地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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I.M.ペイはやっぱり天才だと思う:ジョンハンコックタワーを見て
早いもので、ボストンへ来て今日で丁度一週間が経ってしまいました。最初の一週間は、IDカードを作ったり、色んな所に必要書類を提出しに行ったり、住む部屋を探したりと、それこそあっと言う間に時間が過ぎて行き、「何かをする」というよりは、新しい生活リズムに慣れる事で今は精一杯って感じです。



毎朝、チャールズ川に掛かる長―い橋を渡るのが日課になっているのですが、この橋からの眺めは結構壮快。



向こう岸に見えるのがMITの広大なキャンパスなんだけど、それらを背景として週末なんかには真っ白なヨットが出たりして、何気に気持ち良さそうです。朝方や夕方なんかには、この橋をジョギングしてる人を多く見掛けるんだけど、こっちに来て少し驚いたのは、結構みんな運動とかしてて、「健康には気を使ってるっぽい」って言う事を発見したって事かな。

当ブログでは散々書いてきたんだけど、スペインでは心臓の手術をしようが腎臓を移植しようが殆どの場合が無料なのに対して(スペインの医療保険に関してはコチラ:地中海ブログ:スペインの医療システムについて:歯医者の場合、地中海ブログ:ヨーロッパ各国の導入している医療システムについて、地中海ブログ:健康ツーリズム:スペインの誇る医療サービスの盲点を突いた、グローバリゼーションの闇)、アメリカでの医療費は結構高く付くというのは良く知られた事実だと思います。

そういう事を考え合わせると、実はアメリカ人(もしくはアメリカに住んでる人)って、病気になったりしたら医療費が高いから、普段からなるべく病気にならない様に心掛けてるんじゃないのかな?スペインは全く逆で、病院へは何回行ったってタダだから、用も無いのに行く人が多い(笑)。もしくは仕事をずる休みする為だけに行ったりとかも結構ある(地中海ブログ:スペインの管制官仮病騒動の裏側に見えるもの:実は裏で糸を引いてたのはスペイン政府じゃないの?って話)。

さて、MITのキャンパスにはエーロ・サーリネンやらフランク・ゲーリーやらスティーブン・ホールやらと言った、大変魅力的な近現代建築が溢れまくってるんだけど、上述した様に今週は結構忙しかったので、それらをじっくり見る事は全く出来ず(悲)。その代わりと言っては何なんだけど、街中へ日用品を買いに行くついでに、ボストンの中心部に建っているI.M.ペイ設計によるジョンハンコックタワーを見てきました。



市内の何処に居ても、どこからでも見えるこのジョン・ハンコックタワーは、正にこの街のランドマークと言うに相応しい存在かなと思います。



真っ青な空に「すくっ」と立った、その佇まいが先ずは非常に美しいですね。この建築の佇まいをここまで美しくみせているデザイン上のテクニックは色々あって、例えばこの建築の基本平面が単なる長方形じゃなくって、ハスに構えた形になってるとか、プロポーションにかなり気を使ってるとか、まあ書き出せば本当に長くなっちゃうんだけど、その中でもこの建築の一番の見所はコチラです:



そう、この建築の側面に上から下まで一直線に入ってるスリットなんですね。明らかにこのスリットがこの建築に独特のアイデンティティを与え、世界中の何処にも無い、唯一無二の存在にしている根源でもあります。と言うか、たったコレだけの操作で、この平凡な長方形をここまで特別なものにする事が出来る、そのデザイン力の方に我々は驚嘆すべきなのです。

一体、何がそんなに凄いのか?



えっとですね、I.M.ペイがここでやっている事、それは光を用いた造形なんですね。このスリットのガラス面にちょっと角度が付いている事から、ここだけ光の反射具合が異なり、あたかもここに一筋の光の線が走っているかの様に見えます。



しかもそれが時間と共に刻一刻と変化していく‥‥。



例えば上の写真は午前中に取った写真なんだけど、太陽光が反対側から入って来ているので、スリットは黒ずんで沈黙しているのが見て取れるかと思います。



それが午後になり、太陽が動くにつれて、このビルの側面に段々と光の線が描き出されて行く訳ですよ!



