地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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ガリシア旅行その5:ピーター・アイゼンマン(Peter Eisenman)のガリシア文化都市(Cidade da Cultura de Galicia):スケボーするには画期的な建築
サンティアゴ・デ・コンポステーラに立ち寄る事があったら是非見てみたかった建築の一つ、ピーター・アイゼンマンによるガリシア文化都市に行ってきました。



ピーター・アイゼンマンの建築は今まで一度も見た事が無くって、と言うか、「そもそも建築を建ててるのか?」っていう問題はあるんだけど(笑)、まあ、彼の事を肯定するにしろ批判するにしろ、実際に彼の建てた建築をこの目で見てみない事には何も始まりませんからね。

こんな事、言うまでも無い事かもしれないけど、やっぱり建築っていうのは実際に見てみないと分からない事、実際にその空間に身を置いてみないと見えない事っていうのが非常に多い表象文化だと思います。写真には絶対に写らない空間の質があるという事、その空間が醸し出している雰囲気はその場に行かないと分からないという事が、建築の怖い所でもあり、又、面白い所だと思うんですね。だから僕は時間が許す限り、自分の目と足でなるべく多くの建築を見て回り、自分の言葉で批評したいと思っています。そして同時に、その建築を実際にこの目で見るまでは、なるべく憶測でものを言う事は極力避けたいなーとも思っています。それが僕の建築に対する基本的な姿勢です。

さて、で、この建築、一体何処にあるのか?と言うとですね、サンティアゴ・デ・コンポステーラの中心街から車で15分くらい行った丘の上に建ってるんですね。


大きな地図で見る

えっこら、えっこらと丘を登っていくにつれ、段々とその異様とも言える全貌が姿を現してくるんだけど、先ず気が付く事は、「この建築、全然工事中じゃん!」って事です。



今年1月の新聞に載ってた記事によると、「図書館と展示室の一部が開館」って書いてあったので、てっきり7−8割方は出来上がってるのかと思いきや、3割も出来て無いじゃないですか!って言うか、「こんなんでよくオープン出来たな?」と、そっちの方にむしろ感心してしまいます。そしてこの建築のもう一つの特徴、それがこのスケールの大きさです:



とにかくデカイ!「文化施設でこんなに大きな建築、久しぶりに見た!」ってくらいの大きさなんですね。



これだけのスケールがあると、建築がそれ自体で「背景」、もしくは最近良く使用される言葉を使うならば「自然」になってるみたいで、それはそれでアリかなとは思う。「こんなダイナミックな形態、お目にかかった事無いかも」という意味では驚きですらあるかもしれません・・・。違う方向から見てみると、この建築が如何に地形になっているかが分かるかと思います:



うーん、よくこれだけお金かけられたなって感じかな(笑)。ガリシア州、貧乏なのにねー。で、今回の建築でピーター・アイゼンマンがやりたかった事っていうのが多分コレかな:



建物と建物の対話。そしてその間から垣間見える自然の山との対比みたいなー。確かに、この建築自体でちょっとした山の様なボリュームがあって、それはそれで圧倒される事は圧倒されるんだけど、でも、その一方で、完全なる自然を前に、それを模倣なんて真似したら・・・おっと、この先は言わないでおきましょう(苦笑)。それともこれは、自然に対する人間の創造力の未知なる可能性を探る壮大なプロジェクトと捉えた方が良いのでしょうか?つまり、人間の創造物は一体何処まで自然に近づけるのか・・・って言う・・・・。その真意は分からないけれど、建物を幾つかの部分に分解して、その建物間の対話で勝負するって言うコンセプトは全く失敗に終わってる気がします。



サッパリ何も見えてこない(苦笑)。ピーター・アイゼンマンって、「地形」とか「対話」とか「構築」とか、そんな哲学的な事ばっか考えすぎてゴチャゴチャになっちゃったんだと思うんだけど、そんな難しい事なんかよりも、この建築には、彼自身も気が付いて無い様な、この建築にしかない画期的な部分があるんですね。それがコチラです:



ほら、あの地形の筋みたいなのが入ってる太い所、若者達がスケボーするのにピッタリだと思いませんか?あんな急降下、なかなかありませんよー(笑)。反対側に回ってみたら、もっとスケボーしやすそうな場所発見:



勿論半分冗談だけど、でも、これはこれで人気が出そうな感じはするかな。正直言って、ここにスケボー目的で若者が集まり始めたら儲けもんで、その内活気が出てきて、それこそ「町の様な存在になるのでは?」と言う微かな期待を抱かせます。ちなみにこの巨大な建築の片隅にはジョン・ヘイダックのこのビルもあります:



