地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
<< TBSの「セカイはいま、バルセロナ「観光客減らせ!」のワケ」について思うこと。 | TOP |
日本では報道されないバルセロナの同時多発テロの背景について

先週木曜日(08/17/2017)、観光客で溢れるバルセロナの中心街ランブラス通りにワゴン車が突っ込み、死者13人、負傷者100人以上を出す大惨事が起こってしまいました。その数時間後、今度はバルセロナから車で1時間ほど南下したところにあるリゾート地、カンブリス市(Cambrils)にて同様の事案が発生し、警察は5人の容疑者を射殺。また、バルセロナから内陸へ車で1時間ほど行ったところにあるビック市(Vic)にて関連すると思われるワゴン車が見付かっており、警察は今回の事件を周到に準備されたテロと断定し捜査を進めています。今回の事件は、2004年に191人が犠牲となってしまったマドリードの列車爆破テロ以降、スペインで最悪の犠牲者を出す結果となってしまいました(地中海ブログ:東さんの「SNS直接民主制」とかマニュエル・カステル(Manuel Castells)のMovilizacionとか)。

事件の詳細については日本でも各種メディアが取り上げているので、そちらを見て頂くこととして、当ブログではそこには出てこない情報や、僕の観点から見た今回の事件の背景などを少しメモ代わりに書き留めておこうと思います。

先ず僕がこの第一報を聞いたのは、ボストン現地時間の木曜日のお昼頃のこと、TwitterにLa Vanguardia紙の緊急ツイートが流れてきた時でした。その時はMITの研究室にいて、とあるプロジェクトのミーティング中だったのですが、この事件の異常性に直ぐに気が付き、そのミーティング中もずっとEl Pais紙とLa Vanguardia紙のホームページを眺めていたんですね。

その時点では(つまりは事件発生から30分後)、La Vanguardia紙は「テロリストによるもの」という報道をし、El Pais紙は「テロかどうかはいまだ不明」としていました。個人的に(そして多くのスペイン在住の知識人達もそうしていると思うのですが)、新聞記事の質としてはEl Pais紙の方が他のどの新聞よりも圧倒的に上な為、El Pais紙の報道状況を見た上で、その事件の詳細を判断する様にしています。

事件当初の報道では、犠牲者は2人であり負傷者も少数という感じだったのですが、時間が経つにつれ、その数がどんどんと増えていき、最終的に13人にまで膨れ上がりました。また事件の動画が次々とアップされるに従い、今回の事件がかなり大規模であることなどが分かってきたんですね(日本とは違い、スペインでは死者や負傷者などもモザイクを入れることなく新聞社のサイトにアップされます)。またこの時点では、「ボケリア市場で銃撃戦があった」だとか、「犯人は人質をとって近くのバルに立てこもり中」だとか、とくかく様々な憶測や情報が錯綜していた状況でした。

これらを一番最初に耳にした時、僕が思ったことは、「何かおかしいな」という違和感でした。というのも、「なぜこの時期にテロ?しかもランブラスで?」と思ったからです。

実はバルセロナでは先々週から空港のセキュリティ会社が断続的なストを敢行していて、先週の月曜日からはそのストが24時間体制で行われていたんですね。当然バルセロナ空港は大混乱に陥り、その緊急対策としてスペイン警察が多数補助に入っているという状況でした。つまりは「通常よりも多くの警察がバルセロナ近郊に待機している」という状況だった訳です。勿論、このことはテロリスト達も承知していた訳で、「そんな状況でテロなんてやるかな?」と思ったんですね。

空港がストをしている関係で、街中(特にランブラスなど)には通常よりも多くの観光客が集まりやすい、、、ということは確かに言えるかもしれなくて、そうするとテロリスト達にとっては好都合(より多くの人を殺傷することがテロの目的の一つだとするならば)だったかもしれないけれど、ランブラス大通りには通常モードでも十分過ぎるほどの観光客が集まっているので、そこに少しぐらい観光客が増えたとしても、そんなに影響力は変わらないんじゃないか、、、と思います。

それよりも、バルセロナ近郊に通常よりも多くの警察が配置されているということの危険性の方が、彼らにとってはより重要なのではないか、、、つまりはそんな状況の中で、「なぜ彼らは今この時期にテロをしなければならなかったのか?」、別の言葉で言うならば、「彼らには今テロを実行しなければならない、何か別の理由があったのではないか?」、というのが、僕が最初に感じた違和感でした。

