地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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ルイス・カーンのイェール大学アートギャラリー(Yale University Art Gallery)
ボストンから電車で2時間30分ほど行った所にある、世界最高峰の教育機関の1つ、イェール大学(Yale University)に行ってきました。



ハーバード大学やプリンストン大学などと共にアイビー・リーグを形成するイェール大学は、ニューヘブン(New Haven)という人口12万人程の街に位置しているのですが、それ程大きくはない街の中心部に鏤められている大学キャンパスは1701年の創設とあって、校舎はどれも歴史を感じさせる大変赴きのあるものばかり。



恰もここだけ古き良き中世のヨーロッパにタイムスリップしたかの様なんですね。校舎も校舎なら、そこに収められているお宝も半端無くって、こんなものまであるくらい:



じゃーん!15世紀に刷られた世界初の印刷聖書、グーテンベルクの聖書です。当時この聖書は180部が刷られたと言われてるんだけど、現存するのは48部のみ。そんな世にも珍しいグーテンベルクの聖書を保管、展示しているのがSOMが手掛けたベイネック稀覯本図書館(Beinecke Rare Book and Manuscript Library)なんだけど、この図書館も噂に違わず素晴らしかった:



大理石を薄くスライスする事により透過性を高め、それを外壁に用いる事によって太陽の光を導き入れています。



ガラスの様に透明ではない‥‥かと言って石やコンクリの様に堅く完全に閉じている訳でもない‥‥柔らかい光を導き入れ、とても幻想的な雰囲気の空間を創り出す事に成功しています。



とまあ、こんな感じでイェール大学には名建築が揃ってるんだけど、僕がわざわざ2時間半も掛けてこの大学に来たのにはそれなりの理由があります。それこそこの大学が誇るお宝中のお宝、20世紀最後の巨匠と言われるルイス・カーン設計による2つの美術館を見る為なんですね。ルイス・カーンは1960年頃からイェール大学で教えていたので、ここに彼の建築が建っててもそれ程不思議じゃあ無いんだけど、それでもカーンの建築が2つもあるっていうのはちょっと凄い。



丁度一ヶ月くらい前、Facebookのザッカーバーグが通った高校(エクセター高校)にある図書館に圧倒されて以来(地中海ブログ:ルイス・カーンのフィリップ・エクセター・アカデミー図書館(Phillips Exeter Academy Library):もの凄いものを見てしまったパート3:「本を読むとはどういう事か?」と言う根源を考えさせられた空間体験)、「もう一度カーンの建築を見てみたい!」と思っていた事もあり、無茶苦茶忙しい年末年始にも関わらず、はるばるこんな遠くまで足を運んだという訳なんです。



で、いつもならここから「建築の歩き方」に入る所なんだけど、ボストンからの高速鉄道(Amtrak)が到着する最寄り駅、New Haven Union State Stationの駅前から市内までは無料シャトルバスが出ていて、それに乗って中心街まで行き、目抜き通りを5分程歩くと簡単に見つける事が出来るので、今回は「建築の歩き方」はパス。と言う訳で、早速その目抜き通り(Chapel Street)を歩いて行くと、見えて来ました、今回のお目当ての建築が:



あれ‥‥しかも2つ‥‥同時‥‥?そ、そうなんです!実はルイス・カーンがイェール大学に建てた2つの美術館と言うのは向かい同士に建っているんですね。しかもそれら各々が処女作と遺作になっているというから運命を感じずにはいられません。更に更に、その先には何やら見た事がある建築が‥‥:



な、何とその道の突き当たりには、ポール・ルドルフ(Paul Rudolph)によるイェール大学建築学部棟(Yale School of Architecture)があるじゃないですかー!この小さな交差点を挟んだエリアに、建築史に名を残している名建築が3つ‥‥す、凄いな!



