地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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シティ・リージョンという考え方その1:スンド海峡のエレスンド・リージョンについて
前回のエントリで少しだけ書いたのですが、実は昨日からデンマークとスウェーデンに来ています。



目的は今日から開かれているe-Tourism(新しいテクノロジーを活用した観光リサーチ、観光体験そして観光が都市に与える影響などを探る為の新しい手法の提案など)に関する国際会議に出席する為なのですが、今回はゲストとしてお呼ばれしちゃいました。最近、都市計画や建築、もしくは交通に関する国際会議に招かれる事は(大変喜ばしい事ながら)多くなってきたのですが、観光分野からお声が掛かるのは今回が初めて!何でかって、まあ理由は分かってて、現在僕が仕事の方で進めている「ルーブル美術館の歩行者計画」の為なんですね。今まで表立って発表してはこなかったんだけど、実はルーブル美術館とはもうかれこれ2年くらい付き合ってて、パリとバルセロナを行ったり来たりしています。



この計画の詳細については次回以降のエントリに譲る事として、今日は僕が北欧に来るに当たって直面した非常に興味深い現象について少し書いてみようと思います。それは主催者から2ヶ月ほど前に受け取った一通のメールから既に始まっていました:

「クロワッサンさん、来月末に行われる国際会議、前回のメールでお知らせした様に、スウェーデンのHelsingborgという街で行われます。Helsingborgは国としてはスウェーデンに属しているのですが、スンド海峡を挟んだこの辺りはデンマークとの間で公共交通機関が非常に発達しているので、ストックホルム(スウェーデンの首都)に飛んでそこから電車で来るよりも、コペンハーゲン(デンマークの首都)に飛んでそこから電車で来た方が近いですよ。ご参考までに」



そうなんです!実は、今回の国際会議の舞台となっているHelsingborgという街は、国としてはスウェーデンに属しているのですが、この街が立地している辺りはコペンハーゲンを中心としたデンマーク側との社会経済的な結び付きが非常に強く、フィジカルにも欧州一長い橋(全長16キロ)やフェリー等によって結ばれている為、自国の首都に飛んで、そこから電車を使うよりも、隣国のコペンハーゲンに飛んで、そこから電車で行った方がよっぽど早いという一風変わった地域となっているんです。

‥‥っと、ここまで読んできて「あれっ?」って思った人はかなり勘がいい。

そう、実はHelsingbrogという小さな街は、シティ・リージョンで有名なエレスンド(Oresund)・リージョンに属している街なんですよ!

先ず「シティ・リージョンとは一体何か?」と言うとですね、グローバリゼーションが進行し、都市間競争が激化する最中において、パリやロンドンなどといったメガロポリス(=都市を際限無く拡大する事によって競争力を維持する)のではなく、都市の機能を分散させ、その間を発達したインフラ(高速鉄道など)で結ぶ事によって、地域(リージョン)として大都市(メガロポリス)に匹敵する様な競争力を創り出そうという考え方なんです。

では一体何故シティ・リージョンはそれ程までに注目されているのか?

それはシティ・リージョンという考え方が環境問題をも取り込んだ、正にサステイナブルシティの一つの可能性を指し示していると考えられているからです。つまりネットワークの力によって大都市に負けずとも劣らない競争力を創り出す一方で、各都市に注目してみれば、小都市(コンパクトな都市)の強みを生かして緑溢れる環境、メガロポリスでは絶対に実現する事が出来ない「環境的な質」で人々の「生活の質」を向上させ、正にその事によって「緑の競争力」を売りにしていこうという考え方なんですね。



