地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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エティエンヌ・カベ(Etienne Cabet)とモントゥリオル(Narcis Monturiol)
1992年にオリンピック選手村として建設された地区に「イカリア(Icaria)」という名の一本の通りが走っています。建築家の間ではこの通りのど真ん中に取り付けられているエンリック・ミラージェス(Enric Miralles)デザインのモニュメントでよく知られている通りです。





地面から大変に力強い木の根っこが生えてグニャっと曲がったそのいでたちは正にミラージェス節全開という感じで結構好きですね。

さてこの「イカリア」という名前なのですが、この名は19世紀のフランス人社会主義者エティエンヌ・カベ(Etienne Cabet)の主著「イカリア旅行記(Travel and Adventures of Lord William Carisdall in Icaria)」に由来しています。

1785年フランスはディジョン(Dijon)の労働者の家庭に生まれたカベは後にイギリスで工場労働者の協同組合を提唱するユートピア社会主義者ロバート・オーエンに出会い、空想的社会主義者フランソワ・マリー・シャルル・フーリエに大変に強い影響を受けました。フーリエが理想とした自給自足が可能な共同体でフリーセックスを基本とする共同生活に。カベは「不平等」こそが社会における諸悪の根源であると考え、徹底した「平等」を説いたんですね。全てが平等の社会。着るものから食べるもの、仕事、住宅全てが平等なその社会では悪が生まれるはずもなく理想郷が生まれるだろうと考えていました。1840年に出版された「イカリア旅行記」の中でカベは、彼の理想とする社会像をオーエンをモデルとしたとされる紳士とカベをモデルとしたと言われている芸術家の対話を通して余す所無く描き出しています。そこでは住宅、衣料、食事など全てのものが「平等」に扱われ国家によってコントロールされています。

その7年後、カベはこの著書に描かれた社会主義的ユートピアを実現するためにイカリア主義者達と共にテキサスへ移住を開始します。しかしながらこの運動は直ぐに失敗に終わり、1856年に失意の内に亡くなってしまいました。

このような経緯を辿った彼の思想は祖国フランスでは殆ど顧みられなかったんですが、意外な地で大変に強い影響を及ぼしその名を残す事となりました。それがカタルーニャでありバルセロナでした。カベはカタルーニャの共和主義的社会主義に大きな影響を与えた人物として知られ、彼の思想は街の大通りの名に今でも刻まれています。そして後にバルセロナの現在の景観に多大なる影響を及ぼす事となります。

このカベの思想のカタルーニャにおける繁殖と生き残りに一役買ったのがカタルーニャでの彼の一番弟子であり潜水艦発明の先駆者として知られるナルシス・モントゥリオル(Narcis Monturiol)という人物でした。(ちなみに世界初の潜水艦はオランダ人のコリネリウス・ヤコブスゾーン・ドレッベル(Cornelius Drebbel)によって実現されました。)

1819年ムントゥリオルはダリ美術館がある事で有名なフィゲラス(Figueres)の漁港で生まれています。



(話は逸れますがカタルーニャ北部にあるこの小さな村に観光客を毎年毎年惹き付けているダリ美術館(Dali Teatre and Museum)はダリ満載という感じでダリ好きには堪らないでしょうね。しかし個人的にはダリ美術館の隣にひっそりとあるダリがデザインしたジュエリーに特化したジュエリー美術館の方が魅力的だったんですが。)

彼が青年期を過ごした1840−50年代のバルセロナでは進歩的自由主義者たちがカベの著作を読みイカリア思想に飛びついた時代だったんですね。平和を説いたカベの思想はモントゥリオルに大変強い影響を与え、バルセロナの他のイカリア主義者達との交友を深める事となります。後に彼らは「イカリアへ行こう」をモットーにイカリア・グループを結成する事になりますが、この中にはカタルーニャ音楽復興のリーダーだったジョセップ・クラベーも含まれていました。

カベの平等思想はモントゥリオルの中で独自の発展を遂げ、科学技術の革新は人類の進歩に寄与しなければならないという信条を形成して行きました。そのような思想の下で、幼い頃から海で働く楽しさと厳しさ、そしてダイバーが当たり前のように海で溺れる姿を目の当たりにしてきた彼にとって、科学技術の粋を集めた潜水艦と技術革新が人類の安全性を高める為に寄与すると考える事はごく自然の事だったのかもしれません。

こうして彼は1857年潜水艦建造に取り掛かり、2年後イクティネウ(Ictineo)と名付けられた全長7メートル、排水量8トンの潜水艦を発表し、バルセロナ港で科学者や議員などを前に公開潜水試験を行いました。



結果は大成功。この潜水艦は現在バルセロナ海洋博物館に保存、展示されています。この成功を受け、彼は1862年からイクティネウ2号(Ictineo II)の建造を始めます。全長17メートル、潜水可能深度30メートル、水中滞在時間7時間半を可能にしたのは、彼の発明した画期的な推進システムと空気供給システムでした。

当時は未だ潜水艦に蒸気機関を載せる事が可能な技術は発達していませんでした。何故なら狭い潜水艦内で蒸気機関を動かせば直ぐに空気を使い果たし艦内は熱でムンムンになってしまったからです。そこで彼は化学反応を利用して熱を起こさせ酸素を供給するシステムを思い付き彼の潜水艦に導入しました。こうして2号は当時世界で最も進んだ潜水艦となったのです。

さて、このモントゥリオルですが1854年にマドリッドで運命的な出会いをする事となります。それがイルデフォンソ・セルダ(Ildefonso Cerda)です。セルダは1854年におきた労働運動解決調停委員としてバルセロナからマドリッドに派遣されていました。同じ頃、労働者代表としてマドリッドに出てきていたのがモントゥリオルでした。1856年にセルダが出版したモノグラフィーの調査には彼との間の人脈が大変に役立っただろうと指摘されている事は既に以前のエントリで書いたとおりです。
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