地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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ルイス・カーンのイェール大学英国美術研究センター(Center for British Art and Studies, Yale University)
前々回のエントリ、ルイス・カーンのイェール大学アートギャラリー(Yale University Art Gallery)の続きです。

ルイス・カーンの処女作であるイェール大学アートギャラリーから道を渡って直ぐ、今度はカーンの遺作となったイェール大学・英国美術研究センターを訪れてみたいと思います。



ステンレス・スチール仕上げのパネルが規則的に並ぶ外観は、先程のアートギャラリー同様、大変静かな表情で我々を出迎えてくれます。一階部分に入っているAtticus Bookstore Cafeという本屋さんにはレストラン&カフェが併設されていて、イェール大学に滞在されていたnikonikoさんが「この街(ニュー・ヘイブン)で美味しいサンドイッチを出すカフェ」として紹介されていたお店です。



上の写真は南側から見た所なんだけど、向こう側に見える橋みたいなのは、趣が溢れまくってるイェール大学の校舎。そして道路を挟んで右手に見えるのは何とスターバックス!さすが創立1701年のイェール大学、スタバも情緒に溢れまくってる気がする(笑)。



さて、英国美術研究センターへの入り口は、スターバックスの真ん前、丁度4隅の角っこがポッカリと空いている所からアプローチする事になります。個人的にはこの辺が非常に不思議だと思うんだけど、ルイス・カーンは古典主義的建築家を表明している割には、入り口は「真っ正面に大々的に」と言うよりは、端っこにひっそりと設けてみたり、一目では分からない様にしてみたりと、大変謙虚に創られているんですね。そんな事を思いつつ、イヨイヨ中へと入って行ってみます。そこに展開していたのがこの風景:



で、出たー!カーンの真骨頂、真上から振り注ぐ圧倒的な光の筒の登場〜。「いきなり来たか!」という感じなのですが、やっぱりこの真上からの光、しかもこれだけの量の光が一気に降り注ぐというはちょっと凄い。



灰色のコンクリートの柱梁、そして温もりを感じさせてくれる明るい色を基調とした木が絶妙なハーモニーを醸し出し、素晴らしい空間を構成している事に気が付きます。



この空間の素晴らしさ、そしてダイナミックさは、どんなに沢山の写真を載せても絶対に伝わらない気がする‥‥。で、この空間を大変特別なものにしているのがこのデザインです:



エクセター図書館でも見た、非常にぶ厚いコンクリートの量塊なんですね(地中海ブログ:ルイス・カーンのフィリップ・エクセター・アカデミー図書館(Phillips Exeter Academy Library):もの凄いものを見てしまったパート3:「本を読むとはどういう事か?」と言う根源を考えさせられた空間体験)。この厚み、そしてこの重厚感、そこにズドンという光りの塊が合わさる事によって、この空間に神懸かり的な「何か」を与えています。まあ、エントランスに天井が高い空間を持ってくるっていうのはある種の常套手段だとは思うんだけど、数多の建築に見られる様に「ただ単に天井が高いだけ」っていうのとは全く違った空間の質がここには見られます。



この素晴らしい空間にずっと居たい気もするけど、ここだけに居続ける訳にもいかないので、後ろ髪惹かれる思いで渋々2階へ行ってみる事に。で、この美術館、ちょっと変わっていて、2階へ行く為にはどうやらこの小さな円柱の階段室を通って行くらしいという事が判明:



「ほう、そうなのか」とか思いつつ、この薄暗く狭い階段を上っていくと、2階に着いた所に広がっているのがこの風景:



真っ正面に空いてる2つの長方形の窓からは、先程下の階で見た「光の筒」が垣間見える様になっています。全体的にこの階の天井は低く抑えられていて、更に天窓が無いのでどちらかと言うと薄暗く抑圧された感じを受けるんだけど、(正にその事が)さっきの光で満ち溢れていた吹き抜け空間と好対照を成しているかの様ですらあります。

で、実はこの階にはちょっとした仕掛けがあって、それがコチラ:



そう、円柱の階段室を出て振り返り様に歩いて行くと、さっき見た様な吹き抜けがこちら側にも用意されているのです。しかもこっちはド真ん中にコンクリの円柱が「でーん」と居座り、まるでこの空間の主役であるかの様に振る舞っています。



うーん、このコンクリの円柱の存在感は圧倒的!さっき見た光の筒が降ってくる空間とどうしても比べてしまう‥‥つまりは、下階では「光という目には見えない物質」が空間を形成し、こちら側では「人間が作ったコンクリの塊という目に見える物質」が空間を形作っている‥‥と。



