地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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ガリシア旅行その2:田舎では僕達が全く想像もしない方法でCDを使ってた!
今日は七夕の一日前。と言う事はサラダ記念日じゃないですか!

 「この味がいいねと君が言ったから、7月6日はサラダ記念日」

僕が小学校くらいの時に流行った俵万智さんの短歌なんだけど、誰もが思い付く直球ど真ん中の7月7日を題材にはせず、一日前の7月6日を主題に持ってくるって辺りが、「大変さりげなくてデザインセンス抜群だなー」、とか子供心ながらに思ってたりしました。



さて、前回のエントリで書いた様に、先日からガリシア州はオウレンセ地方のクソ田舎に来ているのですが、この村、その辺で牛が「モォー」って鳴いてたり、鶏の「コケコッコー」って言う鳴き声で目が覚めるって言う、そんな大変長閑な風景の中で、多分人生初となる「田舎暮らし」を体験中なんだけど、「まあ、こんな都会の喧騒から離れた生活もたまには良いかな」と思わせてくれる様な、ある意味、質が非常に高く、そして「人間らしい生活」がこの村には展開しているんですね。

ちなみに動物の鳴き声って言うのは、各々の社会文化を象徴していて、異なる文化圏においてはその聞こえ方、そして表象の仕方が全く違います。だからスペインでは鶏は「キッキリキー」って鳴くし、豚は「オインク、オインク」と鳴くらしい(笑)。僕達にとってはかなり突拍子もない鳴き声に聞こえるかもしれないけど、彼ら(スペイン人)にしてみたら、日本の豚が「ブー、ブー」って鳴くのはかなり笑えるみたいです。



違う社会文化圏の中で暮らすという事は、その鏡に映った自分自身の姿を省みるという行為に他ならないんだけど、僕が「面白いなー」と思うのは、スペインという国に属しているガリシア地方の生活を通して、同じ国に属するカタルーニャ地方の独自性が浮き彫りになるって言う点なんですね。そしてこの様な、同じ国の中に全く違った文化圏が展開しているという事、多様な世界が共存していると言う点こそ、このスペインという国の最大の魅力であり、多くの人々を魅了する最大の要因であると僕は思います。



フェルナンド・ブローデルを持ち出すまでもなく、その地方の社会文化の特徴を決定付けている要因の一つは地形であり気候であり、お天気であるという事は、ヨーロッパとアフリカの間=文化の十字路に位置するバルセロナにおいて、「何故に公共空間政策があれほどまでに成功したのか?」という点を見るだけでも十分に分かるかと思うんだけど(地中海ブログ:第7回バルセロナ、モデルニスモ祭り(Fira Modernista de Barcelona 2011))、そんな中でも僕がバルセロナの生活とこのガリシア地方の生活の中で最も違うと感じる点は、やはりこの地に展開している生活リズム、そしてそれに基づいた食文化だと思うんですね。この村に限らず、ガリシア地方の田舎では何処でも、その地方で獲れた肉や野菜、そして魚なんかが毎日の食卓に並ぶ事になるそうなのですが、今日のお昼のデザートにはこんなものが出てきました:



じゃーん、美味しそうなイチジクの登場〜。



こんな感じで庭に沢山なってるイチジクを獲ってきてデザートにしたんだけど、そこでちょっと面白いものに遭遇しました:



都会人には意味不明の、軒先にCDが吊るされた風景です。



これ、何かって言うと、どうやら軒に鳥が住み着いたり、糞をしたりしない様に、ピカピカ光るCDを取り付け、その反射光によって鳥除けに使ってるらしいんですね。つまり現代版、カカシって言う訳。

 

僕がCDを初めて買ってもらったのは丁度小学校高学年くらいの時で、工藤静香のGraduationだった事を今でもはっきり覚えています。1ミリにも満たないピカピカ光る円盤に、それまでの黒くゴツゴツとしたカセットには無い魅力と、「これからはデジタルの時代だ!」という期待に心躍らした事を今でも覚えてるんだけど、そんな若者文化の象徴であり、ひいては都会文化のシンボルですらある(あった?)と言えるCDが、こんな田舎では全く別の姿で役立ってると言うのは、全く持って興味深い!!

