地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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国際博物館の日(International Museum Day):世界屈指のロマネスク美術コレクションが凄いカタルーニャ州美術館(MNAC)
毎年5月18日は「国際博物館の日」という事で、その同じ週の土曜日は世界中で40を超える国や地域の美術館、博物館(3,000以上)が入場無料になり、我が街バルセロナでも市内に点在する50以上の美術館、博物館が午前1時まで入場無料になるという、美術館好きには堪らない企画が開催され、真夜中まで美術を楽しむ人達で賑わっていました。



週末の夕暮れ時に、ちょっと着飾って恋人や友達と街中に繰り出し、日が暮れるまで命一杯おしゃべりを楽しむ。そんな彼らを後押しするかの様に公共側が様々な企画を用意している。そんな光景を目の当たりにすると、「やっぱり地中海の住民達というのは人生の楽しみ方を知ってるよなー」と思わずにはいられません。っていうか、この地域の人達ほど、街を自由に使いこなし、どんな時でも人生を謳歌する事を忘れない、いや、人生を楽しむ事に執念を燃やしている民族はいないのでは?と、心の底からそう思う程なんですね。



かく言う僕も昨日は夜中まで美術館をハシゴしてたんだけど、真夜中に訪れる美術館というのは昼とは又違った幻想的な雰囲気を醸し出していて、特にリチャード・マイヤー設計のバルセロナ現代美術館(MACBA)なんて昼夜で全く違った顔を見せてくれるから驚きです。



全面ガラス張りのファサードからは、スロープを上り下りする人達の影が浮き彫りになり、それ自体がまるで芸術作品であるかの様ですらあります。



今回僕がバルセロナ現代美術館を訪れたのは23時くらい(イタリア人達の間でも「本場ナポリの味を忠実に再現している!」と評判のイタリアンレストランでマルガリータを軽く頬張った後)だったのですが、ディナー前の時間を利用して昨日最初に訪れた美術館がコチラです:



じゃーん、モンジュイックの丘の上に堂々と聳え立つカタルーニャ州美術館(MNAC)。世界屈指のロマネスク美術の宝庫であるこの美術館については、当ブログではことある毎に言及してきました(地中海ブログ:カタルーニャ美術館(Museu Nacional d’Art de Catalunya(MNAC))開館75周年記念展覧会:ドラゴンの違いに見るヨーロッパとアジアの違い、地中海ブログ:ロマネスク美術と地中海:カタルーニャ、トゥールーズ、ピサ、1120−1180(Romanesque art and the mediterranean, catalonia, Toulouse and Pisa, 1120-1180))。ちなみにこの美術館、最近館長さんが変わって、現在は元ピカソ美術館長だったペペさんが館長を務めています(地中海ブログ:バルセロナ・ピカソ美術館の企画展:「秘められたイメージ:ピカソと春画」その1:ピカソ美術館が好企画展を連発する裏事情)。そんなカタルーニャ州美術館が誇る、というかカタルーニャが誇る必見のお宝中のお宝がコチラ:



ピレネーの山奥にひっそりと佇むロマネスク教会の祭壇に掲げられていた、息を飲むほど美しい壁画や祭具の数々なんですね。



カタルーニャ州美術館にはこの様な素晴らしいロマネスク時代の芸術作品が「これでもか!」と言うくらい沢山収蔵されているんだけど、この裏にはちょっとした逸話が隠されていて、と言うのも、それまで山奥の中で殆ど見捨てられ、手入れもされていなかったロマネスク教会から、良く言えば「それらの芸術作品を後世に残す為に」、悪く言えば「元あった場所からそれらの壁画を引き剥がしてきた」と、そう言う事が出来るからなんです。勿論剥ぎ取られた壁画があった場所には瓜二つの作品が描き直され、今でもロマネスク教会を訪れる人々に唯一無二の体験を提供してくれていますし、美術館に運ばれたオリジナル作品の方は、丁寧に修復された上で、美術館内に教会の空間構成を忠実に再現しつつ我々の目を楽しませてくれていると、まあ、そういう訳なんです。



