地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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アルヴァロ・シザの建築:ヴィアナ・ド・カステロ図書館(Viana do Castelo)その2:内部空間編:パノラミックな風景が売りの敷地においてパノラミックな風景を見せないという選択肢
JUGEMテーマ:アート・デザイン
アルヴァロ・シザの建築:ヴィアナ・ド・カステロ図書館(Viana do Castelo)その1:外部空間(アプローチ)編の続きです。



素晴らしいアプローチ空間を堪能した後は、いよいよ中へと入って行きます。我々を出迎えてくれるのは、これまたシザの建築言語で溢れ返ったエントランス空間:



入り口を入った直ぐの所にはカフェが設えられていて、天井にはシザがガリシア美術センターで用いた「逆さまになった机」が(地中海ブログ:ガリシア旅行その6:アルヴァロ・シザの建築:ガリシア美術センター(Centro Gallego de Arte Contemporaneo):複雑な空間構成の中に隠された驚く程シンプルな原理)、左手奥の方には不思議な光で照らし出された大階段がチラチラ見え隠れしています。



この様な「光の質の違い」によって来館者を(自然と)進行方向に導くデザイン力は素晴らしいとしか言いようがありません。と言う訳で、誘われるがままに階段を上っていってみます:



左手上方には横一直線に大きな大きな窓が取られていて、階段を上るにつれてそこから外界の風景が徐々に見えてくるんだけど、丁度階段を上り切った所がこの窓の終わりに位置している為、「風景が全開に見える」というよりは寧ろ、その様なクライマックス的空間が「チラチラ見える」と言う程度に留まっているんですね。この様な「風景の開放/制御」を用いた視線コントロールは本当に上手い!そして階段を上り切った所で右手(90度)に進行方向を強制的に変更させられるんだけど、そこに展開しているのがこの風景:



閉じているのに不思議なくらい透明感に溢れた空間の登場〜。薄い茶色の大理石や真っ白な壁など、「材料の組み合わせだけでこれほどまでに空間に透明感を与える事が出来るのか!」というお手本の様な空間になっていますね。この地点から、たった今上がってきた階段を振り返るとこの風景:



階段と、その上に位置する横長に取られた窓の位置関係が良く分かるかと思います。

さて、ここのレセプションからは時計回りに進んで行ってみます:



先ず現れるのは、真っ正面に3人掛けの椅子が置かれ、木製の本棚に囲まれた非常に落ち着きのある空間です。向かって左手奥にはコンピュータ室(窓が必要ない部屋)が、その反対側からは微かに光が漏れていて、その漏れ出す光があたかも我々に「おいで、おいで」と手招きをしているかの様ですらあります。



‥‥この空間でシザが試みていること、それはこの後に展開するであろう「クライマックス的空間」に入る前に「ホッ」と一息つく空間を用意しているんだけど、この様に最後の空間の前にワンクッション置く事によって、「クライマックス的空間に入って行くぞ!」という気持ちを整えることが出来るんですね。そんな事を思いつつ、右手方向から漏れてくる光に導かれるままに歩を進めて行くと我々の前に姿を現すのがコチラです:



光に満ち溢れ、真横一直線に取られた窓がこの上なく美しい風景を切り取っている閲覧室の登場です。



大変抑制された開口が、強過ぎない光を閲覧室に導き入れ、非常に居心地の良い空間を形成しているのが見て取れるかと思います。木製の本棚と真っ青な海の対比‥‥。そしてココにはシザ建築のもう1つの特徴である天井操作が見られます:



こちらは2重天井となっていて、一番上に取られたスリットから直接光を取り入れ、その直接光を2番目の天井をクッションとしつつ柔らかい光に変換してから室内に取り入れています。

そして僕にとって大変重要な事に、この空間にはシザ建築の真骨頂とも言うべき、「ある秘密」が隠されているのです。シザはとあるインタビュー(スペイン紙)でこんな事を告白しています:

R:「‥‥(私が子供の時煩った病気の時に滞在していた)その村は小さな農村で、建築が風景を創っていました。だからこそ、風景はキラキラと輝いていたのです。それらは本当に息を呑むほど美しかったのですが、15日間の療養中、四六時中見ていたものですから、何時しかそれらの風景は私の中に入り込み、私の心を一杯にしてしまいました。その時の経験が、後の私の作品に大きなガラス窓を創り出す事を避けさせたり、断片的な開放部を意識的に設けたりする事を好むようにしたのだと思います。

‥‥

文句を言う人が多いですね。「美しい風景の前では、それらを見渡す展望台を創るべきだ」と、そう考えているのです。その様な時、私は何時もこう答えます:「それは違う」と。「美しい風景を見続ける事は人間を心から疲れさせるだけだ」と。風景を望む事は「押し付け」になるべきではなく、それを見るかどうかと言う「選択肢」であるべきなのです。」
(地中海ブログ:アルヴァロ・シザ(Alvaro Siza)のインタビュー記事:シザ建築の特徴は一体何処からきたのか?

