地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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カタラン・ボールト(Boveda Catalana)について:ムンクニティによるタラッサ(Terrassa)の科学技術博物館
バルセロナから電車で40分ほど行った所にある小さな町、タラッサ(Terrassa)に行って来ました。カタルーニャ地方に伝わる伝統的工法、カタランボールトで創られた建築の中でも傑作中の傑作、リュイス・ムンクニティ・パレリィアダ(Lluis Muncunill Parellada)による科学技術博物館(Museo de la Ciencia y la Tecnica)を見る為なんですね。



事の始まりは先々週の半ばに遡るんだけど、Twitterの方で「この建築、すごくない!?」みたいなツイートがあり、気になったので見てみたら、夏前にこちらの新聞でも話題になってたカタランボールト建築じゃないですかー!


(上記の写真はLa Vangurdia紙より)
で、よく見たら後ろに映ってるのはFabra i Boat!‥‥ここ数年、バルセロナ市は既存建築のリノベーションに物凄く積極的で、売春やドラックの温床となっていた旧紡績工場に目を付け、新しいプログラムを創り上げた上で再生し、「その地区の活性化の起爆剤にする」という事を実施してきています。



今回話題に上がったこの建築は、そんな感じで蘇った建築の敷地内(Fabra i Boat)に建てられた屋外施設なんですね。装い新たに蘇ったFabra i Boatは、その広大なスペースをアーティストやベンチャー企業やらに貸し出す事によって、この地区(Sant Andreu)に新たな息吹を吹き込む事に成功しています。



‥‥19世紀当時、ヨーロッパの周辺部の小都市でしかなかったバルセロナは、産業革命の中心地だったマンチェスターを「都市モデル」として目指し、見事産業革命に成功した結果、「スペインのマンチェスター」という異名をとるまでに成長しました。そして脱工業化時代の現在、都市として疲弊しまくったマンチェスターが、逆に今度はバルセロナを「都市モデル(=バルセロナモデル)」として目指しているというのは皮肉としか言いようがありません。



では「何故バルセロナにこの様な過去の遺産が多く残っているのか?」、ひいては「何故バルセロナがこの様な脱工業社会への脱皮に成功したのか?」という事については以前書いた通りです(地中海ブログ:パン屋さんのパン窯は何故残っているのか?という問題は、もしかしたらバルセロナの旧工場跡地再生計画を通した都市再活性化と通ずる所があるのかも、とか思ったりして)。

一言でいうと「偶然」‥‥かな(笑)?でもまあ、「運も実力のうち」って言うし、何よりその様な「与えられた偶然」からきちんと都市再生にまで持っていった(政治的)手腕は評価してもいいのでは?というのが僕の立場です。

そんなこんなでTwitterの方で盛り上がってしまい、「この建築、今度見て来ます。ばっちり写真も撮ってきます。乞うご期待!」みたいな事を宣言しちゃったものだから、行かざるを得ない状況に‥‥(というか、こういう言い訳でもないとなかなか建築を見に行く時間が作れないので、こういう状況を提供してくれた方々に感謝!)。という訳で週末を利用して行って来たんだけど、現地に来てみたら驚愕の事実判明!


(上記の写真はLa Vangurdia紙より)
な、何とこの素晴らしい建築、仮設だったらしく現在は撤去されて跡形も無くなっていたのです!ガーン!そ、そうなんだー。つい先月まではあったそうなんだけど、一足遅かった!うーん、非常に残念!この日はカタランボールトを見る気満々だったので、どうにも建築的欲求が収まらず‥‥。



直ぐ近くにあるホセ・ルイ・セルト設計の集合住宅を見に行ったけど(セルトについてはこちら:地中海ブログ:オープンハウス in バルセロナ(48 OPEN HOUSE BCN)その3:ホセ・ルイ・セルト(Josep Lluis Sert)のパリ万博スペイン共和国館)、やっぱりそれでも何か不満が残る‥‥(ちなみにこの集合住宅も最近リノベーションされて、現在では事前予約すれば内部見学も可になっています)。