美術館内に再現された空間構成は、特に教会のアプス部分(教会の一番奥の丸くなってる所)が大変丁寧に創り込まれ、その前に建つと、現地の教会においてロマネスクの壁画や祭具などが「どの様に配置されていたのか?」が直感的に分かる様に工夫がされています。裏側から見ると、こんな感じ:



そしてこの様な素晴らしい壁画と共に見逃せないのがコチラです:



何とも素晴らしい祭壇画の数々なんですね。この祭壇画なんて、当時の処刑方法を描いたものだと思うんだけど、ロマネスク風にデフォルメ化されてると、これが結構笑えたりする。



これなんて「煮えたぎる鍋の中に放り込まれるー!」っていう何とも恐ろしい地獄絵なんだけど、こうして見ると、二人でお風呂に入ってるみたいで何とも微笑ましい(笑)。もしくはコチラ:



なんかノコギリで切られてるし‥‥。

さて、今でこそロマネスク教会やロマネスク美術といったものは「カタルーニャが世界に誇るお宝」という事になってるんだけど、実はカタルーニャがそんなお宝を発見したのは意外にもごく最近、20世紀に入ってからの事だと言ったら皆さん驚かれるでしょうか?

ロマネスク関連で国際的に知られているのは、モデルニスモ期の建築家プッチ・イ・カダファルクが1909年から1918年にかけて著した大著「カタルーニャのロマネスク建築」という本かな。これが「カタルーニャのロマネスク研究の基礎を築いた」という事になっていて、かのフェルナン・ブローデルも「地中海」の中でカダファルクのこの本に言及してるくらいですからね。ちなみに僕はこの本のオリジナルが欲しくて、数年前、古本屋をぶらぶらしていた時に偶々見つけたんだけど、3,000ユーロ(日本円で30万円相当)とか言う高値が付いていてビックリした覚えがあります。



で、ここからが面白い所なんだけど、確かにプッチ・イ・カダファルクはその大著によってロマネスク研究の基礎を築いたって事になってるんだけど、実はそれ以前にロマネスク研究の筋道を付けた人物がいたという事は意外と知られていません。何を隠そう、その人物こそドメネク・イ・ムンタネールだったのです(地中海ブログ:リュイス・ドメネク・イ・ムンタネール(Lluis Domenech i Montaner)によるモデルニスモ建築の傑作、サンパウ病院(Hospital de la San Pau):病院へ行こう!どんな病気も直ぐに治るような気にさせてくれるくらい雰囲気の良い病院、地中海ブログ:リュイス・ドメネク・イ・ムンタネール(Lluis Domenech I Montaner)の傑作、カタルーニャ音楽堂:コーディネーターとしての建築家の役割を再確認させてくれる名建築)。



ドメネク・イ・ムンタネールと言えば、ガウディのライバルでありカタルーニャ音楽堂やサン・パウ病院など数々の傑作を生み出してきたモデルニスモ建築の巨匠中の巨匠として知られているのですが、そんな彼は実は大変熱心な研究者としての顔も持っていて、その功績の一つがカタルーニャの山奥に眠っていたロマネスクの価値を見出したって事だったのです(注意:これは別に彼が最初にロマネスクを発見したと言っている訳ではありません)。



記録に残っている所では1879年にバルセロナ近郊のサンクガットの修道院に調査に行った際の記述があったり、そのちょっと後(1893年の4月、10月、11月)にはカタルーニャ地方の南西方面へロマネスク教会を訪ねる旅行をしてたりします。

それ以来、彼は若手建築家などを同伴しては、ちょくちょく現地調査に行き、写真やスケッチを残してたりするんだけど、その記録がちょっと凄いんです!何が凄いって、当時のカタルーニャにおいてロマネスクが如何に扱われていたのか、どんな待遇を受けていたかという事が明白な写真が目白押しだからなんですね。例えばコチラ;



この写真は、数あるロマネスク芸術の中でも最高峰に位置するサン・クリメント教会の「全能者キリスト」の壁画なんだけど、そのお宝中のお宝の上に、何か訳の分からない異物が、まるでその絵画を隠すかの様に蔓延り付いているのがはっきりと見えるかと思います。