具体的にはオランダのランドスタット、スペインのバスク地方を中心とする都市戦略、そして地中海を共有する様々な都市で創り出されつつある「地中海の弧」などが挙げられるかと思います。特に地中海の弧については当ブログでは散々書いてきたし(地中海ブログ:Euroregion(ユーロリージョン)とカタルーニャの都市戦略:バイオ医療を核としたクラスター形成、地中海ブログ:地中海の弧の連結問題:ペルピニャン−フィゲラス−バルセロナ間の高速鉄道連結計画の裏に見えるもの)、ビルバオのグッゲンハイムの大成功の裏にある都市戦略についても、事ある毎に言及してきました(地中海ブログ:バルセロナの新たなる都市戦略:ビルバオから学ぶバルセロナ都市圏再生の曙、地中海ブログ:ビルバオ・グッゲンハイム効果とジェントリフィケーション)。又、2年くらい前に行ったアムステルダムについての記事の中でも、ランドスタットの事を書いたと思います(地中海ブログ:アムステルダム出張:如何に訪問者にスキマの時間を使って街へ出るというインセンティブを働かせるか?:スキポール空港(Schiphol Airport)の場合、地中海ブログ:欧州工科大学院 (European Institute of Innovation and Technology)の鼓動その2:ネットワーク型システムに基づくシティ・リージョンのようなコンセプトを持つ大学院)。

つまり僕はヨーロッパにおけるシティ・リージョンという現象についてはかなり気を配っている方だと思うんだけど、そんな中でも絶対に訪れたかったのが、このデンマークとスウェーデンの間に広がっているエレスンドだったのです。



何故か?

それは此の地域が達成した地域間協力体制(シティ・リージョン)が、2カ国間の恊働であるにも関わらず、他エリアの追随を許さないほど成功しているという事(普通は一カ国の中の他地域間の交渉でも困難なのに、違う国同士の交渉を巧く纏め上げたという意味において)、架空のアイデアで終わるのではなく、実際に市民の日常生活に多大なる影響を与えているという事、そして何より此の地方が伝統的に育んできた空間計画が巧い事噛み合う事によって、見事な程の空間バランスを達成しているという事が挙げられるかと思います。我らが岡部明子さんもこんな風に書いてらっしゃいます:

「地域発展戦略を成功させるためには、競争力がなくてはならない。他地域からのアクセスや地域内アクセスのよさなど利便性が求められることはいうまでもない。グローバルに競争力のある経済基盤も欠かせない。これらの恵まれた競争条件に加えて広義の空間バランスを競争力に生かそうとしている点が、エレスンド・リージョンの興味深いところだ。」岡部明子、サステイナブルシティ、p207

という訳で今回この地を訪れるに当たって、「せっかく行くんだから、その辺の事も調べてみたいなー」と思ってた所、僕が何かしらのアクションを起こす前に、今回の国際会議の主催者から上述の様なメールを受け取ったという訳なんです。つまりこの出来事が指し示している事、それはそのエリアに住む人達にとっては、2カ国間を行ったり来たりする事が、日常茶飯事になっているという事の証だと思います。

その様なモビリティの高さ、効率の良さについて実際に驚くべき体験してきたので、次回のエントリで詳しく追っていきたいと思います。

シティ・リージョンという考え方その2:エレスンド・リージョンの要、交通インフラの重要性と効率性について:宇宙戦艦ヤマトのコックピットの様なフェリーにちょっと驚いたに続く。
| 都市戦略 | 06:09 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
こんにちは〜!
「ルーブル美術館の歩行者空間計画」すっごく興味あります!
3月末から、長女の高校合格お祝い旅行で、11日間、パリの美術館、劇場めぐりをするんです。
特にルーブルは2日間かけてじっくり攻略する予定で、現在情報収集中。
パリは大学生以来なので、随分変わったんでしょうね。
記事、楽しみにしていますね。
| いちごキッズ | 2012/01/25 4:54 PM |
いちごキッズさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

パリ旅行、非常に羨ましいです。僕は毎月くらいの頻度で行ってはいるのですが、仕事なので、是非バケーションでゆっくりしてみたいものです。

パリには2年程前の年末年始に2週間程滞在しました。個人的には、ロダン美術館が非常に良かったです。近代彫刻の父と言われているロダンは、実は愛人が居て、彼女の天才的な才能に惚れ込み、彼女の作品を自分の作品として発表してたりしました。その後、彼女は精神病になって死んでしまうのですが、彼女の作品が世に認められる様になったのはごくごく最近の事です。

カミーユ・クローデルと言います。彼女の作品もロダン美術館にあります。

後はやはりオルセー、そして最近新しく出来たケ・ブランリーという博物館もちょっと変わってて面白かったです。オルセーは何と言ってもルノワールが素晴らしかったです。

いずれにせよ、素晴らしい滞在になる事を願っています。
| cruasan | 2012/01/26 7:57 AM |
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