地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
<< Transport Simulation Systems (TSS):ジャウマ・バルセロ (Jaume Barcelo)とAIMSUN | TOP | 歩行者シュミレーションについて(Pedestrian Simulation) >>
都市化する空港と効率指標としてのアクセッシビリティ
先週、スペインの新聞、ラ・バングアルディア( La Vanguardia)に「空港都市( Aeropolis)」という記事が出ていました。過去、駅や港を中心として都市が発展したように、現在ではその役割を空港が担っているという話から始まって、空港内のアミューズメントパーク化に伴う空港それ自体の都市化といった内容でした。

空港は駅や港と違って必然的に郊外に建設されます。よってそれ自体で完結する事が多く、それ自体が一つの都市と見なされると言う訳ですね。建築の世界ではそんな事、90年代初頭からレム・コールハース(Rem Koolhaas)などによって盛んに議論されてきた所なので取り立てて目新しいという事でもないですけどね。

しかし実際に仕事やプライベートで空港を頻繁に使う僕の経験から言って、空港の都市化よりももっと重要で切実なのが、市街地へのアクセッシビリティの問題だと思うんですね。

それは現代都市が競って自分の所に誘致しようとしているハブ空港になればなるほど、その傾向が強いと思います。つまり空港が大きく多機能になればなるほど、空港内で完結するのではなく、市街地と空港のアクセッシビリティの良し悪しが空港評価に影響力を持ってくると言う事です。何故ならハブになればなるほどトランジットの問題が出てくるからなんですね。

例えば、空港内ショッピングが幾ら充実しているからといったって、空港に3時間釘付けはちょっときつい。そんな時、街まで足を伸ばしてみるかという思いが頭をよぎるけれど、中心街まで1時間とかだと行き帰りに2時間取られてしまって残り1時間。だったら「やめよー」という事になる。しかし中心街まで30分以下なら行き帰りで1時間。残り2時間は十分に遊べるので「じゃ、行くか」という事になる。そしてそれは空港選びに多大なる影響を及ぼします。

実際、僕は上記のような理由でなるべくフランクフルト国際空港(Frankfurt International Airport)を選ぶ事にしています。何故なら以前のエントリで書いたように、ヨーロッパにおいてフランクフルトほど機能効率を考えて創られた空港は他に無いんじゃないかというくらい空港から都市へのアクセッシビリティが良いからです。

フランクフルト国際空港から中心街までは電車で15分。その電車が10分から15分おきに頻繁に運行しています。空港・中心街間の行き帰りに1時間見ておけば十分といったアクセッシビリティの良さです。そうすると当然のようにトランジットの時間を利用して街に繰り出して昼食やコーヒー、街中散策をするといったシナリオが頭に浮かぶ事となります。更に、シュテーデル美術館(Das Stadel)に足を延ばしてフェルメール(Vermeer)の「地理学者(Der Geograph)」を見て来ると言うことも十分に実現可能なシナリオです。(以前、フランクフルトに行った時に正確に時間を計った結果はこちら

これは些細な事のようでいて、実は都市の経済活動においては非常に重要であると言えると思うんですね。空港にお金を落としてもらう事は勿論として、普通なら通り過ぎるだけの客に如何に都市にまで足を運ばせるか?ひいては、如何に都市内でお金を落としていってもらうか?

そのような認識を都市戦略に取り入れ実践しているのがバルセロナ都市戦略です。そこの所に自覚的だからこそ、新しいハブ空港の建設と同時に空港と市街地を結ぶ高速列車の建設を急ピッチで進めている訳です。

更にバルセロナには空港と並ぶもう一つの重要な都市間モビリティの要素、バルセロナ港があります。この空港と港という2つのエレメントがインフラで結ばれた時、都市は多大なる競争力を持つ事となります。(その良い例がアムステルダム)それを知っていたからこそマドリッドは高速列車建設に「うん」と言わなかった訳ですね。

更にバルセロナは現在、22@BCNに見られるように旧工業地帯を知識型社会へ移行させる為の核として戦略的にIT関連企業や文化産業を優先誘致しています。(切り札になっているのは容積率緩和でITやデザイン関係企業が立地する場合には270%まで容積率を緩和する政策を打ち出しています)。

空港とアクセシビリティ、知識型社会への移行という2つの軸の交点により創出されたのが、以前のエントリでも書いたポンペウ・ファブラ大学(Pompeu Fabra University)情報技術学部(Dept. Tecnoloogies de la informacion i les comunicaciones)新棟誘致の例。

知識型社会において、街全体の戦略性を高める為には大学との連携が欠かせないのは言うまでもありません。逆にグローバルに展開する企業や大学にとっては、何処の都市にフィジカルに立地するかという決定に大きな影響を与えるのが都市の快適性。この場合の快適性とは気候や食事のおいしさなどの居住性から他都市へのモビリティやアクセッシビリティをも含んでいます。

