地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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カルメ・チャコン(Carme Chacon)スペイン防衛相の予備選不出馬の裏に見えるもの
今週は激動の一週間でした。何がって、勿論先週の選挙結果を受けての事なんだけど、毎日毎日それこそ普通の週だったらその話題だけで2週間くらいは騒いでいられる様なビックニュースが目白押しだったんですね。そんな中、終に出ました!この数日間で最も大きく、そして最も重要なニュースが一昨日のお昼頃に飛び込んできたのですが、それがコチラ:

 「カルメ・チャコン防衛相、サパテロ首相の後継者を決める予備選不出馬を表明」

そうなんです!今回の統一地方選以前から、「2012年の総選挙には立候補しない」と宣言していたサパテロ首相の後継者を巡って、社会労働党(PSOE)内では激しい激しい後継者争いが繰り広げられていたんだけど、その最有力候補の一人と見なされていたカルメ・チャコン氏が、予備選への出馬を辞退すると発表したんですね。ちなみにカルメ・チャコン氏と言うのは、スペイン史上初となる女性の防衛大臣で、2008年の総選挙の時に彗星の如く現れてきたスペインの若きリーダー(1971年生まれ)。3年前程前にはウォール・ストリート・ジャーナル誌(The Wall Street Journal)のWomen to watchにてヨーロッパで最も影響力のある女性政治家ナンバー2に選ばれた事もある程のスペイン期待の星。実はカルメさん、昔、ご近所だったんですよねー(地中ブログ:スペイン総選挙その2:カタルーニャのヒロイン、カルメ・チャコン(Carme Chacon)、地中海ブログ:スペイン国防相(La ministra de Defensa)カルメ・チャコン氏(Carme Chacon)の出産とスペインの女性労働環境)

一方、このカルメ・チャコン氏のライバルと見なされ、党内からも厚い支持を集めているのが、フェリペ・ゴンサレス(Felipe Gonzalez)時代から大臣の要職を歴任し、現在はサパテロ政権下で内務大臣の座にあるベテラン政治家、アルフレッド・ルバルカバ(Alfred Perez Rubalcaba)氏。何時如何なる時もその豊富な経験から、的確な判断と決断力で、スペインにおいて最も信頼出来る政治家の一人として市民の間でも人気を博しています。

この2人のどちらかがサパテロ首相の後継者と見なされていたんだけど、それを決めるに当たって、今週、スペイン労働党内が真っ二つに分裂すると言う状況が起こりました。口火を切ったのは、バスク州政府大統領のパッチ・ロペス(Patxi Lopez)氏で、「後継者を決める為に年内に党大会を開くべきだ」と。その一方で、サパテロ首相などから「党大会は必要ない。予備選で行こう」と言う声が上がっていたんですね。

これをどう読むか?つまりロペス氏の策略とは一体何なのか?

ロペス氏の目的は明らかで、それは次期後継者にはルバルカバ氏を推したいと言う一点に尽きます。その為に持ち出したのが、「党大会を開き、党の代表を決めなおすべきだ」と言う「脅し」だったんですね。

これが何故脅しになるのか?

何故なら党大会を開催すると、必然的に党代表の座に立候補するのはサパテロ首相とルバルカバ氏、そしてチャコン氏となるのですが、この時、党内で急速に吸引力を失いつつあるサパテロ首相が負けるのは目に見えています。そうすると、ルバルカバ氏、チャコン氏、どちらが勝つにせよ、野党からの「首相を変えろ」要求には耐えられず、サパテロ首相辞任と言う道しか無い訳ですよ。

これは結構怖い話で、と言うのも、これは社会労働党だけの問題ではなく、実はスペイン全体に及ぼす影響が非常に大きくてですね、今、サパテロ政権が頓挫したら、ようやく良い感じで進んでいる経済構造改革がストップし、直ぐにでもEUから破産宣告を受け、資金注入なんて事態に陥る危険性が非常に高いからです。

こうなると非常に苦しい立場に立たされたのがカルメ・チャコン氏で、このまま立候補を続ければ、それは社会党内部を分裂させ、ひいてはスペインの政治経済状況を不安定にさせる。その一方で、何ヶ月も前(2月にはサパテロ首相に次期後継者争いに立候補すると密かに伝えていたそうです)から着々と準備を進めてきたと言う事情もあり、そう簡単にはその道を諦める事も出来ない・・・と言う複雑な状況の中での、彼女の決断だったんですね。

個人的な意見を言わせてもらうと、今回のカルメ・チャコン氏の決断は英断だと思ってて、と言うのも、彼女のこの勇気ある決断によってサパテロ首相が救われたのは勿論の事、彼女はスペインすらも救ったんじゃないのかな?そして一見、今回の騒動で負けたのはチャコン氏、勝ったのはルバルカバ氏に見えるけど、長い目で見ると、どうもそう簡単には事が運ばない様な気がする。

