地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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イグナシ・デ・ソラ・モラレス(Ignasi de Sola Morales)とマスター・メトロポリス・プログラム(Master Metropolis)
毎年この時期になるとマスター・メトロポリスから今年のプログラムのお知らせが届きます。マスター・メトロポリスとは何かというと、建築と都市文化を横断する事によって現代都市現象を捉えようとする目的で1992年にイグナシ・デ・ソラ・モラレスにより創設されたマスタープログラムです。

何を隠そう何故僕がバルセロナに来たのかというと、当初このプログラムに参加するのが目的だったんですね。あまり大々的に宣伝していないこのプログラムの存在は知人の紹介を経て知りました。とは言っても、イグナシの影響力からヨーロッパでは、ロッテルダムのベルラーヘ、バルセロナのメトロポリスとかなり知られていたのですが。

僕はこのプログラムに2001年から数年間関わってきました。2001年というのがミソで実はこの年の冬にイグナシは亡くなっています。僕が始めてバルセロナに来た2001年春には既に彼の姿は見えませんでした。それでも幸運だったのは、彼が組み立てたプログラムがその春学期に実行されていたという事です。言うなれば僕は彼の創設した真のメトロポリスプログラムの最後の受講者という事になります。

当時の様子は昨日の事のようにはっきりと覚えています。何故ならそのホンの数ヶ月間が僕のバルセロナ滞在の最もエキサイティングな瞬間の連続だったからです。突然のイグナシの死去により内部はかなり混乱していましたが、彼の知性に惹かれて集まって来た世界各国からの学生や研究者などの情熱は生きていました。

プログラム開始初日、最初に壇上に立ったのはバルセロナ現代文化センター所長(Centre de Cultura Contemporània de Barcelona)でありヨーロッパの頭脳、ジョセプ・ラモネーダ( Joseph Ramoneda)でした。元々、このプログラムが現代文化センターで開かれているのはイグナシとジョセプの大変高い志である、現代都市の解明という共通の目標があったからだと思うんですね。だから1993年にAnywayがバルセロナで開かれた時には会場はCCCBだった訳です。(少し脱線しますが、僕は後に現代文化センターに勤める事になったのですが、その時、書庫を漁っていたら当時Any会議の為に用意された磯崎さんと浅田さんの生原稿が出てきて、なんかお宝を見つけた気分になったのを覚えています。)メトロポリスプログラムでジョセプを見かけたのはコレが最初で最後。イグナシの死と共に彼はメトロポリスからは一切手を引きました。

その後の懇親会で英語があまり話せなかった僕の前を興味深深で行ったり来たりを繰り返すお爺さんがいました。ホントに行ったり来たりを10分くらい繰り返した後、やっと一言、「何処から来たの」。「日本から」。「そう」。その後、又行ったり来たりを10分ほど繰り返した後、「名前なんていうの」「Yです」。「そう」。・・・・・。なんか変わったお爺さんだなと思っていたんですが、彼こそがバルセロナ現代美術館初代館長(Museu d'Art Contemporani de Barcelona)だったミケル・モリン(Miquel Molin)さん。典型的なカタラン人にありがちなものすごい人見知りタイプです。ただ、このタイプは一度仲良くなってしまうと、ものすごく仲良くしてくれるという面も持っているのですが。

彼との思い出は尽きないのですが、何と言っても印象に残っているのは彼の授業の一環で行ったバルセロナサイクリングツアー。バルセロナは都市活性化の為に屋外彫刻を大変に巧く使いました。それを核にして回りにアクティビティを発生させるという事を行っていたのですね。そのアイデアの中心人物が実はミケルだったわけです。バルセロナサイクリングツアーでは一日かけてバルセロナ市内中の彫刻を見て回りました。その時は未だ「バルセロナモデル」なんて言葉知らなかったけど、都市活性化にアートを利用するその斬新さに心を打たれたのを覚えています。

その年、最もスキャンダラスだったのが何と言ってもバーバラ・クルーガー(Barbara Kruger)の講義でした。彼女は授業の冒頭で「私は自分の作品や自身については何も話さない」と宣言し、各生徒からの体験談を求めたのです。彼女の作品についての解説や思想を求めてやってきた生徒は猛抗議。しかし彼女はその姿勢を崩そうとはしませんでした。結局、生徒の3分の2が授業を放棄するという事態になりました。ヨーロッパに来て間も無い事もあり、生徒がこのような行動をするのには大変なショックを覚えました。

このような事件は更にありました。ブラジルから来た一人の生徒が論文のプレゼンをビデオプレゼンですると言い出したのです。それに大反発したのが、ラファエロ・モネオの元秘書で建築理論家だったエリゼンダ教授。「論文は遊びじゃないのよ!!!」みたいな感じで大激怒。しかし、結局彼は最終プレゼンをビデオで大成功させ、会場はスタンディング・オーベーションの嵐。そんな中、教授陣のコメント合戦が始まり、マイクは自然とエリゼンダ教授の下へ。彼女は「あなたのプレゼンは素晴らしかったけれど、認める事は出来ない」というような趣旨の事を述べ会場を後にしました。

授業が行われた3ヶ月の間、ここでは書ききれない程のドラマが起こり、その一つ一つが僕の胸の中に鮮明に生き続けています。一つだけ確かな事は「その年のメトロポリスプログラムは活気に溢れていた」という事です。

そんな最高のプログラムはイグナシの死を堺に激変していく事になります。年々、招待教授の数と質が落ち、集まる生徒の質さえも変化していきました。それに反比例するように授業費はうなぎのぼりに。当時の授業料は1年間で日本円にして15万円しなかったと思います。今では80万を超えます。

はっきり言って今のメトロポリスプログラムはイグナシの創ったメトロポリスとは全く別物。質は最低だと思います。このプログラムに参加した者として非常に悲しい事ですが事実だから仕方がありません。

更にコレだけは日本人の皆さんに声を大にして言いたいのですが、スペインで言う「マスター」というのは日本でいう「修士」ではありません。スペインのマスターは学位を取った後に少し勉強する「専門」みたいな感じで扱われます。だから幾らスペインでマスター学位を取ったからといってそれが日本で「修士」学位になるかというとそうはなりません。日本の修士に値するのはドクターコースの中に組み込まれているDEA(Diploma De Estudios Avanzados)という学位です。僕は去年の9月に取りましたが、かなり苦労しました。

今、スペインでは教育課程が見直されていて、基準を全てヨーロッパ規準に合わせようという動きがありますが、そこで認定されたマスターコースには「マスター・オフィシャル」という名前が付く事になっています。それがあると、何処の国に言っても通用する「修士」になるわけですが、そのコースはまだ数が少ないのが実情です。

僕がこの事実を知ったのはスペインに来てマスターを始めて数年たった後でした。僕の場合は別にタイトルに拘るという事は無かったのですが、日本人の中には大変に悔しい思いをした人も居ると聞きます。

もし修士獲得を目指してスペインでマスターコースをしたいという人が居れば、くれぐれも上記の違いに気を付けてください。
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