地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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ガリシア旅行その7:アルヴァロ・シザの建築:ポルト大学建築学部:外内部空間に展開する遠近法的空間と、その物語について
一昨日から3日間に渡ってポルトガル北部の都市、ブラガ(Braga)そしてポルト(Oporto)とその近郊の町に行ってきました。



ポルトに来るのは実に10年振り!当時と変わらないその風景の眼前を、「スゥー」っとカモメが横切っていきます:



カモメって何時もこんな風景を眺めているのかと思うと、羨ましい限りです。正にこんな感じかな:



ポルト発祥の地であるドロウ川北岸に広がる風景は世界遺産に登録され、アニメ映画「魔女の宅急便」の主人公キキが住んでいた街のモデルになった事でも知られているのですが、当ブログでは宮崎作品に影響を与えたと思われる風景や地域などを勝手に取り上げ、勝手に言及してきました(地中海ブログ:プロヴァンス旅行その7:天空の城、ゴルド(Gordes)の風景、地中海ブログ:風の谷のセナンク修道院:天空の城の後に見る風の谷:リアル宮崎駿ワールド、地中海ブログ:「ハウルの動く城」の舞台ってカタルーニャだったのか?)。

そんな、とってもロマンチックな風景が広がるポルトなのですが、この地を訪れた目的の一つは勿論、アルヴァロ・シザの建築を訪ねる為なんですね。先ず最初に向かったのは、シザ自身が教鞭をとっている(いた?)事でも知られるポルト大学建築学部です:



この建築は市内中心部からバスに揺られる事約20分+徒歩5分の所に広がる緑溢れる崖の上に建ってるんだけど、学生達はドロウ川を眼下に眺めながら設計演習を行うっていう、この上ない環境を与えられています。



先ず僕等を出迎えてくれるのは、建築の本体部分へと我々を導いてくれる細長いスロープの起点に位置しているこのモニュメント:



この部分を見ただけでも、この建築がちょっと普通じゃないって事が解かると思うんだけど、と言うのも、この長方形のモニュメント、街路に対して平行に開けられた入り口に、直接スロープが付いてるんじゃなくって、そこに開けられた開口から建築本体をチラチラ見せつつ、わざわざ右手方向に90度向きを変えさせ一度違う風景を見せてから、更に左手方向に90度曲がらせるという、複雑なプロセスを実現しているんですね:



つまり、この部分がこの建築に流れる物語の「始まり」として機能していると同時に、人の視線をコントロールする制御装置としても機能している訳ですよ!普通こういう視線の操作っていうのは風除室を通して行われる事が多いんだけど、谷口吉生さんの建築なんて、正にそんな風に出来てますよね。もしくは視線操作と空間の展開という事で言えば、スカルパの建築は凄かった(地中海ブログ:カルロ・スカルパ(Carlo Scarpa)の建築その3:カステルヴェッキオ(Castelvecchio):空間の建築家カルロ・スカルパ:ものすごいものを見てしまったパート2)。さて、ここを抜けると先程の「始まり部分」から生まれた「流れ」を受け取り、本体部分へと受け渡す役割を担っている、起承転結でいう所の「承」の部分の建築が現れます:



一見見落としがちなんだけど、ここのデザインが結構凄い。何が凄いって、この建築に展開している2つの屋根のラインとそれらの交差の仕方、そしてそのラインがダイナミックに変化していく事による空の切り取られ方です。見てください:



先程の方向からこの建築を見てみると上の写真の様に見えるんだけど、進行方向に沿って進んでいくと、この建築がこんな感じで変化していくのが見て取れます:



同じ様な空の切り取り方を槙文彦さんがヒルサイドテラス第6期でやられていると思うんだけど、この様なデザインって、「我々人間の目が地上から150センチくらいの所に付いている」という事と、「建築とは人間がそれらの空間の中を動き回るものである」という事が分かってないと到底実現出来ないデザインだと思います。更にこの2段目(上の方)の屋根の線が指し示す方向は、次の建築展開への補助線となっている事に気が付きます:



ここから見える全ての建築要素が、前方にポッカリと開いた内部空間へ、あたかも「おいで、おいで」と我々を誘っているかのようです。ここでは敢えてその誘惑を我慢して、外部空間へ出てみようと思います。少し歩を進めると現れてくるのがこの風景:



出ました!シザの伝家の宝刀、遠近法的空間の登場です。先程から続いてきた進行方向の線と、「承」の建築の屋根によって暗示されていた方向軸によって形成された綺麗なパースペクティブが大変気持ちの良い中庭空間を形成しています:



先ずはこの左手側に見える、斜め上方に駆け上って行く様な横長の窓のデザインと、水平方向に一直線に切られている薄いブルーの腰壁のデザインの絡み合いに注目。そしてこの斜め上方に伸びる線と、右手方向奥へと伸びていく線の創り出す遠近法的空間の妙:



素晴らしい!この線に沿って引き寄せられるかのように奥の方へと進んで行くと、シザ独特の間延びしたかのような、非常にふんわりとした不思議な形態が創り出す風景が広がっています:



個人的には、ここの部分の屈折の仕方と、ビヨーンと伸びた形態の広がりが、「ポルトガルの社会文化をよく表しているー」とか思うかな。形態的には一歩間違えば、「ダサイ形」になっちゃうんだけど、ギリギリの所で止める事によって物凄く魅力的な形態に仕上げているのが分かるかと思います。この様な形というのは、現在主流の綺麗でサラッとした一筆書きで出来てしまうモノとは対極に位置していると思うんだけど、僕は断然コチラの方に魅力を感じてしまいますね。このビヨーンと間延びしたかのような形態はセラルヴェス現代美術館のアプローチ空間にも見られるのですが、その特徴を非常によく捉えていると思うのが、二川幸夫さんによるGAに載った写真なんですね。流石に目の付け所が違う!脱帽です。そして振り返るとこの風景:



シザが如何に形態や屋根のデザインを通して遠近空間を強調しているかが分かるかと思います。極め付けはコチラ:



4つの独立した塔が並んでるんだけど、それら各々の塔の高さや細部のちょっとした違いを通して、一見平凡で均質的なものになりがちな風景に、絶妙な強弱とリズムを付け、奥へ行く程ドラマチックな空間を演出しているんですね:



裏から見るとよく分かるんだけど、屋根の上についてるトサカや、窓の数や形、そして建物間の距離などありとあらゆる要素を用いてクライマックス感を演出しています。そしてこれらバラバラになりがちな建物間に統一感を与えている影の立役者がコチラです:



腰あたりまで立ち上げられた薄いブルーの御影石です。それらを建物間の共通の基礎とする事によって、ある種の統一感を出す事に成功していますね。これは前回のエントリで見たガリシア美術センターの内部空間に見られる床と腰壁、そして壁のデザインを無理なく連続させるっていう手法と同じなんだけど(地中海ブログ:ガリシア旅行その6:アルヴァロ・シザの建築:ガリシア美術センター(Centro Gallego de Arte Contemporaneo):複雑な空間構成の中に隠された驚く程シンプルな原理)、ポルト大学の外観デザインでは、薄いブルーの御影石と外壁の白が、「これでもか!」という程のマッチングを見せ、大変気品のあるデザインに仕上がっています。



最深部から振る返ると、この建築の消失点とその一点に収束していくデザインの密度がよく分かります。逆に言えば、これは消失点から最深部へと至る全ての建築要素が、物語をドラマチックに展開していっているという事の裏返しでもあるんですね。そんな事を思いつつ内部空間へと入っていきたいと思うのですが、最初に僕達を出迎えてくれるのがこの空間:



長いスロープと横長の窓、そしてちょっとした天井操作がここでも遠近法的空間を形作っています。上っていくとその先にはちょっとしたビックリが待っていました:



偶然にも今年のプリツカー賞受賞者、エドゥアルド・ソウト・デ・モウラのコンペ作品ばかりを集めた展覧会が開催中でした(地中海ブログ:エドゥアルド・ソウト・デ・モウラ(Eduardo Souto de Moura)、プリツカー賞(The Pritzker Architecture Prize)受賞)。壁に貼ってあったポスターによると、どうやら彼はポルト大学から名誉博士号を与えられ、その記念の展覧会という事らしいです。ちなみに入り口付近にあった本屋さんには、彼の展覧会を記念して何枚かのスケッチが売られていました:



何時も思うんだけど、ポルトガルという国ほど建築のスケッチに重きを置いている国は無いんじゃないかな?シザ事務所でもソウト・デ・モウラ事務所でも、所員は退所する際にはスケッチを貰うっていう習慣が昔はあった様な気がするし(今は知らない)。これらのコンペ案がベタベタ貼られている半円形を描いている空間がコチラです:



何重もの円が重なり、それらの線が他の線に切り取られる事によって隠れたり現れたりしている大変質の高い空間。ただ一つだけ言うならば、上方からの光は自然光が良かったかなー。

さて、ここからが必見の空間なんだけど、この半円形の空間を抜けるとこの一連の建築の最終部分である図書館に辿り着きます。この図書館こそ僕に、「シザ建築の特徴はパースペクティブである」という事と、「天井操作の特異性」という事を気が付かせてくれた建築でもあるんですね:



天井のど真ん中に逆三角形の明り取りが「でーん」と付いている、建築関連書籍などでよく見かける図書館空間です。この明り取りを境に、両側にコの字を描く様に配置された構成も、シザ建築ではお馴染みの空間構成だと思うんだけど、しかしですね、現場へ行くとよく分かるのですが、実はこの天井の明り取り、奥へ行く程、下がっているんですよね!



しかも、その両脇の天井が、手前側では円を描き、奥へ行く程、平らになっているのが分かるかと思います。



シザは一体ここで何をやっているのか?

それは、この三角形の形態を奥に行く程下げる事によって、入り口から見た時にパースが付いてる風景=遠近法的空間を強調している訳ですよ!だから我々が書籍などでよく見かける図書館の写真は、「パースが付いてるから三角形の明り取りが奥に行くほど下がって見える」のではなくて、「元々、奥へ行く程下がる様に創られている」からそう見えるという事が、この空間に来るとよく分かります。

僕が始めてこの事実に気が付いた時、「じゃあ、あの空間はどうなっているのか?」、「え、あれは?」って感じで、今まではバラバラで何の脈略も無さそうに見えたシザのデザインに、一本の共通する線が繫がった様な気がしました。因みにシザの天井の特異性に言及しているのは、世界広しと言えども矢萩喜従郎さんだけだと思います。さすがです。

階段のデザインやその展開手法など、この建築には語り尽くせない程豊かな空間とデザインが展開している為、話し出せば切りが無いと思うんだけど、最も大事な事として、この空間には、この空間を訪れる事によってしか感じる事が出来ない感動があります。そしてそれは幾ら言葉で語っても到底伝え切れるものではありません。是非皆さんにも、この感動を自分自身の5感を通して味わって貰えたらと思います。
| 旅行記:建築 | 05:02 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
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