・・・特にコメントは必要なし。で、半分ジョークみたいなこの巨大建築、ガリシア文化都市の用途は一体何か?と言うとですね、どうやら図書館、歴史博物館、コミュニティセンター、美術館、国際芸術センターそしてカフェテリアと言った複合文化施設らしいんだけど、今の所オープンしてるのは、図書館と幾つかの展示室、そしてカフェテリアだけ。「まあ、しょうがないか」と言う感じで渋々図書館に入ってみたんだけど、これがビックリ:



だだっ広い空間の中に、外観に合わせて作られたと見られる波打つ本棚に波打つ天井。



そして「これでもか!」というくらいの無駄なスペースのオンパレード。



 「天井や壁を波打たせて流動的な空間を」って言う、やりたい事は分からないでも無いけど、それらが全くデザインと呼べるものにまで昇華出来てない気がする。何よりもこの空間からは「気持ちの良さ」というものを全く感じません。むしろ落ち着かなく、とても居心地が悪い空間になってる気がします。

良く知られてる様に、ピーター・アイゼンマンが掲げる建築コンセプトの一つ、「脱構築」というものに照らし合わせるならば、「落ち着かない」という感覚は、むしろこの建築に対する賞賛であり、建築家に対する褒め言葉なのかもしれません。しかしですね、やはり建築とは空間ありき、そしてその空間やそこに展開している物語において「如何に人々を感動させられるか」だと思う。そういう意味において、ゲーリーやミラージェスはかなり先を走ってるなー、と今更ながらに思うかな(地中海ブログ:ガリシア旅行その3:エンリック・ミラージェス(Enric Miralles)の建築、ビーゴ大学(Univeristy of Vigo)その1:ミラージェスの真骨頂、手書きのカーブを存分に用いた名建築)。

では何故この建築は失敗しているのか?一つには、この建築を構成している一つ一つのデザインにシャープさが全く無くって、ブヨブヨのゴテゴテに見えるからだと思います。



特にこの筋が入ってる部分が、子供のロゴブロックみたい(笑)。



まあ、あとはどの空間もみんな同じ感じだったので特に解説する必要も無し。



現在この建物内部の展示室で、「建築家ピーター・アイゼンマンと都市」みたいな感じで、この建築のコンセプトから建設の様子、そして完成予定の巨大模型などを並べて展覧会を開催していました(入場無料):



うーん、確かにコンセプトは良く考えられてるとは思うし、面白いとも思います。そして上述した様に、建築家がやりたかった事の一部はよく見えると思う。そういう意味において、この建築は言うほど酷い建築じゃないのかもしれない。でも、やっぱり建築って言うのは、その中に人間が入って生活したり、空間を歩き回り、そして感じるものであるという事をきちんと理解した上で創るべきだと思うんですね。そしてその様な空間は机上の空論ではなく、実際に現場に行って自分の身体感覚で測らないと絶対に見えてこないものだと思います。

 「やっぱり言葉遊びだったか!」と言われない為にも、これからの残りの工事、是非がんばって、建築家の意地を見せて欲しいと思います。期待してますよ、ピーター・アイゼンマンさん!

ガリシア旅行その6:アルヴァロ・シザのガリシア現代美術センター:シザ建築の特徴の一つ、遠近法的空間と天井に続く
| 旅行記:建築 | 20:33 | comments(7) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
これまた興味深い記事です☆☆
実際に見て体感しないと見えてこない・・・もっともなことです。

ところで、先日ムサビの現役学生作品講評会にてコバナワさん、カオルさんとお会いでき、懇親会にても大いに盛り上がりました。もちろんヨシムラさんの話題でも!

次回、11月あたまにそちらに行く予定ですので、スケジュールがあいましたらまたよろしくです。


| Aki | 2011/07/18 12:55 AM |
確か 私が武蔵野美術大の油絵科に入学する1〜2年前に建築科が出来たように記憶してますが。。私より 1学年上に 石塚温と言う色々な都市計画にたずさわっているのがいますけど。。。ご存知かな?年代がかなり違うから 知らないかも。だって私達はモウ定年近い年齢ですもん〜〜

 それにしても見ている分では 最近の建築は面白い、、???というか とっぴ過ぎるきらいがありすぎる。
Bilbao のグーゲンハイムも完成直後は度肝をぬかれた。ただ美術館としては
展示し見やすいのかどうか 建築の関してド素人の私にはわからない。

このガリーシアのヤタラ広大な不思議な不便そうな いつ完成するのかもわからない(だって 設計図にかいてなくても延々同じパターンで工事を永遠につづけられそうじゃあにですか??)複合文化施設??
 場所の選択といい、こんなタダでかいだけの建築物を造らせるなら
風力電力でも数本立てたほうが 意義があったりして???

