地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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皇室御用達の鯉料理の老舗、大黒屋その2
前回のエントリで書いたように、今年の年末年始は日本で過ごしていました(地中海ブログ:新年あけましておめでとうございます2015)。

ヨーロッパの元旦というのは、基本的にどの都市でも1月1日の0時と同時に「これでもか!」というくらい花火を打ち上げまくって始まります。どれくらい打ち上げるのかというと、それこそ「サグラダファミリア、壊れるんじゃないの?」っていうくらい打ち上げるんですね(笑)。



そんなヨーロッパにおける元旦の思い出として記憶に新しい所では、3年くらい前に過ごしたパリでのこと、、、「まあ、一応パリに来てるんだし、シャンゼリゼ通りでも見に行ってみるか」ということで、午前0時の花火に合わせて外出したら、もう凄い人、人、人!そんな中、「若者グループがあっちの方で騒いでるなー」とか思ってたら、そのうち警官隊と揉み合いになり、あろうことか催涙弾を投げつける始末!その近辺にいた人みんな涙目(苦笑)。僕もその時、生まれて始めて催涙弾とか受けたんだけど、眼がショボショボするわ、鼻水は出るわで、散々な年明けだったことを今でも覚えています。

さて、我がcruasan家は一年を通して「何月何日はココへ行く!」みたいな年中行事が目白押しで、それこそ物心つかない頃から「無理矢理」色んな所へ連れて行かれてたんだけど(苦笑)、何を隠そう、そんな年中行事が最も集中しているのが年末年始なんですね。

どんな年中行事か?
←ズバリ、食べ三昧の毎日です(笑)。



一月一日のなだ万(日本料理の老舗)のお正月ランチに始まり、1月4日の下呂温泉にいたるまで、もう食べまくり。特に1月2日に訪れる多度大社(三重県)へのお参りと、その麓にある鯉料理のお店(大黒屋)での会食は、それこそ僕が生まれる前から何十年と続けている伝統ですらあります。



 「馬が崖を掛け上がれるかどうか?」で、その年の豊穣を占うとされる「上げ馬神事」で有名な多度大社なんだけど、その麓には歴史の重みを感じさせるのに十分な風景が未だに残っています。そんな旧街道を歩いて行くこと10分、見えてきました、お馬さんが駆け上がる崖が:



これ、駆け上がるの大変だよなー。僕が馬なら絶対無理!(笑)。で、こちらがそのお馬さん:



今日は元旦なのでお正月っぽい服を着ています。白馬だし、服が青くて高貴っぽいので、暴れん坊将軍が乗ってる馬っぽいなー(笑)。目の前には角切りにされた人参が載ったお皿が置いてあって、100円払うと一皿あげることが出来ちゃいます。このお馬さんに人参をあげて、おみくじをひいたり、抹茶を飲んだりしていると、そろそろランチの時間に、、、。という訳で、先ほどの街道をもう一度歩いていくと表れてくるのが今回目指すべき建築です:



じゃーん、堂々たる門構えの鯉料理の名店、大黒屋の登場〜。創業280年というこの大黒屋は、「皇室御用達の料亭」として知られているんですね。ただ‥‥このお店の前を通り掛かった人達が、このお店を「鯉料理のレストラン」と認識し、鯉を求めて入ってくる‥‥とは到底思えません。お品書きも無いし、何よりこの立派過ぎる門構えが、このお店の前を通る人々の足を惹き止め、門の中へと誘い込みながらも、全く関係の無い人達をはじき返す力強さを兼ね備えているからです。



このような表現は東西の違いこそあれ、ファサードが波打つ事により、人々を惹き寄せては打ち返すバロック建築の最高峰、サン・カルリーノ・クワットロ・フォンターネ教会に通じるところがあるのかもしれません(地中海ブログ:サン・カルリーノ・アッレ・クアットロ・フォンターネ教会(San Carlino alle Quattro Fontane)から学ぶ歴史の重み:現地へ行ってみて始めて分かる事は山程ある



もっと言っちゃうと、この門構えをチラッと見ただけでも、この建築、ひいてはこのお店が徒者ではないことが分かってしまうんですね。この門から中庭空間へは視線が一直線に抜けてるんだけど、この空間では来館者をエントランスまでダイレクトに進ませるのではなく、効果的に石畳を使う事によって、「わざわざ」右寄りに進行方向を曲げているのが見て取れるからです。

また、真っ正面に見える風景(=エントランスの空間構成)を一度に全て見せるのではなく、中央左寄りに「敢えて」樹を植える事により、あちら側の風景を遮りながらも、クライマックス的空間に対する来館者の期待感を高めてもいるのです。



この辺のアプローチ空間の妙については以前のエントリでも書いた気がするんだけど、先日訪れた京都にある村野藤吾の佳水園、もしくはスペインとポルトガルの国境付近に位置するアルヴァロ・シザ設計によるヴィアナ・ド・カストロ図書館にも通じる所があるかと思います(地中海ブログ:アルヴァロ・シザの建築:ヴィアナ・ド・カストロ図書館その1:外部空間(アプローチ)について)。



様々な文化圏における表象文化の比較という観点で見ていくと、自ずと「日本建築の特徴」みたいなものが浮かび上がってくると思うんだけど、それは「建築が完全に開く」のではなく、かと言って「完全に閉じてしまう」のでもない「曖昧な境界」とそれを可能にする皮膜、そしてその様な皮膜が何重にも折り重なる事によって襞の様になり、その中に存在する「奥」を大切に守っていることだったりするのです。

