地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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アンドレア・パラーディオ(Andrea Palladio)とヴィチェンツァ(Vicenza)
「ルネッサンス−、情熱―、」という訳でヴェネチアの西、約60キロに位置するヴィチェンツァに行ってきました。ヴェネチアから特急で約1時間の所にあるこの街は人口11万人のとてもこじんまりとした都市でありながら、毎年多くの観光客を惹き付けています。その理由はこの小さな街に点在する多くの建築がルネッサンスの建築家、アンドレア・パラーディオ(Andrea Palladio)によって設計され、1994年にはユネスコ世界遺産(UNESCO World Heritage)に登録されたからなんですね。

アンドレア・パラーディオの街として知られている中心街を歩いていると,まずは目に飛び込んでくるのが真っ白な石で2層構造にされたバジリカ(La Bassilica Palladiana)です。



見た瞬間にそのプロポーションの良さから「美しい」と思える建物ですね。上階にイオニア式、下階にドーリア式の柱を配して、アーチとアーチの間に太い柱、円形穴・・・など論理としては幾らでも説明出来るけど、そんなものふっ飛ばしてしまうくらいに、第一印象のプロポーションの良さが感覚に訴えかけてくる。



同じ間隔の柱の繰り返しで構成されているファサードは、やはり一番角の所の柱の間隔を微妙に変える事によって「角っこ」の特異性を出している。



やはりデザインはこれくらい静かな方が心地よいですね。

近寄ってみると、当たり前の事だけど、石を削り出してダルマ落としのダルマのように輪切りにして柱を構成しているのが見えて面白い。



500年もの月日が経つ内に継ぎ目と継ぎ目がひっついて、まるで一本の柱のようになっている所に年月の重さを感じる。

僕が行った時は改修中で中に入る事は出来ませんでした。(2008年3月現在)この真っ白な石の上に青銅で葺かれた舟底屋根が載った姿はさぞかし美しいんだろうなーとか思いつつ、こればっかりはしょうが無いと諦める。

次に向かったのはオリンピコ劇場(Teatro Olimpico)。



建物の中にルネサンスの十八番である遠近法を用いて、内部に外部を創り出してしまったこの空間は圧巻。





さて、今日の本題は通称ラ・ロトンダ(La Rotonda)として知られるヴィラ・カプラ( Villa Capra Valmarana)です。この建築の特徴は平面が完全な対称形をしていて、四方向の正面全てに同じ神殿風の階段とポルティコが取り付けられている事です。よって、何処から見ても同じ様に見えるんですね。

行き方は鉄道駅横にあるバス停から8番に乗って、何時ものように運転手に「ヴィラ・カプラが見たい」と言えば近くで降ろしてくれます。



そこから案内板に従って5分くらい坂を上っていけばヴィラ・カプラ正門に着きます。

さて、正門を入ると並木道の奥にラ・ロトンダが佇んでいます。



先のバジリカ同様、そのプロポーションの良さには驚かされる。それ以外言葉が見つからないし、説明も出来ない。見た瞬間に感覚に「ビビビ」とくる感じ。僕の建築の師匠である渡辺純さんが、「松田聖子を初めて見た時、ビビビときた」とか言ってたけど、正にそんな感じかな。ちなみに渡辺さんは松田聖子と言わずに「聖子ちゃん」とか言ってたし・・・そんな人が、こんな見事なデザインをするんだから人間分からない。多分彼はデザインの巧さという事で言えば日本で数本の指に入るのではないか。

さて、このラ・ロトンダを先ずは一周回ってみて思った事:どうしてパラーディオって4面同じファサードにしたのかなという疑問が沸いたんですね。幾何学を用いてルネッサンスの理想的な建築を実現したという事は色々な所で言われているけど、直感的にそれだけかな?と思ってしまったんですね。

そう思ったら最期、納得するまで徹底的にやってみないと気が済まないのが僕の性格です。「何で同じファサードなのかなー?」とか思いながら結局、周りを30回くらい回った所で、「そうか」と分かった事がありました。確かに建築のファサードは4面とも一緒なんだけど、立ち位置によって見え方が違うんですよ。

先ずは正面から入ってアプローチから見た所。



並木道があるためにパースの利いた空間を体験する事が出来ます。

次に左側に回りこんでファサードを見た所。





階段前に取られている前庭がアプローチに比べて短い為、先程よりも近寄ってファサードを見る事になります。

更に左に回りこむと前庭空間はぐんと縮まり、かなり間近かでファサードを見る事になります。





この段階になると、ファサードを見るというよりもファサードを見上げるという幹事になります。



そして最終面に至っては、ほとんどファサードの中に入っているという感じになってしまいます。







このようにファサードとの距離によって同じファサードにも関らず、見え方が全く違ったものになるわけですよ。

パラーディオは実はそれを狙っていたのではないのか?つまりわざと4面同じファサードを創っておいて、「同じ世界でも見方によって、その世界は姿を変えて現れる」という事を言いたかったんではないのでしょうか?そうじゃないと、何故ここまでこだわって平面を同じにしたのに、前庭空間は同じにしなかったのか?という疑問に対するうまい答えが見つからない気がするんですね。

