地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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ガリシア旅行その9:アルヴァロ・シザの建築:マルコ・デ・カナヴェーゼス教会(Igreja de Santa Maria do Marco de Canaveses):世界一美しいと思わせてくれる真っ白な教会
ポルトから北東へ50キロ程行った所にあるマルコ・デ・カナヴェーゼスという人口6万人にも満たない小さな町は、毎年世界中から建築巡礼者が何万人と訪れている事で知られているんだけど、と言うのも、この小さな町には、アルヴァロ・シザが設計した非常に美しく、この町のシンボルである珠玉の教会があるからなんですね。



到着するのに少し迷い、道行く人に「教会へ行きたいんだけど?」と聞いてみたら、

「あー、シザの教会ね。この町には何にも無いけど、あれだけは凄いんだ」

みたいな感じで答えが返ってきた。「やっぱりここでも建築家はヒーローであり、そんな英雄に建ててもらった町のシンボルの事をみんな誇りに思っているんだなー」と感じた瞬間でした。

ちょっとした坂道を上っていくと、抜ける様な青空を背景に、真っ白な壁で覆われた変わった形の建物が僕達の眼前に現れてきます:



建物の両端部分が半径5メートル程の円柱に削り取られたかの様なそのファサードは、今まで見た事が無い、ちょっと不思議な佇まいをしていますね。本当に雲一つ無い、絵に描いた様な真っ青な空だったので、この真っ白な形態がその青空にくっきりと浮かび上がり、あたかも御伽話の中にいるかの様な、そんな感覚さえ引き起こさせるくらいでした。



サンクンガーデンと上階へと続く階段の為に5メートル程も積み上げられたベージュ色の石と、教会の真っ白な壁の対比が非常に美しく・・・いや、もっと正確に言うならば、この教会の白色は、この石のベージュ色によって引き立てられていると言っても過言ではないと思います。「このベージュ色があるからこそ、白色がより一層活きている」みたいな。で、目の前にある階段を上っていくと現れるのがこの風景:



この町が一望出来るかの様な、正に「この教会はこの町の為に建っているんだぞー」と言いたげな、そんな風景が展開しているんですね。教会というのは元々、魔物を寄付けない為に鐘が聞こえる所までを浄化するという、そういう機能を宿していた建築だという事を思い出させてくれるかの様です。そんな長閑な風景を見つつ、振り返りざまに現れるのがコチラです:



じゃーん、「これでもか!」と言う程、真っ白な壁に覆われた大変シンプルで力強い形態が大変印象的です。先程のベージュ色の花崗岩が布石となり、壁の白色がより一層光って見えます。この教会も地面から腰壁辺りまで立ち上げられた花崗岩がその基礎となっているのですが、その花崗岩と白い壁との境界線の鬩ぎ合いのデザインに注目:



花崗岩の終わりが半円形を通り越し、ホンの少しだけ側面に石を回り込ませる事によって、違和感無く白い壁と石のデザインを連続させているのが分かるかと思います。更にコチラ:



向かって右手側の長方形の下の方に切り取られた窓を境にして、右側と左側で花崗岩の高さを変えているのですが、この辺のデザインもさすがだなー。そして見上げればこの空の切り取り方です:



何重にも折り重なった形態同士が襞を形成し、不思議な遠近感を創り出しているんですね。



教会の目の前には比較的最近完成したと思われる日曜学校があるんだけど、勿論、その建物は、教会との間に遠近法的空間を創り出す様に配置されています。 そうこうしている内に、その建物から管理人さんらしき人が出てきて教会の鍵を開けてくれました。ちなみにこの教会は何時も開いている訳ではなく、訪れる際には事前に連絡が必要なんだそうです(強制ではないが、連絡した方が良さそう)。と言うのも、一応教会の開館時間は季節によって決まってるらしいんだけど、その時間帯に管理人のおじさんが居るとは限らない為、前日までに何時頃に着くかを連絡しておけば、その時間帯には大体居てくれると、そういうことらしいです。ポルト市内のツーリスト・インフォメーションに行って「シザの教会に行きたいんだー」みたいな事を伝えると、色々と情報を教えてくれます。運が良ければ電話してくれるかもしれません。運が良ければね。

さて、鍵を開けてもらってイヨイヨ中へと入っていきます。



横一直線に切り取られた細長い窓と、その空間に行儀良く並ぶ400席はあるという木製の椅子達が大変印象的だなー。その風景に惹き寄せられるかの様に進んで行くと現れてくるのがコチラ:



で、出ました!思わず息を呑む様な美しい空間の登場です。うん、全てがビシッと決まっている・・・。外観も真っ白なら内観も真っ白。でも、よく見ると全てが真っ白という訳ではなくて、クリーム色をしたタイルだとか、濃い目の木を用いた床、はたまた淡い白色をした大理石といったような、様々な色が取り入れられているんだけど、それら全てが絶妙なハーモニーを醸し出し、この教会の白色を普通の白色よりも、もっと白色にしている気がするんですね。正に「白い教会」と呼ぶに相応しい、そんな気品を兼ね備えていると思います。

それにも増して、この教会の空間を特別なものにしているのが、内部に押し迫ってきている壁だと思うんだけど、何より驚きなのがコチラです:



内側に思い切り倒れこむかの様に膨らんでいる左手方向の壁!床と接する所を起点として、天井と接する部分では、3メートルは壁が内側に倒れてきているんですね。この壁が(良い意味での)圧迫感を伴い、この空間に、ある種の緊張感の様なものを創り出しています。今まで沢山の建築を見てきたけど、こんな形態は初めて見た気がする・・・。



