2012.05.03 Thursday
ヨーロッパの公立大学の授業料について、その2:スペインの教育システムの裏にある考え方
先週月曜日(4月23日)はバルセロナの街中が真っ赤なバラの花で埋め尽くされる、一年の内で最もロマンチックな日、サン・ジョルディの祝日でした(サン・ジョルディについてはコチラ:地中海ブログ:サン・ジョルディ(Sant Jordi)とカタルーニャ(Catalunya)その2、地中海ブログ:カタルーニャにとって一年で最もロマンチックな日、サン・ジョルディ(Sant Jordi))。
2月14日のバレンタインデーを「チョコレート会社のプロモーションだ!」と毛嫌いしているカタルーニャ人達は、女性が男性に本を贈り、男性は女性に真っ赤なバラの花を贈るという古くからこの地に伝わるサン・ジョルディの伝統を「カタルーニャのバレンタイン」と定義し、毎年復活祭が終わる頃、まるで街全体が春の到来を喜んでいるかの様な、そんな見事な風景を立ち上がらせます。
この風景を目にするのは今年で11回目なんだけど、今回個人的に大発見だったのは、カタルーニャ州政府の強いバックアップで創られた大学、ポンペウ・ファブラ大学では4月23日には一切授業が無くって、完全なる休日扱いだったって事かな(ポンペウ・ファブラ大学についてはコチラ:ポンペウ・ファブラ大学図書館(Unversitat Pompeu Fabra)、地中海ブログ:22@地域が生み出すシナジー:バルセロナ情報局(Institut Municipal d'Informatica (IMI))、バルセロナ・メディア財団(Fundacio Barcelona Media)とポンペウ・ファブラ大学(Universitat Pompeu Fabra)の新校舎)。バルセロナ市役所に居た時は「お昼まで働いて午後からは街中にバラの花と本を買いに行こう!」っていう勤務時間体制だったし、去年偶々立ち寄ったカタルーニャ工科大学も4月23日は普通に授業してるっぽかった事を思えば、ポンペウ・ファブラ大学のカレンダーはちょっと異色だと言っても良い様な気がします。流石にカタラン色が強い大学だなー。
ちなみにサン・ジョルディの伝説とは全く関係が無い「本」という要素が何故4月23日のお祭りに入ってきたのか?という事については以前のエントリで書いた通りです(地中海ブログ:サン・ジョルディ(Sant Jordi)とカタルーニャ(Catalunya))。手短に言うと、4月23日は「ドン・キホーテ」を書いたセルバンテスの命日であり、世界の文豪シェイクスピアの誕生日に当たる為、「じゃあ、いっその事、一緒にしちゃえ!」みたいなノリだったと、まあ、そんな所です(笑)。
さて、そんな街中がお祭り気分に酔いしれていた矢先、スペイン教育界を揺るがす大ニュースが飛び込んできました。それが:
「来年度から公立大学の授業料をアップする!」
という現政権が打ち出した新しい政策だったんですね。当ブログでは事ある毎にスペインの教育事情、ひいてはヨーロッパ各国の大学事情なんかを度々レポートしてきたんだけど、それらは主に単位振替の話や、実際に現地の大学ではどんな授業が行われているのか?はたまた、最近スペインで増えてきた「なんちゃってマスターコースには引っ掛からないでね」って言う様な話題を提供してきたんですね。その中でも非常に問い合わせが多かったのが何を隠そう大学の授業料の記事なんです(地中海ブログ:ヨーロッパの公立大学の授業料について)。
ざっくり言うと、ヨーロッパの公立大学のシステムっていうのは授業料の観点から3つのグループに分ける事が出来て、第一のグループは「授業料無料グループ」。ここにはキプロス共和国、チェコ共和国、アイルランド、マルタ、ノルウェー、スロバキア、スロベニア、スウェーデンといった国々が入ってきます。ちなみにスウェーデンでは授業料無料なのに加えて、大学に行ったら毎月約300ユーロ相当の奨学金が貰えるらしい(驚)。
第二のグループは「授業料有料グループ」で、ここにはスペイン、ベルギー、オランダと言った国々が入ってきます。例えばオランダの公立大学の年間授業料は1,500ユーロくらい、スイスはちょっと高くて1,200―2,900ユーロという事でした。
そして最後のグループは「各大学が授業料を決める事が出来るっていうシステム」を採用している国々で、ここにはイギリスやイタリアといった国々が該当します。ちなみにイギリスでは、キャメロン首相の「授業料を上げる」政策を巡ってロンドンで大暴動が起こっていたのは記憶に新しい所ですね。
こんな状況を目の当たりにすると、我々日本人の目には「ヨーロッパの大学、や、安い!」とか思いがちなんだけど、その辺はヨーロッパの一般家庭の平均収入というパラメーターを一緒に見る必要があるかなー。ちなみにスペインの月当たりの平均収入は1,500ユーロ(日本円で15万円)前後、最低賃金は600ユーロ(6万円)付近を行ったり来たりしているという状況。だから去年、スペインの公立大学の博士課程後期の授業料を「200ユーロ(2万円)から400ユーロ(4万円)に引上げる」っていう政策を政府が発表した時には、それこそ未だかつて無い程のデモがスペインの各都市の大学を中心に起こった程でした。
その様な背景の下、今回又々「大学の授業料値上げ!」という事態になった訳なんだけど、一体全体今回はどれくらい上げるのか?というとですね、その割合、実に前年比(最大)で66%!
