地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
<< 来生たかお/岡村孝子の「はぐれそうな天使」に見る日本文化の特質 | TOP | 在バルセロナ&観光客の皆さん注意です!:ランブラス通りで最近増えてきている詐欺行為について >>
グラシア地区祭り:バルセロナの歩行者空間プロジェクトの責任者だったけど、何か質問ある?

街路の飾り付けなどが結構凄いと評判の、バルセロナのグラシア地区祭りに行ってきました。って言っても先週の話なんですけどね。何で先週のネタを今頃になって書いてるかって、何か最近、ミーティングやら何やらでハチャメチャに忙しくって、なかなかこの話題を書く時間が無かったからです。最近余りにも暑いので、夏バテって噂もあるんですけど(苦笑)。

グラシア地区といえば、アーティストや映画関係者を中心としたクリエーター関係の人達が多く住んでいたり、エラスムスなんかで来ている学生にとっては、「市内で住みたい地区ナンバーワン」に選ばれる程お洒落な地区として知られてるんだけど(地中海ブログ:ちょっと気になる広告:エラスムス(ヨーロッパの大学間交換留学プログラム:The European Community Action Scheme for the Mobility of University Students : ERASMUS)の実態???)、この地区にこれ程の賑わいを齎しているのは、地区全体の街路レベルに入っている店舗の数とその多様性、そしてそこに広がる歩行者空間だと思うんですね。



グラシア地区って数年前までは細い街路にさえも沢山の車が入り込んでて、正に「公共空間が車に乗っ取られてる」って言う典型的な状態だったんだけど、その様な「街路=公共空間を人々の手に取り戻そう!(岡部明子さん)」と、地区内への車の出入りを禁止して、住民が安心して歩いて暮らせる街路空間に生まれ変わらせるという計画が数年前に持ち上がりました。その計画が実行されて以来、この地区には沢山の魅力的なお店がオープンしだし、それにつれてバルセロナ中から人々が集まる様になり、その相乗効果でバルセロナでも一、二を争う程のお洒落な地区に変貌を遂げたと言う訳なんです。



まあ、つまりはこの地区の公共空間政策は大成功で、その証拠に、この辺りの地価っていうのは軒並み上がってて、云わばジェントリフィケーションの傾向が見られる訳なんだけど、このグラシア地区の歩行者空間計画の責任者してたのって、実は僕なんですよね(地中海ブログ:バルセロナモデル:グラシア地区再開発)。嘘の様なホントの話(笑)。

多分、このブログの読者の皆さんなんて、「えー、cruasanって、日中はコーヒーばっかり飲んで、夜はパエリアを食べまくって、「美味しいー!」とか、かなり適当なコメントしてる人じゃないのー?」とか、「年がら年中休みで、その度に旅行ばっかり行ってて、何時働いてるか分からないー!」とか思ってる人、多いんじゃないでしょうか?・・・し、失礼な、冗談じゃない!当たってます(苦笑)。

最近、夕涼みにと思って「ダンテの神曲、地獄篇」を読み返してるんだけど、「cruasanがパエリアばっかり食べてノホホンとしてる」とか思ってるあなた、ダンテと一緒に地獄に落ちてください(笑)。ちなみにスペイン語版の「ダンテ神曲、地獄篇」の挿絵を書いているのは、今やヨーロッパを代表するカタラン人アーティスト、ミケル・バルセロ氏です(地中海ブログ:スペインを代表する現代アーティスト、ミケル・バルセロ(Miquel Barcelo)の展覧会:La Solitude Organisative)。このスペイン語版のダンテ神曲は、ミケル・バルセロ氏の絵を見るだけでも価値ある書籍となっていると思います。