そしてもう一点。なぜ犯人達はランブラスを狙ったのか?確かにランブラスはバルセロナの観光名所の一つであり、上述した通り、特別イベントの有無に関わらず、常時「歩行者でごった返している」ということを考えると、テロの標的としてはこの上ないとは思います。しかし、それだったらサグラダファミリアの方が効果的なのでは、、、とか思ったりする訳です。メディアの見出し的にも「バルセロナのランブラス大通りでテロ」よりも、「サグラダファミリアでテロ」の方がインパクトがありますからね。

更に不可解だったのは、その後犯人達が逃げたルートが、北ではなく南だったという点について。事件発生から数時間後には犯行グループの一人が使用した車が、バルセロナ郊外のSant Just Desvern(ボフィールのWalden7の前あたり)で見つかっています。ここから分かることは、犯人グループは南へ逃げようとしていたという事実です。普通、バルセロナでテロなどを起こしたら、逃げ道としては南ではなく北を選ぶのが妥当なんじゃないかなー。確かにアンダルシアからモロッコへという道もあるだろうけど、フランス国境を経てヨーロッパへという経路の方が逃げ延びる可能性があるのでは、、、とか思うんですね。

これら3点が僕がこの事件を聞いた時に瞬時に感じた違和感でした。そしてそれらの違和感は、今日(日曜日)のEl Pais紙とLa Vanguardia紙を通した報道を見るに付け、色々と腑に落ちる状況となってきています。

先ず今回の事件の主犯格は、な、なんと、Ripollのイマーム(イスラム教の指導者の意味)だという報道がされています。カタルーニャ、もしくはスペインの歴史を少しでもかじったことがある人なら、「Ripollのイマームかー」と言う感じでしょうか。。。

彼の表の顔は、近所にも評判が良いごくごく普通のイマーム。しかしその裏の顔は、イスラム過激派に属していた人物だったそうです。その彼が、地元の若者数名を洗脳し、テロリストへと仕立て上げていったのでは、、、、というのが現在の警察の見方です。今日の新聞にはそれら若者の家族のインタビュー記事などが掲載されていたのですが、家族は全く何も知らなかったこと、そんな仕草さえも全く見せなかったことなどが強調されています。

そしてそのイマームは度々南の方に旅行に行っていたらしく、カタルーニャとバレンシアの国境付近に位置する人口1万人弱の小さな村、アルカナー村の一角にあるアパートを1年ほど前から占拠していて、そこが今回のテロリスト達のアジトだったということが分かってきました(テロが起こるまで、そこを占拠しているのが一体誰なのかは誰も知らなかったし、そんなことは村の住民も気にもしていなかったそうです)。彼らはそこを爆弾などを作る実験室として使っていたそうなのですが、実は今週水曜日の夜にそのアパートが原因不明のガス爆発により吹っ飛んでいて、2人が死亡、1人が重傷を負っています。死亡した内の1人が、上述したリポイのイマームだと見られていて、警察がいまDNA鑑定などをしている真っ最中です。また、このイマームはブルッセルなどにも度々旅行に行ってることなどから、そこにも何らかの繋がりがあるのではと見られています。

ここまで分かってくると、冒頭で僕が感じた「違和感」にもかなりのヒントが示された気がします。

先ず、「警察がウヨウヨしているこの時期に、なぜテロリスト達はテロを実行しなければならかったのか?」

それは、水曜日の夜の時点で、主犯格の男(つまりはリポイのイマーム)が不意の事故により死んでしまったからです。この事故はテロで使うはずだった爆弾を作っていて誤って爆発したと見られています。この事故によりリーダーを失ってしまったこと、そして時間が経てば経つほど、その爆発の詳細を警察が調べることにより、一年前から着々と準備していたテロとの繋がりがバレてしまうのでは、、、という焦り。

上述した様に今回のテロは前々から周到に準備されたものだったことは間違い無いのですが、それが直前になって、「そうせざるを得なかった」という事情がどうもある様に思えるんですね。つまり彼らはいまこの時点でテロを起こさずにはいられず、それが計画性のない現場のドタバタ感に現れていると読むことが出来るのです。