‥‥スペインの公立大学の授業料というのは一人の学生が1年間に学習するのに掛る総コストの内、何パーセントを各学生が負担しなければならないか?と言う事を基準にして決まっています(各自治州によって違う)。その割合が現在は約10%から15%程度なんだけど、それが今回の値上げで15%から25%程度に引上げられると言うのが基本方針らしい。そうすると各学生が負担する授業料は平均で66%跳ね上がるという事なんだそうです。
もっと具体的に言うと、例えばカタルーニャ工科大学でオーディオビジュアル学科を先攻しようと思ったら、今年の年間授業料は1,050ユーロ(11万円くらい)だったのに、来年からは1,750ユーロ(18万円くらい)に跳ね上がるって言う事なんですね。最も安いと言われている社会学コースでは現在の909ユーロから1,515ユーロに、逆に最も高いと言われている医学部では1,426ユーロから2,376ユーロに跳ね上がるんだそうです。
で、ですね、ここからがスペインの教育システムの面白い所なんだけど、スペインでは小学校から大学まで、日本の様に「一学年みんなで入学してみんなで卒業しましょう」というコンセプトは存在しません。つまり「落第する」という事が頻繁に起こり、それが普通だと考えられているシステムを採っています。
何故か?
何故なら、子供というのは千差万別なのだから、理解が早い子も居れば遅い子もいる。一回の授業で分かる子も入れば、2回くらいやらなきゃ分からない子もいる。だから無理して100人が100人同じスピードで物事を学ばなくてもいいんじゃないの?っていう考え方が裏に潜んでいるからです。
これは深読みすれば、常に、人生において「選択肢」が与えられ、例え人生で失敗してしまっても「やり直せる」という道があるという事を小さい内から身を以て学ばせているという事を指し示しています。もっと言っちゃうと、人生に疲れたら、少しくらい休んで充電してから、又社会に帰ってくればいいじゃん!っていう考え方が社会全体に浸透していると見る事も出来るんですね。
実は前回のエントリで書いた、バルサのペップ・グアルディオラ監督の辞任理由、「あれは非常にスペインらしいなー」とか思って先週の辞任会見を見ていました。彼は会見でバルサの監督を退任する理由について:
「辞任します。単純な理由ですよ:もう空っぽなんです‥‥。これ以上クラブにも選手達にも何もしてあげられる事がないんです。サッカーへの情熱を取り戻す為にエネルギーを蓄え、自分自身を充電する必要があると、そう判断しました」
“Me voy. La razon es muy simple: estoy vacio. Siento que ya no puedo dar mas, necesito llenarme de energia”
と語っていました(地中海ブログ:バルサのグアルディオラ(Josep Guardiola)監督辞任会見)。つまり、もうエネルギーを使い果たしてアップアップになってしまったので、一度戦線を離脱して心を休め、しっかりと充電して帰ってきますと、彼はそう言っている訳ですよ。そしてそれは何も彼の様なエリートだけが特別なのではなくて、企業に勤めるサラリーマンから、その辺のバルで働いてるおっちゃんまで、スペイン人達は皆、人生が一本道ではない事、そこから外れても違う道が絶対にあると言う事、人生に疲れたら少しくらい休んでも良いし、それが普通だという事を知っているんですね。勿論、今、スペインは大不況で全く雇用が無い状況である事は確かなんだけど、元々スペインという国の根底にある教育、ひいては社会にはそれくらいの許容力が存在し、人々の間には人生に対する「ある種の余裕」みたいなモノが存在するので、この社会では失業率が驚くほど高くなっても「街中の人々の顔はそれ程沈み込む事は無く、寧ろ前向きに明るく生きていけるのかなー」と、10年以上この地に住んで漸く最近そういう事に気が付き始めました。というか、今頃になって漸くそういう事を感じる事が出来る様になってきました。
‥‥あ、あれ、今日は先日発表されたスペインの大学授業料について書く筈だったんだけど、何故か話が脱線してしまった‥‥。天気も良くなって来た事だし、まあ、たまにはいっか(笑)。
2月14日のバレンタインデーを「チョコレート会社のプロモーションだ!」と毛嫌いしているカタルーニャ人達は、女性が男性に本を贈り、男性は女性に真っ赤なバラの花を贈るという古くからこの地に伝わるサン・ジョルディの伝統を「カタルーニャのバレンタイン」と定義し、毎年復活祭が終わる頃、まるで街全体が春の到来を喜んでいるかの様な、そんな見事な風景を立ち上がらせます。