 「奥」とは日本文化の核に位置するアイデアであり、我々の日常生活の至る所に見られる事象でもあります(槙文彦さんが詳しく書かれています)。ふとデパートなどで買い物をした際、包み紙を開けると箱が現れ、その箱も包装紙に包まれていて、それを取り除いて箱を開けると、更に包装紙が現れ、「いつになっても中身に辿り着けない」‥‥みたいな(笑)。もしくは神社などで売られている「お守り」も「奥」が存在する事によって成り立っているものですね。

あー、また脱線してしまった‥‥。
と、とりあえず中へと入って行きます。



真っ赤な絨毯があちら側へと我々を誘う、エントランス空間の登場〜。



右手側にはお正月らしい立派なお飾りが我々を出迎えてくれます。ここにこの真っ赤な絨毯があるのと無いのとでは大違いで、あちら側に見える中庭の緑色を「補色として」活き活きさせるという仕掛けでもあるんですね。この赤絨毯に誘われるがままにココで靴を脱ぎ、奥へと入って行くと広がっているのがこの風景:



前日に降った雪がちらほらと残っている、大変美しい日本庭園です。もうホント、何十年も前から変わらない風景がココには広がっています。



このお庭を眺めながら左手側に進んで行くと、その突き当たりには「待合室」があるんだけど、その待合室は皇族の方々が来た時にしか開けないということを以前聞いたことがあります。しかしですね、それこそ20年くらい前のこと、たまたま僕達の部屋がまだ準備中だった為、その開かずの待合室に通されたことが一度だけありました。



個人的に歴史の年号を覚えたりするのは苦手なんだけど、一度見た風景などはまるで写真にパシャっと撮った様に鮮明に覚えることが出来る僕の記憶によると、大変良く設えられたそのお部屋の真ん中には戦国時代の甲冑が飾られ、木を基調とした大変質の高い空間が広がっていた事を今でも鮮明に覚えています。



さて、この料亭は中庭空間を中心に構成されていて、ほぼ全てのお部屋からこの素晴らしい庭を眺めて食事を楽しむことが出来るのですが、この長―い廊下を歩いて行き、さっき入ってきた赤絨毯が敷いてあるエントランス空間を反対側から見返してみます:



狸の後ろ姿(笑)。裏側からみると、先ほど通ってきたエントランス空間の構成が「如何に直線的ではないか」がよーく見て取れるかと思います。



ほら、真っ赤な絨毯に対して、その脇に植えられている樹があちら側へ視線を抜けるのを邪魔してるでしょ?



cruasan家はこの中庭の真ん中付近の部屋をいつも取ってあるのですが(上の写真に見える障子のお部屋)、昔は一番奥の部屋、ちょうど狸の裏側くらいの部屋を予約してあって、料理を楽しみながらも下駄を履いて中庭を歩き回るのが、この料亭で食事をする1つの楽しみでした。でも、最近みんな歳をとってきた為に、中庭を歩き回るよりは、お手洗いが近い部屋がいいらしい(苦笑)。 ←ということで、中庭の真ん中付近の部屋になったそうです。

そんなこんなでお庭を堪能していたら、先付けが運ばれてきました:



毎年大変楽しみにしている鯉のすり身の揚げ団子と頬肉です。この鯉のすり身の揚げ団子が絶品で、小さい頃はこればかり注文してたんだけど、いまにして思えば、そんな融通が利いたのも古き良き時代だったのかな‥‥と、そう思います。



続いて出てきたのが、鯉の鱗の酢の物と、鱗の唐揚げです。



鯉の鱗の唐揚げなんて、このお店以外では見たことがありません。サクサクで美味しい〜。



そしてそして、出てきました!このお店に来たら絶対に味わって頂きたい一品!白みそ仕立ての鯉こく!!いままで色んな所で鯉こくを食べてきたんだけど、これほど味わい深い鯉こくは本当に珍しいと思います。



で、こちらが鯉の洗い。このお店では酢味噌ではなく、ワサビ醤油で頂きます。

普通、鯉というと独特の臭みがあるものなんだけど、創業280年を誇るこのお店の知恵と経験から、群馬から仕入れた鯉を屋敷内にある池に餌無しの状態で2ヶ月ものあいだ泳がすことによって、鯉独特の臭みをさっぱりと消しながらも、身を引き締めているのだとか。上の写真で身が縮れているのが分かるかと思うんだけど、これは新鮮な魚の身を洗った場合にしか出ない現象なんですね。つまり最高のクオリティだという事です。



続いては鯉の塩焼き。レモンと酢を少しだけたらして食べると、もう最高。そして去年から料理のラインナップに追加されたのがこちら:



あばらのミソ焼き‥‥かな(?)
←いや、このお店、お品書きもなければ、特に何も説明してくれないので、自分が何を食べているのか、イマイチ良く分からないのです(笑)。そしてそして、この料亭のメイン料理がこちら:



鯉の素揚げの和風あんかけ風の登場〜。鯉が丸ごと一匹揚げてあり、そこへ野菜炒めあんかけを載せた一品!お、美味し過ぎる〜。

最後は勿論、ご飯とお味噌汁なんだけど、この鯉のあんかけが美味し過ぎて、ご飯の写真撮るの、忘れたー(笑)。

満足、大満足です。

この料亭の良い所は、料理の質もさることながら、それらが運ばれて来る間に中庭へ出て行って庭園の風景を思う存分楽しめる所かな、、、と思います。そしてこういう体験から僕が学んだこと、それは「食事を楽しむということ」は、なにも料理の味だけでなく、そこから見える風景、音、雰囲気など、我々の五感全てを使った総合芸術なのだということです。



大変美味しゅうございました!
星、三つです!!!
| 地球の食べ歩き方 | 10:18 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
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