2012.12.24 Monday
ルイス・カーンのフィリップ・エクセター・アカデミー図書館(Phillips Exeter Academy Library):もの凄いものを見てしまったパート3:「本を読むとはどういう事か?」と言う根源を考えさせられた空間体験
前回のエントリ、ルイス・カーンのフィリップ・エクセター・アカデミー図書館(Phillips Exeter Academy Library):もの凄いものを見てしまったパート1:行き方、前々回のエントリ、ルイス・カーンのフィリップ・エクセター・アカデミー図書館(Phillips Exeter Academy Library):もの凄いものを見てしまったパート2:全く同じファサードが4つデザインされた深い理由の続きです。
素晴らしく示唆に満ちた外観を堪能した後は、いよいよ中へと入って行きます。
入り口をくぐると、トラバーチンで出来た楕円形の階段が我々を中央部へと導いてくれます。
この階段の天井部分に開けられた梁の間からは、次に展開するであろう大空間を予感させる風景がチラチラ見え隠れしてるんだけど、これが又、未知なる空間体験への期待感を増大させかの様で、非常にドラマチックなんですね。その階段を上り切った所で現れるのがこの風景:
じゃーん!圧巻の風景とは正にこの事!
4面を正方形のコンクリート造の二重壁が取り囲み、その正方形にピッタリと収まる様に大きな大きな円がくり抜かれています。そのくり抜かれた円からは規則正しく並んだ書架が見える様になってるんだけど、(デザイン的に見たら)負のイメージを与えてしまいがちな書架を空間デザインに見事に参加させている、この手法は非常に新しい発想だと思います。そして見上げればこの風景:
巨大な十字架の形をしたコンクリートの量塊!機能的には梁なんだけど、この存在感がモノ凄い!
天空から降り注ぐ光と共に、その姿は神秘的ですらあります。いや、と言うか、これらが創り出す中心性のインパクトは「未だかつて見た事がない類いの空間となっている」と言っても過言ではありません。そしてそれと共に驚かされるのが、コンクリートと木の相性の良さでしょうか。
冷たい感じを与えるコンクリートと、暖かい温もりを与える木。これらの材料がこんなにも居心地の良いハーモニーを醸し出すなんて思ってもみませんでした。
この様な真上からの光によって中心性を創り出すって言う手法は、バロックの教会やコルビジェなんかがやってるんだけど、それらの例では光の筒の下に肌理の細かい彫刻なんかが置かれたりしていて、光がそこに反射する事によって真上から降ってきた光の粒子を視覚化しているんですね(地中海ブログ:ベルニーニ(Bernini)の彫刻その3:サンタンドレア・アル・クィリナーレ教会(Sant'Andrea al Quirinale):彫刻と建築の見事なアンサンブル)。
この吹き抜けのど真ん中には、大きな大きな木で出来た机が置かれてるんだけど、この空間があまりにも居心地が良いので、この机に座りつつ、口とか開けながら「ボケー」と1時間近くも居座ってしまった(笑)。
しかも天井の一点だけを見つめながら‥‥。端から見たら完全に危ない人、間違い無し(笑)。良い子のみんなは真似しない様に(笑)。でも、それほど印象的な空間なんですよ、この図書館の吹き抜けは!
まあ、とは言っても、何時迄もこの空間だけを見ている訳にもいかないので、渋々ここを立ち去る事に。で、四隅に配置されている階段を上って先ずは2階へ。階段室を出た所から見える風景がこちらです:
さっき下から見た円がこんな風に見えるんですね。で、これを見ている内に非常に面白い事に気が付いちゃいました。‥‥あれ‥‥これはもしかして‥‥。3階へ行ってみます。そこから見えるのがこの風景:
ふむふむ。そして4階へ:
‥‥皆さん、お解りになったでしょうか?
どういう事かと言うと、ルイス・カーンは、正方形の中に切り取られた円と、そこから見える規則正しく並んだ書架の見え方(関係性)を通して「我々が今一体何階にいるのか?」、それを教えようとしているのです!その証拠がこちらです:
5階へ行くと、丸い円が終わり、そこから中央吹き抜けの風景は殆ど見えなくなり、更に6階へ上がっていくと、そこからは全く何も見えないにも関わらず、大変不思議な窓が「ピョコ」っと開いてるんですね:
ほら。この不思議な窓から見えるのは、先程下から見た大きなコンクリートの量塊で出来た十字架、そしてそこに零れ落ちる光の粒子です。この様にしてカーンは、ともすれば均一になりがちな図書館という建物の中で、我々の現在位置を確認させようとしているのです!
