地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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ルーヴル美術館、滞在記:ルーヴル美術館のもう1つの顔

ここ2週間あまり、パリのルーヴル美術館に滞在していました。

当ブログの読者の皆さんは既にご存知だとは思うのですが、実は僕、2010年以来ずーーーーっと、ルーヴル美術館と緊密なコラボレーションを展開しておりまして、その結果がこちらだったりします↓↓↓

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っていうことを書くと、「えーーー、cruasanって毎日カフェでコーヒーとか飲んで、適当にコメントする人じゃなかったの?」とか、「えーーー、cruasanって、モナリザとか見て「あー、きれいな絵だなー」とかいい加減なこと言ってる人じゃなかったの?」とかいう人達がたくさん出てくるんだけど、いま正にそう思ったそこのあなた、地獄に堕ちてください(笑)。

まあ、でも、当ブログの適当なコメント加減を見ていれば、そう言いたくなるのも分からないでもない、、、かな(笑)。

さて、上に書いたように今回はルーヴル美術館に「滞在」してきた訳なんですが、これはどういうことかと言うと、実は2016年から「ルーヴル美術館リサーチ・パートナー」という役職を頂戴しておりまして、その立場でお仕事をしてきたという訳なんですね。

ということはどういうことか、、、???

そーなんです!なにを隠そうわたくしcruasan、実はルーヴル美術館の「中で働いてる人」っていう分類なんです!

「ええええー、そんなこと可能なの?」とか思ったそこのあなた、はい、人間に不可能はありません(笑)。出来るかどうか、先ずはやってみればいいんです。可能かどうか、聞いてみればいいんです。で、もしダメだったら、それはその時に考えればいいだけの話。

という訳で2010年くらいから何ヶ月かに一度の割合でルーヴル美術館を訪れては館内に滞在しつつ、センサーのセッティングをしたり、位置を変えてみたり、はたまたフィールドワークをしたりということを繰り返してきたのですが、今回の滞在でふと気が付いたことがありました:

「あ、あれ、、、そういえば、ルーヴルについてはブログ記事にしてないな、、、」と。

という訳で今回はズバリ、「ルーヴル美術館の舞台裏について、中の人しか知り得ない情報を書いてしまおう」と、そう考えています。題して、「ルーヴル美術館の舞台裏、潜入リポート」でーす!

パリが誇る世界一の美術館、ルーヴル美術館のシンボルと言えばガラスのピラミッド、その真下が美術館への入り口になっていることは多くの方々が知っている通りだと思うのですが、中で働いている我々スタッフの出入り口が何処にあるのかを知っている人はあまりいないのでは、、、と思います(っていうか、ルーヴルを訪れる日本人の99.9%は観光客なので、そんなこと知らなくても全く問題ないんですけどね)。

我々が美術館へのアクセスに使うのは主に2つ:

1つ目はRivoli通りに面したこの鉄格子を潜ったところ。

この柵を超えてスロープを下って行くと入口に辿り着きます(中に入るにはIDが必要)。

ちなみにこの鉄格子を挟んだ前の通りがフランス政府文化庁(みたいなの)になってて、ルーヴル美術館のアドミニストレーション関連部署は数年前までここの3階に入っていました。そしてもう一つの入り口がこちらです:

ガラスのピラミッドからナポレオン広場のアーチを潜ってSully翼へと抜けて行きます。

↑↑↑ちょうど僕が滞在している期間中はSully翼の中庭にルイヴィトンがパリコレの舞台を作っている最中でした。このガラスの箱の中をモデルさん達が歩く、、、みたいな感じになるらしい。

で、ここを抜けるとカルチェラタン方面へと通じる裏道になっているんだけど、セーヌ川へ出る直前、左手側にひっそりと佇んでいるこの扉こそ、いま僕が働いているオフィスへの通用口となっているんですね。もちろん中へ入る為にはID(フランス警察からの許可書などに基づいたもの)が必要で、入口は厳重な警備がされている&上階へはエレベータでしか上がれない仕組みになっている為、観光客や一般の人達が入るのはほぼ不可能となっています。

←この警備の厳重さ加減には正直ビックリしました。っていうか、かなりひいた(苦笑)。で、この入り口をはいって上階へ登ったところに展開しているのがこの風景:

じゃーん、本邦初公開のルーヴル美術館のオフィスでーす。とっても長—い廊下(笑)。丁度真ん中に位置しているエレベーターから見ても、行き止まりが霞んで見えそうな勢いです。