その上方に空けられた3つの深−い窓からは、時に強く、時に優しい光が空間を満たしているのが分かります。更に不思議な光を醸し出しているのが、祭壇中央に開いている長方形の2つの穴です:



あの穴の光。淡い光。不思議な、本当に不思議な光です。振り返ると、必要以上に誇張されたかの様な高さを持つ木製の扉が目に飛び込んできます。



最初見た時は、「この空間にはちょっと大き過ぎるよな」とか思ったんだけど、時間が経つにつれ、この空間にピッタリと馴染んでくるから不思議です。その真横には、この静まり返っている空間に「チョロチョロ」と水の音を響かせている洗礼堂の為の空間があるんだけど、この空間を見上げてみると、そこにはタイルが張られ、あたかも上方からの光の粒子を可視化しているかの様なんですね。



これはまるでロンシャンの教会でコルビジェが見せた、スタッコのザラザラ仕上げによって、上方からの光の粒子を可視化している手法と似ていますね(地中海ブログ:プロヴァンス旅行その5:ル・トロネ修道院(Abbaye du Thoronet)の回廊に見る光について)。

素晴らしい、本当に素晴らしい空間だと思います。今まで古今東西、様々な教会を見てきたけど、これ程美しい教会はそれ程無かった気がします。

さて、この教会に関してもう一つ僕がここで強調しておきたい事があるんだけど、それはですね、この教会はシザの代表作のように言われる事が多くて、それには(それ程)異論は無いんだけど、でも、彼の作品の系譜で見たら、実はこの教会はメインストリームというよりは、むしろ、異端な位置を占めていると思うんですね。

理由は2つあります。

一つは僕が何度も強調してきた遠近法的空間手法について。シザ建築の特徴は遠近法的空間にあるという事は間違い無いと思うんだけど、この教会では、その遠近法が少し違った形で展開しています。



上の写真はサンティアゴ・デ・コンポステーラにあるもう一つのシザ作品、サンティアゴ大学情報科学学部棟のアプローチ空間なんだけど、シザ建築の典型的な展開の仕方というのはこの空間に見られる様に、何本もの直線を用いて、それらの線によって遠近法的空間を創り出すというものでした。しかしですね、この教会では遠近法的空間が創られている事は創られているんだけど、それが直線によって創られているのではなくて、曲線によって創られているという大変大きな違いが存在するんですね。



つまりこの空間では、祭壇両脇にある曲線が、祭壇中央部へと流れ込んで行くかの様な視線の流れが実現されていて、それらの曲線が創り出す消失点が祭壇に開けられた2つの長方形の穴だという訳なんです。

これが第一点目。そして2つ目の違いはですね、天井操作に関わる事柄です。

遠近法的空間と同様に、シザのもう一つの十八番として天井操作がある事は、今まで散々書いてきた通りなんだけど、この教会では驚くほど、シザは天井に関して無関心を貫いています。



ガリシア美術センターでは展示室にテーブルを逆さにした様な造詣がなされていたり、シザ初期の銀行などでは、大きくカーブを描いた様な天井の切り取り方をしているという様に、シザは空間を創る際、必ず天井操作を伴った構成をしてきました(地中海ブログ:マドリッドの都市戦略その2:アルヴァロ・シザ(Alvaro Siza)について)。しかしですね、この教会では、その様な天井操作は一切見られません。その代わりに行われているのは、今までの作品では見られなかった壁への執着なんですね。つまり天井操作が一切無い代わりに、壁がカーブを描き、緊張感を伴いながら迫ってきているという事が挙げられるという事です。

これらから言える事、それはこの教会は明らかにシザの一連の作品の系譜からは外れた作品であり、そういう意味において、シザのメインストリームに位置付けられる作品ではないと言う事実なんですね。

・・・この教会の内部空間には「凛」とした空気が張り詰め、この場所にしか存在し得ない、そんな荘厳な空気が流れています。そしてこの空気は、シザの建築に関して繰り返し書いてきた様に、写真では絶対に捉える事が出来ないものであり、正に、「今、ここ」にしか存在し得ないものだと思います。

 「ここに地果て、海始まる」

ルイス・デ・カモンイスがそう詠んだ国、ヨーロッパの端の端にへばりついているポルトガルという国の更に内陸部へ数時間行った所にあるという、大変辺鄙で行きにくい所なのは確かなのですが、そこまでの手間と時間をかけてココにこの教会を見に来る価値は絶対にあると思います。そう思わせてくれる様な質を持った教会です。是非一人でも多くの人に、この感動を味わって頂きたいと、そう思わずにはいられません!
| 旅行記:建築 | 03:20 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
ポルトに行った友人が、感激していた建物の理由がよく分かりました。建築は行ってみないと分からないですが、分析して写真入りで載せてくださっているので、本当によく分かりました。有り難うございます。
| 片山勢津子 | 2014/09/21 7:16 AM |
片山勢津子さん、はじめまして、こんにちは。コメントありがとうございます。

この教会は本当に美しい教会で、僕はほぼ毎年訪れているのですが、その度に違う表情を見せてくれて、何度行っても飽きる事がありません。ポルト市からは非常に行き難い所にあるのですが、それも又、この教会を魅力的にしている1つの要因かも知れません。

これからも宜しくお願いします。
| cruasan | 2014/09/22 5:00 AM |
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