地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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多度大社から歩いて3分の所にある皇室御用達の鯉料理の老舗、大黒屋
年末から年始に掛けて、実はひっそりと日本に帰っていました。今回の帰国は1週間程度だったんだけど、そんな短い間にも下呂温泉に行ったり、お節料理を食べたりと、久しぶりに典型的な日本のお正月を過ごす事が出来たのは嬉しかったかな。



また、日本で紅白歌合戦をリアルタイムで見る事が出来たのは(バルセロナを出て以来)14年ぶりのことで、「え、紅白ってこんなに面白かったっけ?」という、良い意味における「驚き」を受けたのは個人的には嬉しい誤算でした。「あまちゃんを見てないと絶対に分からない演出」、つまりは「日本人だったら朝の連ドラくらい当然見てるよね?」っていうNHKの強気の姿勢とか、かなり笑った。もっと言っちゃうと、今年の紅白がここまで盛り上がったのは、(一時的、そしてかなり独特な文脈だったとは言え)「日本国民全般に認知され得る国民歌の様なものが戻ってきた」ということが大きいと思います。



正にそれが「潮騒のメモリー」であり、それを核とした演出(ユイちゃんが東京に行けたこと等)だったんだけど、その様な文脈をみんなが共有出来ていたからこそ、あそこまで盛り上がった訳であり‥‥潮騒のメモリーと言う曲は、過去の記憶を継ぎ接ぎにする事で実現した歌であり、これは「失われた未来論」に位置づけることが出来て‥‥と、今回の紅白を巡る現象について語り出せばキリが無くなるので、それはまた別の機会に。



さて、僕の家族は「毎年○月○日にはココに行く!」みたいな恒例行事を幾つも持っていて、僕も物心つく前から色々な所へ「無理矢理」連れて行かされてたんだけど(笑)、その内の1つが今日紹介する鯉料理の老舗、大黒屋なんですね。毎年1月2日は多度大社にお参りに行ってから、この料亭で出される鯉料理に舌鼓を打つというのが、それこそ僕が生まれる前から何十年間も続けられているcruasan家の恒例行事なのです。



「多度大社‥‥何それ?」という人でも、馬が崖を駆け上がる動画を眼にしたことがある人は結構多いのでは無いでしょうか?そう、多度大社とは「上げ馬神事」で有名な、あの多度大社のことなのです。



‥‥毎年ここに来る度に思うんだけど、「こんな直角の崖を上るなんて、馬も大変だなー」‥‥と。崖の上には、真っ白なお馬さんがいて、いつも美味しそうに人参をムシャムシャと頬張っています(笑)。



このお馬さんを横目に見つつ、おみくじを引いて甘酒を飲みながら、昔ながらの街並みが残る参道を歩いていきます。歩くこと3分、見えてきました目指すべき建築が:



じゃーん!創業280年という歴史を誇る鯉料理の老舗、大黒屋さんの堂々たる門構えです(今回は雨が降っていた為に良い写真が撮れなかったので、下記の解説には以前撮った写真を使います)。



見上げると、門の上には大黒様の姿が。



‥‥この門構えをチラッと見ただけでも、もう既にこのお店が徒者ではないことが分かるかと思うんだけど‥‥。と言うのもですね、この門から中庭へは一直線に視線が貫いているのですが、来館者をそこまでダイレクトに進ませるのではなく、石畳を使いながら「わざわざ」右寄りに進行方向を曲げているのが見て取れるんですね。



また、真っ正面に見える風景を一度に全て見せるのではなく、中央左寄りに「敢えて」樹を植えることにより、あちら側の風景を遮りながらクライマックス的空間に対する来館者の期待感を高めているのです。



この様なアプローチ空間の妙は、去年の夏に訪れた村野藤吾の佳水園、もしくはスペインとポルトガルの国境付近に位置するアルヴァロ・シザ設計によるヴィアナ・ド・カステロ図書館にも通ずる所があるかと思います(地中海ブログ:アルヴァロ・シザの建築:ヴィアナ・ド・カステロ図書館(Viana do Castelo)その2:内部空間編:パノラミックな風景が売りの敷地においてパノラミックな風景を見せないという選択肢)。

また、この威風堂々とした門構えのデザインは、このお店の前を通る人々の足を惹き止め、門の中へと誘い込みながらも、全く関係のない人々をはじき返す強靭さをも兼ね備えています。



この様な表現は(ファサードを波打たせながら)訪れる人々を惹き寄せては打ち返すというバロック建築の最高峰、サン・カルリーノ・アッレ・クアットロ・フォンターネ教会にも通じる所があるのかも知れません(地中海ブログ:サン・カルリーノ・アッレ・クアットロ・フォンターネ教会(San Carlino alle Quattro Fontane)から学ぶ歴史の重み:現地へ行ってみて初めて分かる事は山程ある)。

