間の眼が150−170センチくらいの所に付いているという事実です。これを見てください。
この建築はエスカレータを5段積み上げただけの単純なものなので、横から見ると当然のごとくこんな風に見えるんですね。
横にビヨーンと間延びしてかなりかっこ悪い。それを分かっているからこそ、わざとアプローチを全く反対側である、エスカレータがほぼ一直線に見える位置に持ってきているわけですよ。しかもエレベータの各ユニットにX,Y,Z方向に少しずつ角度を与える事によって、動きを出しつつ、こんなにかっこ良い佇まいにしている。これは人間の眼の高さなどを相当意識しないと出来ないデザインだと思います。
更に言うと旧城壁がエスカレータの中央部分を横切っている事によって、巧い事、エントランス部分に対する門的な要素となり、何か特別な空間へと誘う効果を出している。
更にそのエントランス部分には光が降り注ぎ、まるで「おいで、おいで」と言っているようだし、エスカレータ中央部分が見えない事により、「途中はどうなっているんだろう」という想像力を掻き立てる。
これだけ見ただけでもかなり見事なデザインです。そういう建築家の意図がビビビと伝わってくる建築ほど気持ちの良いものは無い。
そしてコレがエントランス部分。
エスカレータの銀色と独特なコンクリート、そこへ差し込むトレドの強い日差しがものすごくマッチしている。前から思っていたのですが、鋭くカットされたエッジの効果などにより、彼らの扱うコンクリートにはある種独特なテクスチャーが与えられている気がする。
そして一基目のエスカレータを降りた所に二基目のエスカレータが待っているのですが、このエスカレータの置かれ方も又絶妙。
ちょっと角度が付いている事によって、自然に視線が外へと向くようになっているんですね。勿論エスカレータは登っているので、右手側には絶景が広がっています。
そしてもう一つ注目すべきなのが、彼らの天井のデザインの扱い方です。前回のエントリでも書いた事ですが、「どのように空を切り取るか」という問題ですね。これは建築をデザインする上で大変に重要な問題であるにも関わらず、今まであまり俎上に載せられる事は無かったと思います。というか注目されなかっただけだと思うんですが。
建築空間において大変に良く注目される要素として「階段」が挙げられます。そしてその代表格が槙さん。しかしですね、「階段が巧い」と言う事は逆に言えば「天井が巧い」と言う事だと思うんですね。何故なら階段部分は吹き抜けであり、その部分をどう演出するかで階段の質も決まってくるからです。実際、槙さんは天井のデザインに多大なるエネルギーを注いでいるように見受けられます。
そして何を隠そう天井のデザインが飛びぬけて巧いのが、実はシザなんですね。シザの建築の特質として「パースペクティブ的空間」と「天井のデザイン」が挙げられると勝手に思っていますが、そのうちの一つ、シザの「天井のデザイン」に言及しているのは、世界広しと言えども、我が心の師である矢萩喜従郎さんだけ。やっぱ、すげーなー。
さて、ラペーニャ&エリアス・トーレスも意識的に天井をデザインしている数少ない建築家です。何故ならそれが空間体験に圧倒的に影響を及ぼすと言う事を知っているからです。そしてこんな風に空を切り取っている。
エスカレータを上り切った所には絶景が広がっている。
デザイン的に見て、最後の天井部分とそれを支えるV字型の鉄骨が、エスカレータの流れに逆行する方向に「キック」している事により、流れたままで終わらずに「締め」を創っていますね。
ラテン系の建築家ってものすごく波があって、駄目な時は学生みたいな案出してくるけど、うまいことハマルとものすごいデザインを提出してきます。この作品は正にその針が最大限に振れた所に出現した奇跡的なものだと思いますね。
トレド(Toledo)と言えば中世の街並みがほぼそのまま残されていて世界遺産にも登録されている事で有名なのですが、都市の保存改修を担当・指揮したのはバルセロナが世界に誇る建築家、泣く子も黙るジョアン・ブスケッツ(Joan Busquets)大先生。バルセロナモデルとして知られる一連の公共空間プロジェクトや、1992年のオリンピックを戦略的に用いた都市計画など、数々の先進的な計画を着実に成功させてきた彼は、その功績が認められて、2003年からハーバード大学の教授に就任しました。
そんな彼とは実はスペインの某都市の駅建て替え計画を共同で実施中なんですね。担当しているのは僕の隣に座っているメキシコ人のCちゃん。横目でちらちら進行状況を見ているけど、かなり大変そう。プロジェクトが始まった時、誘われたけど断っといて良かったー(笑)。
さて、そんなトレドには歴史的な見所の他に、建築家として絶対に見ておかなければならない建築があります。それがラペーニャ&エリアス・トーレスのデザインしたエスカレータ。