そしてこのことが2点目の疑問にも答えを与えてくれます。「なぜ犯行グループはサグラダファミリアを狙わなかったのか?」。現時点で報道されている記事を読むと、犯行グループは「サグラダファミリアを当初からテロの標的にしていた」らしいのですが、水曜日に起きた事故によって彼らは仕掛けるはずだった爆弾を失っています。それが最終的にサグラダファミリアでの爆撃がなかった理由だということが分かってきました。

そして最後の疑問、「なぜ彼らは北ではなく南へ逃げたのか?」について。それには2つの可能性があって、1つ目は彼らの本拠地が南にあったからという点、もう1つは(上述した様に)「彼らの犯行はよく考えられたものではなく、行き当たりばったり感満載」だという点です。

先ずバルセロナから市内を通らずに逃げる為には山側の環状線か海岸沿いの環状線を通って高速に乗るしかありません。しかし今回の事件が起こってからの警察の動きは素晴らしく、既に両環状線は封鎖されていました。

ランブラスを迷走した犯人はその後ワゴン車を乗り捨て、近所をたまたま走っていた車を止めて運転手を殺害し車を奪い逃走。Diagonal大通りを北上したのですが、そこを検問していた地元警察に尋問され掛かったところを強引に突破。近郊の町(Sant Just Desvern)で車を乗り捨て逃走しています。つまり犯人はDiagonalから南へ、もしくは内陸部へ逃げようと計ったのですが、この逃走ルートは果たして最適だったのか?という疑問です。これも「事前にあまり計画されず、行き当たりばったりで行われた」と考えれば合点がいきます。

今回のテロでは、100名以上にも及ぶ被害者・負傷者が出てしまい、上述した様に2004年のマドリード以来の大惨事になってしまった訳なのですが、それでも様々な幸運が重なり、それは最小限に食い止められた、、、と言うことが出来るかと思います。当初の予定通り、サグラダファミリアが爆破されていれば、もっと多くの犠牲者が出ていたことは容易に想像出来ますし、今回の事件に爆弾が使われなかったことも不幸中の幸いだったと言えます。

それにも増して素晴らしかったのは、カタルーニャ警察とスペイン警察の迅速な対応です。また、日本では全く報道されていないし、その存在さえ知られていませんが、バスクの警察、Ertzaintzaが今回の事件に多大なる貢献をしてくれたことが大変大きかったと思われます。バスク警察のテロに対する知識と経験は確実にワールドクラスです(地中海ブログ:速報:バスク地方の独立を目指す民族組織ETAがテロ活動を永久に停止すると発表)。なんせ、長年ETAと戦ってきた実績がありますからね。そのバスク警察との連携により、今回の事件がかなり早い段階で解決できたことは強調してもし過ぎることはありません。

これが現時点で分かっていること、そして日本では報道されていない今回の事件の背景です。

昨日(土曜日)、スペイン国王夫妻がバルセロナを訪れ、テロ現場や負傷者を訪問している姿が映し出されていました。また、今日(日曜日)はサグラダファミリアでミサが行われ、来週土曜日には「我々はテロには屈しない」という意味合いの、「なにも恐れない(No tinc por)」を合言葉に、市内を練り歩く大行進が予定されています。

そう、これがバルセロナの強さであり、バルセロナの底力なのです。 バルセロナの1日も早い復興を心から願っています。

追記1:

今回の事件でランブラスで犠牲になってしまった観光客は世界35カ国から来ていて、それ自体がバルセロナという街が如何にコスモポリタンな都市に成長したかと言うことを表していると思うのですが、その一方で、地元ではカタルーニャ州政府がカタラン人の犠牲者をスペイン人の犠牲者と別枠でカウントしていることが問題となっています。これはつまり、「カタルーニャは独立国家だ」と言いたいんでしょうが、この様な緊急事態に政治を持ち出すのはどうかな、、、と個人的には思います。もう一つちなみに、上述の空港のストですが、セキュリティ会社は「今回のテロで、早く家に帰りたい被害者の方々もいるだろうことを考えると、我々はストなどしている場合ではなくなった」という理由から、空港は通常モードに戻っています。