様々な文化圏における表象文化の比較という観点で見ていくと、自ずと「日本建築の特徴」みたいなものが浮かび上がってくると思うんだけど、それは「建築が完全に開く」のではなく、かと言って「完全に閉じてしまう」のでもない「曖昧な境界」とそれを可能とする皮膜、そしてその様な皮膜が何重にも折り重なる事によって襞の様になり、その中に存在する「奥」を大切に守っているのです。

「奥」とは日本文化の核に位置するアイデアであり、我々の日常生活の至る所に見られる事象でもあります(槙文彦さんが詳しく書かれています)。ふとデパートなどで買い物をした際、包み紙を開けると箱が現れ、その箱も包装紙に包まれていて、それを取り除いて箱を開けると、更に包装紙が現れ、「いつになっても中身に辿り着けない」‥‥みたいな(笑)。もしくは神社などで売られている「お守り」も「奥」が存在する事によって成り立っているものですね。



そんな事を思いつつ、一番外側に位置する先程の門を潜り、エントランス空間へとアプローチして行ってみます。くねくねとした石畳を通り過ぎると現れるのがコチラです:



靴を脱ぐ為の大きな大きな沓脱ぎ石。高さといい、少しくぼんだ感じといい、この空間に素晴らしくマッチしています。そしてふと眼を上げるとこの風景:



床に置かれた真っ赤な絨毯が素晴らしい。この色、そしてこの長さ。この絨毯がココにあるのと無いのとでは大違いで、この真っ赤な絨毯があるからこそ、あちら側に見えている日本庭園の緑が「これでもか!」と映えてくる訳です。



僕は昔から歴史の年号などを覚えるのは苦手だったんだけど、空間的な記憶力だけは抜群で、何年前だろうが、何十年前だろうが、一度行った場所や空間の詳細を殆ど忘れる事はなく、壁の色や家具の配置に至るまで詳細に覚えていることが出来ます。そんな僕の記憶を辿っていくと、このエントランス空間を形作っている石畳や屋根の形状は勿論のこと、この真っ赤な絨毯の配置などは僕の物心付いた頃から殆ど変わっていない気がします。堂々とした空間展開、そして格式の高さは「さすが皇室御用達!」という感じでしょうか(上の写真はお正月に撮ったものなのですが、大変立派なお飾りを見る事が出来ます)。

さて、ここで靴を脱ぎ、スリッパに履き替えると眼に飛び込んで来るのがこの風景です:



じゃーん!大きな池を中心とした、大変見事な日本庭園の登場です。ホテルや旅館ではなく、食事をする為だけの料亭で、ここまで見事な庭園はなかなかお目に掛かれるものではありません。



見下ろせば鯉が気持ちよーく泳いでいる姿が見えます。



この庭園を囲む様にして個室が展開してるんだけど、何十年も変わらない渡り廊下なんかも素晴らしく趣があるなー:



以前はこの廊下の一番奥に出入り口があって、そこから庭へアプローチ出来る様になっていた為に、その直ぐ右隣の部屋を予約していました:



小ちゃい頃は、廊下を挟んだ反対側のお部屋をよく覗き見してたものだけど、そっちのお部屋からは、これまた見事な裏庭が見えたりしちゃいます。



次の料理が運ばれてくる間を縫いつつ、大きな下駄を履いて広い庭を散策するのがこのお店に来る1つの楽しみだったんだけど、最近はみんな歳になってきた為に、あまり歩き回りたくないもんだから(笑)、出来るだけ入り口に近いこちらの部屋を取っています:



この料亭は、1つの家族に1つの部屋を割り振ってくれて、基本的に「何時間居ても良い」という、近年では大変珍しくゆったりと食事を楽しむ事が出来るシステムになっているんですね。



さて、お料理が運ばれてくる前に我々を出迎えてくるのが、この地方の名物、多度マメ(黄粉と蜜を練ったものに大豆が包まれているというもの)です。独特の食感と絶妙な甘さが素晴らしい!これを味わいながら世間話をしていると、先付けが運ばれてきます:



先ずは鯉のすり身の揚げ団子と頬肉。



このすり身の団子が本当に美味しくて、こればっかり注文していたという時期もありました(笑)。それこそ幾つも幾つも注文してたと思うんだけど、今思えばそんなわがまま良く聞いてくれたな‥‥と(笑)。そういう融通が利いたのも、古き良き時代という事だったのでしょうか。続いて出てきたのがコチラです:



鯉の鱗の唐揚げ。カリカリです。そしてお次ぎは鱗の酢の物の登場〜:



こんな感じで、このお店では鯉の全ての部位を様々な形で楽しませてくれるんですね。ここまで食べ尽してくれるなら、鯉も成仏してくれるだろうと思います。



続いては鯉の子供の甘露煮。頭からしっぽまで丸ごと食べられます。そして南蛮漬け。



と、ここで出てきました!このお店に来たら絶対に味わって頂きたい一品!