こんな味のある挿絵の数々が差し込まれている事などから、スペイン語が読めなくても十分、ヴィジュアル的に楽しめる本となっているんですね。

さて、で、今日の本題なんだけど、上にも書いた様に最近は本当に忙しかったので、日中はゆっくりとお祭りを見に行く事が出来ず、結局行く事が出来たのは最終日の深夜0時を過ぎた頃でした。でも、そこはやっぱりラテン系!深夜になってもお祭りは収束の気配を全く見せず、逆に駅から地区内へと流れ込んで来る人の波が段々と多くなってくる程で、今正にお祭りは盛り上がりの絶頂を迎えようとしている所でした。



しかもその辺の広場では子供達がサッカーボールとか蹴って遊んでるし・・・夜の3時過ぎですよ!良い子は寝る時間でしょ?「こんな環境の中からメッシとか出てくるのかなー」とか思って、妙に納得してしまった。そんな永遠に続くかの様なお祭りの背景を演出しているのが街路中に所狭しと飾り付けられた出し物達なんだけど、これがちょっと凄いんです:



各街路毎に個性があって、こんな感じで大変手の込んだ作品に仕上がっているんですね。そしてそこではミニコンサートなんかが開かれていて、その音楽性によって、まるで各街路の特徴が醸し出されているかの様ですらありました。



キャラクター関連も沢山あったんだけど、ピーターパンとか宇宙人とか、聞く所によると、この飾り付けを用意する為に、近隣住民が街路毎に1年も前から着々と準備を進めてきたのだとか。これなんて、本当に綺麗だった:



暗闇の中に浮かび上がる灯篭みたいなものが、まるで我々を幻想の世界に運んでいってくれるかの様で、体感気温が5度は下がった様な気がします(笑)。



今回は本当に時間が無くてホンの一部しか見る事が出来なかったんだけど、久しぶりに良いものを見させてもらったなー。

グローバリゼーションが世界中を席巻し、隣に住んでいる人の顔さえ知らないという状況が当たり前になってきている今の世の中において、このようなローカルなお祭りが今でも残っているという事、そしてそれが近隣住民主導で行われているという事は、この地区には依然として近隣住民の確固としたネットワークが残っていて、それが非常に活発且つ、精力的に働いているという事を意味するんですね。そんな住民側からのソフトパワーがあるからこそ、この地区の歩行者空間計画と言うハードな計画は成功したんだと思います。そしてそれこそが、今世紀最大の課題であり、我々の都市が必然的に抱えてしまう都市の闇、ジェントリフィケーションに対抗する一つの手段なのかもしれません(地中海ブログ:都市の闇:ヴェネチア(Venezia)の裏の顔とジェントリフィケーション(Gentrification))。

「街路における活気が生まれてくる背景には近隣住民の固い絆があり、歩行者空間計画というハード面での改善は単に彼らの背中を押すに過ぎない」と言う僕の仮説は間違ってなかった。あの計画から早5年、今やっと、あの時の仮説が住民達の目に見え始めようとしています。

追記(2015年8月18日)
今年のverdid通りの飾り付けのテーマは「日本」だそうです。で、これが結構よく出来てる!




鳥居には「ベルデイ」の文字が!上手く書けてる。もし「イ」が「ィ」だったら完璧(笑)。いたる所に日本語が乱立してて、これはこれで結構面白い:



「地元愛」っていうところが、このエリアを愛する人達の心情がよく出てて良かったかな。



そして海外の人達に大人気の伏見稲荷大社の登場〜。



お相撲さんも居たりします。
Verdi通りは今年の大賞を受賞したそうです。おめでとー。

追記その2(2016年8月21日)

今年も夏の風物詩、グラシア地区祭がやってきました!
このお祭りがやってくると、「あー、夏もそろそろ終わりだなー」とか思います。

今年も非常に手の込んだ飾り付けをゆっくりと楽しませてもらいました。

その中でも特に印象に残ったのがこちら:

じゃーん、Rovira i Trias広場のラピュタのロボット(笑)。肩に草が生えてることから、このロボットは空中庭園を守るロボットですね。花とかあげてるしww

しかも結構良く出来る!

