地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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エドゥアルド・トロハの傑作、サルスエラ競馬場(Hipodromo de la Zarzuela)その2:軽い建築の究極形の1つがここにある
話が少し前後するのですが、「これだけは書いておかないと」と思うので、今日はその話題を。先週マドリッドへ行った際、どうしても訪れたかった第3の建築、それこそマドリッドが誇る近代建築の至宝、エドゥアルド・トロハが20世紀前半に完成させ、現在も使われ続けているサルスエラ競馬場なんですね。



人間の想像力/創造力の限界に挑んだエドゥアルド・トロハの傑作中の傑作、サルスエラ競馬場については、2年前に実際に訪れる機会があり、その時の体験を交えつつ以前のエントリで詳しく書きました(地中海ブログ:エドゥアルド・トロハ(Eduardo Torroja)の傑作、サルスエラ競馬場)。



その当時、この建築は修復中であり、一般公開は制限されていたという事もあって、ナカナカ訪れる事が困難だったんだけど、そんなトロハの建築が6月下旬から7月下旬の木曜日の真夜中に限って公開されているらしいという情報をキャッチしたのが先月の事。「この機会を逃す手は無い!」と言う事で、今回のマドリッド出張の合間を縫って訪れて来たという訳なんです。



サルスエラ競馬場への行き方については以前のエントリで書いた通りなんだけど、もう一度記しておくと、競馬が行われる毎週金曜日の午後と日曜日の午前に限り、地下鉄6号線Moncloa駅を出た所にあるバス停前(Intercambiador)から競馬場までの無料送迎バスが15分毎に出ている模様です(競馬場までは約10分)。ちなみに帰りも同じバスに乗って地下鉄駅まで送ってくれます。競馬が行われる日程については季節によって頻繁に変わる様なので、事前に競馬場のホームページで確認される事をお勧めします。



で、今回のイベントは一体何なのか?と言うと、どうやら気温が40度近くまで上がり灼熱地獄状態になってしまう真っ昼間に競馬をやるのは、観戦する方も、走る馬の方も大変だ!と言う事で、「それだったら、陽も落ちて涼しくなってくる夜中から始めようじゃないか」というアイデアの元、この1ヶ月に限り、夜22時から午前2時くらいまで真夜中にレースが行われると、そういう事らしいんですね。



とは言っても、「そんな夜中に競馬なんて、本当に来る人いるのか?」と半信半疑で競馬場に来てみると、これが凄い人!しかもスーツ姿や、ドレスアップした人などが大半で、Tシャツ姿に汚いビニール袋持って歩いてるのなんて僕ぐらい(苦笑)。「な、何―!この汚い東洋人!?」って眼でジロジロ見られちゃいました(笑)。



ちょっと面白かったのは、この「真夜中の競馬」というイベントを「ガストロノミー」と結び付け、家族ぐるみでディナーに来てる人が多かったという点かな。古き良きスペインの文化を受け継いでいるマドリッドでは、上流階級のお遊びの1つだった競馬が、今でも社交場になってるのかな?と、そんな感じを受けました。

で、今回、昼間のミーティングでクタクタになってる体に鞭打ってわざわざこんな所にまで来た理由がコチラです:



この世のものとは思えないシルエット!この風景を見る為に、はるばるこんな所にまで来たという訳なんですね。12,8メートルあるという、この大きく張り出した庇!俄には信じられません!まるで紙か何かで出来ているかの様な、そんな感覚さえ抱かせる程です。



ここに広がっている風景は、日本の構造体の大きさに慣れてしまっている我々日本人の眼には、より一層摩訶不思議に写るのでは無いでしょうか?