この長—い廊下の両側に天井の高—い部屋が幾つもくっ付いているのですが、ルーヴルってもともと王様の宮殿だったので、いまの時代の我々(平民)が慣れ親しんでいる部屋割りとはプロポーションが全く違ってですね、、、まあ、なんやかんやと不都合が出て来る訳ですよ。

例えば、ルーヴル美術館は建物自体がユネスコの世界遺産に登録されている為に、部屋の中をいじることがほぼ不可能という状況だったりします。そうすると、壁や天井裏をいじることが出来ない為に、夏は暑いからといってエアコンとかが設置出来ない訳なんですね(苦笑)。

←今年の夏は特に暑かったので、「夏場はどうだった?」って同僚に聞いたら、「仕事どころじゃなかった、、、」と、、、(笑)。そりゃ、そうだろうね!

さて、ルーヴル美術館で働いている我々スタッフには、専用のインフラが用意されていて、例えば、日々の食事なんかはどうしているかというと、ピラミッドの地下に社員食堂みたいなのがあったりするんですね。

ビュッフェ形式なんだけど、これが結構本格的で、こういうところを見ると、「さ、さすが美食の国、、、」とため息をあげざるをえません。で、最も驚くべきがその値段なんだけど、例えば今日のランチで僕が選んだのが、前菜(サラダ+生ハム)、メイン(魚のポワレ+ジャガイモのムース)+デザート(チーズの盛り合わせ)+カフェ+飲み物だったんだけど、そのお値段、なんと3ユーロ(350円)!えええええ、僕の朝食代(コーヒー+クロワッサン)より安い(笑)。

←同僚に聞いたところ、フランスでは会社に社員食堂が併設されている場合、社員の昼食代の何パーセントかを会社が負担しなければならない、、、みたいな法律があるらしい。

←さらに雇用形態(国家公務員、インターンなど)や役職(部長、平社員など)によって、各自が負担しなきゃならない割合が違ってくるらしい。もちろん下にいくほど安くなる仕組み。

←これ、全部同僚に聞いた話。毎日みんなでランチしてたから、フランスの社会保障制度などの大変込み入った話なんかを色々と聞いてしまった。

ランチの話が出たので、今度は朝食のお話を。地下鉄を乗り継ぐこと30分、オフィスに着いてから僕が毎朝一番にやっていること、それが仕事前の一杯のコーヒーです。で、僕のお気に入りのカフェがこちら:

じゃーん!デノン翼の2階に入っているMollienカフェ。このカフェ、一般には毎日9:45分から開いてるんだけど(ルーヴルの開館時間と同じ)、午前中はテラス席は開放されていません(テラス席は12時からです)。

そんな中、ルーヴル職員という特権を活かして9:15分頃に職員専用口から入って、9:30分頃から誰もいないこちらのカフェのテラス席でエスプレッソを楽しむのが何よりの楽しみ。

この風景を眺めながら美味しいコーヒーを飲んでいると、「さあ、今日も頑張るぞ!」という気になります(ボストンでいつも飲んでるアレは、コーヒーじゃないな、、、ということを再確認。なんだかよく分からないけど、「黒い水」、、、かなw)。

ちなみに午後の休憩に僕が良く使っているのが、リシュリュー翼の2階に入ってるこちらのカフェです。

先ほどのMollienカフェと丁度正反対に位置しているこちらのカフェは、ちょっと格式が高いっぽい(きちんとしたテーブルセットが並んでる室内のカフェ)なので、いつもは午後のコーヒー用に使ってたんだけど、先日たまたま日本からのお客さんと一緒にこちらでランチしてたら、その中の一人のかたが:

「あ、あれ、このカフェ、アンジェリーナじゃないですか!」

とか言われてて、、、もちろん僕は何も知らず、、、「え、アンジェリーナってなんですか?」って感じだったんだけど、どうやらモンブラン発祥のお店ということで日本ではかなり有名なんだとか。という訳で、良い機会だったので幾つか頼んでみることに:

で、食べてみた感じ、おおおおお、こ、これは、、、「大変美味しゅうございます!」ちなみに僕が試した中では、エクレアがとっても美味しかった。

で、ここからが今日の本題です(笑)。

今回の滞在ではセンサーをちょっといじくってセッティングを少し変え、その上で館内全域にてフィールドワークを実施したんだけど、パソコンを片手に歩き回る僕の姿はかなり異様だったことと想像します。