このような観点で見た時の「都市に立地したいランキング」がヨーロッパでは良く発表され、それが都市の競争力の指標として語られます。前回発表された時は、一位がロンドン、2位がパリ、3位がフランクフルト、4位がバルセロナ、5位がブルッセルと続いていました。

さて、前述のポンペウ・ファブラ大学の情報技術学部新棟に選ばれたのは旧市街地に立地していたフランカ駅(Estacio de Franca)でした。今までほとんど使われていなかったフランカ駅の屋社を買い取ってそこを学部棟にしちゃったんですね。位置としては旧市街にありながらも海のまん前という好立地。更にその後カタルーニャ州政府とバルセロナ市役所の後押しによって、空港からの直通列車が開通、30分おきに運行し空港まで30分で運んでくれます。

ここで想定されているシナリオはこんな感じ。

IT関連会社の研究員が大学で講義を依頼された時。空港に降り立ち、直通電車で大学棟まで30分で来る。駅を出た所が講義棟なので駅から大学までの移動時間は無し。講義後、目の前のバルセロナ港に面したレストランで海の幸を堪能する。昼食後、歩いて5分の所にある旧市街を散策。飛行機のチェックイン1時間前まで市街地を散策し、大学構内にある駅から30分で空港に到着というシナリオ。

こんなアクセッシビリティの良さが手伝って今ではYahoo研究所(Yahoo Research)Barcelona Mediaといったグローバル企業がこの棟に居住する事となり、その結果この棟では頻繁にインターナショナルな論客を招いてカンファレンスが行われています。

注目すべきなのは、このような都市へのアクセッシビリティを価値観だと認識し、都市が都市戦略を都市計画に反映させ、且つ、世界の企業がそれを競争力と見なしているという事です。前述した新聞に各空港の乗客利用数を指標とした空港ランキングが載っていました。それによると、

1. Hartsfield-Jackson: Atlanta, U.S.: 84.846.639
2. O'Hare International: chicago, U.S.: 77.028.134
3. London Heathrow: London, U.K.: 67.880.753
4. Tokyo Haneda: Tokyo, Japan: 65.810.672
5. LosAngels: Los Angels, U.S.: 61.041.066
6. Dallas-Forth Worth: Dallas, U.S.: 60.226.138
7. Pari, Charles de Gaulle: Paris, France: 56.849.567
8. Fransfurt: Fransfurt, Germany: 52.810.683
9. Pekin Capital: Pekin, China: 48.654.770
10. Denver: Denver, U.S.: 47.325.016
11. McCarran: Las Vegas, U.S.: 46.193.329
12. Amsterdam Schiphol: Amsterdam, Holanda: 46.065.719
13. Madrid Barajas: Madrid, Spain: 45.501.168
14. Hong Kong: Hong Kong, China: 43.857.908
15. John F.Kennedy: N.Y., U.S.: 43.762.282

しかし「何人の人が空港を利用したか」という指標が示す空港の規模だけの指標では空港の利便性はもはや図れない時代が来ているのではないのではしょうか?特に都市間のモビリティを確保する空港を都市発展の要に置く都市戦略上に据えた場合、それを都市との間のアクセッシビリティで測る事が必要となってきていると思います。そのような指標を視野に入れた時、上述のランキングはがらりと変わるはずです。そしてそれこそが現代都市における空港の真の価値を反映していると思います。
| 都市アクセッシビリティ | 23:26 | comments(2) | trackbacks(2) | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
都市のアクセシビリティは超重要ですね、出張族のQuality of Lifeに直結しますし。
(私も以前のエントリーに書きました↓)
http://www.ladolcevita.jp/blog/global/2008/11/quality-of-travelers-life.php

今度、家を出てから離陸までの時間が1時間のシンガポールから、世界の中でも都市アクセスビリティ最悪と思われるロンドンに引っ越します。 すごいストレスたまりそうですが・・・
| la dolce vita | 2009/07/29 6:06 PM |
la dolce vitaさん、こんにちは。
ブログ読ませて頂きました。
アクセッシビリティが生活の質に直結するというのは全く同感です。シンガポールはかなり良いみたいですね。それに比べるとロンドンは確かにちょっと・・・という感じですが。
コレを機に、ブログ時々拝見させて頂きます!

| cruasan | 2009/07/31 5:51 PM |
コメントする









この記事のトラックバックURL
トラックバック機能は終了しました。
トラックバック
-
管理者の承認待ちトラックバックです。
| - | 2008/02/05 2:27 PM |
-
管理者の承認待ちトラックバックです。
| - | 2008/02/06 2:43 PM |