地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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ガリシア旅行その3:エンリック・ミラージェス(Enric Miralles)の建築、ビーゴ大学(Univeristy of Vigo)その1:ミラージェスの真骨頂、手書きのカーブを存分に用いた名建築
リアス式海岸に沿ったスペイン最大の漁港を有し、ガリシア地方の工業と商業の中心地、ビーゴ市に行ってきました。



実はこの町、漁港で獲れたばかりのカキを破格の値段で提供するレストランが軒を連ねてる一帯があって、「これが堪らなく美味しい」と言う事でスペイン中にその名を轟かせているんですね。



大西洋で育まれた、身がグッと締まった「海のミルク」です。他にも、毛ガニやら手長エビやら、最高に新鮮な海の幸が、多くの観光客を魅了する所となっているのですが、我々建築家にとってはもう一つ大きな楽しみがこの町には隠されています。それがエンリック・ミラージェス事務所が手掛けたビーゴ大学:



ビーゴ市の中心からバスで20分くらいの所に展開するビーゴ大学は、21,000人の生徒数を擁する総合大学で、市内を見下ろす山の上、と言うか、壮大な自然のど真ん中に展開する典型的な郊外型キャンパスとして存在しています。12年程前、この大学のキャンパスを拡張する為に名前が挙がったのが、当時のスペイン建築界で頭角を現しつつあったエンリック・ミラージャス氏。それ以来数年間をかけてようやく完成に漕ぎ着けたビーゴ大学なんだけど、僕がビーゴを最後に訪れた2002年の時点ではこのキャンパスは未だ工事中でした。

しかしですね、工事中ながらも、その鉄骨丸出しの躯体からはもう既に何かしら特別な空間力みたいなものを発していて、「完成した際には絶対にこの地に戻ってこよう」と思わせる何かを匂わせていたんですね。その昔、二川幸夫さんが鉄骨姿のバラニャ市民会館を見て、「この建築家は凄い」と、ミラージェスを世界で初めて発見したって言う逸話が今や伝説になってるんだけど、ミラージェスの建築には、確かに完成前からその空間に期待を抱かせる何かがある様な気がする(地中海ブログ:エンリック・ミラージェス(Enric Miralles)の建築その2:バラニャ市民会館(Centro Civico de Hostalets de Balenya)に見る建築の質:社会文化の表象としての建築:ミラージェスの場合、地中海ブログ:エンリック・ミラージェス(Enric Miralles)の建築その3:バラニャ市民会館(Centro Civico de Hostalets de Balenya)に見る建築の質:実際に建築を訪れる事の大切さ)。と言う訳で、今回のガリシア旅行を利用して、是非完成した姿をこの目で見てみようと、この地に趣いたと訳なんだけど、クネクネした山間を登り切り、イザ、キャンパスに足を踏み入れてみると現れるのがこの風景:



山の上に展開する広大な敷地の特徴を最大限に生かした、非常にノビノビとした低層の連続体が我々を出迎えてくれます。そう、この建築の特徴は、ミラージャスの、あの独特な手書きの曲線を最大限に生かした、この配置計画にあると言っても過言ではないと思います。



まるで蛇がクネクネっと地を這ってる、上空から見ると正にそんな形態をしているんですね。そしてこの、横方向に「ビヨーン」と伸びた建築に展開する物語が始まる出発点がコチラです:



躯体本体から無作為に伸びた短長入り混じった鉄骨部分。まるでこの建築が触手を伸ばしているかの様な、非常に軽やかな鉄骨群によってこの建築の物語は始まっています。



この様な横長の建築って断面の切断の仕方が非常に難しくって、そこが勝負所の一つになってると思うんだけど、以前、仕事の関係で頻繁に通っていたヘルシンキ市内にあるスティーブン・ホールによるヘルシンキ現代美術館も断面の切り方で勝負している名建築でした(地中海ブログ:モスラの断面勝負:Steven Holl (スティーブン・ホール): キアズマ (フィンランド現代美術館))。荒々しいながらも、このミラージェスの断面の切り取り方もなかなかカッコイイなー:



この建物部分はプールと競技場として使われているのですが、上方を走る鉄骨を案内代わりに少し進むと、真下を道路が横切る空間に遭遇します。この部分では建物が途切れて、鉄骨だけが両側を繋ぐと言う構成になっているのですが、ここの部分の表現がちょっと面白い。



先ず後方から見ると良く分かると思うんだけど、この鉄骨部分で建物がカーブしているんですね。このカーブこそミラージェスのお家芸だと思うんだけど、このカーブを巧みに利用したのがココ:



鉄骨とカーブが相まって、「自由に絡み合う触手」と言う感じが非常に上手く表現されています。パラフォイスの図書館を訪れた時にも感じた事だけど、ミラージェス建築の一つの理想系って、実はオームの触手じゃないのかな?とか思っちゃいますね(地中海ブログ:バルセロナからの小旅行その2:エンリック・ミラージェス(Enric Miralles)とベネデッタ・タリアブーエ(Benedetta Tagliabue)(EMBT)のパラフォイス図書館(Biblioteca Publica de Palafolls):空と大地の狭間にある図書館)。ちなみにコチラは別の意味で、凄い創造物:



オームオムレツ(笑)!!これ、ちょっと凄くないですか?初めて見た時、結構感動しましたけどね。

さて、ここからがこの建築の本体部分、物語で言うとクライマックスに当たる所だと思うんだけど、何本もの細いピロティに支えられた横長連続窓の登場です:



デザインの構成としては至極単純で、下層にはピロティが、上層にはガラス窓が配置され、それを細いH鋼で上から押さえ付けてデザインを引き締めるという構成をとっています。そのガラス窓部分を、木の窓枠とコンクリートの取り合いで、引っ込めたり、飛び出させたり、はたまた階段状にしたりと、上手い事バランスを取りながらデザインしていく事によって、一見単調になりがちなファサードにリズム感を与え、非常に楽しげなものにしています:



階段と十字架の組み合わせ:



それをちょっと変形させたもの:



今度は十字架を前に、木の窓枠を引っ込めたバージョン:



そしてそんな遊び心満点のデザインの中でも、特筆に価するのがこの部分:



このカーブ!物凄くセクシーなカーブ!!これこそミラージェスの真骨頂と言っても過言では無いカーブです。「このカーブがやりたかったが為に、この建築を創ったんじゃないの?」、って言うか、多分そうだと思うんだけど、とてもエロチックな質の高い曲がり方をしていますね(笑)。一見簡単そうに見えるかもしれないけど、こんな曲がり方、ナカナカ出来ないと思いますよ。このカーブの裏には何回も何回も繰り返しては消えていった膨大な数のスケッチの山が垣間見えるかの様で、そんな所にこそ、僕は感動してしまいます。そしてこのカーブを曲がると遭遇するのがコチラです:



こちらもミラージェスの十八番、遊び心満点の日除けの登場です。



配置計画としては、先程のカーブとまるで対を成すかの様に、今度は気持ちが良い程のストレートなファサードが展開しているのですが、ここでデザイン的に「非常に巧いなー」と思うのが、一番上に付いている細いH鋼なんですね:



これがあるのと無いのとでは大違い!このH鋼がこの建築のデザインの締めになりつつ、バラバラになりがちなファサードに一貫性を出す事に一役買ってる影の立役者。そしてこのファサードに展開する物語の終わり方がこれまた絶妙なんだけど、それがコチラなんですね:



お尻のファサード部分を少しだけ本体部分から延長して表現する事によって、非常に軽やかに、そして物語の余韻を残す様に終わっているのが分かるかと思います。



ほら、鉄骨と日除けを通して空が見えますね。青い空が建物を通して見えるって、物凄く単純な事なんだけど、壮大な空を建築に取り入れつつ、又反対に、「空を切り取っている」その端部がこの上なくカッコイイ!

鉄骨の軽やかな触手から始まり、木の窓枠とコンクリの取り合いでデザインされた横長連続窓がセクシーなカーブを描きつつ、最後は気持ちの良い程の直線部分、そしてその最後尾が余韻を残しつつ終わっている・・・。この敷地の特徴を最大限に引き出したミラージェスの建築計画力と、彼の類まれなるスケッチ力、この建築はそれら2つの奇跡が交わって生まれ出た名建築だと言う事が、この地へ来てみるとよーく解ります。やはり建築と言うのは、現場に来てみて初めて分かる事、現場に来て見ないと絶対に分からない事、本や写真からでは絶対に伝わらない「空間の質」がある事、だから建築って面白いんですよね。

ガリシア旅行その4:エンリック・ミラージェス(Enric Miralles)の建築、ビーゴ大学(Univeristy of Vigo)その2:囲い込み広場を創り出すという事に続く
| 旅行記:建築 | 23:25 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
お久しぶりです。今はまだバカンス中ですか?私にはそのたぐいのものはありませんが(涙)
いつもすばらしい記事。とくに今回の「ビーゴ大学」のコメントにはほれぼれします。
エンリック・ミラージェスの設計意図などすごく勉強になりました。昨年の秋には、ヘルシンキの「キアズマ」を見てきましたので、なおさら興味がわきました。
建築論評の前後に「海のミルク」や「オームオムレツ」がはさまっていることなども心憎いですねえ。
私はこの数カ月仕事に忙殺されていますが、5月末には久しぶりにマドリッド、トレド、そして初めてセゴビアに行きましたよ。
この秋バルセロナに行く予定ですので、またお会いできると嬉しいです。

| Aki | 2011/07/11 1:09 PM |
Akiさん、こんにちは、ご無沙汰してます。

このビーゴ大学、ミラージェスの才能がいかん無く発揮された本当に素晴らしい建築でした。もっと彼の建築を見たくなる、そんな事を感じさせる建築だと思います。

ヘルシンキのキアズマ、行かれたのですね。あれも凄いですよね。ホールのデザインセンスの良さが分かります。

又バルセロナに来られる時は是非ご連絡ください。お会いできる事を楽しみにしています!
| cruasan | 2011/07/14 3:00 AM |
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