この風景を目にするのは今年で11回目なんだけど、今回個人的に大発見だったのは、カタルーニャ州政府の強いバックアップで創られた大学、ポンペウ・ファブラ大学では4月23日には一切授業が無くって、完全なる休日扱いだったって事かな(ポンペウ・ファブラ大学についてはコチラ:ポンペウ・ファブラ大学図書館(Unversitat Pompeu Fabra)、地中海ブログ:22@地域が生み出すシナジー:バルセロナ情報局(Institut Municipal d'Informatica (IMI))、バルセロナ・メディア財団(Fundacio Barcelona Media)とポンペウ・ファブラ大学(Universitat Pompeu Fabra)の新校舎)。バルセロナ市役所に居た時は「お昼まで働いて午後からは街中にバラの花と本を買いに行こう!」っていう勤務時間体制だったし、去年偶々立ち寄ったカタルーニャ工科大学も4月23日は普通に授業してるっぽかった事を思えば、ポンペウ・ファブラ大学のカレンダーはちょっと異色だと言っても良い様な気がします。流石にカタラン色が強い大学だなー。
ちなみにサン・ジョルディの伝説とは全く関係が無い「本」という要素が何故4月23日のお祭りに入ってきたのか?という事については以前のエントリで書いた通りです(地中海ブログ:サン・ジョルディ(Sant Jordi)とカタルーニャ(Catalunya))。手短に言うと、4月23日は「ドン・キホーテ」を書いたセルバンテスの命日であり、世界の文豪シェイクスピアの誕生日に当たる為、「じゃあ、いっその事、一緒にしちゃえ!」みたいなノリだったと、まあ、そんな所です(笑)。
さて、そんな街中がお祭り気分に酔いしれていた矢先、スペイン教育界を揺るがす大ニュースが飛び込んできました。それが:
「来年度から公立大学の授業料をアップする!」
という現政権が打ち出した新しい政策だったんですね。当ブログでは事ある毎にスペインの教育事情、ひいてはヨーロッパ各国の大学事情なんかを度々レポートしてきたんだけど、それらは主に単位振替の話や、実際に現地の大学ではどんな授業が行われているのか?はたまた、最近スペインで増えてきた「なんちゃってマスターコースには引っ掛からないでね」って言う様な話題を提供してきたんですね。その中でも非常に問い合わせが多かったのが何を隠そう大学の授業料の記事なんです(地中海ブログ:ヨーロッパの公立大学の授業料について)。
ざっくり言うと、ヨーロッパの公立大学のシステムっていうのは授業料の観点から3つのグループに分ける事が出来て、第一のグループは「授業料無料グループ」。ここにはキプロス共和国、チェコ共和国、アイルランド、マルタ、ノルウェー、スロバキア、スロベニア、スウェーデンといった国々が入ってきます。ちなみにスウェーデンでは授業料無料なのに加えて、大学に行ったら毎月約300ユーロ相当の奨学金が貰えるらしい(驚)。
第二のグループは「授業料有料グループ」で、ここにはスペイン、ベルギー、オランダと言った国々が入ってきます。例えばオランダの公立大学の年間授業料は1,500ユーロくらい、スイスはちょっと高くて1,200―2,900ユーロという事でした。
そして最後のグループは「各大学が授業料を決める事が出来るっていうシステム」を採用している国々で、ここにはイギリスやイタリアといった国々が該当します。ちなみにイギリスでは、キャメロン首相の「授業料を上げる」政策を巡ってロンドンで大暴動が起こっていたのは記憶に新しい所ですね。
こんな状況を目の当たりにすると、我々日本人の目には「ヨーロッパの大学、や、安い!」とか思いがちなんだけど、その辺はヨーロッパの一般家庭の平均収入というパラメーターを一緒に見る必要があるかなー。ちなみにスペインの月当たりの平均収入は1,500ユーロ(日本円で15万円)前後、最低賃金は600ユーロ(6万円)付近を行ったり来たりしているという状況。だから去年、スペインの公立大学の博士課程後期の授業料を「200ユーロ(2万円)から400ユーロ(4万円)に引上げる」っていう政策を政府が発表した時には、それこそ未だかつて無い程のデモがスペインの各都市の大学を中心に起こった程でした。
その様な背景の下、今回又々「大学の授業料値上げ!」という事態になった訳なんだけど、一体全体今回はどれくらい上げるのか?というとですね、その割合、実に前年比(最大)で66%!
