地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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サンティアゴ・デ・コンポステーラ:アルヴァロ・シザのガリシア現代美術センターその2
キリスト教3大聖地の1つであり、中世から続く巡礼路「サンティアゴの道(El Camino de Santiago)」の終着地点でもあるサンティアゴ・デ・コンポステーラに行ってきました。



この都市の起源は非常に古く、今から1000年以上も昔に遡ります。当時、イベリア半島で布教活動をしていたのがキリスト教12使徒の一人、ゼベダイの子ヤコブ。彼は6年間の布教活動の後、イスラエルに戻ったもののヘロデ王によって直ぐさま捕らえられ斬首刑。首を刎ねられた遺体は、弟子達によってこっそりとスペイン北西部ガリシア州のフィステーラ(Fisterra)に運ばれ、現在のサンティアゴ・デ・コンポステーラが位置する土地に紀元1世紀半頃に埋葬されたという伝説が残っているんですね。



長い間忘れられていたそのお墓が再び発見されたのが9世紀初頭の事。奇しくもスペインはその時代、レコンキスタの真っ最中であり、聖ヤコブはイスラム教勢と闘っていたキリスト教勢を守護するシンボルとして熱狂的に崇められました。現在我々が見ているサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂というのは、元々は、発見されたヤコブの遺骨を祭る為に建てられた小さなものだったんだけど、それが世紀を超えて増改築が繰り返された結果、遂には西方カトリック世界における代表的な巡礼地に相応しい大聖堂になったと、そういう経緯が存在します(大聖堂については次回のエントリで詳しく書く事にします)。

さて、僕が今回(正に巡礼者の如く(笑))この地に再び赴いた理由は主に3つ。

1つ目は上述のサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂と、その周辺状況を調査する為です。と言うのも約一年前、人類の至宝とも言うべきカリクストゥス写本(Codex Calixtinus)が大聖堂から盗み出され、それ以来、その事件の動向には常に注目してきた事もあって、現在どういう状況になっているのか非常に関心があったからなんですね(詳しくはコチラ:地中海ブログ:サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂から12世紀に記されたカリクストゥスの写本(Codex Calixtinus)盗まれる!、地中海ブログ:スペインの石川五右衛門こと、伝説的な大泥棒のインタビュー記事:サンティアゴ大聖堂から盗まれたカリクストゥス写本について、地中海ブログ:サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂から盗まれたカリクストゥス写本(Codex Calixtinus)発見!)。そして2つ目の目的がコチラ:



ピーター・アイゼンマンが手掛けたガリシア文化都市(Cidade da Cultura de Galicia)を訪れ、その空間を実際に体験してみたかったからです。この建築、去年来た時は未だ完成してなくて図書館とカフェくらいしか見る事が出来なかったんだけど、「流石に1年も経ったら完成してるだろう」と言う事で再訪したんだけど、丘を登っていくと何やら悪い予感が‥‥。



あ、あれ、クレーンとかが未だ動いてる‥‥。そうなんです!何とこの建築、予想に反して未だ工事中だったんですね!って言うか、緊縮財政で医療、教育分野でさえ予算が全く無いって言う状況の中、こんなバカでかい建築、本当に完成するのかー?何てったって、バブル絶頂期にガリシア地方で圧倒的な権力を握り続けたガリシア州政府フラガ大統領の個人的な要求から構想された「ピラミッド計画=墳墓」ですからね(フランコ政権時代からの大物政治家、フラガ氏についてはコチラ:地中海ブログ:スペイン語の難しさに見るスペインの多様性:ガリシア語とカステリャーノ語)。



でも、まあ折角来たんだからという事で一応中に入ってみたんだけど‥‥ハッキリ言ってコメントする事は何も無いかな(悲)。「良い建築を知る為には悪い建築も見ないといけない」という意味においてココに来た事も無駄では無かったかなとは思うんだけど‥‥。この巨大な建造物に関しては去年のエントリで書いたので、興味のある方はそちらを見て頂ければと思います(地中海ブログ:ガリシア旅行その5:ピーター・アイゼンマン(Peter Eisenman)のガリシア文化都市(Cidade da Cultura de Galicia):スケボーするには画期的な建築)。

で、気分を取り直して、今回の旅の3つ目の目的地へGO!それがコチラです:



アルヴァロ・シザの傑作中の傑作、ガリシア美術センターの登場〜。この建築を訪れるのは今回で5回目くらいなんだけど、いつ来てもその空間は輝きを増すばかり!ここに展開されてる空間構成こそ「知的ゲーム」と呼ぶに相応しいものだと思います。



この建築に展開する空間構成や視線操作の妙などについては、去年来た際に書いたエントリで書き尽くしたので、興味のある方はそちらをご覧ください(地中海ブログ:ガリシア旅行その6:アルヴァロ・シザの建築:ガリシア美術センター(Centro Gallego de Arte Contemporaneo):複雑な空間構成の中に隠された驚く程シンプルな原理)。一年経った現在、もう一度この建築を訪れてみた僕の感想は、基本的にその時と変わりません。今日はココに来て気が付いた事を補足的に少しだけ。



何度も繰り返すのですが、シザ建築の特徴の1つはパースペクティブ的空間にあります。そしてその効果が「これでもか!」と見える建築、それがこのガリシア美術センターなんですね。例えばコチラ:



元々この敷地に存在していたSan Domingos de Bonava修道院との関係性を注意深く吟味した上で決められた配置計画、これがこの建築の全てだと言っても過言ではありません。