そう、シザにとって目の前に広がる大自然を強制的に見せる建築と言うのは、単に人々の心を疲れさせるだけのものなのです。つまり彼にとってその様なパノラミックな風景を見せるということは強制であるべきではなく、「選択肢の1つ」として用意されていなければならないのです。

この様な幼少期の体験=トラウマこそ、シザ建築に多く見られる特徴、すなわち「内に開かせる」という建築形態を決定付けた主要因になった訳なのですが、今回のヴィアナ・ド・カステロ図書館においてシザは正にそのコンセプトを実現しているかの様に僕の眼には映ります。

どういう事か?

先ずは左手方向を見てください:



先程見た横長の窓からは美しいパノラマを楽しむ事が出来るのですが、その風景を見つつ読書を楽しむ人、勉強に勤しんでいる人達など、こちら側の空間では人々の様々なアクティビティを見付けることが出来ます。そして次に右手方向を見てみます。するとそこには全く別の風景が展開している事に気が付きます:



こちら側に展開している風景、それは内側に向かって開かれた中庭空間なんですね。コチラ側の窓からは先程の様な大自然のパノラマは見る影もありません。

そう、シザは両側に「全く異なる風景」を用意する事によって、ここを訪れる人々に「どちらの風景がいいですか?」と選ばせているのです!



ある人は「大自然を楽しみながら読書したい!」と左側の席を選ぶだろうし、またある人は「読書をするには海の青色は強過ぎる。中庭の方が本を読むには集中できる」と右側の席を選ぶことでしょう。



そしてこんな素晴らしい「空間の質」に寄与しているのが窓のデザインです。



窓の形、窓枠、カーテン‥‥全ての線がビシッと決まっています。更にこの空間の印象を決定付けているのがコチラ:



木で出来た本棚なんだけど、床面との材質を合わせる事によって、あたかも本棚が床から「ニョキニョキ」っと生えてきたかの様な感じを醸し出しています。そして見上げればコチラ:



さっきも言及した天井操作なんだけど、上の写真の真ん中に開いている長方形の開口にリズミカルに並んでいる3つの直方体が、それぞれ少しづつ内側に倒れ掛っていて、台形の様なデザインになっているんですね。



写真では分かりにくいかも知れないんだけど、これらの梁がホンの少しだけ内側に倒れ掛っている事によって、この空間の印象がガラッと変わっているのが見て取れるかと思います。

これら全てに共通している事、それは、窓も本棚も天井も、この空間を構成するどの要素も「これだ、これだ」と自己主張するのではなく、まるで自分自身を消しているかの様な「静のデザイン」になっているという事実です(地中海ブログ:歩いても、歩いても(是枝裕和監督):伝統と革新、慣習と感情の間で:リアリズムを通して鑑賞者の眼が問われています)。そう、まるでこの図書館は、「デザインってこのくらいやればいいんだよ」と、我々にそう語りかけてくるかの様なんですね。



‥‥この建築を見ていると、近年しばしば見掛けられる「やり過ぎのデザイン」、「自己主張ばかりして何も訴えかけてこないデザイン」とはまるで逆を向いている事に気が付きます。



この建築には、古今東西で様々な建築を創り続けてきたアルヴァロ・シザという建築家が辿り着いた1つの答えの様なものを見る事が出来る‥‥と言ったら、言い過ぎでしょうか?

建築家なら誰しも、「自分の作品に署名を残したい!」、「なるべく他の建築との違いをつけたい!」、「もっと特別なものにしたい!」という強い思いがあり、ついついデザインをやり過ぎてしまうというのが人情だとは思います。

しかしですね、建築のデザイン、ひいてはデザインの本質って「目立つこと」というよりは寧ろ、「目立たないこと」、「パッと見、普通なんだけど、よーく見るとちょっとだけ違う」と言った様な、「差異化にある」と思うんですね。そしてそれを達成する為には「やり過ぎないこと」、強く出たい所を一歩引いて、自分を消す事、そう、デザインってこのくらいでいいのです。

アルヴァロ・シザはこの図書館建築を通して、我々にそう語り掛けているかの様でした。

星、三つです!!!!
| 旅行記:建築 | 18:22 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
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