コチラはその部分の拡大写真。本当ならアプスの奥に下記の様な素晴らしい壁画が見えるはずなんだけど、5つ程の三角形の尖塔みたいなものが邪魔してその壁画が見えなくなっているのが分かるかと思います。



これは一例でしかないんだけど、この様な驚くべき事態が当時のカタルーニャ社会では普通に行われていたという事なんですよ!ここでは「何故こんな事が行われたのか?」の詳細には立ち入りませんが、一つだけ言っておくと、この写真こそ、我々の価値観と言うものが如何に短い間に変わっていくのか?という事の動かぬ証拠だと思います。だからこそ我々は「歴史を学ぶ必要性があるのだ」という事を思い出させてくれますね。



この様な、息を呑むほどのお宝で一杯のカタルーニャ博物館のコレクションは大きく分けて3つの分野に分かれています。今日紹介したロマネスク部門はそれらの内の一つでしかありません。それに加えて2階にはラモン・カザスを初めとするコレ又素晴らしい絵画やジョセップ・リモナのうっとりする様な彫刻群などのコレクションがザックザック!バルセロナに来られたら必見の美術館である事は間違いないと思います。

それにしてもロマネスク美術は見れば見るほど新たな発見があり、「それがロマネスク美術の醍醐味なのかなー」とか思いつつ、今年の国際博物館の日は過ぎていきました。

追記:
寝ぼけていたせいか、バルセロナ現代美術館の建築家をリチャード・ロジャースとしてしまいました。Twitterで指摘してもらって気が付きました。正しくはリチャード・マイヤーです。訂正済み。
| スペイン美術 | 03:48 | comments(9) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
ごめんなさい。画像を見ても、張り付いてる訳の分からない異物っていうのが何かわからないのですが教えていただけないでしょうか。
| ん? | 2012/05/21 4:25 AM |
ん?さん、こんにちは。コメントありがとうございます。アップしてから30分程しか経ってないのに、凄い早さでビックリしました!多分最速コメント賞獲得だと思います(笑)。

その部分の拡大写真を追加しておきました。前よりはクリアーになったと思うのですが、どうでしょうか?

| cruasan | 2012/05/21 4:58 AM |
ドメネク・イ・ムンタネール<大好き!!
今日も素晴らしい記事ですね〜
やっぱりスペイン、大好きです。
5つの三角形の塔は、当時の宗教儀式で使われていたもの・・・祭壇のようなものなんでしょうか。

価値があると思っていた物の上に、新たな価値のあるものが築かれ・・・というのは、都市しかり、文学や美術然りですね。
美術史は門外漢なんですが、パリで美術館を歴史順に見ていて考えさせられるものがありました。
歴史に名を残すものって、当時の人にとってはスキャンダラスで、時代の半歩先を行くものがおおいですよね。

ロマネスク美術は今まで見たことがなかったんですが、カタルーニャ美術館、展示方法も含めて、ぜひ訪れたい場所になりました。

夜の美術館の写真も素敵ですね♪
| いちごキッズ | 2012/05/21 12:20 PM |
異物って祭壇の上のとんがったところだったんですね。

私も実はこの間の夜に観に行ったのですが、実は写真には写っていないところで、キリストの絵の上のところに目が9つぐらいある犬がいたので、それのこと?と思って勘違いしました。何を持って異物とするかという話なんですが、この壁画自体なかなか物議を醸しそうですよね。水木しげるの百目みたいで薄気味悪くて、好みは分かれそうです。
| ん? | 2012/05/21 10:27 PM |
こんにちは!またまたお邪魔いたします。
今回は普段と異なる趣の美術館を満喫されたのですね! ひとつ違うと全体が新鮮に感じられる事ありますよねー、と高校の頃、合宿で夜の校舎に泊まった事を思い出しながら拝見いたしました(おそらくそういう次元の話では無いと思うのですが(笑))。

