地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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ルイジアナ美術館(Louisiana Museum of Modern Art)その2:ジャコメッティ(Giacometti)の間はちょっと凄い
前回のエントリ、建築の歩き方:ルイジアナ美術館(Louisiana Museum of Modern Art)その1:行き方の続きです。

世界的に知られているルイジアナ美術館なんだけど、この美術館には「著名美術館」という言葉から僕達がイメージする「真っ白な壁」や「超高層ビル」と言った様な外観はサッパリ見当たりません。



そうではなく、我々を出迎えてくれる美術館の正面ファサードは大変静かな趣を保ちつつ、住宅街という周りの環境に溶け込むかの様に、非常にさり気なく佇んでいるんですね。自然の木々に囲まれ、あたかも建築自体が消えているかの様ですらあります。そんな中でも僕が注目したのがココ:



門の設えです。門の真上に、木の枝が頭を擦るくらいの高さにまで生えてきています。一見平凡に見えるこの「木の枝の演出」が、我々の空間体験に非常に重要な意味を持っているという事に気が付く人はなかなか居ないのではないでしょうか?



つまりこの枝がこの位置にある事によって、訪問者は一度ここで屈まざるを得ず、この事が正に美術館という特別な空間への「見えない閾」になっているんですね。これは「壁」や「襖」などといったフィジカルな仕切りとは違い、大変「緩やかな境界」なんだけど、この内側と外側とでは明らかに空気の質が変わり、心が「凛」となるのが解ります。そんな仕掛け一杯の入り口を潜ると到達するのがコチラの空間:



エントランスに入る前の、「ほっ」と一息付く空間です。三方を別々の建物に囲まれた、大変心地良い空間となっています。前方の建物は全面を蔦で覆われ、歴史を感じさせると共に暖かみを醸し出してもいます。



左手方向にはヘンリームーアの彫刻が置かれ、右手方向には切符売り場と美術館への入り口があります。



この辺りの空間構成も結構良く考えられていて、門から一直線に建物へと訪問者を入らせるのではなく、わざわざ右手方向に回り込ませているのが解ります。つまりエントランスから直線上の強い軸を創り出し、一気に目的地へと到達させるのではなく、クライマックスを匂わせつつ、そこには「わざと到達させず」に、雰囲気を盛り上げていくという訳です。

‥‥む、む、む、この美術館に到着して未だ5分程度しか経ってないんだけど、僕は既にこの時点である一つの印象を抱いていました:

「‥‥この建築、とっても日本建築っぽいなー」

と。

美術館入り口における静かな佇まいといい、自然を用いた演出やら軸線の操作といい、それらを見るだけでもかなり日本的な香りのする建築だと思うのですが‥‥。まあ、いいや。



さて、右手方向の建物に入ると、チケット売り場を通して先ずはミュージアムショップが姿を現します。そしてその最深部の全面ガラスからは、表の住宅街からは想像もつかなかった様な広い中庭と、海の地平線らしきものがチラチラ見え隠れしています:



ここでは、物語のクライマックス的な空間である中庭空間と、その前面に広がるオーレスン海峡の地平線をチラチラ見せるだけに留まり、敢えて全てを見せない事によって来館者の期待感を膨らませているんですね。そしてこの時点ではあちら側へは行く事が出来ないのがミソかな(決して辿り着けないユートピアとして存在させるに留まっている)。

さて、このエントランス空間からイヨイヨ展示空間へと歩を進めて行く事にします。

とその前に、最初に断っておきたいのですが、この美術館では写真撮影はOKでした。ネットでググると「ルイジアナ美術館内では写真撮影禁止」とかいう情報が出てくる事があるのですが、少なくとも僕が行った時は写真撮影は許可されていました(違う係員の人に2回も聞いた)。これはブロガーや観光客の皆さんにはとても嬉しい配慮ですね。と言う訳でウキウキ気分で先ずは右手方向から:



最初の展示室に入って直ぐ、半階ほど降りた場所ではガラス張りの回廊空間が我々を出迎えてくれるのですが、この回廊の創られ方に注目:



そう、この回廊空間、この場所に元々生えていた木を避ける様に計画されているんですよ!つまりこの美術館においては、建築というハードな箱は、あくまでも自然との調和を考えて計画されているという事の証なんですね。



そこを曲がると、同じ様な回廊空間が続くんだけど、その行き止まりには一枚の絵が掲げられ、僕が行った時には丁度、地元の幼稚園児達がその絵の前でお絵描きをしている最中でした。



この様な風景はヨーロッパの美術館なんかに行くと結構遭遇するんだけど、ヨーロッパの子供達というのは、こんなにも小さな頃から、教科書の写真ではない、本物の絵画(ピカソやダリ)に触れる事が出来て本当に幸せだなと思います。そしてその様な機会をパブリック(公共)が全面的にバックアップしているという点は注目に値しますね。

では何故ヨーロッパではこんな事が可能になっているのか?