フムフムとか思いながらこの吹き抜けを見ていたのですが、上から見ていたら、とある大変面白い事に気が付きました。
吹き抜けの周りに配置されたこの特徴ある家具は実は本棚になっていて、そのちょっとした奥行きを利用して、そこに本を広げたり、立ち読みしたりする事が出来るスペースが作られているのです。
真っ正面に見える神懸かり的なコンクリの量塊=十字架から降ってくる明かり、それに照らされている正方形の壁にすっぽりとくり抜かれた真円の風景を見ていたら、物凄く神秘的な気持ちにすらなってきます。
「この建築でルイス・カーンがやりたかった事、それはこの圧倒的な中心性に支配された吹き抜けなんだろうなー」と思っていたのですが、実はこの後、僕は全く予想もしなかった体験をする事になります。そう、この圧倒的な風景を前に、「この建築は見終わった」と勝手に思い込んでいた僕に訪れた驚き、そしてその驚きと共に訪れた喜び‥‥。それが窓際に展開されていた光景だったのです。それがこちら:
外壁に沿って規則的に開けられた1つ1つの窓毎に机が並べられてるんだけど、これらの机と壁、そしてそこに零れ落ちる光が創り出している空間の心地良い事!
上段に名一杯とられた窓から差し込む陽の光が、包み込む様な暖かさを醸し出し、更に1つ1つの机には小さな窓が付いていて、そこから自分だけの景色を切り取る事が出来るんですね。
又、その小窓を開け閉めする事によって、光の調整も出来ちゃうんです!
ここには先程見た圧倒的な空間、正に「神憑った」と言える吹き抜けとは全く正反対の「ヒューマンスケールを大切にした、非常に人間的な空間」が広がっています。
これはそう、まるで4年前のロンドン旅行の際に見たジョン・エヴァレット・ミレイが描いた絵画の背景の様ですらあります(地中海ブログ:ロンドン旅行その2:Sir John Everett Millais(ジョン・エヴァレット・ミレイ))。
2対一体となった三角形の衝立てで仕切られた机のデザインや、その机と窓との関係性、更には上から吊られている電灯のデザインなど、要所要所に物凄いデザイン力が見て取れるんだけど、それよりも何よりも、この親密空間は、「ここで読書をしてみたい」という気を起こさせる空間、つまりその様なアクティビティを引き起こさせる空間となっていると思います。その中でも「ちょっと面白なー」と思ったのがコチラ:
幾つかの机には名前のラベルが貼ってあって、そこにはアイドルのポスターが貼ってあったり、机がお花で飾られていたりと、各々が個室化され、個人の指定席が存在していました。まあ、勿論全ての生徒に机が割り当てられる訳ではないので、高校3年生だけとか、何かしらの制約があるとは思うのですが、それにしてもこんなに居心地の良い図書館だったら、さぞかし勉強もはかどるんだろうなー。僕の高校にもこんな素晴らしい図書館があったら、もっと成績が良かっただろうに‥‥とか呟いてみる(笑)。
この読書スペースには2層一対のメゾネット形式が採用されていて、その為下の階では非常に天井が高く、それだけガラス窓も大きいので、お日様の光を存分に取り込める様になってるんだけど、それと同時に、それを支えるレンガ造の柱の創り出すリズム感、それらと木との取り合いのデザインなど、見れば見る程、素晴らしいデザインが展開している事に気が付きます。
その中でも素晴らしかったのがコチラです:
4階の北面に用意されていた空間なんですね。ここには暖炉があり、ソファが置かれて寛げる空間となっていました。
大きなガラス窓1つに対して1つのソファが置かれ、正に自分だけの空間を創り出す事を可能にしています。
この大きな窓の直ぐ脇に設えられた本箱が、ここに座って本を読むという行為を促進し、更には本を読む心地良さを通して、「本を読むとはどういう事なのか?」、「読書とは人生にとって一体どんな意味があるのか?」という事を真剣に考えさせられるかの様ですらあります。
今回、僕は初めてルイス・カーンの建築空間に身を置いてみたんだけど、彼の建築が世界中で熱狂的なファンを生んでいる訳、50年近くたった今でも絶賛されている理由が少し分かった様な気がします。その空間体験を通して、その建築空間機能の意味、そこで展開されるアクティビティの根源を考えさせられる、こんな体験は滅多にある事ではありません。
素晴らしい!本当に素晴らしい体験でした!星、三つです!