「どうしたものかなー?」と考え抜いた挙げ句、「そうだ!カタランボールトの最高峰、タラッサ(Terrassa)にある科学博物館を見に行こう!」と決意し、日を改めて行って来たという訳なのです。



(上述した様に)タラッサという街はバルセロナから電車に乗って40分ほど行った所にある人口20万人程度の小さな街なのですが、この街の起源はローマ時代に遡り、昔から毛織物産業が盛んで、(街としての)規模は小さいながらも大変裕福な街として知られています。その頃の繁栄を今に伝えるかの様に、街中には多くのモデルニズム建築が残されているんですね。



実はですね、僕はこのタラッサという街とは大変深い関わりを持っていて、と言うのもこの街には前ユネスコ事務総長だったフェデリコ・マヨール・サラゴサ氏の肝入りで創設されたUNESCO Chairなる機関があり、バルセロナ市役所に勤める前はここで働いていた時期があったからです。



その時は勿論、月曜から金曜まで毎日の様に通ってたんだけど、働きに来てる時は観光なんてする時間は全く無かったが故に、今まで観光らしい観光はした事が無く‥‥と言う訳でとりあえず、「市内地図などの観光資料を貰いに行こう!」と思い立ち、市役所に行ったら偶然カタルーニャ工科大学タラッサ校の学長さんにバッタリ!

「あれー、cruasan君じゃないかー。久しぶりだね。元気だった?なに、なに、観光してるの?じゃあ、市役所の中も見て行きなよー。」

みたいな(笑)。そう、実はこの街、小さい上に公的機関で働いてた日本人が居なかったもんだから、市役所とかその関連施設に行くと知り合いだらけなんですよねー(笑)。という訳で普段は公開されてない市役所の議会室などを見せてもらえる事に:



この市役所、あまり知られてないんだけど実はムンクニリィによってリノベーションが施されていて、会議室の天井なんかは結構面白いデザインになっていると思います:



ちなみに世間一般ではムンクニリィという建築家は、旧紡績工場を住宅に改修したMasia Freixaを手掛けた事で認知されてるかな。



「あー、なんか今日はラッキーだな」くらいの勢いで、イヨイヨ目指すべき建築へ。



科学技術博物館はタラッサの中心街近く、バルセロナからの電車が到着する駅から歩いて10分程度の所に位置しています。先ずはレセプションで入場料(3.5ユーロ)を払い中へ入るとそこに展開しているのがこの風景:



‥‥一瞬時が止まる‥‥そんな衝撃をもたらしてくれる建築にはそう滅多にお目に掛かれるもんじゃあないんだけど、ここに展開している風景は明らかにその一種だと、そう僕の5感が激しく訴えかけてきます。



何処までも広がっていく連続アーチ。



そんな連続アーチと、屋根の開口から入り込む自然光が創り出す空間の妙。



こんな、奇跡の空間を実現しているのが、カタルーニャ地方が世界に誇る技術、カタランボールトという建築工法なのです。



4センチ薄のレンガ造を積み上げていく事によって、アーチからアーチへと力を伝え、この様な大空間を可能にしているんですね。



もっと詳しく言うと、大小2つのボールトが鋸の歯の様に並べられ、それによって大変不思議で美しい起伏を屋根に与えています。その起伏をもう1つの軸から見るとこんな感じ:



そう、コチラ側にはコチラ側でもう1つの丸みが創り出されていて、この建築の屋根はこの様なX軸、Y軸という両軸に曲面が使用され、それが互いに混じり合う事によって非常に複雑なかたちを可能にしているのです。



さて、そんな大屋根アーチなんだけど、実はですね、それが無限に折り重なっている風景を上から見る事が出来ちゃうというのがこの博物館の1つの醍醐味になっているんですね。



さっき通って来たレセプションの2階部分がレストランになってるんだけど、そこに上ってテラスへ出ると現れるのがこの風景:



じゃーん!絶景かな、絶景かな!