げんに何人かの来館者の方には、「あ、あなた、一体なにやってるの?」と声を掛けられ、見回りのスタッフには散々怪しまれました(もちろん、IDを見せれば納得してもらえる訳なんですが)。

こんなに怪しまれながらも、僕はこんなことを一体何の為にやっているのかというと、それはズバリ、「館内を訪れる来館者の方々の美術鑑賞の環境を少しでも良くしよう」と、博物館内の環境データを必死になって集めている訳なんですね。

逆にいうとこれは、ルーヴル美術館の来館者環境がそれほど悪化している、、、ということの裏返しでもあります。ルーヴル美術館に一度でも足を運んだことがあるかたはお解りだとは思うのですが、年間来場者数が800万人を超え、1日の来場者数が2万人を超える名実ともに世界No.1の博物館ですから、館内の混雑度といったら、我々の想像を遥かに超えている訳なんですよ。例えばこちら:

言わずと知れたモナリザなんだけど、この作品の前には朝から晩まで常に5重、6重の人垣が出来ていて、美術鑑賞なんてレベルのお話では全くない訳です。

ミロのビーナスの状況も酷いし、サモトラケのニケなんてもう「アイドルのコンサートか!」と思うくらいだったりします(苦笑)。この様な環境を少しでも改善する為、あらゆるところからビックデータを取得して解析してみたり、AIを使ってパターン抽出をしてみたりと、我々は日々模索している訳なんです。

で、実はここにはもう1つ大きな問題が潜んでいて、それが博物館や美術作品のメンテナンスをどうするか、、、という問題だったりするんですね。これだけ多くの来館者の方々が美術館に押し寄せてきてしまうと、個々の作品を修復するとか、少し劣化してきた壁の色を塗り替えるとか、その様な日々のメンテナンス作業さえ困難になってきてしまう訳です。

そこでルーヴルが去年あたりから導入したのが、各セクションを曜日ごとに閉鎖するっていうアイデアだったりするのですが、これはこれで厄介な問題を引き起こしつつあります。

例えば、現在ルーヴル美術館では水曜日がエジプト部門、木曜日はフランス部門の一部を閉鎖しているのですが、つい先日も僕が展示室の椅子に座っていたら、僕が付けているバッチ(ID)を見た来館者のかたが:

「あのー、ちょっとお伺いしたいんですが、せっかくナポレオンの部屋を見に来たのに、今日はお休みって、どういうことですか?」

とか聞かれる訳ですよ。

←うーん、難しい問題です、、、としか言いようがないかな。。。

さて、これら曜日ごとの閉鎖に加えて、ルーヴル美術館が館内全体でメンテナンスを行う日があります。それが毎週火曜日です。

その日ばかりは、いつもは混み合っているガラスのピラミッドの周りにも殆ど人がおらず、非常に穏やかな雰囲気に包まれているんですね。そんななか、館内はどうなっているかというと、実は館内スタッフの動きが一番慌ただしくなるのが火曜日だったりします。

なぜか?

なぜなら週に1日しかないこの日を使って1週間の汚れを落としたり、壊れた箇所を修繕したり、はたまた作品の修復をしたりと、普段はおっとりしているスタッフの皆さんも、この日ばかりは真剣そのものだったりするからです。

かくいう僕も、来館者の皆さんがいないこの日のうちにやらなければならないこと、この日じゃなきゃ出来ないことが山ほどあり、火曜日ばかりは朝からゆっくりとコーヒーを飲んでる場合じゃあなかったりします。

↑↑↑彫刻の間に置かれている植栽に水をあげています。

こんな天地がひっくり返るほど大忙しの火曜日なのですが、我々スタッフにとって一番幸せで、「ここで働いていて良かった」と、そう思える瞬間を迎えられるのも火曜日だったりします。その理由がこちらです:

そう、誰もいない博物館。美術作品を独り占め出来る時間、、、我々スタッフにとってこれほど嬉しいひと時はありません。普段は来館者で溢れ返ってるイタリア・ギャラリーも火曜日だけはこんな風景が広がっています:

この回廊はもともと、王様の息子たちが狩りの練習などをして遊んでいた回廊だったらしいのですが、いまではレオナルド・ダ・ヴィンチやラファエロなど、ルーヴル美術館の中でも超人気スポットとなっています。普段はお祭り騒ぎのサモトラケのニケも火曜日だけはこんな感じ:

