地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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ハーバード大学デザイン大学院(GSD)の製図室がちょっと凄い:創造力/想像力を促進するかの様な空間構成
先週末、バルセロナでは毎年恒例のオープンハウスが行われていました。



オープンハウスとは一体何か?と言うとですね、普段は絶対に入る事の出来ない個人所有の建築やら公的機関が所有しているお宝建築なんかを2日間だけ一般市民に公開しちゃおうっていう、建築好きには溜まらない企画の事なんですね。僕もこのお祭りは毎年凄く楽しみにしてたんだけど、当然今年は行く事が出来ず(悲)。Twitterで在バルセロナの人達がとっても楽しんでいる様子をただ眺めてるだけ。いわゆる昔一世を風靡した「見てるだけー」ってヤツです(笑)。

 

バルセロナのオープンハウスで公開されている建築で個人的にオススメなのは、セルトがデザインしたパリ万博スペイン共和国館(地中海ブログ:オープンハウス in バルセロナ(48 OPEN HOUSE BCN)その3:ホセ・ルイ・セルト(Josep Lluis Sert)のパリ万博スペイン共和国館)、同じくセルトが設計したバルセロナの山の手に建つ集合住宅(地中海ブログ:オープンハウス in バルセロナ(48 OPEN HOUSE BCN)その2:ホセ・ルイ・セルト(Josep Lluis Sert)の集合住宅)、普段は絶対に入る事が出来ないガウディ設計のテレサ女学院(地中海ブログ:オープンハウスその4:ガウディのパラボラ空間が堪能出来る、サンタ・テレサ学院(Collegi de les Teresianes))、これ又普段は絶対に入る事が出来ないガウディの影武者ジュジョール設計による集合住宅(地中海ブログ:オープンハウス in バルセロナ(48 OPEN HOUSE BCN):ジュゼップ・マリア・ジュジョール(Josep Maria Jujol)のプラネイス邸(Casa Planells))、そしてカタルーニャ現代建築界を代表すると言っても過言ではないジョセップ・リナスによる病院建築(地中海ブログ:オープンハウス in バルセロナ(48 OPEN HOUSE BCN)その1:ジョセップ・リナス(Josep Llinas)のInstitut de Microcirurgia Ocularに見る視覚コントロールの巧みさ)と言った所でしょうか。



さて、今日は先日行われたガリシア州議会選挙とバスク州議会選挙の結果分析、そして来月末に行われるカタルーニャ州議会選挙の見通しなんかを書こうと思ってたんだけど、バルセロナのオープンハウスの話を聞いてたらやっぱり建築の記事を書きたくなってきたので、今日は先週、先々週とカンファレンスの為に訪れたハーバード大学デザイン大学院(GSD)の話題を取り上げたいと思います。



GSDは建築、ランドスケープそして都市計画(アーバンデザイン)の3学科からなるデザイン専門の大学院となっていて、3つの学科が合併され現在の形になったのが1936年の事。それ以来世界各地から毎年トップクラスの学生達を惹き付け続け、建築界のリーダーを数多く排出している事で知られています。



そんなGSDの本拠地はハーバード大学構内を横切る様にして10分ほど北東に行った所、ハーバード大学美術館(Harvard Art Museum)やコルビジェの設計で有名なカーペンターセンターがあるエリアに位置しています。



ハーバード大学はアメリカで最も古い大学の1つに属しているので(1636年設立)、さすがに校舎はどれもこれも風格の漂うものばかり。濃い緑と赤レンガ主体の校舎の対比が本当に素晴らしい:



寝転がってお昼寝をしたくなる、そんな青々とした芝生と、燦々と零れ落ちるお日様の光が、眩しいくらいの風景を創り出しています。



そしてこの濃い緑に囲まれた赤煉瓦の校舎群を抜けると現れるのが今日の主役、ハーバード大学デザイン大学院の建物です:



GSDが入っているGund Hallと呼ばれる建物は、先程見た歴史を感じさせる重厚な校舎とは一転、5階建て鉄筋コンクリートによるハーバード大校舎の中においては一風変わったデザインとなっています。



背の高いピロティに支えられ、非常にダイナミックな構成になっていますね。まあ、でも特にコメントする事は無いかな‥‥。今度は側面へ回ってみます。



こちら側は、何やら急勾配を伴った大三角形が主役の造形。



正面玄関近くには、灰色のコンクリートにオレンジ色を主体とした大変印象的な看板が掲げられていました。この辺は流石にデザイン関連の大学院だけの事はある。この看板を横目に見つつ、イヨイヨ中へと入っていってみます。