反対側から見てみます。手前のザラザラしたコンクリートがルドルフのイェール大学建築学部棟で、向こう側に見える2つの建物がルイス・カーンが設計した美術館。向かって右手方向にあるのがカーンの遺作となったイェール大学・英国美術研究センター(Center for British Art and Studies, Yale University)なんだけど、事前に調べておいた「美味しいサンドイッチを出すお店」というのが偶然にもここの一階に入っていてビックリ!



暖かいトマトスープと半分に切られたサンドイッチ、そして何よりも、甘さを押さえたチョコレートクロワッサンが美味しかった(nikonikoさんのイェール大学―ニューヘイブン生活、情報ありがとうございます!)。腹ごしらえも終わった所で、いよいよ今回の旅の目的、ルイス・カーンの建築を体験してみたいと思います。先ずは彼の処女作であり出世作ともなったイェール大学・アートギャラリー(Yale University, Art Gallery)から。



この建築は既存ギャラリーの増築となってるんだけど、石で出来た大変趣のある既存部分と、その真横に建てられたレンガ造によるファサードがなかなかの対比を創り出していると思います。



メインアプローチは街の中心部方面から道路に沿う形になるので、言われるがままに道路に沿って歩いて行くと、そこから「ふっ」と入り口に吸い込まれるかの様な、そんなデザインになっています。非常にさり気無く、そして上手いデザインだなー。



エントランス導入部分の階段と手摺の関係、そしてそこに設えられた案内掲示板のデザインも申し分ありません。この電光掲示板がコレ又カッコイイ!



アプローチには、道路に対して閉じている重いレンガ造のファサードとの対比を鮮やかにする為に、4層にも及ぶ軽い表現を伴ったガラス面が採用されています。道路側から見た時はファサードの連続性を保ちつつ、しかし同時に新しいエントランスとしての存在感は醸し出すという素晴らしい解だと思います。そして今度は中へ:



入り口を潜ると先ずは風除室があるんだけど、入った直ぐ左手側にルイス・カーンの写真が掲げてありました。前回行ったエクセター図書館にもカーンの写真や模型、平面図などが誇らしげに展示されていたし、次回のエントリで書こうと思っているイェール大学・英国美術研究センターにもカーンの写真と共に平面図を展示するスペースが設けられていたりと、概してカーン建築では「その空間を使っている人達」が、「その建築を使っている事を誇りに思っている」と、正にそんな感じを受けたんですね。その風除室を抜けて、今度はエントランスホールへと入って行ってみます。



先ず目に飛び込んでくるのは、真っ正面に対峙する丸円柱の量塊、その真ん前に建っている四角い柱、そして三角形の繰り返しで構成された天井という組み合わせ。特にこの天井の造形は凄い:



三角形が無限に連なって、何とも不思議な風景を創り出しています。



(良く知られている様に)この天井の中には照明やら配管やらと言った数多くの設備が収納されていて、更に天井から間仕切りを吊らす事によってどんなサイズの展示にも対応出来る様になっています。



つまりは設備、構造、機能といった一連のものが「大変見事なデザインによって纏められている」と、そういう訳なんです。「あー、デザインとは数々の困難な要求を一撃の下に解決する試みなんだなー」と言う、当たり前なんだけど忘れがちな基本を僕達に思い出させてくれます。さて、そこから90度右方向に転換した所に見えるのがこの風景:



大きな大きな一枚の壁がアイ・ストップになり、先程の無限に増殖するかの様な三角形で構成された天井が、その壁に向かって斜め方向に走っているのが分かるかと思います。この壁の付近には受付やら階段室、トイレやロッカーなどと言ったサービス空間が纏められ、このコア部分を挟んだ両側に展示室が展開するという空間構成となっているのですが、先ずは右手から:



大変美しい中庭と、ガラス窓から零れ落ちる光によって構成されているロビー空間。ここが又気持ち良い!