しかもその光の線が時間と共に刻一刻と太さを変え、又色彩をも変えていく‥‥。



これはアルヴァロ・シザがセラルヴェス現代美術館で見せた、あの魔術の様な光の扱い方、そして光による空間の造形と同類だと僕は思います。シザの場合は、「白い壁は光を良く反射する」という性質を用いて、前面の真っ白な壁に一旦太陽光を当てておき、その反射光をアプローチ空間に落とす事によって、あたかもエントランスアプローチ自身が、「おいで、おいで」と言っているかの様な空間が実現されていたんですね(地中海ブログ:ガリシア旅行その8:アルヴァロ・シザの建築:セラルヴェス現代美術館(Museu de Arte Contemporanes, Fundacao de Serralves):人間の想像力/創造力とは)。



前にも書いたと思うんだけど、やはりI.M.ペイという人のデザイン力、特に造形力には目を見張るものがあると思うなー。ルーブルのガラスのピラミッドは言うまでもなく、以前ベルリンで見たドイツ歴史博物館の、あのくるくる階段の造形には本当に度肝を抜かれた事を今でもハッキリと覚えています。ちなみに、その時の印象を僕はこんな風に書いているんですね:

「‥‥そもそも何故彼はこんな形を良いと思ってしまえるのか。普通こんな形、綺麗だとは思いませんよね。シザもそうなのですが、彼らの建築の魅力はダサイ形とキレイな形の不思議な均衡にあると思う。ちょっと間違えるとダサイ形になる一歩手前にとどまる事によって異様な魅力を獲得しているというような。こういうのって最近流行の一筆書きのミニマルな建築をデザインするのとは次元の違う造詣感覚が必 要だと思うんですね。やはり彼は他の人とはちょっと違う造詣感覚を持ち、形に対する感覚がかなり鋭いのかも知れない。」(地中海ブログ:I.M.Pei (アイ・エム・ペイ)について)

当時の僕はI.M.ペイのデザインした建築を2つしか見ていなかったので、彼の形に対する独特な感性等、「もしかしたらこのドイツの博物館が偶然なのかもしれない」と半信半疑だったのですが、今回彼の3つ目の建築を実際に訪れてみる事で、彼に対する僕の評価は増々固まりつつあります。



建築は表象文化です。その地方に根付く社会文化、もしくはそこに住む人々が心の底で思っていながらもなかなか形に出来なかった集団的無意識を一撃の下に表す行為、それが建築であり、そういう事が出来る能力を持った人達の事を我々は建築家と呼んできたんですね。

そういう意味において、今の僕は未だアメリカに来て1週間足らずなので、この国の社会文化は勿論の事、「この地に建っている建築が一体何を表しているのか?」、「ここに住む人達のどんな価値観を表象しているのか?」という事をハッキリと読み取る事は出来ないし、分析する事も出来ません。

その国や地方に住んだ事も無いのに、あたかもそこに建ってる建築=その地方の表象文化が分かったかの様な、そんな事を言うのだけは常々避けたいと、そう思っています。それこそ僕がスペインのカタルーニャという世界的に見てもかなり独特な地域に腰を据えて住む事によって得る事の出来た視点でもあるのだから。

と言う訳で、これからの数ヶ月間、この国に住み、この国の社会文化に触れる事によって、この国に展開している建築を出来るだけ読み解いていこうと思っています。乞うご期待!
| 建築の歩き方 | 09:53 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
おはようございます。アメリカ便りですね〜とても楽しみです。
ベルリン・パリは存じているのだが、アメリカはもっぱら、ネットだけです。(笑)今朝はこれから、武部さんの庭の研究会です。彼も話題にすると思います。期待しています。千葉のホキ美術館設計の山梨知彦氏とお逢いし、楽しいひと時を持ちました。
| mory's | 2012/09/09 11:09 AM |
Mory'sさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

今回のアメリカ滞在中に出来るだけ建築を見て回って行こうと思っています。その中でもルイス・カーンの建築は絶対見ようと思っています!

武部さんにも宜しくお伝えください。
| cruasan | 2012/09/17 10:19 AM |
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