誰もいません。ガラスのピラミッドのデザインと共に、この美術館の改修を担当したI.M.ペイ氏は、「サモトラケのニケという作品を空間的にどうドラマチックに持っていくか、フォーカスしていくかに最も心を注いだ」と、後にそう語っています。まさにその真意が垣間見える瞬間です。

普段は来館者の姿で視線が遮られてしまうダル・ギャラリーからサモトラケのニケを見通してみます。

荘厳な大階段の頂上に、あたかも天上界からの光が指すかのような、そんな演出が大成功しているように見受けられます。そして今度はこちらです:

ルーヴル美術館で1,2を争う人気作品、ミロのビーナスです。ピラミッドから入ってSully翼を抜けエジプト部門のスフィンクス、そしてそこから続くギリシャ彫刻部門は館内でも最も混雑する回廊として知られていて、そのクライマックスにあるのがこのミロのビーナスだったりするんですね(上の写真)。それが火曜日にはこうなります:

静寂が支配する空間です。「美術鑑賞ってこういう風にするべきなんだよなー」という当たり前のことを思い出させてくれます。そして来館者の姿がないからこそ、ミロのビーナスのベストショットを見つけることも出来ちゃったりします:

来館者がいては絶対に撮れない一枚、アテネ象を始めとする数々のギリシャ彫刻の隙間から、あちら側にミロのビーナスを見通すパースペクティブです。

そして、そして、ルーブル美術館と言えば勿論こちら:

モナリザです。ルーヴルの代名詞といっても過言ではないモナリザの部屋は、人垣が5重、6重に出来てしまっていて、絵画を鑑賞する、しないどころの話ではありません。

これはちょっと、、、ひどい(上の写真)。しかしこの状況が火曜日にはこうなります:

誰もいません。もうちょっと近づいてみます:

多分、この瞬間、僕は世界で一番幸せなひと時を過ごしている人間、、、とそう言うことが出来るかもしれません。モナリザを独り占めしているのですから。

昨日まではあんなに小さかった絵画が、いまはこんなに近くにあります。そして写真ではなく本物をこんなに間近で見られる幸運。筆使いの1つ1つまで、はっきりと見分けられるほど、近くに寄ってじっくりと鑑賞できる喜び。

この風景を一体何人の日本人が見ることが出来たのだろう。

芸術鑑賞とは、一人一人が作品と真に向かい合う時間のことを指すのだと、今回の滞在ではっきりと再確認することが出来ました。そして僕たちがやっていること、日々格闘していることは、一人でも多くの来館者の方々に、このような素晴らしい美術体験、博物館体験をしてもらい、一人でも多くの方に美術や芸術を通して心豊かになってもらうこと、幸せになってもらうことなのです。

| 大学・研究 | 05:52 | comments(4) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
こんにちは!
私も先々週パリに行ってました!あまりにお天気が良かったのでほとんど散歩で時間を費やしましたけど(^^; ルーブルの前を何度通ったことか。

ルーブル美術館の舞台裏、とても興味深く読ませていただきました。年に数回パリに行くのですが、ルーブルは久しく訪れてなかったので、次回また行ってみようと思います。

いつも興味深い記事をありがとうございます。今後も更新楽しみにしています。
| sara | 2018/10/22 8:07 AM |
いつも楽しく読ませていただいています。
残念ながら、この記事を読んでルーブルに行く気が失せてしまいました。
こんなに混雑していれば、自宅でcruasanさんがブログに載せられたニケやビーナスの写真を眺めている方がよほど充実した美術鑑賞になりそうです。素晴らしいですね。ため息が出ました。
| さくらんぼ | 2018/10/23 10:40 PM |
ルーブル美術館の舞台裏を見せていただいて、ほんとに貴重な記事をありがとうございました。
cruasanさんのような美術館を支えるお仕事をされている方々のお陰で成り立っているのがよく分かりました。
ちょうど9月末に10年以上振りにルーブル美術館に行きまして、モナリザへの鑑賞距離に驚き、これは戦いだなぁと思いました^^;
ただあの距離と人だかりの中からでも感じることができるほど、モナリザは輝いていました。

あとオルセー美術館の大時計前のカフェのインテリアが今風過ぎて。。ちょっと驚いてしまいました。でもそれも時代の流れなのでしょうか。
| yuka_azul | 2018/10/26 5:59 PM |
素晴らしい記事を有難うございました。
あのニケの空間を独り占めとはただただ羨ましいの一言です。
| mogutan | 2018/10/29 12:22 AM |
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