地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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ルーヴル美術館、来館者調査/分析:学術論文第一弾、出ました!


数年前から僕が独自に進めている、ルーヴル美術館(パリ)とのコレボレーション、その第一弾となる学術論文(ウェブ版)が、(やっと!)公開されました!!それに伴い、ルーヴル美術館とMITの協力の下、プロジェクトのwebページも創ったので、こちらも公開してみました。



今回掲載された論文のタイトルは「An analysis of visitors’ behavior in The Louvre Museum: a study using Bluetooth data:(邦訳)Bluetoothデータを用いた、ルーヴル美術館における来館者調査/分析」、掲載雑誌はEnvironment and Planning Bという、建築/都市計画/IT系ではトップを走る国際ジャーナルです。

年間来館者数世界一を誇る大規模美術館の代表格、ルーヴル美術館内において、来館者はいったい「どの様な作品を訪れているのか?」、「どの様な経路を通っているのか?」、はたまた「どの作品に何分くらい費やしているのか?」など、来館者の館内行動データが収集されたり分析されたりする事は非常に稀でした。

何故か?

何故ならそれらのデータを収集/分析する為には、「一人一人の来館者を個別にトラッキングする」、もしくは「来館者に個別インタビューやアンケートを行う」という様な手法に限られていた為に、莫大な調査費(人件費)が掛かるという理由などから敬遠されがちだったんですね。 ←少し考えてみれば分かることなのですが、ルーヴルの様な大規模美術館において、一人の来館者を入口から出口まで調査しようと思ったら、一人につき何時間もついて回らなければならなくなってしまうのです。



「この様な事態を克服し、なるべく人の手に頼らずに来館者の行動データを大規模スケールで収集する方法は無いものか‥‥?」

これが第一に掲げた問題提議でした(←論文の主軸となるリサーチ・クエスチョンとは違います)。そんな背景から僕が提案したのが、Bluetoothセンサーを用いたデータ収集法であり、この手法を用いる事によって、今までは非常に困難だった大規模美術館内における来館者の行動データを自動収集することが可能となったのです。更に、それら収集されたデータを定量的に解析する事によって、これまでは知られていなかった来館者の行動パターンを抽出し、「それら来館者の行動が如何に空間構造に影響を受けているか」、それを掘り下げることを試みました。 ←ちなみに複雑系ネットワーク分析のスペシャリスト集団、バラバシ・ラボとの恊働も実現しました。



思えばルーヴル美術館とのコラボレーションを始めたのは2010年春のこと。それまではバルセロナ市を中心とした都市内のモビリティを専門に扱っていたのですが(地中海ブログ:バルセロナのバス路線変更プロジェクト担当してたけど、何か質問ある?バルセロナの都市形態を最大限活かした都市モビリティ計画、地中海ブログ:グラシア地区祭り:バルセロナの歩行者空間プロジェクトの責任者だったけど、何か質問ある?)、「そろそろ建築内部の歩行者分析もしてみたいなー」と思っていた所、知り合い経由でルーヴル美術館側からアプローチが!



正直言って、最初はあまり乗り気じゃ無かったんだけど、紆余曲折を経てこのオファーを受ける事に。それからというもの、研究計画を練り、自分でセンサーを創り出し、ルーヴル美術館の休館日(主に火曜日)にそれらセンサーを要所要所に配置し、数ヶ月に渡ってデータを取り続け、取得したデータを整理し、適切なコードを書きつつ統計的に解析し、更にはそれらの結果をきちんとした論文に纏める‥‥という一連の作業を通して、ようやく自分がやりたい事に一歩近づけた様な気がします。

とりあえず今日は、バルセロナでクロワッサンが一番美味しいと噂のカフェ、ESCRIBAにて、コーヒーとクロワッサンで一人で勝手に乾杯しよう!(←僕、ビール飲めないので(笑))。



論文概要:
都市観光が隆盛を極める中、各都市の美術館/博物館には毎日大量の観光客が押し寄せ、空間的なキャパシティーを凌駕する「超混雑化」という現象を引き起こしている。特定の作品に来館者が集中する高密度化は、来館者の博物館体験を劣化させる原因となる事がしばしば指摘されており、それらを緩和しようと様々な施策が試みられているのだが、それらを有効且つ適切に施行する為には、詳細で広範な事前調査が必要不可欠となっている。 本論文は、大規模美術館の代表格であるルーヴル美術館における来館者の行動分析を目的としている。特に、来館者の主要作品間の遷移移動とその確率分布、そして空間配置との間の相関分析を目的としている。データ収集法としては、来館者のプライバシーに十分配慮しながら設置されたBluetoothセンサーを用いる事が適切だと判断された。数ヶ月間に渡るデータ収集期間を経て、数百万というデータが集められ、それら大規模データを統計的に解析。一人一人の来館者が群衆となることによって引き起こされる館内混雑化のメカニズムが明らかにされたのである。 この論文が明らかにした所によると、短時間滞在者(1時間30分以下の滞在)と長時間滞在者(6時間以上)の館内行動は、我々が想像するよりも遥かに類似しているということが指し示された。長時間滞在者は、その滞在時間の長さから、複雑で多様なルートを選択すると推測されたのだが、実際には長時間滞在者も短時間滞在者も殆ど同じルートを通っていたのである。つまる所、長時間滞在者は只単に、短時間滞在者が滞在中に訪れる作品の数をホンの少し増やしたに過ぎなかったのだ。結果、両タイプの滞在者が通るルートは重複する事が殆どであり、それらの類似性/非類似性こそが、ルーヴル美術館内における来館者の不均等な空間配分の原因になっていたのである。これらの新たな知見は、今後の来館者の博物館体験の質を高める為のキーになると考えられている。

Abstract. Museums often suffer from so-called ‘hypercongestion’, wherein the number of visitors exceeds the capacity of the physical space of the museum. This can potentially be detrimental to the quality of visitors’ experiences, through disturbance by the behavior and presence of other visitors. Although this situation can be mitigated by managing visitors’ flow between spaces, a detailed analysis of visitor movement is required to realize fully and apply a proper solution to the problem. In this paper we analyze visitors’ sequential movements, the spatial layout, and the relationship between them in a largescale art museum―The Louvre Museum―using anonymized data collected through noninvasive Bluetooth sensors. This enables us to unveil some features of visitor behavior and spatial impact that shed some light on the mechanisms of museum overcrowding. The analysis reveals that the visiting styles of short-stay and long-stay visitors are not as significantly different as one might expect. Both types of visitors tend to visit a similar number of key locations in the museum while the longer-stay visitors just tend to do so more time extensively. In addition, we reveal that some ways of exploring the museum appear frequently for both types of visitors, although long-stay visitors might be expected to diversify much more, given the greater time spent in the museum. We suggest that these similarities and dissimilarities make for an uneven distribution of the number of visitors in the museum space. The findings increase the understanding of the unknown behaviors of visitors, which is key to improving the museum’s environment and visitor experience.
| 大学・研究 | 03:05 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
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