‥‥スペインの公立大学の授業料というのは一人の学生が1年間に学習するのに掛る総コストの内、何パーセントを各学生が負担しなければならないか?と言う事を基準にして決まっています(各自治州によって違う)。その割合が現在は約10%から15%程度なんだけど、それが今回の値上げで15%から25%程度に引上げられると言うのが基本方針らしい。そうすると各学生が負担する授業料は平均で66%跳ね上がるという事なんだそうです。
もっと具体的に言うと、例えばカタルーニャ工科大学でオーディオビジュアル学科を先攻しようと思ったら、今年の年間授業料は1,050ユーロ(11万円くらい)だったのに、来年からは1,750ユーロ(18万円くらい)に跳ね上がるって言う事なんですね。最も安いと言われている社会学コースでは現在の909ユーロから1,515ユーロに、逆に最も高いと言われている医学部では1,426ユーロから2,376ユーロに跳ね上がるんだそうです。
で、ですね、ここからがスペインの教育システムの面白い所なんだけど、スペインでは小学校から大学まで、日本の様に「一学年みんなで入学してみんなで卒業しましょう」というコンセプトは存在しません。つまり「落第する」という事が頻繁に起こり、それが普通だと考えられているシステムを採っています。
何故か?
何故なら、子供というのは千差万別なのだから、理解が早い子も居れば遅い子もいる。一回の授業で分かる子も入れば、2回くらいやらなきゃ分からない子もいる。だから無理して100人が100人同じスピードで物事を学ばなくてもいいんじゃないの?っていう考え方が裏に潜んでいるからです。
これは深読みすれば、常に、人生において「選択肢」が与えられ、例え人生で失敗してしまっても「やり直せる」という道があるという事を小さい内から身を以て学ばせているという事を指し示しています。もっと言っちゃうと、人生に疲れたら、少しくらい休んで充電してから、又社会に帰ってくればいいじゃん!っていう考え方が社会全体に浸透していると見る事も出来るんですね。
実は前回のエントリで書いた、バルサのペップ・グアルディオラ監督の辞任理由、「あれは非常にスペインらしいなー」とか思って先週の辞任会見を見ていました。彼は会見でバルサの監督を退任する理由について:
「辞任します。単純な理由ですよ:もう空っぽなんです‥‥。これ以上クラブにも選手達にも何もしてあげられる事がないんです。サッカーへの情熱を取り戻す為にエネルギーを蓄え、自分自身を充電する必要があると、そう判断しました」
“Me voy. La razon es muy simple: estoy vacio. Siento que ya no puedo dar mas, necesito llenarme de energia”
と語っていました(地中海ブログ:バルサのグアルディオラ(Josep Guardiola)監督辞任会見)。つまり、もうエネルギーを使い果たしてアップアップになってしまったので、一度戦線を離脱して心を休め、しっかりと充電して帰ってきますと、彼はそう言っている訳ですよ。そしてそれは何も彼の様なエリートだけが特別なのではなくて、企業に勤めるサラリーマンから、その辺のバルで働いてるおっちゃんまで、スペイン人達は皆、人生が一本道ではない事、そこから外れても違う道が絶対にあると言う事、人生に疲れたら少しくらい休んでも良いし、それが普通だという事を知っているんですね。勿論、今、スペインは大不況で全く雇用が無い状況である事は確かなんだけど、元々スペインという国の根底にある教育、ひいては社会にはそれくらいの許容力が存在し、人々の間には人生に対する「ある種の余裕」みたいなモノが存在するので、この社会では失業率が驚くほど高くなっても「街中の人々の顔はそれ程沈み込む事は無く、寧ろ前向きに明るく生きていけるのかなー」と、10年以上この地に住んで漸く最近そういう事に気が付き始めました。というか、今頃になって漸くそういう事を感じる事が出来る様になってきました。
‥‥あ、あれ、今日は先日発表されたスペインの大学授業料について書く筈だったんだけど、何故か話が脱線してしまった‥‥。天気も良くなって来た事だし、まあ、たまにはいっか(笑)。