地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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オープンハウス in バルセロナ(48 OPEN HOUSE BCN):ジュゼップ・マリア・ジュジョール(Josep Maria Jujol)のプラネイス邸(Casa Planells)
先週の土曜、日曜(10月22―23日)と、バルセロナ市内でオープンハウスが開催されていました。



オープンハウスとは一体何か?と言うとですね、普段は絶対に入る事が出来ない文化的価値の高い建築を、その日に限って一般公開するという、建築探訪好きには堪らないイベントの事なんですね。この手の行事で世界的に知られているのは何と言ってもロンドンだと思うんだけど、毎年9月の第二土曜に開催されるオープンハウスには、世界中から建築好きが挙って訪れ、リチャード・ロジャースによるロイズ・オブ・ロンドン(地中海ブログ:ロンドン旅行その5:Richard Rogers( リチャード・ロジャース)の建築:Lloyd's of London)やノーマン・フォスターの事務所など(ノーマンフォスターについてはコチラ:地中海ブログ:ロンドン旅行その4:Norman Foster (ノーマン・フォスター) の建築その2:スイス・リ本社ビル)、街中の至る所で長蛇の列を見る事が出来る程なんですね。

僕はこのオープンハウスなるものには結構深い思い入れがあって、と言うのも僕が初めてオープンハウスに出逢ったのは、アメリカに留学していた19歳の時の事、フランク・ロイド・ライトの建築が一斉に公開になるって言うイベントに参加したのがそのキッカケでした。



ライトの住宅というのはシカゴ郊外のオークパークという小さな町に沢山集まっていて、(当時は)毎年5月頭にそれらの住宅を一般公開するっていう夢の様なイベントが行われていたんだけど、「この機会を逃す手は無い!」という事で、不安と期待で胸を一杯にしながらシカゴの街に向かったのを今でも昨日の事の様に覚えています。今思えば、未だ10代という若い内にライトの建築に身を持って触れられた事は、僕の建築家としてのキャリアにとって大変重要且つ貴重な体験だったのかも知れません。

そんな、世界中で定着しつつあるオープンハウスなんだけど、驚くべき事に、都市計画と建築のメッカであるバルセロナにおいてオープンハウスが開催され始めたのは意外にもごく最近、去年からの事なんです。



初年度だった去年は、バルセロナ市内に散在する160近くの建築が公開になった事などから、2日間で約2万5千人もの来場者を集めたそうです。僕もその2日間で、歴史上初めて公開されたセルトによる集合住宅や(地中海ブログ:オープンハウス in バルセロナ(48 OPEN HOUSE BCN)その2:ホセ・ルイ・セルト(Josep Lluis Sert)の集合住宅)、同じくセルトのパリ万博パビリオン(地中海ブログ:オープンハウス in バルセロナ(48 OPEN HOUSE BCN)その3:ホセ・ルイ・セルト(Josep Lluis Sert)のパリ万博スペイン共和国館)、更にはオリオル・ボヒガス設計によるカタルーニャモダニズムの王道を行く幼稚園など、こんな事が無い限り絶対に入る事が出来ない建築を散々見て回っちゃいました。



タダ、初年度という事もあって、運営側の不備などから、折角行ったのに入れなかったり、午前中で予約が一杯になっちゃって、後から見ようと思ってたのに結局見逃してしまったりと大変悔しい思いをした事も又確か。

そんな訳で、今年は去年の教訓を生かして、見たい物件だけをピンポイントで狙って行ったんだけど、今回のリストの中で僕が一番に目を付けた作品がコチラです:



ジュゼップ・マリア・ジュジョール作のプラネイス邸。ジュジョールと言えば,「ガウディの影武者だった男」として、最近では日本でもかなり有名になってきた感があるのですが、そんな彼が残した数少ない集合住宅がバルセロナ市内の一角に建っています。今回はこの建物の中に入っている建築事務所の方の御好意で、半日だけ公開される運びとなったらしいんだけど、朝11時からの公開にも関わらず、1時間前にはもう既に長蛇の列がー!いやー、やっぱりみんな分かってるよなー、何を見るべきなのかって!



まあ、順番を待ってる時間を利用して外観を見て回ってたんだけど、実はこの建築、現在修復中で工事用のシートが被せられています。それでもその合間からチラチラ見える外観のデザインは、その時代を表象しているかの様でちょっと面白い。と言うのも、コーナー部分にはジュジョール特有の曲線美が見て取れるんだけど、その右手奥の方には、1930年代に訪れる合理主義を予告するかの様なデザインが展開しているからなんですね。それら、相反するものの共存みたいなー。そうこうしている内に、僕の順番が回ってきました。先ずは入り口を入って直ぐの階段部分から:



入った瞬間に一気にジュジョールの世界へと惹き込まれるかの様な、正にそんな独特の空間が展開しています。特にこの階段部分と天井の切り取り方なんかて、非常に「ネチッ」としていて、上方から漏れてくる光と共に、大変魅力的で見事な空間に仕上がっていると思います。そしてこの手摺に注目:



手摺が2つの部分に分かれてるんだけど、その間に見られる連続性、何も無い所に、あたかも空間が出現しているかの様な「空のデザイン」が大変利いていると思います。この階段部分を見ている時に、今回案内役を買って出てくれた建築家がこの建物の歴史を少し話してくれたんだけど、それを聞いていてビックリ!実はこの建物は長い間「売春宿として使われていた」という衝撃の事実が判明してしまいました!!!