素晴らしく示唆に満ちた外観を堪能した後は、いよいよ中へと入って行きます。
入り口をくぐると、トラバーチンで出来た楕円形の階段が我々を中央部へと導いてくれます。
この階段の天井部分に開けられた梁の間からは、次に展開するであろう大空間を予感させる風景がチラチラ見え隠れしてるんだけど、これが又、未知なる空間体験への期待感を増大させかの様で、非常にドラマチックなんですね。その階段を上り切った所で現れるのがこの風景:
じゃーん!圧巻の風景とは正にこの事!
4面を正方形のコンクリート造の二重壁が取り囲み、その正方形にピッタリと収まる様に大きな大きな円がくり抜かれています。そのくり抜かれた円からは規則正しく並んだ書架が見える様になってるんだけど、(デザイン的に見たら)負のイメージを与えてしまいがちな書架を空間デザインに見事に参加させている、この手法は非常に新しい発想だと思います。そして見上げればこの風景:
巨大な十字架の形をしたコンクリートの量塊!機能的には梁なんだけど、この存在感がモノ凄い!
天空から降り注ぐ光と共に、その姿は神秘的ですらあります。いや、と言うか、これらが創り出す中心性のインパクトは「未だかつて見た事がない類いの空間となっている」と言っても過言ではありません。そしてそれと共に驚かされるのが、コンクリートと木の相性の良さでしょうか。
冷たい感じを与えるコンクリートと、暖かい温もりを与える木。これらの材料がこんなにも居心地の良いハーモニーを醸し出すなんて思ってもみませんでした。
この様な真上からの光によって中心性を創り出すって言う手法は、バロックの教会やコルビジェなんかがやってるんだけど、それらの例では光の筒の下に肌理の細かい彫刻なんかが置かれたりしていて、光がそこに反射する事によって真上から降ってきた光の粒子を視覚化しているんですね(地中海ブログ:ベルニーニ(Bernini)の彫刻その3:サンタンドレア・アル・クィリナーレ教会(Sant'Andrea al Quirinale):彫刻と建築の見事なアンサンブル)。
この吹き抜けのど真ん中には、大きな大きな木で出来た机が置かれてるんだけど、この空間があまりにも居心地が良いので、この机に座りつつ、口とか開けながら「ボケー」と1時間近くも居座ってしまった(笑)。
しかも天井の一点だけを見つめながら‥‥。端から見たら完全に危ない人、間違い無し(笑)。良い子のみんなは真似しない様に(笑)。でも、それほど印象的な空間なんですよ、この図書館の吹き抜けは!
まあ、とは言っても、何時迄もこの空間だけを見ている訳にもいかないので、渋々ここを立ち去る事に。で、四隅に配置されている階段を上って先ずは2階へ。階段室を出た所から見える風景がこちらです:
さっき下から見た円がこんな風に見えるんですね。で、これを見ている内に非常に面白い事に気が付いちゃいました。‥‥あれ‥‥これはもしかして‥‥。3階へ行ってみます。そこから見えるのがこの風景:
ふむふむ。そして4階へ:
‥‥皆さん、お解りになったでしょうか?
どういう事かと言うと、ルイス・カーンは、正方形の中に切り取られた円と、そこから見える規則正しく並んだ書架の見え方(関係性)を通して「我々が今一体何階にいるのか?」、それを教えようとしているのです!その証拠がこちらです:
5階へ行くと、丸い円が終わり、そこから中央吹き抜けの風景は殆ど見えなくなり、更に6階へ上がっていくと、そこからは全く何も見えないにも関わらず、大変不思議な窓が「ピョコ」っと開いてるんですね:
ほら。この不思議な窓から見えるのは、先程下から見た大きなコンクリートの量塊で出来た十字架、そしてそこに零れ落ちる光の粒子です。この様にしてカーンは、ともすれば均一になりがちな図書館という建物の中で、我々の現在位置を確認させようとしているのです!