どうやらこの広場の飾り付けのコンセプトが「自然との共生」ということらしく、その自然を守る為のシンボルとしてラピュタのロボットを作ったのだとか(その辺に居た子供達談)。

 

| バルセロナ都市計画 | 03:52 | comments(5) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
楽しい記事とともに、cruasanさんのすごさを見させていただきました。
今後もますますのご活躍、期待していますね!
改めて、すご〜い☆☆☆
| Aki | 2011/09/04 7:47 PM |
今度Joanicに移り住む予定で、先日下見に行ってきたのですが、JoanicからFontanaに行く辺りの路地を歩いたのですが、ただの住宅街にしてはずいぶん賑やかでした。観光客が多いGloriaの辺りならともかく、何を見にあんなに人がいるんでしょう。ランブラスほどうるさくないし、ほどほどに熱気があるので、長期滞在者が住みたがるそうですね。
| yossy | 2011/09/06 1:04 AM |
Akiさん、コメントありがとうございます。

この計画、結構大変だったんですよー。住民の反対が本当に酷くって、かなりデモとかやられてしまいました。でも最後までがんばれたのは、やはり、車がびゅんびゅん走っている空間よりも、人の声がする空間の方が絶対に気持ちが良いに決まってる、そしてそれが経済効果に必ず結びつくはずだという確信があったからです。それが今、住民にも目に見える形となって来ている事にとっても喜びを感じています。
| cruasan | 2011/09/08 7:39 PM |
Yossyさん、こんにちは、コメントありがとうございます。

そうですか、Joanicに住まわれるのですか。あの辺りは最近本当に人気が出て来て、と言うのも、オシャレなグラシアの隣だし、程々に静かなエリアなので、在住者は勿論、学生などにも人気がある様ですね。Joanicでの新生活、楽しくなると良いですね。
| cruasan | 2011/09/08 7:43 PM |
はじめまして。都市計画を勉強している大学院生のwadamasaと申します。
ブログを通していつも勉強させて頂いております。

先日スペインを訪問した際、1980年以降行われたバルセロナの公共空間挿入計画を体験するため、ブログで紹介されていたグラシア地区の街歩きをさせて頂きました。

事前にどの広場が新しく設けられたものなのか情報を集めきれず、地区内の小さな広場をわかる範囲で歩いたのですが、その時気になったことを4点ほど質問させて下さい。


1.柵付きの幼児が遊ぶためのスペース
私が見た広場はPl de Joaric, Pl John Lennon , Pl Raspall, Pl Rius Taulet, Pl del Sol, Pl Revolucio Sept 1868, Pl de la Virreina, Pl del Nord, Pl del Diamant, Pl Llidertatですが、
ほとんどの広場に子供が遊ぶためのスペースが柵付きで設けられていました。これは広場をつくる際のルールとして決まっていたことなのでしょうか。

2.地下駐車場とその入り口
地下駐車場の入り口を持つ広場がいくつか見られましたが、これは不足する駐車場を補いつつ、車利用者の移動の起点を広場に作るという戦略なのでしょうか。

3.各公園のネットワーク
各公園は柑橘系の植栽や、小石が埋め込まれたアスファルト舗装等によってネットワークされているように感じました。公園同士を繋ぐ道のデザインでもっとも気を配った点はどこでしょうか。

4.市場の位置づけ
 Pl Llidertatには大きめの市場が設けられており、デザインされた通りで他の公園とネットワークされているように感じたのですが、これは地区の活性化の起爆剤として計画されたものなのでしょうか。


…と、質問が長くなってしまい申し訳ありません。

グラシア地区の広場や街路は様々な工夫がなされており、とても歩きやすく楽しい空間でした!
バルセロナにくる機会があれば必ずまた街歩きさせて頂きます!
| wadamasa | 2012/03/24 12:48 PM |
コメントする