正直言ってこの建築を初めて見た時は、これを成り立たせている構造がどうなっているのか?最初は良く分かりませんでした。それは何もこの大きく張り出した庇がどうなっているのか?と言うだけの話ではなく、下階に広がる大空間にさえも、「在るべき所にあるはずの柱が無い」という感覚を僕に抱かせたんですね。



この建築を成立させている構造の妙については、現在バルセロナに滞在されている左官職人の森田一弥さんと散々議論したんだけど、これは簡単に言うと、ヤジロベーの様に前方の庇を後方の鋼管が下方に引っ張りつつ、下階の天井を吊り上げてバランスを取っているという非常にアクロバティックな構造で成り立っているという事でした。



上の図を見てもらうと分かり易いと思うんだけど、K-Aというのが前方に張り出している庇の部分で、その出っ張りをA-Bという支柱が支えています。それがこの支柱です:



そしてここからが凄い所なんだけど、先ずはC-Dという鋼管が屋根を下方向へ引っ張る事によってバランスをとっています。その鋼管がコチラです:



で、このC-Dの鋼管が上の屋根を下方向へ引っ張る力を利用して、下階の屋根(D-E)を吊り上げている訳ですよ!この様にして、僕が下階に降りた時に感じた「在るべき所にあるはずの柱が無い」という、無柱空間を実現しているんですね。その空間がコチラです:



つまりこの建築は、Kから始まった非常にドラマチックな庇がA-Bという支柱で支えられ、更にその力がC-Dという鋼管で下方向に引っ張られつつ、その同じ鋼管が下階に展開する空間の屋根を吊り上げる事によって全体としてバランスを取っているという、大変合理的な構造によって成り立っているという事なんです!これは凄い!と言うか、こんな建築見た事ありません!



更に更に、この断面の切り取り方と言い、この端部の終わり方と言い、このシルエットを見るだけでもエドゥアルド・トロハという人のデザイン力の高さが伺えるかと思います。



同じ様な形態を繰り返す事によってリズム感を創り出し、最後の端部を少しだけ変える事で無限に続くデザインに特異性を与えつつ切断しています。



更にその最後の部分を四分の一ほど「敢えて」残す事で、あたかも「飛翔する」という軽やかさを強調しているんですね。この辺りのテクニックについては、以前のエントリで槙文彦さんの幕張メッセで展開されたデザインと比較しながら分析してみました(地中海ブログ:エドゥアルド・トロハ(Eduardo Torroja)の傑作、サルスエラ競馬場)。



この形態を中庭空間が広がる反対側から見てみると、それこそこの屋根が何処からともなく「ふわっ」と降りてきて、それが軽やかに不時着したかの様な、そんな感じを与えてくれます。



す、素晴らしいの一言です。これほど見事な建築には滅多にお目には掛かれません。‥‥とか思ってたら、22時を回った所で漸く辺りが暗くなってきました。暗闇に浮かぶ屋根のシルエットは昼間とは又違った感じを醸し出していて、これ又文句無くカッコイイ!



人間の眼って言うのは、太陽光による上方からの光に慣れているので、照明器具による下方からの光を見せられると、大変奇妙な感じを受ける様に出来ています。それが夜景などを見た時に我々が感動したりする仕組みなんだけど、この競馬場の場合は、元々のデザインの特異性が加わって、本当に「得も言われぬ風景になっている」と、そう言う事が出来ると思うんですね。



建築を語る時にあまり曖昧な言葉は使いたくないんだけど、これこそ「無重力の建築」と言っても良いのでは無いでしょうか?そう、現代建築の1つの潮流である「軽い建築」の究極形の1つが、ココには存在するのです。そしてもう1つ、いつもは入る事が出来ない半地下空間にも今回は入る事が出来ちゃいました:



軽やかでノビノビとしたアーチが重なり合い、コレ又見事な空間を出現させています。どうやらこの空間は競馬を見終わった人達が立食パーティーや食事を楽しむ場として利用されてるみたいです。



そして外へ出てみれば夜中の0時を回ったというのに、まだまだ続々と人が集まってきて、それこそ「宴会はこれからだ!」くらいの勢いで盛り上がりまくっていました。「今日は木曜日の夜であって、明日は平日。特別お休みじゃない」って事はまるで忘れているかの様に(笑)。

先日見たドミニク・ペローの歩道橋と言い、現在開催中のラファエロ展と言い、流石に文化大国スペインの首都に相応しい、そんな底力を見せ付けられたかの様な滞在でした。

この建築はマドリッドに来たら必ず見るべき建築の1つに数えられると思います。素敵な体験をありがとう、エドゥアルド・トロハ!
| 建築 | 01:59 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
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