歴史や文化に関して不勉強なもので見当外れな考えかもしれませんが、ロマネスク美術に関してムンタネールの業績があまり知られていないのは、もしかしたら少し前まで彼がカタルーニャの歴史的にあまり表に出したくない人物だったからなのでは?と思ってしまいました。 たしか、内戦の際に市民とは逆側にいたとどこかで見聞きしたもので(ここが間違いだとひたすらお恥ずかしい限りなのですが;) 、そういう人物の業績は埋もれてしまうのかもしれませんね。

今では価値があるとされているものが、過去ぞんざいに扱われていたケースは多いですし(ラスコー壁画は落書きでしたし(笑))、流れ行く価値観の中で懸命に歴史を学び、積み重なったものに価値を見いだせる社会や文化であり続けたいものだと思いました。

…真面目ーな事を書かせて戴きましたが、今回の記事、個人的にピザが最高威力でした。 食べたくなりました…!
ムンタネールの建築は写真やテレビでしか見た事がないですが、きれいな空間で憧れます。

今回も長々とお邪魔いたしました。(^^)
| 桃葡萄 | 2012/05/22 12:02 AM |
いちごキッズさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

5角形の異物は、多分以前の宗教儀式で使われていたものだと思われるのですが、何なのかはハッキリとは分かりません。しかし明らかにそれらの異物がその下に書かれたロマネスクの壁画を隠そうとしている意図が見えるのは確かだと思います。まさしく以前の価値をかき消し、自分達の価値で塗りつぶそうとしている姿勢が見えますよね。

スペインのロマネスク、特にカタルーニャ地方のそれは世界的に見てもお宝であり、そんなお宝が集まりまくっているのが今回紹介したカタルーニャ美術館なのです。この美術館は展示方法も本当に秀逸で、とってもお薦め出来るスポットです。是非楽しんでみてください!
| cruasan | 2012/05/27 3:27 AM |
ん?さん、こんにちは。
あー、僕もそれ思いました!水木しげるの百目みたいな壁画!ロマネスクの壁画って、色んな風に見えて、それはそれで非常に興味深いです。又行きたくなってきてしまいした。
| cruasan | 2012/05/27 3:28 AM |
桃葡萄さん、こんにちは。コメントありがとうございます。

勝てば官軍とは良く言ったもので、其の時代の価値って、其の時代に力が強かった人の視点で描かれてしまうので、本当の価値とは一体何なのか?という事を常に客観的な目で見る必要があるんだなー、と、今回の様な展覧会を見ていると思ってしまいます。というか、思い出させてくれます。

ココのピザ屋!ナポリ出身の家族が昔から経営してて、本当に美味しいピザを昔ながらの値段で提供しているんですよー!唯一の欠点は、ココのピザが美味しすぎて、他の店のピザが食べれなくなってしまう事でしょうか(苦笑)。
| cruasan | 2012/05/27 3:32 AM |
cruasanさん、Feliz 本出版♪
とはいえ、京都からかなり離れているので、講演会を拝聴することは無理です。先般はSantiago de Compostelaのレストランを、非常に参考にさせて頂きましたが、ここ数年、「ロマネスク建築を見ながら、ワインの産地も巡る一人旅」を勝手にやっているので、今回たまたま、Aragon/ Navarra Pireneo地方のロマネスク芸術の、「場所」を下調べ中で、またまたお邪魔させて頂きます。

そうですか、Barcelonaに山中深く眠っている壁画が、スペイン人的にひっぱがされて、展示されているんですね。これは行かねば!と思いました。幸いにして、次回は友人を訪ねにBarcelonaに寄るつもりなので、久しぶりにモンジュイックもにお邪魔しようと思います。個人的には、Carlos Zafon等著作の舞台を歩き回る、も勝手にやっているのですが、今回はロマネスクでまとめてみます。

ところでこの美術館、例のケーブルカーに乗って、丘の上に行くと近いでしょうか?あと出来れば、いつもBarcelonaの食事は、外しまくりなので、「地元民が行きたがる庶民的で美味しいMenuを出すレストラン」が、Sants / Nord周辺にあれば、教えて頂けないでしょうか。

よろしくお願いします!
| クマ | 2016/01/26 9:37 AM |
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