このアプローチ空間を見ただけで、もう既に彼らが只者では無い事が瞬時に分かる程のデザイン操作がなされている。
この建築の機能としては落差がある丘の上と下とをエスカレータを用いて結ぶという大変単純なプログラム。そんなの普通にデパートにあるエスカレータみたく、一直線に並べて終わりというのが普通の建築家なんだけど、彼らはそこにホンの少しだけ角度を3次元的に付ける事によって、劇的な風景を演出している。
デザインの法則に「これだ、これだと主張する」のではなく、「ホンの少しだけ他と違う事をする」という「差異化」が挙げられると思うのですが、彼らのこのエスカレータのデザインはそれを示す好例。何処にでもある普通のエスカレータがこんなにもかっこ良くデザインされたなら、エスカレータも本望だろうなー。
そしてラペーニャ&エリアス・トーレスが僕達に教えてくれるのは、アプローチ空間の大切さと人間の眼が150−170センチくらいの所に付いているという事実です。これを見てください。
この建築はエスカレータを5段積み上げただけの単純なものなので、横から見ると当然のごとくこんな風に見えるんですね。
横にビヨーンと間延びしてかなりかっこ悪い。それを分かっているからこそ、わざとアプローチを全く反対側である、エスカレータがほぼ一直線に見える位置に持ってきているわけですよ。しかもエレベータの各ユニットにX,Y,Z方向に少しずつ角度を与える事によって、動きを出しつつ、こんなにかっこ良い佇まいにしている。これは人間の眼の高さなどを相当意識しないと出来ないデザインだと思います。
更に言うと旧城壁がエスカレータの中央部分を横切っている事によって、巧い事、エントランス部分に対する門的な要素となり、何か特別な空間へと誘う効果を出している。
更にそのエントランス部分には光が降り注ぎ、まるで「おいで、おいで」と言っているようだし、エスカレータ中央部分が見えない事により、「途中はどうなっているんだろう」という想像力を掻き立てる。
これだけ見ただけでもかなり見事なデザインです。そういう建築家の意図がビビビと伝わってくる建築ほど気持ちの良いものは無い。
そしてコレがエントランス部分。
エスカレータの銀色と独特なコンクリート、そこへ差し込むトレドの強い日差しがものすごくマッチしている。前から思っていたのですが、鋭くカットされたエッジの効果などにより、彼らの扱うコンクリートにはある種独特なテクスチャーが与えられている気がする。
そして一基目のエスカレータを降りた所に二基目のエスカレータが待っているのですが、このエスカレータの置かれ方も又絶妙。
ちょっと角度が付いている事によって、自然に視線が外へと向くようになっているんですね。勿論エスカレータは登っているので、右手側には絶景が広がっています。
そしてもう一つ注目すべきなのが、彼らの天井のデザインの扱い方です。前回のエントリでも書いた事ですが、「どのように空を切り取るか」という問題ですね。これは建築をデザインする上で大変に重要な問題であるにも関わらず、今まであまり俎上に載せられる事は無かったと思います。というか注目されなかっただけだと思うんですが。
建築空間において大変に良く注目される要素として「階段」が挙げられます。そしてその代表格が槙さん。しかしですね、「階段が巧い」と言う事は逆に言えば「天井が巧い」と言う事だと思うんですね。何故なら階段部分は吹き抜けであり、その部分をどう演出するかで階段の質も決まってくるからです。実際、槙さんは天井のデザインに多大なるエネルギーを注いでいるように見受けられます。
そして何を隠そう天井のデザインが飛びぬけて巧いのが、実はシザなんですね。シザの建築の特質として「パースペクティブ的空間」と「天井のデザイン」が挙げられると勝手に思っていますが、そのうちの一つ、シザの「天井のデザイン」に言及しているのは、世界広しと言えども、我が心の師である矢萩喜従郎さんだけ。やっぱ、すげーなー。
さて、ラペーニャ&エリアス・トーレスも意識的に天井をデザインしている数少ない建築家です。何故ならそれが空間体験に圧倒的に影響を及ぼすと言う事を知っているからです。そしてこんな風に空を切り取っている。
エスカレータを上り切った所には絶景が広がっている。
デザイン的に見て、最後の天井部分とそれを支えるV字型の鉄骨が、エスカレータの流れに逆行する方向に「キック」している事により、流れたままで終わらずに「締め」を創っていますね。
ラテン系の建築家ってものすごく波があって、駄目な時は学生みたいな案出してくるけど、うまいことハマルとものすごいデザインを提出してきます。この作品は正にその針が最大限に振れた所に出現した奇跡的なものだと思いますね。