フムフムとか思いながらこの吹き抜けを見ていたのですが、上から見ていたら、とある大変面白い事に気が付きました。
吹き抜けの周りに配置されたこの特徴ある家具は実は本棚になっていて、そのちょっとした奥行きを利用して、そこに本を広げたり、立ち読みしたりする事が出来るスペースが作られているのです。
真っ正面に見える神懸かり的なコンクリの量塊=十字架から降ってくる明かり、それに照らされている正方形の壁にすっぽりとくり抜かれた真円の風景を見ていたら、物凄く神秘的な気持ちにすらなってきます。
「この建築でルイス・カーンがやりたかった事、それはこの圧倒的な中心性に支配された吹き抜けなんだろうなー」と思っていたのですが、実はこの後、僕は全く予想もしなかった体験をする事になります。そう、この圧倒的な風景を前に、「この建築は見終わった」と勝手に思い込んでいた僕に訪れた驚き、そしてその驚きと共に訪れた喜び‥‥。それが窓際に展開されていた光景だったのです。それがこちら:
外壁に沿って規則的に開けられた1つ1つの窓毎に机が並べられてるんだけど、これらの机と壁、そしてそこに零れ落ちる光が創り出している空間の心地良い事!
上段に名一杯とられた窓から差し込む陽の光が、包み込む様な暖かさを醸し出し、更に1つ1つの机には小さな窓が付いていて、そこから自分だけの景色を切り取る事が出来るんですね。
又、その小窓を開け閉めする事によって、光の調整も出来ちゃうんです!
ここには先程見た圧倒的な空間、正に「神憑った」と言える吹き抜けとは全く正反対の「ヒューマンスケールを大切にした、非常に人間的な空間」が広がっています。
これはそう、まるで4年前のロンドン旅行の際に見たジョン・エヴァレット・ミレイが描いた絵画の背景の様ですらあります(地中海ブログ:ロンドン旅行その2:Sir John Everett Millais(ジョン・エヴァレット・ミレイ))。
2対一体となった三角形の衝立てで仕切られた机のデザインや、その机と窓との関係性、更には上から吊られている電灯のデザインなど、要所要所に物凄いデザイン力が見て取れるんだけど、それよりも何よりも、この親密空間は、「ここで読書をしてみたい」という気を起こさせる空間、つまりその様なアクティビティを引き起こさせる空間となっていると思います。その中でも「ちょっと面白なー」と思ったのがコチラ:
幾つかの机には名前のラベルが貼ってあって、そこにはアイドルのポスターが貼ってあったり、机がお花で飾られていたりと、各々が個室化され、個人の指定席が存在していました。まあ、勿論全ての生徒に机が割り当てられる訳ではないので、高校3年生だけとか、何かしらの制約があるとは思うのですが、それにしてもこんなに居心地の良い図書館だったら、さぞかし勉強もはかどるんだろうなー。僕の高校にもこんな素晴らしい図書館があったら、もっと成績が良かっただろうに‥‥とか呟いてみる(笑)。
この読書スペースには2層一対のメゾネット形式が採用されていて、その為下の階では非常に天井が高く、それだけガラス窓も大きいので、お日様の光を存分に取り込める様になってるんだけど、それと同時に、それを支えるレンガ造の柱の創り出すリズム感、それらと木との取り合いのデザインなど、見れば見る程、素晴らしいデザインが展開している事に気が付きます。
その中でも素晴らしかったのがコチラです:
4階の北面に用意されていた空間なんですね。ここには暖炉があり、ソファが置かれて寛げる空間となっていました。
大きなガラス窓1つに対して1つのソファが置かれ、正に自分だけの空間を創り出す事を可能にしています。
この大きな窓の直ぐ脇に設えられた本箱が、ここに座って本を読むという行為を促進し、更には本を読む心地良さを通して、「本を読むとはどういう事なのか?」、「読書とは人生にとって一体どんな意味があるのか?」という事を真剣に考えさせられるかの様ですらあります。
今回、僕は初めてルイス・カーンの建築空間に身を置いてみたんだけど、彼の建築が世界中で熱狂的なファンを生んでいる訳、50年近くたった今でも絶賛されている理由が少し分かった様な気がします。その空間体験を通して、その建築空間機能の意味、そこで展開されるアクティビティの根源を考えさせられる、こんな体験は滅多にある事ではありません。
素晴らしい!本当に素晴らしい体験でした!星、三つです!