地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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世界一美しい図書館:ポンペウ・ファブラ大学(Universitat Pompeu Fabra)図書館の一般立ち入り禁止エリアに入ってきた
所用でポンペウ・ファブラ大学のメインキャンパス(Ciutadella)へ行ってきました。



カタルーニャ州政府の強いバックアップにより設立されたポンペウ・ファブラ大学については今まで事ある毎に言及してきたんだけど、それらのエントリでは、経済学部やバイオ医療、もしくはテクノロジー分野といった、南ヨーロッパ随一のレベルを誇る各学部のプログラムや、その方針、はたまたバルセロナの都市戦略との関係性などに焦点を当てて書いてきたんですね(地中海ブログ:22@地域が生み出すシナジー:バルセロナ情報局(Institut Municipal d'Informatica (IMI))、バルセロナ・メディア財団(Fundacio Barcelona Media)とポンペウ・ファブラ大学(Universitat Pompeu Fabra)の新校舎、地中海ブログ: カタルーニャの打ち出した新しい都市戦略:バイオ医療( BioPol, BioRegio)、地中海ブログ:初音ミクに使われている技術って、メイド・イン・カタルーニャだったのか!って話)。

1990年に設立されたポンペウ・ファブラ大学のメインキャンパスが位置しているCiutadella Vila Olimpicaとは、日本語で「オリンピック村」を意味します。そう、このエリアは1992年のバルセロナオリンピックが開催された際に「選手村」として開発された地区であり、オリンピックが終わった暁にはそれら選手達が滞在していた集合住宅がソーシャルハウジングとして低価格で売り出され、住宅不足に悩んでいたバルセロナ市における新しい居住エリアに変換される事が決まっていたエリアだったのです。つまりこの大学はこの新しいエリアに求心性と魅力を付与する為に「戦略的に創り出された」、云わば、バルセロナの都市戦略上に載っている「戦略の賜物」と見る事が出来るんですね。



オリオル・ボイーガスが全体計画を行った選手村は、バルセロナの都市形態に多大なる影響を与えている、19世紀に創り出されたセルダブロックに沿った形で配置計画がされています。ポンペウ・ファブラ大学のメインキャンパスも実は同じ建築家(ボイーガス)により設計された事などから、このセルダブロックに沿う形で基本計画がされているのが一つの特徴となっているんだけど、それが顕著に見られるのがコチラです:



そう、この校舎、ど真ん中に大変印象的な中庭が「デーン」と取られ、この中庭こそが、このCiutadellaキャンパスに独特のアイデンティティを与えているんですね。



上の写真は現政権が最近打ち出した教育費削減政策に対して怒った学生達が、街中をデモ行進する前にこの空間に集まり、活発に打ち合わせをしている様子。「公共空間とは市民が集まって討議し、権力に対して行動を起こす場所であり、その急先鋒は何時の時代も学生なんだなー」という事を思い出させてくれる、正にそんな光景です。

さて、ではこの中庭のアイデアは一体何処から来たのか?と言うとですね、それが上述したセルダブロックなんだけど、バルセロナを上空から見るとその状況が良く分かるかと思います:



各ブロックの真ん中には大きな大きな中庭が取られ、その中庭がそこに住む住民達専用の憩いの場として利用されていたり、それらの中庭を一般市民にも開放しようというコンセプトから、バルセロナ市役所がセルダブロック中庭開放計画を実施していたりするという事は以前のエントリで書いた通りです(地中海ブログ:出版界の大手、グスタボ・ジリ(Editorial Gustavo Gili)社屋のオープンハウスその2:カタルーニャにおける近代建築の傑作)。



で、ですね、ここからが今日の本題なんだけど、実はこのポンペウ・ファブラ大学のメインキャンパス、(普通の大学と同様に)専用の大学図書館を持っているのですが、この図書館が凄いんです!僕は職業柄、ヨーロッパ中を飛び回り、行った先々で色々な建築を見てるんだけど、そんな僕の目から見ても、「これほど美しい図書館には滅多にお目に掛かれるものじゃ無いのでは?」と思う程の質なんですよ!その一方で、この大変美しい図書館の存在は地元カタラン人達の間でもそれほど知られているとは言えません。

何故か?

