地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
<< カルロ・スカルパ(Carlo Scarpa)の建築その2:クエリーニ・スタンパリア(Fondazione Querini Stampalia):空間の建築家カルロ・スカルパ:ものすごいものを見てしまった | TOP | アンドレア・パラーディオ(Andrea Palladio)とヴィチェンツァ(Vicenza) >>
カルロ・スカルパ(Carlo Scarpa)の建築その3:カステルヴェッキオ(Castelvecchio):空間の建築家カルロ・スカルパ:ものすごいものを見てしまったパート2
ヴェネチア近郊の街、ヴェローナ(Verona)に行ってきました。ヴェネチアからは特急に乗れば約1時間15分程で着きます。この街は「ロミオとジュリエット」の発祥の地らしく、ヒロインのジュリエッタの家(Casa di Giulietta)がある事で有名なんですね。ロミオとジュリエットと言えば、「ロミオ、何故あなたはロミオなの?」という台詞が有名ですが、バルセロナでは週末に放送している「気まぐれオレンジロード」が今大人気で、その中に出てくるUmaoとUshioの言う台詞、「Umao porque tenias que llamarte Umao」(ウマオさん、あなたはどうしてウマオなの?)の方が良く知られている・・・・

さて、建築家にとってはヴェローナと言えばスカルパの2つの改修建築がある事で知られています。一つはヴェローナ銀行(Banca Popolare Di Verona)、もう一つはカステル・ヴェッキオ(Castelvecchio)ですね。ヴェローナ銀行は後で書くとして、ここではカステル・ヴェッキオについて書きたいと思います。何故なら前回のクエリーニ・スタンパリア(Fondazione Querini Stampalia)に続いて今回も実にすごいものを見てしまったからです。

ヴェローナの中心であるブラ広場(Pl.Bra)から歩いて5分の川沿いに立つ城は、かつてのヴェローナ領主であったスカラ家の権威を象徴する大変立派な佇まいをしています。14世紀に建てられたこのお城を我らがカルロ・スカルパが改修しました。スカルパの改修作品としては最も規模の大きいものになります。

これが正門を入った所から見える風景です。



正面に見えるのが現在は市立美術館(Civico Museo dArte)が入っている建物でほぼ当時のままの姿をしています。スカルパが大きく手を加えたのはこの建物の左端、緑色の屋根とその下の橋や馬の彫刻などですね。



先ず背景として、歴史的重要文化財であるこの建物にはほとんど手を加えられなかったという事があるかとは思いますが、結果的に「地」としての歴史的建造物があって、「図」として彼が加えた新しい部分があるというのは、それだけで大変に見栄えが良い。当然の事ながら、加えられた新しい部分は古い部分を際立たせるように注意深くデザインされ、両者で相乗効果を発揮している。

僕にとって興味深いのは、ココから何を学び、現代建築にどう生かすか?という事なんですね。そのような観点で見た時、実はもう既にシザが大変に見事な解の一つを提示してくれています。それがセトゥーバル教員養成学校(The Setubal College of Education)です。



中庭を囲んでコの字型をした建物は内側に列柱が並ぶ極めてシンプルなデザイン。この建築の勝負所は中庭向かって左端の屋根が少し落ち、柱がV字になっている所ですね。



つまり柱の繰り返しで「地」を創っておいて、左端のホンの僅かな所を差異化する事で「図」としているわけです。

建築デザインって「これだ、これだ」と自己主張するよりも、一見普通なんだけど、他とはちょっと違うという「差異化」する静かなデザインの方が品が良いと思うんですね。シザのセトゥーバルは正にその見本となるような建築だし、歴史文化的背景から出てきたスカルパのローカルなデザイン手法もその道を行くものだと思います。

さて、ここからが今日のメインポイントの内部空間です。カステルヴェッキオ市立美術館エントランスを入って直ぐの所から展示空間が始まります。



デザイン的にはこの展示空間の一番奥にある、曲線と直線を組み合わせ、石と木の対比も素晴らしいこのデザインで知られている展示空間なのですが、僕は違う所で大変衝撃を受けました。
先ず、展示空間に入った時に大変奇妙な感じを受けたんですね。それがコレ。



何が奇妙かというと、左手前の彫刻が入り口に対して背中を向けています。普通だったら、入った時によく見えるようにこっち側を向けて配置するのが普通だと思います。だって良く見えないし。なんでこんな不自由な展示にしたのかな?と思いつつ、後ろを向いているこの彫刻の顔を覗き込んだ時に気が付いてしまったんですね、スカルパの深遠な思考に。

コレがさっき見た展示室入り口からの風景です。



少し進んで右手側にある彫刻を先ずは見ます。



これは同時にその後ろにある小窓からあちらの風景をも見通す事にもなります。



次に一番奥にある彫刻を見ると出口を通してあちらの風景を伺う事が出来ます。


そしてココでさっき後ろを向いていた彫刻を見ようと後ろを振り返ると、さっき通ってきた風景がココでもう一度姿を現す訳です。



そしてこの風景は当然の事ながら同じ空間でありながら違った風景として現れます。



もう明白だと思うんですが、スカルパがココで行なっている事は彫刻を用いた人の動きと視線のコントロールな訳ですよ!!!


次の部屋でもこの手法は変わらず、先ず入って右手。









そして振り返りと続きます。





これらの手法も前回までと同様、この展示空間で、ほとんど何もいじる事が出来なかった故に出てきた彼なりの熟考の賜物だと思うんですね。知らず知らずの内に動かされ、空間を体験させられる。建築エレメントを付加出来ず、それでは差異化出来ないが故に出て来たアイデア。同じ空間を違う角度から見せる事による、世界の再発見とでもいうか・・・

それにしても彫刻をこんな風に用いて人を動かし、空間の風景を一変させるとは。この人は我々とは根本的に何か全く違う事を考えている気がする。
| 旅行記:建築 | 15:22 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
素敵なブログ読ませていただきました。

僕は今年四月にスカルパ巡りをしたのですが、スカルパの作品の中でカステルヴェッキオに一番感銘を受けました。彫刻の配置角度による視線のコントロール、すごいですね。

もうひとつ感動したのが、ひとつひとつの彫刻に対して光の当て方をデザインしているところです。天然光と彫刻の位置関係、向き、高さ。そしてロンシャンの教会のような荒々しい白肌の壁で拡散する光。

思い出すだけで鳥肌がたちます・・。
美術館に行く前、日本で調べていてこのブログを読みました。今またエクセター図書館の記事から飛んできました 笑 大変勉強になりました、ありがとうございます。
| あるば | 2013/12/06 1:21 AM |
あるばさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

スカルパ巡り、とっても羨ましいです〜。僕もカステルヴェッキオ、凄く好きで、心の底から素晴らしい空間だとそう思いました。ここの彫刻達を用いた動線操作、視線操作には舌をまきます。僕ももう一度是非訪れてみたい建築の1つです。

これからも宜しくお願い致します。
| cruasan | 2013/12/12 8:32 PM |
コメントする