この無限に続くかの様な屋根の風景。これが本当に見た事も無い様な、そんな風景を創り出しています。そしてこれが夜になるとまた全く違った姿を現します:



これ、凄く無いですか!本当にこの世のものとは思えない、そんな風景です。中に入ってみると、これまた昼間とは全く違った風景が展開していました:



各展示の照明の度合いによってその光がヴォールド天井に反射し密度の違いを生み出しています。つまり活動の密度の違いにより、この無限空間に部分的に違った風景が展開されているのです。全くの偶然なんだけど、とある展示の紫色の光が天井に反射している光景は、僕の心にル・トロネの風景を思い出させてくれました:



あの大聖堂の右側に設置された大きな大きなステンドグラス、その紫色のステンドグラスから大聖堂の中に入り込む紫色の光、本当に神憑っていた光でした(地中海ブログ:プロヴァンス旅行その4:ル・トロネ修道院(Abbaye du Thoronet)の窓に見る神業的デザイン;地中海ブログ:プロヴァンス旅行その5:ル・トロネ修道院(Abbaye du Thoronet)の回廊に見る光について)。この様な密度の違いは上から見たときの風景にも反映されていました:



ほら、屋根全体の中で光が強い所と弱い所があるでしょ?

この工場が出来た時、この天井というのは労働者の手元を照らす為に「安定した均質な光」が必要とされていたのだと思います。だから北側から光を採ってるんだけど、それが100年の時を経て博物館に生まれ変わり、そのプログラムが変わった事によってこの天井にこの様な密度の違いが生まれ、それが鮮やかな風景を創り出し、「観光」という我々の時代に沿った建築になろうとはムンクニティも夢にも思って無かったに違いありません。

久しぶりに、心が震える建築に出逢ってしまい大満足です!

追記:カタランボールトに非常に感動してしまったので、関連情報を少し載せておきます。ムンクニティによる科学博物館と並んでカタランボールトの極地と言えばやはりコチラでしょうか:



ポンペウファブラ大学の図書館です。元々は貯水池だった所をリノベーションして現在は図書館として使われています(地中海ブログ:世界一美しい図書館:ポンペウ・ファブラ大学(Universitat Pompeu Fabra)図書館の一般立ち入り禁止エリアに入ってきた)。そしてもう1つ、カタランボールトとはあまり関係無いんだけど、スペイン建築の特徴の1つである(と僕が勝手に思っている)、構造を全面に押し出し、革新的な表現にまで昇華させた建築がコチラです:



エドゥアルド・トロハがマドリードにデザインした競馬場です(地中海ブログ:エドゥアルド・トロハの傑作、サルスエラ競馬場(Hipodromo de la Zarzuela)その2:軽い建築の究極形の1つがここにある)。この軒先、そしてこの技術!



追記その2: 脱線したついでにもう1つ追加情報を載せておくと、この博物館の2階部分にはレストランが入ってて、そこの手作りソーセージが絶品だった:



14年くらいバルセロナに住んでるけど、こんなに美味しいソーセージを食べたのは初めてかも?っていうくらいの美味!聞いてみた所、お肉の中にカラッと揚げた茄子のチップと、ヤギのチーズを混ぜてあるのだとか。大変美味しゅうございます!!

JUGEMテーマ:アート・デザイン
| 建築 | 03:54 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
突然ですいません。先月からバルセロナの設計事務所に1年間留学で来たものです。圧倒的なcruasanさんのサイトの情報量に感動です。いろいろと参考として楽しみに見させていただきます。
| naoya | 2013/12/05 5:43 AM |
Naoyaさん、コメントありがとうございます。

バルセロナを中心とするカタルーニャ地方、そしてスペインの社会文化の魅力は「多様性」であり、北と南、東と西で全く違う顔を持った都市が姿を現します。そして我々日本人にとって、それらの多くは大変魅力的であり、本や写真で見ているだけでは決して伝わらない「何か」に支えられていると僕は思います。

1年間の留学、是非楽しんでください。

これからも宜しくお願いします。
| cruasan | 2013/12/12 3:25 AM |
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