白みそ仕立ての鯉こくです。素晴らしくコクがあって味わい深い一品となっています。今まで色んな所で鯉こくを食べてきたけど、このお店の鯉こくが一番美味しいかな。そしてそして、来ました、このお店自慢の一品!



鯉の洗いの登場〜。このお店では酢味噌ではなく、ワサビ醤油で頂きます。



普通の身と尾に近い部分が出されるのですが、シコシコとしていて全く臭みはありません。よーく見ると、身が反っていて少し縮れているのが分かるかと思うんだけど、これは本当に新鮮な活きた魚の身を洗った場合にしか出ない現象なんですね(←どうでもいいマメ知識)。この鯉の洗いを食べる為だけにココに来ても良いと思える、そんな素晴らしいクオリティとなっていると思います。

ちなみにこのお店では、群馬から仕入れた鯉を、餌無しの状態で屋敷内の池で2ヶ月間泳がせる事によって川魚独特の臭みを消しながら身を引き締めた上でお客さんに出しているそうです。そしてこの洗いに続くのがこちら:



鯉の塩焼き!塩味だけでもいけるけど、ここにレモンや酢を少し加えるともう絶品!鮭などとは又ひと味もふた味も違った、何とも言えない味わいが広がります。そして鯉の煮付けも:



真ん中に見えるのは鯉の卵なのですが、大変上品なお味に仕上がっていると思います。



こんな感じの鯉料理が次から次へと出てくるんだけど、比較的ゆっくりと出てくるので、その間に庭へ出掛けて行って、庭園の風景を楽しむ事が出来ちゃう所がこのお店の醍醐味!やはり「食事を楽しむ」とは、料理の味もさる事ながら、そこから見える景色、音、そして雰囲気など、我々の5感全てを駆使して楽しむ総合芸術だと僕は思います。

そしてそして、このお店のメイン料理がコチラです:



鯉の素揚げの和風あんかけ風の登場〜。鯉が丸ごと一匹揚げてあり、そこに野菜炒めあんかけを載せた一品。



鯉の身が一口サイズに切ってあって凄く食べ易い。そして見た目ほど辛く無く、ご飯がすすむ、すすむ!

満足、大満足です!

上述した様に、僕は生まれた時からこの料亭(=絶品料理もさる事ながら、滅多にお目に掛かる事が出来ない質を伴った日本庭園と日本建築)へ毎年1月2日に訪れるという生活を続けてきました。もしかしたら、この様な素晴らしい建築に小さな頃から触れてきたこと、その様な空間に身を置きながら、そこに展開する空間のプロポーションや色使い、更には空間構成などを知らず知らずの内に体験してきたことが、現在の僕の建築的な感覚の基礎となっているのかも知れません。



更に言うならば、この様な体験は、現在の僕の趣味となっている「食べ歩き」、ひいては「食事とは、そこで提供される料理の味だけではなく、その場の雰囲気などを含めた総合芸術なのである」という考え方や、コンビニやファーストフード全盛期の現代において、一日掛けてわざわざ美味しい料理を楽しみに行くという行為を、何の迷いも無く素直に受け入れる素地を育んだのだと思います。

だからこそ、お昼のランチに2―3時間も掛けてゆったりと食事をする、バルセロナを中心とした地中海の社会文化にすんなりと溶け込む事が出来たとも言えるのです。



素晴らしい日本庭園を眺めながら鯉料理に舌鼓を打つ事が出来る鯉料理の老舗、大黒屋。大変おいしゅうございました!星、三つです!!
| 地球の食べ歩き方 | 16:03 | comments(3) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
この店は趣が深かったです。
多度大社は風の神さまで、金属加工氏族が祭ったものでしょう。

ところで、以前ネットでみた記憶があるバスク地方(世界三大料理らしい)の地域通貨についての記事がみつからず・・一度滅んだバスクの言葉や文化だったのに、武装独立運動からどうして自治政府樹立なのかも不思議です。

お暇な時によろしくお願いします。
日本を救うにはバスクでのような地域通貨しかないのではという印象を持ったのですが、詳しい内容はほとんど失念を・・
| 道産子詩人pikki | 2014/02/25 10:30 PM |
道産子詩人pikkiさん、はじめまして、こんにちは。コメントありがとうございます。

うーん、バスク地方の地域通貨に関しては書いた記憶がありません。地域通貨関連で以前書いたのは、カタルーニャ州にあるタラゴナの記事です:

http://blog.archiphoto.info/?eid=1125460

なにはともあれ、僕も地域通貨には大変な可能性を感じております。
| cruasan | 2014/03/03 4:20 AM |
今回のコースはいくらのコースだったか教えていただけますか。
また、オススメのコース等ありましたら教えていただけると嬉しいです。
ドイツからの友人と訪れたいと思っています。(20歳)
| けんたろ | 2016/03/16 8:49 PM |
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