何故ならヨーロッパにおいては、「子供達こそ自分達の将来を担っていく大切な宝物である」という同意が社会全体に浸透しているからです。そしてこの様な積み重ねこそが、ヨーロッパ文化の奥深さを創り出しているのかなとも思います。

さて、そこを通り過ぎると、コレ又両側をガラスで覆われた回廊が続き、各曲がり角(アイ・ストップ)にはシンボル的な彫刻作品が置かれている空間が姿を現します。



「なるほどなー」とか思いつつ、良く周りを見渡してみたら、屋外彫刻が庭の至る所に置かれている‥‥。



そーなんです!実はこの回廊、内部で芸術作品を見る為に創られたというよりは寧ろ、広大な庭のあちこちに散在している屋外彫刻を見る為に創り出された回廊だったんですよ!そしてそれらの屋外彫刻は各々の彫刻の個性が最大限に生きる様に置かれる事によって、訪問者が最高の状態で鑑賞出来る様になっているんですね。



更に面白いのは、この回廊、ただ室内から屋外彫刻を見るだけなのではなく、至る所に出入り口が付いていて、好きな時に好きなだけ外へ出て行って彫刻に直に触れる事が出来るって言う点なんです。



この地に広がる大変豊かな自然との対話は最高!とか思ってたら、何やら視線の先に見慣れた彫刻が見えてきました。あ、あれはー:



ジャ、ジャコメッティだー!しかもこんなカッコイイ展示の仕方は見た事が無いぞー!そして光が差し込んでくる左手側を見てみると、何やら今までの回廊空間とは全く違った空間的な仕掛けがしてある雰囲気がー:



そちら方向に歩を進めて行くと、そこには正に「えも言われぬ風景」が展開していました:



じゃーん、2層吹き抜けの全面ガラス張りの空間の登場です!まるで屋外に広がる大自然を切り取り壁画にしたかの様な、そんな見事な演出がされているんですね。



そしてその大自然の前にはジャコメッティがそっと置かれています。うーん、正に溜め息が出る様な空間とはこの事かな。



この空間を見つめていると、大自然というキャンパスを背景に、そこを歩く人の姿があたかも彫刻の様に見えてくるから不思議です。



そう、まるでこの空間の中では「生身の人間までも」がジャコメッティの彫刻の如くに存在しているかの様なんですね。



この前面ガラス張りの風景のインパクトが余りにも強いのでナカナカ気が付かないのですが、実はここに辿り着くまでの空間構成、特に空間の強弱の付け方が驚くほど絶妙でした。というか、その空間構成があったからこそ、この「ジャコメッティの間」がこれ程までのインパクトを伴って僕達の前に現れてくるんだと思うんですね。

更に更に、この美術館には彫刻と建築を巡ってトンでもない仕掛けがしてあり、正にその事によって「彫刻とは何か?」、「建築とは一体何なのか?」という事を我々に考えさせる契機を与えてくれているのですが、その話は次回に持ち越したいと思います。

ルイジアナ美術館その2:建築と彫刻と:動く事、動かない事に続く。
| 旅行記:建築 | 06:27 | comments(4) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
ジャコメッティさんのところの、階段の下の部屋には、ピカソも一枚あったような。コンパクトな作品でしたが。
| u | 2012/02/02 11:49 PM |
日本伝統の「門かぶりの松」じゃないですかー!

僕もこの美術館の庭の見せ方はパノラマ的で「歌舞伎の舞台みたいだなー」と思いました。

ブログの出てきている木、幹が割けないように恐ろしく太いボルトで固定されてて、日本との感覚の違いも感じましたケレド。。。
| c | 2012/02/03 6:30 PM |
uさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
ピカソ、確かにありました!とても小さい作品でしたが、「お、こんな所にも!」と驚いたのを覚えています。
| cruasan | 2012/02/06 7:36 AM |
Cさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

そうそう、この建築、あらゆる所に日本建築の薫りが漂っていて、それはそれでとても興味深い体験でした。機会があったらもう一度くらい行きたい美術館です。
| cruasan | 2012/02/06 7:38 AM |
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