入り口を入って直ぐの所には、エントランスホール兼展覧会が出来るスペースが設えられてるんだけど、ちょうど今、菊竹清訓さんの展覧会(Tectonic Vision Between Land & Sea: Works of Kiyonori Kukutake)が行われてて(10月16日まで)、スカイハウスやら東光園やら個人的には大変懐かしい模型や写真が所狭しと並べられていました。



ちなみにその関係で、先々週は伊東豊雄さんの講演会が行われ聞きに行って来たんだけど、流石に世界のToyo Itoの人気は凄まじく、500人は収容出来ると思われる大ホールでも立ち見が出るくらいの大盛況振り!今回の講演会の内容は自作の解説といったものではなく、「菊竹さんから継承した事」といった一風変わった内容でした。と言うのも、当初の予定では菊竹さんご自身がスピーチを行うはずだったらしいのですが、それが叶わなくなってしまった為、急遽弟子である伊東さんが代理講演を行ったという経緯なのだとか。

という訳でこの展覧会を見つつ講演会も聴きつつ建物内をグルグルと回ってみる事に。そしてこちらがハーバード大学デザイン大学院が誇る驚きの製図室の風景:



じゃーん!そう、何とこの製図室、お茶畑の様に段々状になっていて、上から下まで5層吹き抜けの大変気持ちの良い大空間になっているんですね。



しかも天井も側面もその殆どの部分がガラス張りなので、内部空間には燦々と陽が注ぎ込み、更に大空間を覆っている大屋根に急勾配が付いている事などから、この空間のダイナミックさにより一層の拍車を掛けているという構成になっています。この空間を下から見上げてみるとこんな感じ:



大屋根の下に集められたこの一体感はちょっと凄い。



で、ここからがGSDの教育システムの面白い所なんだけど、この大学院では所属している500人前後の大学院生一人一人にかなり大きめの作業スペースが与えられてて、それら全ての作業スペースが(上述した様に)1つ屋根の下に集められていると言う構成になっています。



だからGSDでは学年や専攻に関係無く、「誰がどんな事をやっているのか?どんな計画を練っているのか?どんな事を考えているのか?」なんて事が一目瞭然、手に取る様に分かると言う訳なんです。このシステムが優れているのは、各自の机に置いてある作業中の模型やらプランやら興味深いものを見付けたら、直ぐに話し掛ける事が出来るという点かな。その人の机の所まで行けば良いだけですからね。それに自分の作品が興味深いと言ってくれる人を邪険に扱う様な建築家は先ずいないと思いますし。



この製図室は、その様な生徒間、もしくは生徒と教授間のコミュニケーションを促進し、そして正にその事を通して生徒一人一人の創造力/想像力を刺激する理想的な教育システムを「空間として」体現しているのです!



一階部分にはカフェや軽食を採る事が出来るスペース、そして大きなソファーが置かれたみんなでリラックスしながら議論が出来るスペースが用意されています。



地下には大きな大きな模型室、そしてシャワー室なんかも完備されていました。



一転、上の階の奥の方には講評会や授業などが出来るスペース、教授室などが配置されています。



建築専門の図書館もこの建物の中に入ってて、設計の資料などに困ったら1分足らずで自分の作業スペースから本を探しに行く事が出来るという利便性。設計をした事がある人なら分かると思うけど、これはかなり嬉しい環境です。設計が好きな人にとっては、正に天国と言っても良いのでは無いでしょうか?



この空間に身を置いていると、何故GSDを卒業した人達が世界各国で活躍しているのか?そして何故彼らが固い絆で結ばれているのかが分かる様な気がします。何故ならこの空間は、辛くそして楽しい学生時代の体験を「集団として共有させる事」に成功しているからです。

‥‥僕が未だ大学生の頃、僕に建築の基礎を教えてくれた渡辺先生が良くこの空間の事を熱心に話してくれた事を今でも覚えています(ちなみに渡辺先生もGSDのご出身)。その時渡辺先生が言われていた事が、「あの空間はねー、みんなで喜怒哀楽を共有するという、その人の人生にとって掛替えの無いものを提供しているんだよー」と繰り返し言われていました。その時は未だ僕も建築の右も左も分からなくて「あー、そんなものなのかなー」くらいにしか思って無かったんだけど、あれから10数年、今回この空間を実際に訪れる機会に恵まれて初めてあの時渡辺さんが言われていた事が身を通して分かった様な気がします。と同時に、こんな空間で建築が学べ、そして掛替えの無い友達を作る事の出来るGSDの学生達をちょっと羨ましくも思うかな。

ハーバード大学デザイン大学院GSDの「強さの秘密」をちょっとだけ垣間見た、そんな気がした昼下がりでした。
| 建築 | 11:51 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
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