まあ、パラーディオの本意がどうであれ、僕は彼の建築からそれを読み取り、学びました。それが大事だと思います。ある事象に対して何を感じ、何を思い、どう自分の中に吸収していくか。人間十人十色なのだから、一つの芸術作品に対して同じ感想を持つ必要は無いと思うんですね。そんな感じ方や吸収の仕方の違いと自己の中での醸成の違いが、その人のデザインに現れるので、建築とは千差万別で面白い訳ですよね。ちなみにシザはこれがホントに上手い建築家です。出発点として人のデザインを拝借してはいるけど、ある瞬間に「ふっ」と彼の建築になっている。表面的にはハンス・シャロウン(Hans Scharoun)アルヴァ・アールト(Alvar Aalto)なんだけど、彼の建築が醸し出している空間の質はやはりシザのもの。

そんな事を考えながら、後日、僕が大変信頼し、且つ大親友である結婚式教会の村瀬君にあれやこれやと質問メールを送った所、大変に興味深い答えが返ってきました。ちなみに村瀬君は日本建築史の小寺武久先生の最後の弟子であり、ゴシックの神様こと飯田喜四郎先生の家に毎週お邪魔してお茶を飲みながら生話を聞いているという名古屋の宝。

彼曰く、

「・・・スカルパはパラディオが凄く好きだった見たい。以前読んだ本のなかで、スカルパのお弟子さんの挿話があってスカルパは仕事に詰まると、弟子を連れてパラディオをよく見にいっていたんだって。んで「みろ、だからパラディオは素晴らしいんだよ!」とか
いって満足そうにしてたらしい。

私がルネサンスの建築家に対して単なる歴史的な解釈や造形思考への探求以上に興味を持つのが、これら近代建築家の優れた感覚を持つ人々が、たえずルネサンスの建築家へ憧憬する姿勢に惹かれていることにとても惹かれるからなのです。おそらく、私にはいまだ得られていない造形の深い世界がそこには切り開かれているんじゃないか、そう思っています。」


僕が、ラ・ロトンダを見ながら考えていたのは実はスカルパの事だったんですね。前回のエントリで僕はこんな事を書いています。

「そしてココでさっき後ろを向いていた彫刻を見ようと後ろを振り返ると、さっき通ってきた風景がココでもう一度姿を現す訳です。そしてこの風景は当然の事ながら同じ空間でありながら違った風景として現れます。

もう明白だと思うんですが、スカルパがココで行なっている事は彫刻を用いた人の動きと視線のコントロールな訳ですよ!!!
・・・・・
これらの手法も前回までと同様、この展示空間で、ほとんど何もいじる事が出来なかった故に出てきた彼なりの熟考の賜物だと思うんですね。知らず知らずの内に動かされ、空間を体験させられる。建築エレメントを付加出来ず、それでは差異化出来ないが故に出て来たアイデア。同じ空間を違う角度から見せる事による、世界の再発見とでもいうか・・・」


数十年前、スカルパはここへ来てきっと僕と同じ事を思い感じたのではないでしょうか?そしてそれが後のカルテルヴェッキオ(Castelvecchio)クエリーニ・スタンパリア(Fondazione Querini Stampalia)に見られる「奥」のある風景に結実していった・・・そう考えたくなってしまうほどのロマンです、正に「ルネッサンス、情熱」。
| 旅行記:建築 | 18:09 | comments(3) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
初めて貴ブログへコメントを差し上げます。
今年はパラーディオの生誕500年を記念して様々な催しが行なわれる様ですね。バシリカの補修工事もそれまでは終るのでしょうか、今年もイタリアへは行けそうにもないので「GoogleMapでPalladio tour」を洒落てみました。下記の拙ブログのURLからGoogleMapへリンクできます。Cemetery Brion-Vegaは航空写真の解像度が低く、絶対的確証とは成りませんが、公共墓地と礼拝堂、天蓋等の位置関係から略間違いないと思いますが、間違っていたら指摘して下さい。来年は20年ぶりにイタリア紀行と洒落てみたいです。
http://madconnection.uohp.com/mt/archives/001483.html

PS:拙ブログで貴ブログを紹介したいと思いますが如何でしょうか。
良いお返事を期待しています。
| iGa | 2008/03/29 5:12 PM |
iGaさんコメントありがとうございます。
そうか、GoogleMapがあったか!!!
仕事等で使っているのですが、建築ツアーに利用する事は思いつきませんでした。素晴らしいアイデアですね。Cemetery Brion-Vegaは周りの風景や道筋等から考えても、間違い無いと思います。

iGaさんのMADCONNECTIONに紹介して頂けるのなら是非お願いします。
| cruasan | 2008/03/29 7:03 PM |
cruasan さん、快諾ありがとうございます。
早速、貴ブログ紹介のエントリーを書き込みました。
これからも宜しくお願いします。

尚、拙ブログは勤続疲労の為かコメントを書き込み送信すると『Additionally, a 500 Internal Server Error error』が表示されますが、コメントは書き込まれていますので、ご安心を。
| iGa | 2008/03/30 11:01 AM |
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