地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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MIT Media Lab(MITメディアラボ):槙文彦さんの建築
先週末、ここボストンにて、在米日本人コミュニティを揺るがす大事件が勃発しました。テンコ盛り&濃い味付けで「一度食べたら忘れられない」と、一部のラーメン好きに爆発的な人気を博している二郎系ラーメンU.S.第一号店が遂にボストン(ケンブリッジ)にオープンしたんですね!って言っても、僕は二郎ラーメンというものを全く知らず、こちらの友達に「凄く美味しいから行こう」と誘われ、言われるがままについて行く事に。



で、行ってみたらこれが物凄い人!それこそiPhone5の発売時にApple Storeに並んでた行列と良い勝負なんじゃないの?って言うくらいの人出!しかも並んでたのは9割5分方日本人って言うから驚きです。そんなもんだから、待ち時間は脅威の2時間!しかもこの日は今年一番の冷え込みときてたものだから、僕も最初の内は頑張って並んでたんだけど、1時間経った所で体の芯まで冷え込んできちゃってギブアップ。待ちに待ってたラーメンだったんだけど、この日は食べる事が出来ず泣く泣く帰る羽目に(悲)。今回は食べられなかったので、来週か再来週くらいの落ち着いた頃を見計らって行ってみようと思っています。



さて、今日紹介するのは数あるMITの研究所の中でも異彩を放っている存在、泣く子も黙るMIT Media Labの登場です。日本でも頻繁にメディアなどに取り上げられ、雑誌やテレビ番組でも特集が組まれている事などから、アカデミックとは全く関係が無い人でもその名前くらいは聞いた事があるのでは無いでしょうか?MIT Media Labは元々、建築家であり100$ノートPCプロジェクトで有名なニコラス・ネグロポンティ氏などが設立した事から、所属は建築都市計画学部となっています。更に、タンジブル・ビット研究で世界的に有名な日本人研究者、石井裕さんが副所長を務められ、去年からは伊藤穣一さんが第四代目の所長に就任されるなど、日本とも繋がりの深い研究所となっているんですね。



そんな世界でも例を見ないほど魅力的なプロジェクトで溢れまくってるMIT Media Labなのですが、その研究内容とは裏腹に、Media Labの建築自体について語られる事は今まであまり無かったのでは?と思います。



そう、何を隠そうこのMIT Media Labが入っている建築こそ、ボストンに存在する数多ある現代建築の中でも最高峰に位置すると言っても過言ではない名建築なのです。かく言う僕も、ボストンに初めて降り立ったその日、取り合えず大学の下見に来た序でに迷わず訪れたのがこの建築だったって言うくらいなんですね。



‥‥ピシッと決まった佇まい、そのさり気ない存在感、非常に洗練されたデザインで纏められているファサード‥‥見る人が見れば誰が設計したかは一目瞭然だと思います。そう、この建築をデザインしたのは、日本が誇る建築界の巨匠、槙文彦さんです。



槙さんと言えばボストンとは非常に深い繋がりで結ばれていて、と言うのも槙さんはハーバード大学のデザイン大学院(GSD)を卒業された後、カタラン人建築家Josep Lluis Sertの事務所で修行されていた事があるからです。ちなみにケンブリッジ(ボストン)にはセルトの設計した建築が幾つか残っていて、階段を用いた見事な導線計画や、ファサードに様々な要素をくっつけて分節化する事でヒューマンスケールを醸し出す手法など、槙さんがヒルサイドテラスで展開されているテクニックの原点をみるかの様で、それはそれでとても興味深いと思います(セルトについてはコチラ:地中海ブログ:オープンハウス in バルセロナ(48 OPEN HOUSE BCN)その3:ホセ・ルイ・セルト(Josep Lluis Sert)のパリ万博スペイン共和国館)。と言う訳で、久しぶりの槙ワールドを早速堪能してきました!



