地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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ゾウ狩り旅行がバレて謝罪するスペイン国王(王室)の裏に見え隠れするもの
スペインの石油大手レプソル(REPSOL)の子会社YPF国有化問題(アルゼンチンのフェルナンデス大統領発表)で揺れに揺れてるスペイン国内なんだけど、そんな中、それと同等、もしくはそれ以上の大ニュースが舞い込んできました。それがコチラ:

 

“Lo siento mucho. Me he equivocado y no volvera a ocurrir”
「本当に申し訳ない。私が間違っていた。二度とこの様な事は起こさない。」

そう、何と現スペイン国王、フアン・カルロス1世がスペイン国民に正式に謝罪するという、スペイン始まって以来の出来事が起こってしまったんですね。そんなもんだから、昨日の新聞の一面は何処もその話題で持ち切り:



ほぼ全紙、一面には神妙な面持ちで会見に臨む国王の姿と、そんな彼の口から発せられた11語の言葉を掲載しています。

何故こんな事態になってしまったのかと言うとですね、実はスペインの王様、昔から狩猟が大好きで、先週末からアフリカのボツアナに「ゾウ狩り」に出掛けていたんだけど、狩猟中に転んで股関節を折ってしまい、急遽マドリッドのUSP San Jose病院で緊急手術を受ける羽目に。折れた部分に人工関節を入れるなど、結構大変な手術だったらしいんだけど、手術は大成功を収め、お見舞いに行ったフェリペ皇太子は、「(国王は)お腹が空いたと言っていたものの、とても元気だった」と記者団に語るなど、順調に回復している様子が伝えられていました。

で、問題はここからなんだけど、実は今回のゾウ狩り旅行、完全なる「お忍び旅行」だった為、国民は勿論の事、政府関係者ですら殆ど知らされておらず、偶然の事故で「偶々発覚してしまった」という経緯に加え、スペイン国民は当然の事ながら、「みんなが緊縮財政で大変な時に、王様は豪遊して一体何やってんだ!」と声高に叫び、未だかつて無いほどにスペイン王室に冷たい視線が向けられるという事態となっているんですね。

現スペイン国王であるフアン・カルロス1世という人は、フランコ独裁政権後、スペイン民主化移行に際して大変大きな貢献をした事などから、スペイン国民の間で非常に人気のある存在となっていて、メディアに彼の批判が表立って載る事は今まで滅多にありませんでした。それ程までに国民に愛され、敬われている存在なのです。そんな彼が前代未聞の批判に晒されている理由は主に以下の3点:



一点目は(上述した様に)未だかつて無い程の経済危機に襲われているスペイン、特に若者の失業率が50%を超え、公務員などは10%近くの給与カット、私企業も厳しい状況を強いられている中、国王は国民の税金を使って一体何をやっているんだ!という当然の指摘が挙げられます(先日行われたゼネストについてはコチラ:地中海ブログ:スペインで行われたゼネスト(2012)について)。今日の新聞によると、ゾウ狩りをするのに掛かった費用や滞在費などはボツワナ国の王族関係者が負担した(どうやら招待旅行だったらしい)という事なのですが、「お金が何処から出ているか」という事よりも、やはりこの様に国が苦しんでいる状況下において、「一人で豪遊していた」という点に国民の怒りの矛先は向いている模様です。ちなみにホンの一ヶ月前、国王はこんな事をおっしゃっていました:

「スペインの若者達の失業率の事を考えると、眠れない夜もある。」
“Hay noches que el paro juvenile me quita el sueno.”(14/03/2012)

そして2点目は(王室ウォッチャーの僕も知らなかったんだけど(笑))フアン・カルロス1世はWWFの名誉総裁を務めていたという事が挙げられます。WWFと言えばパンダのマークで有名な世界自然保護基金。そんな、動物を保護する為の団体の名誉総裁ともあろうお方が「ゾウ狩り」ときたもんだから、王様が入院している病院の前には長―いデモ隊が毎日の様に押し掛け、最終的には4万人もの人達が国王の名誉総裁辞職要求に署名をしたそうです。スペインの新聞には連日こんな写真が掲載されまくっていました:



と、まあ、ここまでは日本を含む各国で昨日あたりからバンバン報道されていると思うので、テレビなんかで見た事ある人も多いとは思うんだけど、僕が見る所、今回の問題は結構根の深い問題を含んでいて、今回の事件を通して更なる深みに嵌っていくんじゃないのかなー?と思ったりしちゃいます。

それが3つ目の点なんだけど、実はですね、昨年末辺りからスペイン王室ではトラブルが続いており、それらを何とか解消しようとする王様と、それとは裏腹に様々な問題を運んでくる王室メンバーとの綱引き状態だったんですね。で、今回の一件は正にその綱引きに終止符を打ち、王室の信頼を一気に失墜させる事態となったと見る事が出来ます。

そんなスペイン王室の権威失墜の発端を作ったのがこの人:



スペイン国王夫妻の次女、クリスティーナ王女の夫であり、元ハンドボールのプロ選手、イニャーキ・ウルダンガリン(Inaki Urdangarin)氏です。実は彼、数年前からESADE(バルセロナにある超有名ビジネススクール)の恩師と一緒に非営利団体Noos財団を共同運営してたんだけど、昨年末、グルテル事件と呼ばれるバレンシア自治州やマドリッド自治州政府に絡んだ癒着や贈収賄を捜査していた検察特捜部によって汚職が発覚。公金500万ユーロ以上を流用した疑いが掛けられるまでに発展してしまいました。

王室メンバーが検察に起訴されるという前代未聞の事態を前に、スペイン王室の対処はかなり手早くって、数日後には国王フアン・カルロス1世の名で

「ウルダンガリン氏が私的に行っている活動は王室とは全く無関係。今後、王室の公務に彼は参加させない」

という異例の見解を発表するまでになったんですね。又、事を重く見たスペイン王室は、コレ又前代未聞の王室の年間予算を国民に公表するという決断を下すまでに至ります。ちなみに王様の年収は日本円で3千万くらい、皇太子の年収は王様の半分で、1500万円程度となっています。もう一つちなみにスペインの首相の年収は800万円程度で、これはカタルーニャ州政府大統領の給料の半分程度だと言う事は以前のエントリで書いた通りです(地中海ブログ:スペインの各自治州政府大統領の給料について)。

このような「王室の透明性」を強調すべく必至に努力を続けてきたんだけど、先週にはスペイン国王の孫(フロイラン王子)が誤って自分の足を銃で撃って負傷し、父親が監督責任を問われるという不祥事が起きたばかり。そんな中で、今回の事件へ繋がっていったという訳なんです。

つまりは、今回王様が引き起こしてしまった事件は、去年から溜まりに溜まっていた王室の「汚されたイメージ」にとどめの一撃を指した事件だと位置付ける事が出来るんですね。

フアン・カルロス1世の異例の謝罪会見の裏には、実はこの様な背景が横たわっています。もっと言っちゃうと、今回のゾウ狩りのスケジュールや費用などは、先日公開された王室の経費には一切含まれていませんでした。つまり今回の一件は、「王室が隠れて豪遊している氷山の一角」と国民が疑い始めるという、正に負のスパイラルに落下していく、そのキッカケとなりかねないという王室の焦りが見え隠れしているのです。「スペインの国王が頭を下げた」という事は、「謝罪しなければならないくらいまで、スペイン王室は追い込まれている」と見る事さえ出来るのですから。

今回の一件は、言葉としては11語、時間にして実に4秒という大変短い時間だったのですが、これはスペイン史上初めての事であり、歴史に残る瞬間となった事は間違いありません。 この言葉が真実であり、これからスペイン王室が変わっていく事を願うばかりです。
| スペイン政治 | 17:11 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
こういった事が切っ掛けで各地方の独立派や共和制支持者の活動が活発になったりするのでしょうかね。
| もふもふ | 2012/04/20 5:28 PM |
もふもふさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

未だそういった動きは出て来てませんが、そうならないとも限らないですね。今回の件は色んな意味で本当にショックな一件だったと思います。
| cruasan | 2012/04/23 8:56 PM |
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