前回の自治州選挙、そして今回の統一地方選挙で明らかな様に、スペインでは現政権の社会労働党の力が急速に弱まり、その反対に野党である民衆党が確実に力をつけてきています。このまま行くと、2012年の総選挙で社会労働党が負けるのは先ず間違いありません。そうすると、今回予備選に勝ったルバルカバ氏は負け党首になる事が必死なんですよね。と言うか、そんな事は彼も多分分かってるだろうから、もしかしたら既に2012年の事は頭に無く、2012年の総選挙で社会労働党の負けを最小に抑えつつ、その成果を評価してもらった上で2016年の総選挙で首相になる事を考えてるのかもしれないけど・・・その間に何が起こるとも限らない。

そう考えると、今回の一連の出来事で本質的に勝ったのは、実は負けたかに見えたチャコン氏なんじゃないのかな?と思う訳ですよ。彼女は今回の立候補辞退で、党内は勿論、市民の間にも、「個人の利益よりも国の事を考える政治家」と言う大変強いイメージを植え付けました。そして何より、これでサパテロ首相に大きな大きな貸しが出来ましたよね。

そして今回もう一つ露呈してしまったのが、カタルーニャ社会労働党(PSC)の中央政府における発言力の急激な低下です。2008年の総選挙で社会労働党が勝てたのはカタルーニャ社会労働党のおかげと言っても過言ではなく、サパテロ首相もその事をかって、チャコン氏やコルバッチョ氏と言った、カタルーニャ出身の政治家達を大臣に起用しました(地中海ブログ:スペイン、サパテロ新内閣(Jose Luis Rodriguez Zapatero):セレスティーノ・コルバッチョ(Celestino Corbacho)労働・移民相(Ministro de Trabajo e Inmigracion)とスペインの移民問題)。つまりPSCが中央政府に非常に強く出れる状況が続いていたんですね。その様な状況が変わってきたのが去年の11月、自治州選挙で政権をCiUに取られた時からです。この時も書いたのですが、もう既に、去年の11月の時点で「左派の終わりの始まり」が見え初めていました(地中海ブログ:カタルーニャ州議会選挙その2:スペイン、そしてヨーロッパ左派の終わりの始まり‥‥かもしれない。)。今では中央政府の方針に大きく影響を与えているのは明らかに、マドリッドーセビリアービルバオの軸ですね。

まあ、カルメさん、焦る事はありませんよ。未だ若いんだし、あなたがスペインのリーダーになるのは間違いなんだから。今はその時の為にゆっくりと力でも付けておくのが良いと思いますけどね。
| スペイン政治 | 06:18 | comments(4) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
カルメ・チャコンさん、石原氏に配慮して東京都知事選を降りた、元神奈川県知事の松沢氏みたいですね。松沢氏は神奈川県民からも総スカンくらい、今では哀しき浪人の身ですが、、、

石原慎太郎に捨てられた松沢成文の「就活」  | 永田町ディープスロート | 現代ビジネス [講談社] http://bit.ly/iqSS61
| Gen | 2011/06/01 2:50 AM |
お久しぶりです、こんばんは!!
BCNに来て何ヶ月も経ちますが、スペイン政治に全く興味が持てなかったんですが、最近の大きな動きはさすがに日常生活に繋がってる気がして注目してマス!TVのニュースを完璧に理解できていない私にとって、cruasanさんの解説とっても役立ってます。ありがとうございます。
カタルーニャ広場に集まっている人々の意思表示に、ただただスゴイなぁと。。。
| Ana | 2011/06/04 7:02 AM |
Genさん、こんにちは。

えー!日本でも同じ様な話があったのですね。全く知りませんでした!
カルメさんは、未だ若いし、将来のスペインを担っていく力のある人なので、今回の事なんかでくじけず、今の内に力を付けてほしいと、個人的には思っています。
| cruasan | 2011/06/04 7:54 PM |
Anaさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

こっちに居ると、政治と日常生活は切っても切り離せない関係にあるんだなーと言うのが、痛い程分かります。そこは多分、日本とは大きく違う点だと思います。だから若者達もあれだけ抗議したりするんでしょうね。でも、社会ってそうあるべきで、それが健全でもあり、何時の時代も、既成の権力を監視し、一番に声を上げるのは若者の役目だったのだから。そう考えると、ちょっとはスペイン政治も興味が湧くかも知れませんね(笑)。
| cruasan | 2011/06/04 7:59 PM |
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