こんな、「毎日が発見の連続(笑)」みたいな生活を送っているのですが、そんな中でも(今の所)一番驚いたのがコチラです:



見た目は単なるパンなんだけど、実はこのパン、世にも珍しいパン釜で焼いたパンなんですね。実は僕が滞在している家の目の前に、1世紀前から続いてる様な、町に一軒しかないパン屋さんがあるんだけど、なんと、このパン屋さん、未だに釜でパンを焼いているっていう、大変珍しいパン屋さんなんですよ!パン屋の釜については以前のエントリでバルセロナの都市計画と絡めてチラッと書いた事があったんだけど、こんなパン釜、ちょっとやそっとじゃあお目にはかかれませんよ(地中海ブログ:パン屋さんのパン窯は何故残っているのか?という問題は、もしかしたらバルセロナの旧工場跡地再生計画を通した都市再活性化と通ずる所があるのかも、とか思ったりして)。

で、釜について興味津々って目で見てたら、その思いが伝わったのか、パン屋のお姉さんが「パンを焼く所、見たいの?」って聞いてくるから、「絶対見たい」とか何とか言ってみたら、ラッキーな事にも見せてもらえる事に。いやー、言ってみるもんですね!!で、これがその、一世紀前から続いている、世にも珍しいパン釜です:



ここに薪を入れて火を焚くんだけど、これが思った以上に暑いのなんのって!で、こちらがパンを入れるスペース:



想像してたよりも、うーんと広い!ちょっとビックリした。で、これがこの釜で焼いたパンなんだけど、これがまた美味しいんだな:



中はホワホワなのに、外は見事にパリッと焼きあがってる。そして表面にはほんのりと薪の香りが良い感じで残っています。この味は釜でしか出ない味ですね。星、三つです!!!

「これでもか!」というくらい美味しいパンに加えて、食卓に並ぶのは、近場で獲れた有機野菜達。僕は特に「有機野菜派」であるとか、「スローフードを実践してる」とか、「そういう生活に憧れてこの地へ来た」とか、そういう事は全く無いんだけど、自分の家の近場で育てた野菜を「必要な時に必要なだけ獲ってきて食す」って言う生活は、レストランで美味しい料理に舌を包むのとは又違った良さがあって、これはこれで「そんなに悪くは無いかな」と思い始めました。なにより新鮮な野菜や魚は美味しいですからね。



夕食後、村に3件しかないカフェに赴くと、夜11時を回ったにも関わらず、続々と村の住人達が集まってきて、世間話に花を咲かせていました。この村では、「今日はどこどこの誰々が何々をした」と言う噂が直ぐに耳に入ってくるし、電球が無いと困っていると、それを聞きつけた隣近所のおばちゃんが、頼んでもないのにお手伝いに来てくれる。朝6時になれば何処からともなく聞こえてくる鶏の鳴き声で朝を向かえ、それに続く小鳥達の囀りが目覚まし時計代わり。

・・・日々の生活の忙しさに追われ、都会の喧騒の中では忘れがちだった、人間の根源に基づいた生活。とても人間らしい生活。こんな当たり前の生活がみんな案外出来なかったりするんですよね・・・。

今日も村のシンボル、17世紀に出来たと言われている教会が午前0時を知らせる鐘の音を打ち始めました。ヨーロッパでも最も西端に位置し、それが故に最も日が暮れるのが遅いこの村では、夜明けに向けてまだまだ住人達の世間話がビールやワインを片手に続けられています。

この村に滞在していると、我々現代人が忘れかけていた、何かとても大切なもの・・・効率性と引き換えに我々が失ってしまった「人と人との繋がりに基づいた生活」、「自然のリズムに即した生活」、その結果としての「人間らしい生活」の一端が垣間見えるかの様で、色んな瞬間に「ハッ」とさせられます。そしてこの様な生活の中にこそ、経済性という指標では測る事が出来ない、「豊かさ」というものが見え隠れしているのかもしれません。

間違ってほしくないのは、僕は別に、「みんなで原始の生活に戻ろう」と言っている訳ではないと言う事です。そうではなくて、このような生活、我々が知っている尺度とは別の尺度で動いている社会というものが存在し、そこでは我々現代人とは全く違った価値観で全てのものが動いていると言う、唯その事を知ってほしいだけなんです。

我々の世界は多様です。多様だからこそ、僕達の社会は輝いているのだし、世界は面白いのです。そしてそのような多様性を担っているカケラの一つ、我々の世界に輝きを付け加えている社会がここにも又一つ存在し、僕は今、その社会に直面している・・・とそんな事を思いつつ、今日も世が更けていきました。