修道院との間に創られる2つの線が織りなすパースペクティブ的空間と、それらの線が向かう先にある消失点。これらの線が、外観だけでなく内部空間までをも規定し、素晴らしい空間構成を実現している起源なのです。今回は以前のエントリでは紹介出来なかったパースペクティブ的空間を創り出しているテクニックを1つだけ紹介しておきます:



正面ファサードに付いてるスロープと開口なんだけど、良―く見ると、その開口が手前から奥に行くに従って斜めになっている事に気が付くかと思います。もう少し近寄って見ます:



上の写真は手前側の開口が始まる部分。そして下の写真は奥の方の開口が終わる部分なんだけど、あちら側とこちら側とでは開口の高さが明らかに違うのが見て取れるか思います。



つまり直線を斜めにする事によって、一方向から見たパースペクティブを強調しているんですね。僕がシザの建築について「パースペクティブ的空間」という言葉で表そうとしているのは、何も観念的な難しい事ではなくて、この様な身体的なとても単純な事なのです。しかしこの様な誰にでも分かる単純な操作が、大変ドラマチックな視覚的効果を生み出すという事を我々は学ぶべきだと思います。

で、今回、僕がこの部分をそれこそ舐め回す様に観察していたら、それを見ていた警備員のおじさんが近寄って来てこんな裏話を教えてくれました:



「君、君、この建築に興味があるみたいだね。私はこの美術センターが出来た時からここで働いてるんだけど、当初このスロープに手摺は付いてなかったんだよ。この美術館が完成して数ヶ月した頃だったかなー、アロヴァロ・シザがここへやって来て、来館者の人達がこのスロープの途中から「ひょい」と飛び越えていくのを見て彼は大変機嫌を悪くしてねー。どうやら彼の当初の意図としては、このスロープを最後まで歩いて行ってもらい、そこから振り返り様にこの建築を見て欲しかったみたいだよ。だから彼はここに手摺を付けて、来館者が途中からスロープを昇れない様にしたのさ」



警備員のおじさんとは約10分程度話していたので、もっと色んな事を教えて貰ったんだけど、要点を掻い摘むとこんな感じになるかと思います。

コレです!こういう、書籍には絶対に現れてこない話、現地に来ないと絶対に分からない裏話などに、実はシザ建築の謎を解く鍵が眠っていたりするのです!

全く予想もしなかった裏話が聞けて、ルンルン気分で中へ入って行った所、今回の訪問で初めて気が付いた事がありました。多分それは先週行ったシザの真っ白な教会こと、マルコ・デ・カナヴェーゼス教会の知られざる地下聖堂に入る事が出来たのが大きかったと思うのですが‥‥(地中海ブログ:アルヴァロ・シザの建築:マルコ・デ・カナヴェーゼス教会の知られざる地下空間:真っ白な空間と真っ黒な空間)。



上の写真は展示室への入り口を潜った所に展開する素晴らしいレセプションの風景なのですが、手前側には天井に斜めの線のパースが付いた低くなった空間が存在するのが分かるかと思います。その反対に、その向こう側には下の写真の様な2層吹き抜けの空間が創られていて、その上方には明かり取りの為の大きな大きな窓が付いているんですね。



そう、ここでシザが試みている事、それは入り口を入った所からは光源を見えなくしつつ、そこから零れ落ちる柔らかい光やその光源の具合によって不思議に変化する光の空間を試しているんですよ!(写真ではかなり分かりづらい。と言うか、この空間の質は写真では捉えられないと思う)



これはまるで、先日見たマルコ教会の真っ正面に付いていた2つの不思議な長方形の窓と、そこから見える光の効果の様ですらあります。と言うか、ここへ来てあの時の光の効果を思い出したと言った方が正確かな。



そしてシザの十八番、床と家具を連続させるデザインにも注目。シザの建築においては何処からが家具で、何処からが建築なのかがかなり曖昧なんですね。もっと言っちゃうと、「その2つの間を行ったり来たりしている」という点が、彼の建築の魅力の1つでもあるかなと、そう思います。



この真っ白で透明な空間。この空間に漏れるあの不思議な光。過去と現在を結び付ける軸線による空間構成‥‥。ここに来ると何故アルヴァロ・シザという建築家が現代最高の建築家の一人と言われるのか、その理由がイヤという程分かります。そしてここに展開されている空間は決して写真では捉える事が出来ない質を伴ったものであり、実際にここを訪れる事でしか体験し得ないものだと確信します。

それこそ、建築の怖さでもあり面白さでもあるのです。
| 旅行記:建築 | 03:40 | comments(4) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
初めましてm(_ _)mいつも楽しく読ませていただいてます。クロワッサンさんは建築もスペインの学校で学ばれたんですか!?(・_・;?いきなりのしつもんですいませんm(_ _)m
| コタ | 2012/08/12 10:00 PM |
コタさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
建築の基礎は日本で学びました。ちなみにその後、建築設計事務所で働いてもいました。今になって思えば、留学する前に一度社会に出た事が非常に良かったと思います。一度社会を経験しているのと、していないのとでは吸収出来るものがまるで違いますから。
| cruasan | 2012/08/13 6:58 PM |
こんばんは。返答ありがとうございます。ということは、一度働いたあとにスペインの学校で建築をまた学ばれたんですか?私も今は設計事務所で働いておりますが、将来はスペインで働きたいのです。なのでクロワッサンさんがとても羨ましく思います(^ ^)
| コタ | 2012/08/14 11:36 PM |
コタさん、是非がんばってください!
| cruasan | 2012/08/16 5:57 AM |
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