まあ、でもその一方で、その話を聞いて何か妙に納得してしまった‥‥。と言うのも、ジュジョールの創り出す空間って、ある意味大変メルヘンチックであり、ロマンチックな雰囲気を醸し出している事から、「異世界へ行く」という意味においては、売春宿とかに使われるのは「実は結構ピッタリの使い方かも」とか思ってしまったからです。



ほら、このカラフルな丸い窓とか、かなりメルヘンチックでしょ(笑)。‥‥もしかしたら近い将来、アムステルダムの飾り窓のデザインなんかを建築家が手がける日が来るかも知れません。資本主義という事と絡めれば、その辺に非常に敏感なOMAとかが手を挙げても全く不思議じゃないんだけどなー。と、そんな事を思いつつ、イヨイヨ中へと入って行きます。1999年にSDから出版された特集号、「ガウディの愛弟子、ジュジョールの夢」にもこの建築の内部空間は収録されていない事から、多分本邦初公開だと思います!その気になる内部がコチラ:



外へ向かって広がって行くかの様な、大変ノビノビとした内部空間の登場〜。光が部屋一杯に降り注ぎ、大変気持ちの良い空間になっているのが分かるかと思います。





この部屋の中心には大変印象的な柱が一本建ってるんだけど、その柱と天井が渦を巻いている様なデザインになっていて、この空間の中心である事を暗示していますね。



ここに備え付けられている朱色の家具はオリジナルじゃ無くって、ここに入ってる建築事務所の方がデザインされたそうです。流石にデザイン関連の方の仕事らしく、この空間にピッタリの家具に仕上げられていると思います。



その一方で床のデザインはジュジョールのオリジナルなんだとか。モチーフは蛍なんだそうです。昆虫をデザインのモチーフにしてる辺り、「やっぱりアールヌーボーと関わりが深いモデルニズモだなー」とか思ってしまいますね。大変こじんまりとしたこの建築には中二階部分があって、そこの天井はカタランボールト全快のデザインでした:



更にそこから一階部分を見下ろした風景はこんな感じ:



ジュジョール特有の大変魅惑的な曲線で切り取られた空間が、魅力的な風景を創り出しているのが分かるかと思います。この中二階については、カルロス・フローレスさん(ジュジョール研究の第一人者)が、同時代との類似性についてこんな事を書かれています:

「この作品のユニークさと同時代前衛芸術に見られる傾向との近似性は、ジョゼップ・ルイス・セルトがバルセロナのムンタネール通りに模範的なメゾネット形式の集合住宅を建設する数年前にたとえ小規模とはいえジュジョールが同形式を実現していた主階(2階)にそれぞれの中2階を持つことによってさらに強調される」

“ガウディの愛弟子、ジュジョールの夢”P24


数年前、日本でも「ガウディの影武者だった男」という本が出版され、ジュジョールに焦点を当てた展覧会などが世界各地で開かれるなど、建築家の間だけではなく、一般の人達の間にもジュジョールの才能と作品が日に日に知られる所となってきています。



グエル公園のベンチや天井、更にはカサミラの手摺などを見るに付け、これ程の建築家が今まで無名であった事の方が寧ろ不思議なくらいだと思うんだけど、今回のオープンハウスではそんな彼の素晴らしい才能の一端に触れる事が出来ました。特に、数少ない彼の作品を実際に訪れ、その空間に身を浸す事が出来たのは、この上ない喜びであると共に、建築家としては非常に貴重な体験だったと思います。オープンハウス、最高!
| 建築 | 23:28 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
プラネイス邸、外見はちょっとボロく見えたけれど、中は素晴らしい空間が広がっているんですね! 初めて見ました。いかにもJujolらしい空間ですね。

今回の48Horas, 足の骨折でどこにも行けず残念でした。
| gyu | 2011/11/14 9:08 AM |
gyuさん、こんにちは。骨折されたんですか!それは不運でしたね。お大事になさってください。

このプラネイス邸は、僕の家のすぐ近くで、毎日見ているのですが、中に入るのは今回が初めてでした。とってもすてきな空間が広がっていて、ホント、ジュジョール全快って感じでした。来年、又チャンスが巡ってくる事を願っています!
| cruasan | 2011/11/19 10:30 PM |
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