追記:
Twitterで沢山の方に教えてもらったのですが、日本でもCDを鳥除けに使っているのですね。全く知りませんでした!世界の違う場所で同じ様な解決法がなされているというのは、それはそれでちょっと素敵な話だなー。
| 旅行記:都市 | 23:03 | comments(6) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
はじめまして。私、以前イタリアの田舎の村にロングステイしていたことがあって、それでこの文章を読んで、ああヨーロッパの田舎はどこも同じなのねーとほんわかしてしまいました。

最近バルセロナに住み始めたのですが、ここはまさに若者のための町。crussanさんが滞在されている村の若い人たちはどんな生活をしているんでしょうか。
| yossy | 2011/07/07 9:17 AM |
こんにちわ。素敵な休暇を過ごされているのですね。
3回目のコメントになります。
スペインに10日程ですが、行ってきました!
バルセロナには27日から3泊しました。
ブログで紹介なさっていた、SHOJIROでディナーをいただきました。
メインはイベリコ豚の焼いたので、ものすごく美味しかったですw

サグラダファミリアはもちろん、グエル邸、カサミラ、カタルーニャ音楽堂など、素晴らしかったです。
カサバトリョは次回訪問時に残しておきました。
私もブログに写真などアップしたいのですが、社会復帰中につき、なかなかです…w

今回のブログのお話、文化、生活の多様性、本当にそうですね。
その地域だからこその、食があり、生活・文化、そして宗教が生まれる。私も実感してました。
日本の人気番組で「秘密のケンミンSHOW」てあるんですが、かなりへ〜な感じで、笑えますw
また、今回の震災で思ったのは、もし東北地方でなく、東京での巨大地震だったら、人は同じようには行動できないだろう…と。
東北の方たちが、津波と自然の被害の歴史から会得してきたものはもちろんないし、コミュニティー等の文化も違う。
自然の恵みも災いも、文化の源なのですね。

なんて、思うところの多い今日この頃です。
| Keiko | 2011/07/07 3:10 PM |
cruasanさん、初めまして!
私このCDの使い方が日本と同じなんで驚きました。キラキラさせて鳥を驚かすという・・・思うことはどこでも同じなんですねぇ、CD案山子。ただ、日本で見かけたのは畑の中とか、木に吊るされているCDとか、だった気がします。

ガリシア、のどかでよい所なのですね〜。パン、美味しそう。
| rubicone | 2011/07/08 12:35 AM |
Yossyさん、こんにちは、コメントありがとうございます。

ホント、田舎の生活って、都会で汚染された心が清められる感じがしますよね。僕が今回滞在してる村の住人の殆どは老人で、若者はみんな、都会に行っているのだとか。だから今まで若者と言った若者にはあってないのです。たまに会うのは、バカンス中で里帰りしてる人くらいかな。

バルセロナに在住されているとの事、是非楽しんでくださいね。
| cruasan | 2011/07/09 5:17 AM |
Keikoさん、こんにちは。
バルセロナ!とうとう滞在されたのですね。しかもShojiroに行かれたとは!!あそこのレストラン、本当にお奨めなんですよねー。

秘密のケンミンSHO、知ってます!去年(?)、日本にバカンスで帰った時に毎週の様に見てました。凄く面白かったです。

そうそう、田舎に来ると、色んな事を考え、考えさせられ、そして発見させられます。同時に今まで属していたコミュニティは世界の一部でしかない事を身をもって痛感させられたりもします。

ここでの体験を生かして、今後の僕の活動は勿論の事、自分の人生にも反映させられたらなーと言う気持ちでいっぱいです。
| cruasan | 2011/07/09 5:22 AM |
Rubiconeさん、はじめまして、こんにちは。
コメントありがとうございます。

CD案山子、ハッキリ言って個人的には大発見だったのですが、どうやら日本では結構使われているようですね。全く知りませんでした!

あのパン、僕の人生の中でも多分、1,2位を争うほど、美味しかったです。いつもとは違う雰囲気、そしてアツアツだったという事も手伝ったのかもしれませんが、それにしても毎日このパンが食べれるかと思うと、幸せでいっぱいです!
| cruasan | 2011/07/09 5:26 AM |
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