何故ならこの図書館は特別なルートを通って行かなくてはならず、事前情報無しで見つけ出す事は非常に困難だからなんです。その概要については以前のエントリで何度か書いてきたのですが(地中海ブログ:ポンペウ・ファブラ大学図書館(Unversitat Pompeu Fabra))、「どうやって行ったらいいのですか?」等の質問を結構受け取るので、詳細な行き方などを改めて記しておこうと思います。

注意:この図書館は公立大学に属している為、誰でも訪れる事が出来ます。写真撮影も特に禁止されてはいませんが、その際は勉強している学生さん達の迷惑にならない様に心掛けましょう。結構みんな真剣に勉強しているので。

先ずはポンペウ・ファブラ大学へ来たら、地下一階にある図書館の入り口を入ります:



そこに広がっている風景はごく普通の大学図書館という感じなのですが、そこを突っ切って空間なりに奥へ奥へと歩いて行きます。



右折、左折を何度か繰り返したその突き当たりには上方へと向かう階段が現れるので、そこを上ります:



そこを上り切って少し歩くと、前方に「DIPOSIT DE LES AIGUES IUHJVV」と書かれた表示板とガラス扉が現れます。ちなみにDIPOSIT DE LES AIGUESとはカタラン語で貯水庫という意味‥‥そうなんです!世界一美しい図書館とは、実は昔の貯水庫を改修した図書館の事だったんですね!そんな世にも珍しい図書館の秘密の扉を入ると、そこに展開しているのがこの風景:



じゃーん、元貯水庫を改修したというだけあって、「これでもか!」というくらい高い天井と、その天井を足下でしっかりと支えている柱の対比が素晴らしい!



それらの柱は、まるで森の中に佇む大木の様であり、その木々の間に降り注ぐ光の粒子が、荒々しいレンガの表面に当たって、神々しく視覚化されているのを見る事が出来ます。この様な光の視覚化の手法は、バロック建築が細かい彫刻郡を天窓の下に配置し、繊細な彫刻の彫り込みによって出来る「光と影」で光の粒子を視覚化していたり(地中海ブログ:ベルニーニ(Bernini)の彫刻その3:サンタンドレア・アル・クィリナーレ教会(Sant'Andrea al Quirinale):彫刻と建築の見事なアンサンブル)、もしくはル・トロネの修道院が地元で採れる、表面がザラザラの粗い石によって達成していたりといった手法と大変似通っていますね(地中海ブログ:プロヴァンス旅行その5:ル・トロネ修道院(Abbaye du Thoronet)の回廊に見る光について)。 



で、ですね、この図書館、学生や一般の人達が入れるのは2階までとなってるんだけど、何を隠そう、許可された人しか入る事が許されない3階部分が存在するんですね。3階部分には貴重な図書や特別閲覧室などが配置されている為、それらの重要性を考えて、この階へのアクセスは厳しく制限されていると、そういう事らしい‥‥。ついこの間、サンティアゴ大聖堂から12世紀の写本が盗まれたばかりですしね(地中海ブログ:スペインの石川五右衛門こと、伝説的な大泥棒のインタビュー記事:サンティアゴ大聖堂から盗まれたカリクストゥス写本について)。かく言う僕も今まで一回も入った事が無かったんだけど、つい先日、偶々知り合いが行くというのでついて行ったら何と入る事が出来ちゃいました!これこそ本当にマンモス・ラッチー(笑)。多分、と言うか絶対本邦初公開のポンペウ・ファブラ大学図書館3階部分にはこんな風景が広がっています:



大空間を支えるアーチが連続する、非常に密度の高い空間の登場です。



この図書館の閲覧室の風景は、足下(一階部分)からは何度となく見てるんだけど、3階からの眺めには又違ったものがあります。



こちらは知る人ぞ知る、ヨーロッパ歴史界の重鎮、ジョセップ・フォンターナ氏の研究室(地中海ブログ:イグナシ・デ・ソラ・モラレス( Ignasi de Sola-Morales)とテラン・ヴァーグ(terrain vague))。おー、流石に一番良い場所に陣取ってらっしゃいますね。って言うか、彼だからこそ、こんな良い場所に居ても誰も文句言わないんだろうなー。そして今回どうしても見たかったのがコチラです:



天井の曲がり方と、そこに描かれた模様です。



この模様、下から見ている時は、「あー、なんか書いてあるなー」ぐらいにしか思わなかったんだけど、こうして真近で見ると、結構丁寧に描かれている事が分かります。 何が描かれているのかはサッパリ分からないけれど、元貯水庫だった事を考えると、貯めてある水を悪い細菌などから守る悪魔払いの魔除けとか、おまじないとか、そんな感じなのかなー?と言う気がしないでもないかな。そしてここから見える風景で見逃せないのがコチラです:



絶妙なカーブをした天井同士が重なり合う連続アーチの登場〜:



ここで見る事が出来る連続アーチ空間は一階からでは絶対に味わう事が出来ない、大変不思議な感覚を我々に与えてくれます。「この感覚、何処かで味わった事があったなー」とか思ってたら、この空間だった:



そう、ガウディ設計のサンタ・テレサ学院のパラボラ空間の質に非常に近いものを感じるんですね(地中海ブログ:オープンハウスその4:ガウディのパラボラ空間が堪能出来る、サンタ・テレサ学院(Collegi de les Teresianes))。良く知られている様に、ガウディのあの独特の造形は地元カタルーニャで育まれたカタラン・ボールトを基礎に発展していったモノなんだけど、ここの空間に身を置いていると、ガウディという希有な建築家が何故この地から生まれてきたのか?いや、この地だからこそ生まれる事が出来たんじゃないのか?という事を、書物からではなく、5感を通して味わう事が出来ます。それ程までに素晴らしい空間なんですよ!

最近は忙しくてナカナカゆっくりと建築を見て回る暇も無い日々が続いてるんだけど、久しぶりに質の高い空間に身を置き、大変心が満たされた時間を過ごす事が出来ました。
| 建築 | 00:01 | comments(4) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
はじめまして、こんにちは。
いつも興味深く記事を拝見させていただいております。
ガウディ関連の記事を検索していた事が、こちらへお邪魔させていただくきっかけだったのですが、今ではそちらで暮らされている方の生な情報が楽しくてお邪魔しております。

今回取り上げられた図書館、素敵ですね! 光の加減や空間の広がりが、なんともいえません。
貯水庫を図書館へ改装してしまった事にも驚きですが、そんなところも、しっかり造ってさえいれば後々まで用途の変化に応じて活かされる、という建築の魅力なのかもしれないな、と思いました。
cruasanさんの記事にはいつもきれいなお写真が載っているので、日本にながら空間の一端を感じとる事ができてとても嬉しいです。

それでは、お邪魔いたしました。
これからも記事を楽しみにしております。
| 桃葡萄 | 2012/05/12 7:45 PM |
桃葡萄さん、初めまして、こんにちは。コメントありがとうございます。

この図書館、本当に神秘的で、素敵な図書館なんですよ〜。

正におっしゃる通りで、元の建物をしっかりと真面目に創っておけば、後の転用は結構フレキシブルになると僕も思います。そしてヨーロッパの人たちと言うのは、そういう風に建物を大事に大事に何百年も街の風景として、そして自分達のアイデンティティの拠り所として育んで来た民族なんだと思います。

僕達が彼らから学ぶ事は未だ未だ沢山ありそうです。
これからも宜しくお願いします!
| cruasan | 2012/05/13 4:36 AM |
すごい!写真を見て思わずOh!と声を上げてしまいました、それにしても、図書館である前に貯水庫をこんなすばらしい空間にしてしまうバルセロナって、不思議なところですね!
| Shu Katagishi | 2012/05/13 8:47 PM |
Shu Katagishiさん、こんにちは、コメントありがとうございます。

そうそう、ヨーロッパでは一度建てた建物を大事に大事に、それこそ何百年も大切に使い続けてきているのです。その辺は我々日本人も見習うべきだと思います。
| cruasan | 2012/05/21 4:24 AM |
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