この建築の前に立って先ず最初に気が付く事は、非常に丁寧に創られているという事かな。様々な線がピシッと揃っている所なんかは流石と言うべきでしょうか。そしてやはり街中に建つ事を意識した「街角の創り方」と、ともすれば威圧感だけを与えがちな大きなスケールの中に「ヒューマンスケールを取り戻す為の工夫」が至る所に見られます。例えばコチラ:



敢えて角っこに階段を配置し、街角の「顔」を創り出し、更にはその部分の天井を低く抑える事で、建物に入る時の親密感を醸し出しているんですね。そこにポツンと建てられた真っ白な柱が、あたかもここに佇む為の拠り所となっているかの様ですらあります。ちょっと引いた所から見たファサードのデザインはこんな感じ:



階段、スロープ、柱、手摺そして上の階で止まっているルーバーと言った様々な要素が、一部の狂いも無くピシッと決まっている。この様なデザインを見るに付け、良い意味でも悪い意味でも「あー、日本的だなー」と感じてしまいます(地中海ブログ:歩いても、歩いても(是枝裕和監督):伝統と革新、慣習と感情の間で:リアリズムを通して鑑賞者の眼が問われています)。



上の写真は反対側へ回ってみた所。様々な部位が分節され、幾つかの箱が絡み合いながら上方へ駆け上っているかの様ですらあります。ともすれば「単なる箱」になりがちなんだけど、大変精密且つ密度の濃いデザインがこの単純な箱を「単なる箱以上のものに変えている」のが見て取れるかと思います。グレーの箱に取り付けられたガラスとルーバーの取り合いも絶妙。文句無くカッコイイ!そんな事を思いつつ、イヨイヨ中へと入って行きます。



メインエントランスを入ると、太陽光に満たされた2層吹き抜けの大変気持ちの良い空間が我々を出迎えてくれます。その中でも注目すべきはコチラ:



向こう側に見えているエメラルドグリーンの箱はエレベーター室になってるんだけど、その手前に掛かっているブリッジが、「ココから先は神聖な場所なんだぞ!」と言わんばかりの存在感を醸し出し、何かしら目には見えない境界線を創り出しているかの様なんですね。心が凛となります。そんな訳で、心を落ち着かせながらブリッジを潜ると見えてくるのがこの風景:



圧巻の4層吹き抜けの大空間の登場〜。各階がガラス張りになっていて、そこから研究室で働いている人達が見え隠れするという、壮快な風景の出現です。研究活動している人達の姿を「敢えて」見せる事で、その人達をも広告にしてしまおう、売り込んでしまおうという、正にMedia Labのコンセプトを具現化したかの様な、大変見事な空間になっていると思います。



こちらは反対方向から見た所。微妙に色の異なる白系のマテリアルで纏められた空間は清潔感に溢れ返っています。壁、床、柱、軽やかなリズム感を生み出しているガラスの方立て、それらを纏めるかの様な丸柱、そこへ向かって真っ直ぐに進む2本の線、床に埋め込まれた丸いライトのリズム感、更には向こう側に見える縦縞のアルミと言った様々な要素が素晴らしいハーモニーを醸し出しています。そして右手方向にはこの風景:



真っ赤な階段が大変印象的な吹き抜けです。最初見た時はこの弓形にしなった階段、「ちょっとどうなのかな?」と思ったけど、何回もココを訪れる内に、この空間にピッタリ合ってる様な気がしてきました。と言うか、この空間にはこの形とこの色の階段しかあり得ない!とさえ思えてくる程です。そしてここで早速槙マジック!



向かって斜め右上に走っている真っ赤な階段の後ろには、何かしら大きな空間が潜んでいるのが分かるかと思うのですが、更にその先には、この真っ赤な階段とは直角を成す様にして、今度は黄色い階段が設えられているのが分かるかと思います。



「これは何を意味しているのか?」というと、こうする事で「この先、どんな空間が待ち構えているのか?」という「暗示」をしているんですね。そしてこれはそのまま、その先に待ち構えている空間が直行し、更にはそれらの空間が螺旋形に巻き込む様に上昇していっているという事を指し示してもいるのです。ここまで見ただけでも、この建築が「特別だ」という事が分かるかと思います。というか、こういう事をサラッとやってしまえる槙事務所が凄いと言うべきか。まあ、とにかく上に上がって行ってみます:



一層上がった所からはガラス窓を通して、研究室の中を覗く事が出来ます。



外側からは予想もしなかった様な結構大きな2層吹き抜けのボリュームが内包され、コレ又大変印象的なクルクル階段で結ばれているんですね。そして振り返るとこの風景:



先程言及した黄色い階段と青い階段が主役を成している吹き抜け空間です。上述した様に、この空間の方向性は一階部分とは90度の角度を成しているのが分かるかと思うのですが、その事は階段のスタート地点を見比べてみると分かり易いかな:



ほらね。さっき上がってきた階段に対して、今から上ろうとする階段が直角方向に付いているのが分かりますね。

槙さんは一体ここで何をしているのか?