追記2:
今日の新聞(08/21/2017)によると、犯人はボケリア市場付近でワゴン車を乗り捨て、そこからZona Universitatまで歩いて移動。そこで停車中だった車の運転手を殺害して車を奪い逃走、、、ということでした。

追記3:
月曜日(08/21/2017)の16:10時頃、バルセロナから内陸へ1時間ほど行った所にある村、Subiratsにて、爆弾らしきものを腰に巻き、銃を持った犯人らしき男を地域住民が発見、警察に通報。17:05時頃、警察に対して発砲を始めた為、犯人を射殺したそうです。

| - | 07:00 | comments(8) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
初めてのコメントです。
おことわりと感謝を申し上げたいのです。
今回のブログでは日本で報道されていないことが書かれていて参考になります。いずれにしてもカタルーニャ、バルセロナは先日のテロ事件で大変な状況かとお見舞い申し上げます。
さて、昨日付で拙ブログ『思泳雑記』で「バルセロナで美の喜びと出会うーモンタネールのモデルニスモ建築ー」という記事(2014年12月に訪れたバルセロナの写真)をアップしました。当該記事では、モンタネールを検索していてヒットした貴殿の『地中海ブログ』で学んだことを引用をまじえて言及させていただきました。貴殿の論旨を正確に理解しないままで、おんぶとダッコ状態で書いてしまっているのではないかと懸念しています。
このことについておことわりさせていただくとともに、私の遠くなったバルセロナの印象を形あるものにさせてもらったことに深く感謝しております。
あのバルセロナで貴殿のような方が活躍されているのですね。
今後とも『地中海ブログ』を愛読させていただきたいと思っています。
ありがとうございました。


| パンテオンの穴 | 2017/08/21 2:32 PM |
第2のカンブリステロの速報を知ったのがABcruasanさんのtwitterでした。
そして今日ブログで詳しい様子を知ることが出来ました。
最近は、大規模のテロより少人数での犯行。実行犯も一般市民に溶け込み…
テロを未然に察知する事、防ぐことがより困難になってきているようです。
一昔前、日本人観光客の憧れだったヨーロッパの都市が狙われている・・・
解決策が見当たらない争いはいつまで続くのか…心が痛みます。

今、ボストンなんですね。
| MINA | 2017/08/21 2:47 PM |
人類史を振り返るとキリスト教徒たちによる異教徒の虐殺や強制的な改宗が目立つのに、現代社会でテロというとイスラム教が登場するのは不思議です。しかも、キリスト教の進出と貧困とが連動しているようにも見える。

アマゾン奥地に暮らすピダハンは、直接経験したこと意外信じないといいます。文明人たる私たちが報道を信じるというのはどういうことなのでしょうか。
| 匿名希望 | 2017/08/21 8:24 PM |
× なんせ、長年EATと戦ってきた実績が
○ なんせ、長年ETAと戦ってきた実績が
| タイポ | 2017/08/22 2:40 AM |
パンテオンの穴さん、ご丁寧にご連絡どうもありがとうございます。
ブログ記事、拝見させて頂きましたー。
すっごく分かりやすく書かれていて、写真も綺麗で素晴らしいと思いました。
ムンタネールはガウディほど一般には知られていませんが、バルセロナをはじめとするカタルーニャ地方には彼の素晴らしい建築が数多く残されています。

これを機に、一人でも多くの日本人の方々にその存在を知って頂けることを心から願っています。

重ね重ね、今回はご丁寧にどうもありがとうございました。
これからも宜しくお願致します。
| cruasan | 2017/08/24 5:11 AM |
MINAさん、コメントありがとうございます。
ほんと、どこで何が起こるかさっぱり分からない状況となってきていますね。
一見、全く普通に見える人たちが、或る日突然テロリストに変貌する、、、という所にある種の不気味さを感じます。
人が死ぬ、殺されるということが人ごとではなく、身近なものになってきている、、、と強く思わされる事件でした。
| cruasan | 2017/08/24 5:15 AM |
極名希望さん、コメントありがとうございます。
アマゾン奥地に住む民族のお話、非常に参考になりました。
ありがとうございました。
| cruasan | 2017/08/24 5:17 AM |
タイポさん、ご指摘ありがとうございます。
早速訂正させて頂きました。
| cruasan | 2017/08/24 5:18 AM |
コメントする