この美術館が面している前面道路は交通量が結構多くて騒音がうるさかったんだけど、丁度反対側に展開しているこの中庭は、打って変わって大変静かな空間となっていました。この心地良さは、この空間が人間的スケールに基づいているからこそ達成されるんだろうなーと思います。



前回のエントリでも書いたんだけど、カーンの建築には2つの側面があって、1つは神秘的でそれこそ神憑った空間、もう1つは人間的な暖かみを持つ空間。この相反する2つの空間が鬩ぎ合っている所にこそ、カーン建築の特徴があるのだと僕は思います。そういう意味で言うと、今回の建築の神憑っている空間を担っているのは、天井を構成している無限に繰り返される三角形なんですね。これだけ大量の三角形、しかもコンクリートで出来た三角形で構成されている空間と、それらが醸し出している質はちょっと見た事がありません。



その一方でこの天井のデザインは、晩年にカーンが展開するもっと大胆で直接的な神憑った空間と比べると「少し控えめかな」という気がしないでもありません。まあ、後年のカーンは真上からドカンと降ってくる光の筒を用いていましたからね。今度はエントランスホール入って左手方向の展示空間へと行ってみます:



真ん中に集められたサービス空間の周りに展開する薄暗い空間の向こう側には光が零れ落ちる明るい空間が垣間見えます。その光に誘われるかの様に歩いて行くと出会すのがこの風景:



全面ガラス張りの大変明るい展示空間です。ここに顕著に現れてると思うんだけど、この建築の特徴を創り出しているこの天井‥‥この天井が柱のグリッドに対して斜め方向に走っている事(=斜に構えている事)が、僕達に大変不思議な感覚を抱かせる根源になっています。そして正面を向けばこの風景:



そう、ルドルフの建築学部棟が真っ正面に見えてくると言う、このアングル!これは恰も、ここに展示されている数々の展示物と同等、「あの建築は全くもって最高の芸術作品なのですよ」と、展示物の1つとして扱っているかの様ですらあります。



ちなみに2階はアジア芸術部門となっていて、日本の芸術作品なんかが展示されてるんだけど、カーンのこの独特の空間に狩野派の屏風なんかが展示されている風景は何とも不思議な感覚を引き起こします。4階まである展示空間には階段室を使って行く事になるのですが、その階段室がちょっと凄い:



コレ又、大変力強い三角形をしたコンクリートの量塊が、丸円柱に沿ったガラスブロックからの光に照らし出され、大変神秘的な風景を創り出しています。実はこの階段にもちょっとした特徴があって、一番下の地下室ではこんな風になっているんですね:



このイェール大学のアートギャラリーは、カーンの建築の中ではどちらかと言うと人間的な空間色が出ている作品に仕上がっていると思います。「真上からの光の束による圧倒的な中心性」みたいな表現が一部には見られるものの(階段室部分)、その影響力はそれほど支配的ではないからです。そしてそれは、もう1つのカーン建築、イェール大学・英国美術館を見ると、その差異がより一層ハッキリすると思います。

ルイス・カーンのイェール大学・英国美術研究センター(Center for British Art and Studies, Yale University)に続く。
| 建築 | 10:27 | comments(1) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
はじめまして!
mocchiと申します。
突然コメントしてすみません(^^;)
マサチューセッツ工科大学のことで探していたらcruasanさんのブログを見つけてしまいました。
街と建物がマッチしていて格好いいですね(*^^*)私も行ってみたくなりました♪

cruasanさんに質問があります。
私の大切な人がマサチューセッツ工科大学に9月から入るため7月に渡米してそれ以降全く連絡が取れなくなりました。私が、迷惑メールをブロックしてたためそれが原因かなと思ってます。知り合いには8月ぐらいに二度ぐらい今の状況の連絡あったきりで、両親にはあまり連絡していないみたいです。
大学で探すことってできるんでしょうか?
初めてのコメントが質問ばかりですみません。もしわかることがあれば、教えていただけないでしょうか?
よろしくお願いしますm(_ _)m
| mocchi | 2013/01/07 9:24 PM |
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