槙さんのやりたかった事、それはこの様な階段(アーキテクチャー)を用いて、強制的に訪問者を直角方向に方向転換させ、空間に螺旋的な運動を喚起させているのです。‥‥「螺旋系の運動」と聞いてピンときた人はかなり勘がいい。そう、螺旋のマスターと言えば勿論コルビジェです(コルビジェの見事な空間構成についてはコチラ:地中海ブログ:パリ旅行その6:大小2つの螺旋状空間が展開する見事な住宅建築:サヴォワ邸(Villa Savoye, Le Corbusier)その1:全体の空間構成について)。多分コルビジェの話をし出すと、それこそ止まらなくなるので、その話は又今度。



この空間には卓球台が置かれていたり、恐竜の模型が置かれていたり、とにかく遊び心に溢れています。意地悪な言い方をすると、そういう「イメージを醸し出そうとするポーズ」と見えない事も無いかな。で、ちょっと裏側へ回ってみたらこんなものが置かれていました:



立体フォログラフィーによる研究室の紹介。おー、さすが先端技術を駆使したMedia Lab!という訳で今度は、この黄色い階段を上って行く事に。その丁度途中にあるのが石井さんの研究室。何か「勝訴」とか書いてある(意味は不明)。そこを抜けると辿り着くのがこの空間です:



前面ガラス張りのロビー。お日様の光が「これでもか!」と入ってくる、大変気持ちの良い空間です。ゆったりとしたスペースに、コレ又大変ゆったりとしたソファーが並べられ、学生とおぼしき人達がコンピュータを持ち込んで、なにやら作業をしていました。



壁には落書きが書かれています。反対側はダイニングルームになっていて、ここでランチをとる事も可能。実は僕、ランチ時にはここに来て食べる事が結構あるんですよねー。ゆっくり出来るし、なにより居心地が最高!そしてイヨイヨ最上階へ上がって行ってみます。最上階へはエレベーターでアクセスするのですが、降りると先ず目に飛び込んでくるのがこの風景:



槙さんが風の丘の葬祭場で見せた、あの半円形に切り取られた空間の登場です。風の丘の葬祭場の大変印象的な天井と、コレ又素晴らしい階段の完璧なるハーモニーは、本当に「記憶に残る場所」としての質を持ってると思うんだけど、あの空間の原型は実はポルトガルの建築家、アルヴァロ・シザにあり、そしてシザはガウディに影響を受けたという事は以前のエントリで書いた通りです(地中海ブログ:ガウディ建築の傑作、カサ・バトリョ(Casa Batllo)その1:カサ・バトリョに展開する物語を見ていて思う事)。その様な遺伝子がココにも見られるというのはかなり興味深い。さて、この天井を見つつ、振り返り様に現れるのがこの風景:



うーん、圧倒的な風景、何も邪魔するもの無くボストンのスカイラインを見渡す事が出来る大変気持ちの良いパノラマ。この空間が特別である事を指し示すかの様に、天井はこれまでのフラットとは一転、斜めに走っていますね。そしてこの奥には会議室があるんだけど、ここが又凄かった!



じゃーん、I.M.ペイのジョンハンコックタワーがパノラマで見える絶景会議室です(地中海ブログ:I.M.ペイはやっぱり天才だと思う:ジョンハンコックタワーを見て)。一階下のガラス張りのロビーは、前に建っている建物に風景を遮られていたので「絶景」とはいかなかったんだけど、こちらでは視界を遮る様なものは一切無く、チャールズ川を通してあちら側に競って建っているスカイスクレーパーの競演を楽しむ事が出来ちゃいます。



そしてここまで書いてくればもうお解りだとは思うのですが、この空間がこの建築に展開するクライマックス的空間であり、一階部分から展開してきた螺旋系の運動がここに来て、頭の上にスゥーと抜けていく‥‥という物語が展開しています。



槙さんの建築は本当に久しぶりに見たんだけど、いつ見ても何時訪れても僕に建築的な楽しみ、そして建築を訪れる事の喜びを教えてくれます。それは何も建築的な空間構成やディテールと言ったものだけなのではなく、何かしらもっと深いもの、そう、人間の根源に訴えかけてくる様なものを建築が醸し出しているかの様ですらあります。

大満足の建築訪問。星三つです!!!
| 建築 | 09:33 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
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