 このピーター アイゼンマンと言う方はこの業界では有名なんですね。。きっと。
 ド素人のお馬鹿な意見と思って許してね。。。
| ゆみ | 2011/07/18 1:56 AM |
Akiさん、ゆみさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

お二人とも武蔵野美術大学繋がりなんですね。全く偶然なのですが,、BCNの僕の周りにはムサビ関係の人が結構多いように思います。こうしてネットを通して、いろんな分野や世代の方々が知り合う事が出来るって、素晴らしい事だと思います。是非、このような&#32363;がりを大切にしていけたらなと思っています。

ゆみさんがおっしゃる通り、今回のガリシアの複合文化施設には首をかしげざるを得ませんね。ホント、あれだけ税金をかけるなら、もっと他に役に立つようなものをと思ってしまいます。

このピーターアイゼンマンという建築家は、(一応)建築業界では名の通った建築家なのですが、実際に建物を建てた事は少なくて、実践派というよりはむしろ、理論家として知られています。だから彼の実作は僕も今まで見た事はなくって、どうなのかな?と思って期待していたのですが・・・という感じです。
| cruasan | 2011/07/18 6:11 AM |
ピーター・アイゼンマンの建築はバブル期の東京に二件建てられています。既に江戸川の「布谷東京ビル」は取り壊されたようですが、神田佐久間町の「小泉照明ショールーム」は現存しているようです。
「ガリシア文化都市」が地殻変動による地面の隆起とするならば、「布谷東京ビル」は地震によるビルの崩落がモチーフでしょうか、神戸の震災で似たような建物が現実となってからは...う〜ん、被災者が見たらフラッシュバックを起こすようなものですね。
「小泉照明ショールーム」は恐らく基本デザインだけで実施設計は国内の協力事務所の手によるものと思われますので...アイゼンマンとしては大人しいですね。
| iGa | 2011/07/18 10:27 AM |
おひさしぶりです、というかコメントするのは初めてなんですが、
一時期バルセロナで勉強してた中川です。

アイゼンマンのレクチャーを半年ほど前に聞いたのですが、
コンセプトはおっしゃる通り「地形との対話」で、
見たまんま山を模倣してるのと同時に、
サイト全体を覆っているグリッドはこの地方に存在したローマ時代(?あいまい)の街路に関連づけているというようなことを言ってました。
建物の側面はこのグリッドに沿って切り取られていて、
そうすることによってこのうねうね建造物の間を歩く人たちの経験を、
遥か昔山道を歩いた巡礼者の人たちの経験に結びつけようとしたんだとか。
(へりくつっぽいけど)
ちなみにアイゼンマン本人もスケボー坂が偶然生まれた事に言及してました笑

写真でみただけではあるのですが、どうやらガリシア市もアイゼンマンも、グーゲンハイムの影響を悪い方向に受けてしまった結果と言う気がしてなりません。。!

| ayumi | 2011/07/20 6:12 AM |
iGaさん、お久しぶりです、コメントありがとうございます。

そういえば、地震によって崩れた様な建物、写真で見た事があった気がします。

何か、こうしてみると、アイゼンマンって、自然を建築で模倣する事に興味があるのかな?とか思ってしまいます。建築的・哲学的に良く考えてるのは分かるのですが、やはり建築として見た場合、大いなる疑問が沸いてきます。

このガリシア文化都市は、未だ建築途中もいい所で、完成までには数年を要すると思います。是非、残りの工事、「建築の空間」を創ってくれるようにがんばってほしいものです。
| cruasan | 2011/07/22 6:09 AM |
Ayumiさん、こんにちは。お久しぶりです。

そういえばアイゼンマン、半年ほど前にバルセロナに来てましたね。僕は行かなかったのですが、行った方からは講演の半分くらいは「ガリシア文化都市の言い訳だった」と言う様な事を聞きました。その1週間後くらいに、新聞にアイゼンマンのインタビューが載っていたのですが、そこでは、「(フランコ政権時代の大臣を務めていた)フラガ最高!」みたいな発言が堂々と載っていました。これを読んだ瞬間、「アイゼンマンが今後、カタルーニャとアンダルシアで仕事をする事は、先ず無いな」と思いましたね(笑)。
| cruasan | 2011/07/22 6:09 AM |
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