で、この円柱、よく見ると一階ごとに目地が付いていて、それが最上階だけ低くなっている事が分かります‥‥と、ここで補助線を引いておく。この階にはこの吹き抜け空間を挟んで両側に図書室と資料室が備え付けられてるんだけど、この空間が又良かった:



エクセター図書館でカーンが見せた、本を読む人の事を考え抜いた、光溢れる大変居心地の良い空間がここにはあります。



机のスケール、窓の高さ、照明との関係‥‥それら全てのものがこの上無いハーモニーを醸し出し、この空間を非常に特別なものにしている事が分かります。

カーンの建築は、神憑った空間のみが取り沙汰されがちなんだけど、こういうヒューマン・スケールに基づいた空間、非常に人間の事を考え抜いた空間が基礎にある事を忘れてはいけません。それがあるからこそ、あの様な神憑った空間が生きてくるんだと思います。と言う訳で、先程の円柱階段を使って今度は3階へ行ってみます:



この階は基本的に先程見た下の階と同じ構成なんだけど、真っ正面に見える2つの長方形の窓、そして階段室を出た所から振り返り様に2つの窓からの風景が、僕達の居場所を教えてくれる羅針盤となっています。



ほら、さっき下の階に居たおじさんが見える。しかも居眠りしてる(笑)。



上の階も下の階も空間構成としては全く変わらないんだけど、この窓から見える風景が違う事によって、「今は上の階に居るんですよー」という事が分かる様になっていると言う訳なんです。そして今度はイヨイヨ最上階へ。

最上階‥‥この建築、最後の空間‥‥つまりクライマックス的空間‥‥何かがある事は分かっているんだけど、それが何なのかは不明。期待に胸を膨らませながら階段を上って行くと、階段室からしてもう既に下の階とは様相が違っていました:



天窓を覆っているガラスブロックからは木漏れ陽が落ちてきて、更にこの階だけ微妙に天井高が下階とは違っている事が分かります。つまりそれだけこの空間で「抑圧される」という事なのです。そしてこの円柱階段室を出た所に広がっているのがこの風景:



天窓からは光が溢れ、天井高が「これでもか!」と高く採られている、えも言われぬ空間とは正にこの事!



す、凄い。光が溢れている‥‥。そう、2階、3階と天井高を低く抑えている理由、そして階段室の天井高が少し低くなっている理由、それらは全て、この最上階にある展示空間を開放的に、そしてドラマチックに見せる為の演出だったのです!



ここに来ると、「空間というのは光で出来ているんだー」という当たり前なんだけど忘れがちな事実を思い知らされます。そしてその様な「光」を「空間に与えている」のは紛れも無い「構造体」だと言う事も。正に:

「構造体は光を与え、光は空間を創る!(Structure gives light, makes space, Louis Kahn)」



それにしてもこの空間はちょっと凄い。今まで世界各地で色んなものを見てきたけど、こんな空間は初めてかな。‥‥と、カーンの建築を訪れる度に、同じ様な事を繰り返し言ってる気がする(笑)。でも、それほど素晴らしい空間なんですよ!と、同時に、「こういう空間物語の創り方もあるんだー」という事を教えられた気がしました。



何度でも繰り返すんだけど、ルイス・カーンの建築は、その建築の初源をトコトン追求した上で空間が構成されているので、その空間を通して人間活動の根源の様な所を考えさせられます。その様な奥深さ、そこにこそ、カーン建築の素晴らしさがあるのです。
| 建築 | 23:57 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
こんにちは。 はじめまして建築を学ぶ修士2年のyukaと申します。
見学記録、写真も多くあり雰囲気がとっても伝わってとても行きたくなりました。

3月のはじめに、卒業旅行でイェール大学・英国美術研究センターを訪れたいと思っています。
しかしながら、見学方法がわからず困っています。
もしよろしければ、当時どのように見学したか教えていただけないでしょうか。
突然のコメントにも関わらず、このような質問失礼します。
何卒よろしくお願いします。
| yuka | 2016/03/01 8:35 PM |
yukaさん、コメントありがとうございます。

卒業旅行でイェール、いいですね。
この英国美術研究センターは美術館なので、入場料を払えば誰でも見学できます(もしかしたら学生は無料だったかもしれませんが、忘れました)。

ちなみにこの目の前に建っているカーンのもう一つの建築も美術館なので入れますよー。更にその目の前にあるのがイェール大学の建築楽部棟、少し歩くとサーリネンのアイスホッケー場があったりと、イェール大学は見どころ満載です。

ぜひ楽しんでください。
安全で良い旅を!
| cruasan | 2016/03/02 6:50 AM |
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